2007年【COP/MOP3】第3回 京都議定書締約国会議
2007/12/03
2007年12月3日から14日まで、バリ島で国連気候変動枠組み条約および「京都議定書」の締約国会議が開かれました。今回の会議は2013年以降、つまり「京都議定書」の第1約束期間が終了した後に、国際社会がどのように地球温暖化防止に取り組むかを左右する、きわめて重要な会議です。現地からの報告をお知らせします。WWFでは世界23カ国から集まったスタッフがチームを組み、会議での情報の収集や、他のNGOとの意見交換、政府代表団との交渉や提言、そして情報の発信に取り組んでいます。
「京都議定書」後の温暖化防止に向けて
2007年12月3日から14日まで、インドネシアのバリ島で、第13回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)および「京都議定書」第3回締約国会議(COP/MOP3)が開催されます。この会議は、2013年以降の地球温暖化防止の取り組みについて、そのロードマップが決められるかどうかがかかっている、重要な国際会議です。
また、2006年に続き、途上国で開催の運びとなった今回の会議は、森の国インドネシアが舞台ということで、温暖化と森林の問題がクローズアップされる見込みです。
現在、森林破壊によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスは、世界全体の温室効果ガス排出量の、約20%を占めているといわれています。二酸化炭素の吸収源としての森林については、これまで植林にばかり話題が集中していましたが、今回は熱帯雨林をはじめとする、各途上国の森林保全が注目を集めるものと考えられます。
「バリ会議」の目標と課題
バリ会議は、2013年以降、地球温暖化の防止に向けた国際的な取り組みについての、正式な交渉プロセスを決めることを目的としています。
これは、1)いつまでに 2)どのようなことを 3)どのような形で決定するか、という内容を含めた、いわば今後の国際会議の予定表を組むためのものです。
(1)いつまでに ...2009年までに合意を!
多くの国の利害が絡む温暖化防止会議は、常に紛糾し、期限内に結論が出ないのが定石。また、2013年以降の取り組みを決めるに際し、「京都議定書」に続く国際条約を発効させるとなると、それだけで1年や2年を要してしまいます。
そのため、バリ会議では、各国政府が2009年までに、2013年以降の温室効果ガス排出削減の国際的取り組みを決め、合意することを目指しています。
(2)どのようなことを ...ポスト「京都議定書」の在り方を明確にする
2013年以降の温暖化防止のため、何をテーマとして挙げるか、その議題を選びます。事前の予想では、温室効果ガスの排出削減はもちろんのこと、温暖化の影響が出ている地域や国での対応(適応)、排出削減のためのテクノロジー、そして二酸化炭素吸収源としての森林の保全などが、議題にのぼるものと考えられています。
特に、「京都議定書」を拒否してきたアメリカを巻き込むことができるのか。先進各国が、再び明確な数値を掲げた総量削減目標を設定することができるのか。また、「議定書」では削減義務を負っていなかった、開発途上国がどのような排出削減に取り組むべきなのか、などの問題が注目されます。
(3)どのような形で決定するか ...先進国のリードで温暖化防止を!
バリ会議では、2013年以降の温暖化防止計画を、どのレベルで話し合うのかを決めます。
これが、「国連気候変動枠組み条約」の締約国会議(COP)で話し合われるのか、アメリカを除いた「京都議定書」の締約国会議(COP/MOP)で話し合われるのかによって、計画の内容は大きく変わってきます。
アメリカを含む全締約国が参加するCOPで、先進国の削減目標について話し合うことになった場合、その内容は、明確な数値目標を伴なわない、緩いものになることが予想されます。アメリカの参加にこだわっている日本などは、このCOPでの討議を支持していますが、これは大量排出を続ける先進国の怠慢として、途上国の反発を買うおそれが高いと見られています。
また、「京都議定書」の枠の中で作られた、AWG(アドホック・ワーキング・グループ:特別作業部会)で話し合う場合は、京都議定書に引き続き、先進国に強い排出削減を求める内容になることが期待される一方、アメリカやインド、中国といった国々の削減について、話し合えないというデメリットがあります。
一番望ましいのは、この2つの舞台、双方で計画を話し合い、先進国が率先した排出削減をAWGの中で約束する一方、COPの枠内で、途上国のレベルに応じた排出削減努力を決める、という方法です。先進国が自国の大量排出を自覚し、率先して温暖化防止に向けて動くことで、途上国にも排出削減を促す、ということです。
これらは、最終的に「バリ・マンデート」、または「バリ・ロードマップ」という形でまとめられ、締約国の約束として発表されることが期待されていますが、会議が紛糾して合意に至らず、採択されないおそれもあります。
日本政府は後ろ向き? 積極的な排出削減を!
