持続可能なブリ・スギ養殖の実現に向けて ASC認証の監査はじまる


海の大自然の恵みである、魚や貝などの水産物(シーフード)。現在、その世界全体の生産量のうち、約4割を占めているのが「養殖」による生産です。しかし、拡大する養殖は、天然資源の枯渇や海洋汚染の原因にもなっています。そうした中、日本が最大の生産国である養殖ブリ類について、環境に配慮した養殖の確立に向け、養殖現場での実地検証作業(パイロット監査)が開始されることになりました。これは持続可能な養殖を認証する「ASC」の基準に基づいた、世界にも通用する認証の取得を目指したものです。

ASCが進める「持続可能」な養殖業の推進

すでに、世界の水産物の生産に欠かせない規模になった養殖業。

しかし、天然資源を守る上でその重要性が説かれる一方、養殖はさまざまな環境問題の原因にもなっています。

養殖に必要な餌(アンチョビーなどの小魚)の多くは、自然の海からの供給に頼っているため、結果的に海の資源の乱獲が生じます。

また養殖場では過剰な餌や養殖個体の排泄物の蓄積、さらに薬物投与による水質の汚染が発生しており、海の自然への深刻な影響が懸念されています。

こうした現状を改善するため、自然環境と地域社会に対し「責任ある養殖」を推進する独立機関として、2010年、オランダでASC(水産養殖管理協議会)が設立されました。

ASCは、サケや二枚貝、エビなどの、持続可能な養殖のための各基準を設定し、同時に認証制度の普及を進めています。

この認証を得るためには、対象種群のASC基準に従い、さらにASCとは別の、審査資格をもつ認証機関による厳正な審査に合格する必要があります。

そして、2012年のベトナムのティラピア養殖場を皮切りに、2015年11月現在、世界中で190を越える養殖場が、その厳しい基準をクリアして認証を取得しており、その数を順調に伸ばしています。

ブリ・スギ類水産養殖管理検討会

ASC基準は種群ごとに基準が策定されています。

すでにサケ、マス、ティラピア、パンガシウス(ナマズのなかま)、エビ、二枚貝、アワビの7基準が完成。

さらに、8番目の基準として、ブリ・スギ類の基準が作られました。世界のブリ類養殖の9割を占める日本にとって、これは大きな意味を持つものです。

これらの基準の策定作業は、生産者、研究者、NGOなどの代表からなる運営委員会と、水産養殖管理「検討会(アクアカルチャー・ダイアログ)」と呼ばれるASCとは別個の、オープンな関係者会合で進められます。

ブリ・スギ類のアクアカルチャー・ダイアログは、2009年にアメリカで開始されましたが、その後は、日本の生産者の参加を図るため、WWFジャパンが日本での開催を誘致。

2013年2月に東京で第3回会合を、10月に鹿児島で第4回会合を開催しました。

この会合には日本のブリ生産者、飼料メーカー、研究者、認証機関、環境NGO、行政機関など幅広い関係者が参加。

それぞれの立場から、さまざまな意見が出される中、WWFジャパンは、環境NGOサイドの運営委員として、また日本のブリ生産の情報を収集し基準に反映するコーディネーターとして、この基準の策定を牽引してきました。

収穫されたブリ

ASCブリ・スギ類のパイロット監査が開始

こうして基準が確定したのが、第4回会合から1年以上経過した2015年2月でした。

しかし、ASCの認証が取得できるようになるまでには、まだ長い道のりが待っています。

まず、アクアカルチャー・ダイアログを経て作られた基準を、一度ASCに戻し、ASCの基準として確立する必要があります。

さらに、実際の養殖現場での実地検証(パイロット監査)を行ない、監査のポイントを細かく指示した監査マニュアルを完成させねばなりません。

このパイロット監査は原則非公開ですが、今回については日本国内の生産者、認証機関も参加も予定されており、2016年4月までには、ASC認証の取得に必要な作業が完了する見込みです。

ブリの養殖場

ブリの収穫の様子

ブリ類とASC認証

自然環境への影響という側面から見ると、ブリ類の養殖には改善すべき課題がまだ残されています。

特に魚粉や魚油として餌に配合される天然魚の割合が、他の魚種と比べて多く、ブリの風味や食感を残しながら、いかにしてアンチョビーなどの天然資源の配合率を抑えるか、が問われます。

これは、ブリの養殖業界にとって、大きな変革です。

ブリ用配合飼料 よりいっそうの改善が求められる

また他の養殖でも同様ですが、地形的に閉ざされた内湾での養殖は、海水の汚染が生じやすく、この課題への対応も必要とされます。

ブリ、カンパチといった、今回も認証の対象となっている魚は、日本の食卓になじみの深い食材であるとともに、近年は刺身商材としてアメリカを中心とする海外への輸出が拡大しています。

世界随一のその生産国である日本には、環境への配慮に向けた一層の改善努力が求められており、その国際的な証として、ASC認証への参加が期待されています。

今回のパイロット監査のさらなる情報は、ASCの日本語版サイトにも掲載されていますので、そちらも合わせてご確認ください。

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