G20の温暖化の取り組みは? 化石燃料への投融資の実態を分析
2017/07/06
2017年7月5日、WWFは、オイル・チェンジ・インターナショナルなどとともに、G20諸国による化石燃料(石油や石炭など)への投資の実態を報告書にまとめました。その投融資額は年平均で718億ドル、2013年から2015年までの合計額は2,153億ドルにのぼりました。金額が最大だったのは日本で、年平均165億ドルとクリーンなエネルギーへの投融資の27億ドルを大きく上回っています。温暖化の抑止を目的とするパリ協定の目的に合致しない、化石燃料への巨額投資の実態が明らかになりました。
化石燃料への投資実態をNGO4団体が報告書に
WWF EPO(WWFヨーロッパ政策オフィス)は、オイル・チェンジ・インターナショナル、フレンズ・オブ・ジ・アースU.S.(FoE U.S)、シエラクラブとともに、2017年7月5日、G20(主要20カ国・地域)による化石燃料への投融資の実態を分析した報告書『G20の化石燃料政策における言動不一致:気候変動対策に逆行する巨額投融資の実態』(原題:『TALK IS CHEAP: HOW G20 GOVERNMENTS ARE FINANCING CLIMATE DISASTER)を公表しました。
世界の主要国であるG20の温暖化への取り組みが、はたして2016年に発効したパリ協定の目的に沿うものになっているかどうか注目されるところです。
これは、今後、国際社会全体が温暖化の抑止に向けた実効性のある措置を取ることができるかどうかを占うものともいえます。
それによると、G20諸国は、クリーンなエネルギー(再生可能エネルギーなど)に投資する額の4倍以上の公的資金を毎年、化石燃料に投じていることが分かりました。
化石燃料への公的投融資額は年平均で718億ドル。
本報告書が調査対象とした2013年から2015年までの期間の合計額は2,153億ドルに達していました。
G20のうち、化石燃料への公的投融資額が最大だったのは日本。2013年~2015年の投融資額は、年平均165億ドルとなり、クリーンなエネルギーへの年平均27億ドルを大きく上回りました。
本報告書は、オイル・チェンジ・インターナショナルの" Shift the Subsidies"というデータベースを利用して、公的金融機関からの資金の動きの分析を行なったもの。ここでいう公的金融機関とは、政府管轄あるいは政府の支援を受けている金融機関であり、輸出信用機関や開発金融機関などが含まれます。
G20の温暖化への取り組みを調査する目的で、各国の公的金融機関によるエネルギー関連事業への投融資の実態を分析し、まとめたのが今回の報告書です。
投融資の実態は脱炭素を目指すパリ協定に矛盾
G20諸国における、公的金融機関および多国間開発銀行から、エネルギー関連事業に対する公的支援に関する詳細が、今回、明らかになりました。
それによると、エネルギー関連事業への資金拠出のうち、クリーンなエネルギーへの投融資額は15%にすぎません。一方、毎年、何百億ドルもの資金が石油、天然ガス、石炭関連企業に投じられています。
この調査結果は、G20(主要20カ国・地域)が批准を済ませたパリ協定が掲げる目標、特に低炭素、ひいては脱炭素の成長ベクトルに沿うように資金の流れを変えていく、という目標と明らかに矛盾するものとなっています。
温暖化の進行を抑えるには、化石燃料からクリーンエネルギーへシフトする必要があります。しかし、エネルギー分野への投融資から判断すれば、主要20カ国・地域は温室効果ガスを大量に排出する化石燃料から決別できていません。
報告書の著者の一人であるオイル・チェンジ・インターナショナルのアレックス・デュカス(Alex Doukas)は「私たちの調査結果は、G20がクリーンなエネルギーに移行すべきときが来たと言いつつ、いまだに投融資先を変えていないことを示している。時代遅れの化石燃料産業への公的支援を止めるべきだ」と述べています。
FoE U.S.国際政策アナリストのケイト・デアンゲリス(Kate DeAngelis)も、「G20は、化石燃料からクリーンなエネルギーにシフトするとはっきり断言すべき」と述べています。
気候変動対策への3つの影響
化石燃料に公的資金を投入することは、気候変動対策に、下の3つの悪影響を及ぼすと考えられます。
- 化石燃料への公的支援が、化石燃料の生産を促進するとともに、化石燃料を生産することへの動機付けとなってしまうこと
- 炭素を大量に排出する状況が固定化され、クリーンなエネルギーにシフトする行為を、より困難かつ割高にしてしまうこと
- 本来経済的ではない汚れたエネルギー源を経済的であると見せかけることで、補助金なしには運営できない「ゾンビ」エネルギー事業を生み出してしまうこと。
シエラクラブのニコル・ジヒオ(Nicole Ghio)は「風力や太陽光のようなクリーンなエネルギーは今や容易に入手できるだけでなく、世界中の人々と地域社会にとって、コスト面でも健康面でも優れている。この現状に照らし合わせれば、石炭に投融資し、公的資金の浪費を続けることは、どの国にとっても受け入れられることではない」と話しています。
省エネや再生可能エネルギーへの投資促進を
WWF EPO(WWFヨーロッパ政策オフィス)のセバスチャン・ゴディノット(Sebastien Godinot)は「政策決定者は、パリ協定の内容を踏まえ、公的資金を省エネルギーや持続可能な再生可能エネルギーに振り向けなければならないことを再認識すべきだ。そうすれば、未来のエネルギーの課題を効果的に解決する道筋が見つかることだろう」と述べています。
2015年12月、2020年以降の温室効果ガス削減の国際ルールを決めるパリ協定が採択されました。それからわずか1年足らずの2016年11月に、主要排出国を含む多数の国々が批准手続きを済ませ、同協定は発効しました。世界の温暖化対策は、この協定のもとで進められていくことになったのです。
パリ協定に示された世界の平均気温の上昇を産業革命前から2度未満に抑える(できれば1.5度)という目標を達成するためには、各国とも社会の脱炭素化を図り、温室効果ガスの大幅な排出抑制を図る必要があります。
そのカギを握るのが、風力、太陽光などのクリーンな再生可能エネルギーの積極的な導入です。資金の流れが、こちらに向かうべきことはWWFジャパンが2017年2月にまとめた『脱炭素社会に向けた長期シナリオ』でも明らかとなっています。
G20(主要20カ国・地域)のパリ協定に向けた姿勢を厳しく問う今回の報告書の作成には、日本の国際環境NGO FoE Japan、気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)も貢献しているほか、CANヨーロッパ、Urgewald(ドイツ)、Re:Common (イタリア)、韓国環境運動連合(KFEM)(韓国)も賛同しています。
参考情報
化石燃料の真のコストを暴き、クリーンエネルギーへの移行を進めることに特化した研究、コミュニケーション、アドボカシーを行う団体。
714 G Street SE 202, Washington, D.C. 20003、USA
地球上のすべての生命(人、民族、生物、自然)が互いに共生し、尊厳をもって生きることができる、平和で持続可能な社会を目指している。
Nieuwe Looiersstraat 31、1017 VA Amsterdam、The Netherlands
米国最大級の環境保護団体。手つかずの自然を守ることから、大気や水、絶滅危惧種を守る法律を成立させる後押しをすることまで、活動範囲は多岐にわたる。
2101 Webster St Suite 1300、Oakland, CA 94612、USA
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