日本では2008年、北海道の洞爺湖で先進8カ国による首脳会議(G8)が開かれることになっています。これに向け、政府は、地球温暖化防止を含めた環境保全活動に、積極的な姿勢を見せることが期待されていますが、今のところ、その姿勢は決して前向きなものになっていません。
地球温暖化の防止については、「京都議定書」で約束した6%の排出削減も、自国内での努力では実現できず、排出権を他国から買い取ることでクリアしようとしています。これでは、日本の社会を温室効果ガスを排出しない社会へと変革することにはつながりません。
また、「2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を半分にする」という世界の目標には合意しているものの、EU(欧州連合)のように、自国の排出削減目標を、明確な数値で出すこともしていません。
総じて、アメリカと世界の「仲介役」を自称しつつも、実際には京都議定書から離脱したブッシュ政権の意向と出方を伺い、日本としての方向を打ち出せない状態です。2013年以降の削減についても、アメリカを含む「国連気候変動枠組み条約」の締約国会議(COP)という、京都議定書のような厳格な削減目標を持たない仕組みの中で話し合うことを求めているのも、その姿勢の現れといえるでしょう。
日本政府はまず、積極的な姿勢を見せているEU諸国と歩みを合わせ、2013年以降、どれだけ自国の中で温室効果ガスを削減するか、その具体的な数値目標を立てるべきです。
そして、バリ会議では、「バリ・マンデート」または「バリ・ロードマップ」が、未来の温暖化防止に必ず役立つものになるよう、その内容を充実させ、採択する意志を示すことが望まれます。
【関連情報 報告】
バリへ向けて~ウィーン会議報告 2007年9月5日
2007年8月27~31日まで、オーストリアのウィーンで、2つの会合が開催されました。この一連の会議は、12月に、インドネシアのバリ島で開催が予定されている、温暖化防止会議(COP13・COP/MOP3)の準備会合の一つとして行なわれたものです。
京都議定書第3回会議への布石
2007年8月27~31日まで、オーストリアのウィーンで、2つの会合が開催されました。
一つは、京都議定書第3条9項に基づくアドホック・ワーキングループの第4回目の会合(AWG4)。もう一つは、国連気候変動枠組み条約の実施・促進を通じた、気候変動に対する長期的な協力行動に関する「対話」の第4回ワークショップです。
この一連の会議は、12月に、インドネシアのバリ島で開催が予定されている、国連会議(COP13・COP/MOP3)の準備会合の一つとして行なわれ、約100カ国の政府代表が参加。先進国にとって必要とされる排出量削減のレベルについて合意をめざしました。
12月に予定されている、COP13・COP/MOP3は、本格的な温室効果ガス排出削減のための将来枠組みの交渉を、期限を設ける形で開始することができるかどうかが、一つの試金石になっています。そして、今回の2つの会合の成否は、そのバリへ向けて、盛り上がりを作っていけるかどうかが大きな鍵になりました。
その結果、各国政府は積極的な姿勢こそ見せなかったものの、2020年までに必要とされる温室効果ガスの排出削減量は、「1990年比で25~40%の範囲」という科学的な知見を受け入れ、12月のバリで、これが各国により正式に採択されることになりました。 しかし、日本を含む一部の国は、今回のウィーンでの交渉を妨げていたため、今後これらの国々においては、国際的な温暖化防止に向けた強い世論の形成が求められることになります。
ウィーン会議の位置づけ 2007年9月7日(水)
2007年8月27~31日という約1週間の日程で、オーストリアのウィーンにおいて開催されたのは、京都議定書第3条9項に基づくアドホック・ワーキングループの第4回目の会合(以下「AWG4」)と、条約実施促進による気候変動に対する長期的な協力行動に関する対話(以下「対話」)の第4回ワークショップの2つの会合である。
AWG4は、正確には、今回が会合の「前半」となり、「後半」は、12月に開催されるCOP13(第13回国連気候変動枠組条約締約国会議)・COP/MOP3(第3回京都議定書締約国会合)と共に開催される。対話は、今回が予定されていた4回のワークショップの最後となり、COP13においてその成果が報告されることになっている。
