ブリ・スギ類養殖とASC認証基準


日本を代表する養殖魚ブリ

ブリ(ハマチ)、ヒラマサ、カンパチなどブリ類は、大型の食肉魚で、風味が豊な魚として知られています。ブリ養殖の歴史は古く、1928年、香川県で始まったと言われています。その後現在の海面生け簀式養殖が実用化されると、生産量は増加しました。【図1】

現在でもブリ類の主要な生産国は日本で、中でも鹿児島、愛媛、大分など西日本が産地となっています。【図2】スギという魚は日本では沖縄などで養殖が行われていますが、世界的には主に中国で養殖され、2000年以降、生産量は拡大傾向にあります。

現在、日本では天然、養殖を含めて、世界への輸出量を増加させています。その輸出先の大半はアメリカが占めています。【図3】

ブリ・スギ類の養殖は、通常、海上の生け簀で生産されます。日本では主に内湾で養殖されていますが、海外では外洋で養殖が行われる場合もあります。また陸上養殖も試験的に行なわれています。

ブリ・スギ類養殖の課題

ブリ・スギ類の養殖については、潜在的な課題も含め次のような問題点が指摘されています。①生物多様性への影響、②餌原料の由来と持続可能性、③水質や底質の汚染、④医薬品など化学物質の使用、⑤労働者や地域社会との軋轢などです。

なかでも、ブリ・スギ類養殖では餌原料となる魚粉魚油の配合率が他の魚種より高く、品質や生産性を維持したまま削減することが求められています。魚粉魚油は天然のカタクチイワシなどを原料に精製されますが、世界的な畜産・養殖業の拡大を受けて需要が増大し、過剰漁獲が懸念されています。

ASC の養殖認証の基準について

ブリ・スギ類水産養殖管理検討会では現在、それぞれの原則の下に定める、ASC認証の基準と指標について、検討を重ねています。下記は2013年2月時点の基準案をもとにしています。

原則1 法令順守

基本的要件として、ASC認証を受ける養殖場は、関連する法的義務(許認可等を含む)を順守していることが求められる。

原則2 自然環境および生物多様性への悪影響の軽減

ブリ・スギ類養殖によって起こりうる自然環境および生物多様性への影響に対処すること。給餌や養殖個体の排泄物により底質環境や水質が悪化しないよう、モニタリングを実施し、対策を講じること。食害生物の駆除にあたっては規定の手順を踏み、養殖場における野生動物の死亡記録は情報を整理し適切な対策を講じる必要がある。

原則3 天然個体群への影響の軽減

養殖場が媒介とする寄生虫の感染拡大、外来種養殖による野生化、養殖個体の生け簀外への脱走により、天然個体群への影響が出ないよう、適切な対策、モニタリング、リスク評価を実施しなければならない。

原則4 責任ある飼料の調達

飼料原料はトレーサビリティーを確保し、魚粉、魚油は絶滅危惧種が原料になっていないこと、依存率が一定値以下であることが求められる。遺伝子組み換え作物を飼料原料にしている場合は、情報を開示すること。

原則5 養殖個体の健康の適切な管理

ブリ・スギ類養殖における病害虫と医薬品処理による悪影響の軽減を目的としており、有資格者の指導による管理計画の策定が求められる。WHO指定の抗生物質の使用、特定の抗駆虫薬の使用は認められない。溶存酸素量が一定値以上を保持すること。

原則6 養殖場の責任ある管理運営

養殖場は労働者に安全な労働環境を提供し、不合理、不平等な条件で労働を強いてはならない。児童労働、強制労働、虐待的懲戒行為、過剰な残業、不適切な賃金体系は認められない。

原則7 地域社会に対する責任

養殖場は近隣の地域社会との軋轢を軽減し、紛争解決のための努力が求められる。地域組織との定期的な意見交換の場を持つこと。

日本の関係者が参加した基準策定プロセス

ASCブリ・スギ類基準の策定作業は2009年に、課題の整理や最新の情報の収集を行うところから始められました。策定プロセスの中心をなすのが、養殖関係者をはじめ、科学者やNGO、行政機関などが参加する水産養殖管理検討会(アクアカルチャー・ダイアログ)と基準案に関するパブリックコメント募集です。当初、この検討会は海外で行われていましたが、WWFジャパンは日本(東京および鹿児島)での開催を誘致するとともに、基準案を和訳するなどし、日本の関係者の参加を促しました。2016年に行われた基準および監査マニュアルの実地検証プロジェクトには、日本からも5つの生産者が参加しまし、その年の10月ついに国際基準であるASCブリ・スギ類基準が発行されました。

関連情報

▽ブリ・スギ類水産養殖管理 基準について

▽ブリ・スギ類水産養殖管理検討会について

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