議題としては、AWG4では、2006年11月のナイロビ会合(COP12・COP/MOP2)において2007年における作業内容が「削減ポテンシャル(mitigation potential)の分析」および「附属書I国の排出量削減目標の範囲(possible ranges of emission reduction objectives for Annex I Parties)の確認」と決まったことを受け、5月に開催されたAWG3の結果を引き継いで議論が行われた。「対話」について、今回のワークショップでは、これまでに議論された4つのテーマに関する、分野横断的な事項について議論することとなっていた。
2007年12月のバリでのCOP13・COP/MOP3は、本格的な将来枠組み交渉を、期限を持った形で開始することができるかどうかということが1つの試金石であり、今回の会合は、そのバリへ向けての盛り上がりを作っていけるかどうかが一つの鍵であった。
対話第4回ワークショップでの議論
上述したように、今回の対話のワークショップでは、分野横断的な事項について議論されることになっていたが、コファシリテーターの2名は、これを2つの議題に分けた。1つは、長期的な協力行動の基盤的要素(building blocks)についての議論であり、もう1つは、第2回目のワークショップの際に締約国の決定によって事務局に依頼された気候変動に対応するための投資および資金の流れ(investment and financial flow)に関する報告書についての議論である。
長期的な協力行動の基盤的要素(building blocks)
この議題は初日(27日)のセッションにおいて議論され、各国が主に何が基盤的要素として重要かということを述べていった。各国とも、これまでの主張から大きな変化のある主張をしていたわけではなく、日本も、安倍首相のイニシアチブ「美しい星50」の原則の説明が主な内容であった。
そのような中、あえて注目すべき発言を挙げるとすれば、中国や韓国の対話の今後に関する発言と、アルゼンチンによる「部屋の中の象(Elephant in the room)」発言、そしてAOSIS (小島嶼国連合)の発言および提出意見であった。
中国や韓国は、その発言の中でそれぞれ、対話の有用性と、その2年間の延長を提案した。具体的なテーマ等が示されたわけではないが、こうした発言が注目される背景には、対話の今後が決まっていないことがある。対話のワークショップは今回を最後になり、次回のバリ会合での報告で終了の予定である。そもそも、対話の場は、モントリオールのCOP11において、主にアメリカを議論の場につなぎとめるために設けられた場であるといっても過言ではない(*1)。これまでの4回にわたる対話のワークショップでは、アメリカにかかわる議論は結局盛り上がらなかったが、引き続き、この場を活用すべきか、それとももっと違う場を作るべきかについて、現時点で明確な意見をもっている国は少ない。そのような中、中国や韓国が、対話の2年間の延長を求めたことは注目に値する。
(*1)アメリカが批准をしていない京都議定書の3条9項に関するAWGや、議定書9条に基づく議定書全体の見直しの場(COP/MOPの議題)では、締約国でないアメリカは議論に正式には参加できないため。
これに関連して、アルゼンチンは、「部屋の中の象(Elephant in the room)」についてなぜ意見を交わさないのかということを主張した。「部屋の中の象」とは、誰もが知っているのに避けて語ろうとしないものを差す慣用句であり、この場合は、当然アメリカに関わる問題を指している。対話の最後のセッションで、コファシリテーターは、bite by bite(一かじり一かじり)で取り組んでいくと述べたが、アメリカを巻き込む場が議論の1つの重要なポイントであることが暗に示されていた。
これらに加え、唯一、これまでの主張とやや異なる姿勢を見せて密かに注目を集めたのがAOSISであった。AOSISは、ワークショップでの発言において、「450ppmより相当程度低い温室効果ガス濃度レベルでの安定化を目指すべき」と述べて大幅な排出量削減を求めるだけでなく、事前に提出していた意見の中で、「途上国グループの中での差異化が、2013年以降に関するパッケージの中では必要である」ということを明確に述べていた(*2)。従来、途上国の側から途上国内での差異化に明確に言及する例はあまりなく、AOSIS諸国の危機意識の高まりと、ここへ来てG77+中国内部での意見の相違が表面化してきたといえるかもしれない。
(*2)UNFCCC (2007) Dialogue working paper 14 (2007): Submission from AOSIS.
投資および資金の流れに関する報告
緩和(mitigation)および適応(adaptation)の双方について、気候変動に対応するために必要とされる投資および資金の流れの規模を分析した報告書が、条約事務局から発表され、さらに、それをベースにしてパネリストによって議論が行われた。
報告書の主なポイントは、
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気候変動の緩和と適応に対して、2030年に必要とされる費用は、既存の投資や資金の流れに比すると確かに大きいが、2030年時点のGDP(0.3~0.5%)や投資額(1.1~1.7%)と比較すれば大きな額ではないこと。
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多くの設備や建物などのストックの寿命が30年以上になることを考えると、今後30年の間に投資や資金の流れの方向を変えていくことが重要であること。
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特に民間の投資や資金の流れは86%を占めるので重要であること。ただし、地域・分野によっては公的資金の役割が重要であること。
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カーボン・マーケットは重要な役割を果たすが、それだけでもだめであること。
などであった。適応について特に、発表を担当したジョン・スミス氏が、生態系に関わる費用は含まれていないことや、過小評価もしくは二重算定による過大評価もあるかもしれず、適応に関する数字はまだまだ不確実性が高いことを強調していた。
気候変動枠組条約の枠組みの中だけでなく、その外も含めての大きな投資・資金の流れにおいて、気候変動対策にとって適切な方向性を作っていくことが重要であるという認識が、今回の議論の中では参加者に共有されていたようである。
AWG4での議論と結論
AWGについては、初日(8月27日)に総会が開かれ、その後、29日にコンタクト・グループでの交渉が開始、最終日の31日まで議論が続けられた。ただし、初日の夕方の時点ですでに決定文書に関する交渉テキストをベースにした議論がすでに開始されていたようである。
今回の議論のトピックは、「削減のポテンシャル」と「排出量削減目標の範囲」であった。
議論が本格化したのはやはり議長による交渉テキストに関する議論が始まった30日であった。主な争点となったのは、以下の4つである。
削減ポテンシャルに関する分析はもう充分か
削減ポテンシャルについては、前回のAWG3に議論がされたが、それに加え今回は、各国の事務局が各国からの提出意見を元に作成したテクニカル・ペーパーによって詳細な情報がまとめられていた(*3)。各国ともこのテクニカル・ペーパーにまとめられた情報は有用であるとしていたが、問題は、これまでの検討で「削減ポテンシャル」に関する検討を充分とすべきか、さらなる議論が必要であるかどうかという点であった。G77プラス中国は、議論を前に進めることを主張し、EUやノルウェーも議論を前に進めることを主張した。これに対して、日本やカナダ、ニュージーランドなどは、まだこの作業は終わりではなく、IEAやIPCCなどの知見も借りて議論をさらに深めるべきだと主張した。
最終的なテキストは基本的に両論併記となり、さらなる分析がAWGにおける作業を助けることを述べられると同時に、AWGの作業計画を進めていくことの重要性を認識することが述べられることとなった。
(*3)UNFCCC (2007) Synthesis of information relevant to the determination of the mitigation potential and to the identification of possible ranges of emission reduction objectives of Annex I Parties. (FCCC/TP/2007/1).
450ppmと25~40%削減への言及
議長が当初出してきたテキストには、IPCC第四次評価報告書(AR4)の第三作業部会の知見として、最も低い温室効果ガス安定化濃度(450ppm)のシナリオでは、先進国全体で2020年までに1990年比25~40%の排出量削減が必要であると示されていることが述べられ、それを今後の「排出量削減目標の範囲」に関する議論の最初の数字として使用していくことが述べられていた。
これに対し、日本、カナダ、スイス、ニュージーランドといった国々は、IPCCのシナリオの中で450ppmおよび25~40%という数字にのみ言及をすることに対して反対をした。日本およびカナダは、IPCCのシナリオに言及するのであれば、全てのシナリオについて言及すべきであると主張した。(ポルトガルによって代表された)EUは、すでに自国の中長期目標を示しているため、説明的な文章を付け加えることを要求したのみで、こうした数字を示すこと自体には反対をしていなかった。
AOSISは、これをさらに一歩推し進める形で、450ppm以下のシナリオに関する検討がなされていない事を指摘し、自分たちにとっては、450ppmによってもたらされる2℃以上の平均気温の上昇は極めて重大な影響を意味するので、450ppmより低いレベルのシナリオを検討すべきだと主張した。さらに、先進国は2020年までに90年比で40%の削減が必要だと主張した。
密室でのインフォーマル交渉の結果、最終的には450ppmへの直接的な言及は消えたものの、実質的な文章は残った。まず、IPCCが示した最も低い温室効果ガス濃度安定化レベルにおさえるためには、世界の排出量は今後10~15年にピークをむかえ、21世紀半ばまでに2000年の排出量の半分より相当程度低いレベルまで削減される必要があること、そして、そうしたレベルに抑えるためには、先進国は全体で2020年までに1990年比25~40%の排出量削減が必要であることを「認識する」という文章が合意文書には盛り込まれた。ただし、これらの情報は、あくまで最初の数字であり、後のセッションで振り返る可能性があることが、別の段落では確保されている。
条約の究極の目的との整合性への言及
議長テキストには、上述の「450ppm」および「25~40%」に関する言及と一緒に、そうした作業が、条約の究極目的に貢献すること、という記述もあり、これに対しては、途上国が難色を示した。特に強く反対したのはインドであり、インドは条約の究極目的はもちろん重要だが、それとAWGがCOP/MOP1の決定によって与えられた役割(=先進国の次の排出量削減目標設定)とは別物であり、そうした文言はいれるべきではないと主張した。この部分については、具体的にどのような議論があったかは不明であるが、最終的には言及が残った。
基準年を1990年でそろえた上で2020年/2030年/2050年に関する目標について意見提出をすること
議長が提示してきたテキストには、当初、先進国に国内での排出量削減目標についての情報提出を求め、しかも、その基準年は議定書の基準年(1990年)でそろえた上で、2020年/2030年/2050年というIPCCでも使用されている目標年を使用して出すべきだという文言が入っていた。
これに対しては、カナダや日本が強く反対し、特に日本は全く受け入れられないと強い反対を示した。日本は特に、次期枠組みでは基準年の変更を強く意識しているためか、このことについて述べた段落は全く受け入れられないと主張した。この結果、この部分に関する段落は、合意文書からは完全に消えている。
柔軟性措置の位置付け
CDMを含む柔軟性措置の位置付けについても議論があった。柔軟性措置そのものが議論になったというよりも、国内削減を検討する上で柔軟性措置の使用を前提とするのか、そして、より重要なことに、柔軟性措置に関する議論を、このAWGの中で行うのかどうかについての議論があった。
先進国は、総じて柔軟性措置に利用を前提とし、AWGの中でも一部議論に含めていきたいということを主張していたが、途上国側は、この議論が途上国の関わり方に関する議論に発展することを恐れ、議論をあくまで先進国の目標に限定することを主張した。
結果として、より大きな先進国の削減ポテンシャルが「より広範な柔軟性措置の活用(wider use of flexibility mechanism)」を通じて存在するという中性的な表現に落ち着いた。
こうした争点のほか、サウジアラビアが削減ポテンシャルの「波及効果」(spillover effects)についての検討も含めるべきだと主張したことを受けてその文言が残ったり、今後のAWGのタイムテーブルに関する意見提出の期限が延ばされたりするなど、テキストの文言に関する議論は最終日までもつれこんだ。
AWGの議論は、当初の予想よりも紛糾し、一時は、丸ごとバリへと文書を投げる形になることも危惧されたが、最終日の夕方にようやく合意が達せられ、総会にて採択され閉幕した。
(*4)UNFCCC (2007) Analysis of mitigation potentials and identification ofranges of emission reduction objectives of Annex I Parties. (FCCC/KP/AWG/2007/L.4).
今回の会議の評価
一定の進展
今回のウィーン会議については、参加した締約国も当初それほど大きな成果を期待していない様子だった。このため、どちらかというとバリでの合意へ向けての準備的なものとして捉えられていたようである。
そうした期待の低さから言えば、AWG4が「排出量削減目標の範囲」の議論について、IPCCによる AR4からの知見の引用という客観的な体裁をとりながらも、最も低い温室効果ガス濃度レベルでの安定化のためには、「2020年までに90年比25~40%の削減が必要」であるということを、前回のAWG3よりは明確な形で合意に盛り込んだことは、一定程度の進展を見せたと前向きに評価できる。
その他、会議の交渉の中では以下の2つの注目すべき点が見て取れた。
見え始めた日本・カナダ・ニュージーランドとEUの差異
過去数年間の交渉において、日本やEUなどの先進国の交渉姿勢は、細かい部分では差異はありつつも全体的にはそれほど大きくは違っていなかった。将来枠組みの交渉を始めなければいけないこと、そして、そのためには途上国やアメリカを含んだ形での議論をしなければならず、そのための場をきちんと確保していかなければならないという姿勢は、大枠のところでは一致していた。しかし、ここへ来て、その交渉を進める姿勢について、明確な違いが出てくるようになった。それは、すでに中長期の目標をかかげていることから、積極的にAWGでの議論を進めようとするEUと、国内での不合意、アメリカを巻き込むことに関する懸念などを理由に、AWGでの議論の進展に関してやや消極的な姿勢が見え始めた日本やカナダなどの先進国の違いである。バリでの議論において、争点がより具体化すれば、より差異がはっきりしてくる可能性もあり、バリでの合意の難しさがうかがえた。
途上国内の意見の相違とAOSISの役割
違いが見え始めたのは先進国内だけではなかった。議長テキストが提示された後、木曜日(30日)に開催されたコンタクト・グループの開始は、当初10時30分開始の予定であったものが、15時まで大幅にずれ込んだ。この理由は、G77+中国の内部で合意がとれなかったためである。会合の開始が、こうしたグループ内部の議論によって遅れるということ自体は全く珍しくないが、AOSISの対話での提出意見もあって、途上国内での意見が、徐々に統一がはかれなくなってきているのではないかという憶測を周囲に対して与える結果となった。
バリへ向けて
このウィーン会議から、バリでのCOP13・COP/MOP3へ向けては、いくつかの重要な会議が相次いで開催されることになっている。9月2~9日のAPEC会合(シドニー)、11日のグレンイーグルス対話(ベルリン)、24日の国連ハイレベル気候変動会合(ニューヨーク)、27~28日のアメリカ・エネルギー安全保障と気候変動に関する主要経済国会合(ワシントン)、そして11月12~16日の第27回IPCC総会(バレンシア)である。
こうした会合は、それぞれに期待されている役割や位置付けも違うが、バリにおける正式な将来枠組み交渉の開始、すなわち、「バリ・マンデート」の採択へ向けての勢いを作っていけるかどうかが大きな鍵である。
バリにおいては、将来枠組みにおいて必要とされる要素に合意し、期限を持った交渉を開始することが必要である。京都議定書よりもさらに複雑な枠組みに最終的には合意しなければならないことを考えると、バリにおいて、交渉のスタートを切り、明確な目標を持って交渉に臨むことが是非必要である。そうでなければ、第1約束期間と第2約束期間の「ギャップ」の無い形での合意というのはほぼ不可能となる。日本は、特に来年にG8をホストする予定となっていることを考えると、あらためてそのリーダーシップが問われる会議となるであろう。
国連気候変動枠組条約第13回締約国会議(COP13)及び京都議定書第3回締約国会合(COP/MOP3)ご参加に際してのお願い
要望書 2007年11月21日
環境大臣 鴨下一郎 様
環境エネルギー政策研究所(ISEP)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
グリーンピース・ジャパン
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
WWFジャパン
日頃よりの地球環境問題に関する鴨下大臣のご努力に敬意を表します。
加速的に深刻化している危険な気候変動を回避するためには、世界全体の温室効果ガス排出を、次の10年間で削減に転じ、2050年までに1990年レベルから半減しなくてはなりません。この大きな目標を達成するためには、12月3日から14日にインドネシアのバリ島で開催される「国連気候変動枠組条約第13回締約国会議及び京都議定書第3回締約国会合(COP13・COP/MOP3)」において、2013年以降の次期枠組みに関する正式な交渉を開始し、2009年までに合意する必要があります。
次期枠組みにおける日本の役割は、引き続き重要です。上記目標に沿った場合、日本を始めとする先進国は、2050年までに約80%の削減が必要と考えられています。そのためには、2020年等の中期的目標について具体的に定めると共に、強力な施策をすぐにも導入する必要があります。
10月16日の予算委員会で福田総理は、長期の総量削減目標を設定することを明言され、鴨下大臣におかれましても、年内にも、高めの目標を打ち出したいとの意欲を示されました。また、鴨下大臣は、「C&T型国内排出量取引」や「炭素税/環境税」などの経済的手法を排出削減に効果的な政策と繰り返し述べられています。私たちは、このような積極的な姿勢を大いに歓迎するとともに、心強く思っております。同時に、未だ産業界を中心に地球温暖化対策を強化することへの抵抗が根強いことを大変憂慮しています。目標達成計画の見直しを行っている審議会合同会議では、自主行動計画について透明性・検証性のあるフォローアップがなされないまま、これを継続することを前提に国内排出量取引など経済的手法については検討課題にとどめ、家庭については政策の裏付けのない国民運動が強調されるなど、国内対策の進展がみられておりません。
先の予算委員会では、福田首相は、他国がどうであれ排出削減に取り組む意欲を示されるとともに、ブッシュ大統領の提案を、目標の設定や主要排出国の取り込みなど軌を一にするところもあると述べておられます。しかしながら、現在の米国政府の姿勢は、今から10~20年の間に世界の排出量を減少方向へもたらす必要があるという、IPCC第4次報告書のメッセージに沿ったものではありません。2008年大統領選に向けて、米国内の動向も急速に変化しています。現政権の対応を批判し、議会レベルでは、2050年に1990年レベルで80%の削減やその実現のためのさまざまな施策についても提案が始まっています。米国やカナダの一部州は、欧州の排出量取引制度と連動することを発表しました。これらは米国の変化の兆しの一部に過ぎません。中国政府や南アフリカなどの途上国も気候変動政策に積極的な姿勢を見せ始めています。現在の米政権に同調することなく、政策転換の可能性に先んじて、日本が単独でも先進的な気候変動政策を率いていくことを、日本の国際交渉スタンスの礎としてください。
国連のもとでの議論を主導していきたいとの福田首相の決意のもとに、来年のG8サミットを主宰するにあたり、厳しい交渉の入り口となるであろうCOP13において、国内削減の道筋を法制化し、国際交渉を進展させる断固たる日本の意思を、世界に向けて示していただきたく、以下の要望を提案いたします。
■危険な気候変動を防止するための目標値として工業化以前(1850年頃)より「2℃未満」の気温上昇に抑えることを、日本政府の政策の基本として明確にしてください。
■日本を含む先進国は、京都議定書の第一約束期間以降の次の枠組においても、法的拘束力のある、さらに大規模な総量削減目標を掲げる必要があることを、明確にしてください。
■2050年に1990年レベルに比べて世界全体で半減にいたる確実な道筋として、日本は、他の先進国と共に2020年に1990年レベル比で30%の温室効果ガス削減を目指すこと、また、2050年の日本の総量削減目標について、早急に確認し発表してください。
■また、現在行われている京都議定書目標達成計画の見直しに際しては、
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大規模排出事業所に対しては、自主的取り組みに委ねるのではなく、国内排出量取引を導入する
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長期的な低炭素社会の礎となり、フリーライダーを防ぎ、削減努力が不十分な企業・個人も含めもれなく排出削減を促進するため、炭素税/環境税を導入する
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排出の伸びている民生部門に対しては、政策不在の"1人1日1kg"をモットーとする「国民運動」ではなく、建築物の断熱・省エネ基準強化やインセンティブの伴う政策を導入する
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自然エネルギーの強力な推進策(ドイツ型買取制度)を導入する
- 当面の対策として石炭火力発電から天然ガスへ転換し、原子力に頼る削減策を抜本的に見直す
などの着実かつ即効性のある政策を早急に実現し、中長期的国内排出削減の道筋の法制化に着手してください。
私たちは、京都議定書の第一約束期間の達成を、特に国内対策を中心として確立していくことこそが、日本の、そして世界の中長期的な地球温暖化対策の実施へとつながると考えています。
G8において日本のリーダーシップを充分に発揮するためにも、上記のとおり、国内対策を抜本的に強化し、実施に移していくことこそが求められています。
国連気候変動バリ会議はじまる 2007年12月3日
2007年12月3日から、バリ島で国連気候変動枠組み条約および「京都議定書」の締約国会議が開かれます。今回の会議は2013年以降の地球温暖化防止のゆくえを左右する、きわめて重要な会議。国際社会がどのような取り組みを目指すことになるのか、注目が集まっています。
国際社会の温暖化対策のゆくえ
2007年12月3日、インドネシアのバリ島で、第13回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)および「京都議定書」第3回締約国会議(COP/MOP3)が開幕しました。バリ会議には、各国の政府関係者や、NGO、国際機関など一万人が参加しているともいわれています。
今回の会議は2013年以降、つまり「京都議定書」の第1約束期間が終わった後の、地球温暖化の防止に向けた国際的な取り組みについて、正式な交渉プロセスを決めることを目的としています。
このプロセスは、最終的に「バリ・マンデート」、または「バリ・ロードマップ」という形でまとめられ、締約国の約束として発表されることが期待されていますが、各国の主張が対立し、会議が紛糾して合意に至らず、採択されないおそれもあります。
オーストラリアが「京都議定書」批准を表明
さまざまな懸念を控えた会議の開催となりましたが、気候変動枠組み条約の締約国会議に続いて開催された、「京都議定書」の締約国会議では、11月に劇的な政権交代があったオーストラリアの政府代表が、「オーストラリアは、京都議定書を批准することをここで宣言します」と表明。満員の会場は大きな拍手に包まれました。
会議の議長をつとめるインドネシアのラフマット・ウィトゥラル国務相(環境担当)も、会場に向かって、「もう一度オーストラリアに大きな拍手を!」と発言するなど、会場中に感動が広がりました。オーストラリアは、翌週からはじまるハイレベル会合に、新しい首相となるケビン・ラッド次期首相が参加する予定で、排出を大幅に増加させている先進国として、京都に約束するその内容の中身が注目されます。
WWFでは今回の会議に、世界23カ国からスタッフが集まり、国際会議の成り行きを見守りつつ、情報の収集や、他のNGOとの意見交換、各国政府代表団への意見の申し入れを行ない、「バリ・マンデート」の採択を目指します。会議は12月14日まで開催される予定です。
気候変動の記録が更新された2007年 国連気候変動バリ会議の開幕声明 2007年12月3日
記者発表資料
インドネシア、バリ発――この1年、過去の記録を更新する気候事象が相次いだことは、異常気象がこれまで以上に地球で普通に起こっていることを示すと、WWFは発表した。
この度WWFがまとめた「Breaking Records in 2007 - Climate Change(2007年の記録的異常気象)」には、北極を覆う海氷面積の最小記録、これまでで最悪の森林火災、記録的な洪水が示されている。
「これらの事象は、地球温暖化の防止に決め手となる対策の措置が至急必要であることを示している。地球の平均気温の上昇を2℃未満に押さえることは、2007年に起こったような危機的な異常気象を回避する重要な鍵である」と、WWF気候変動プログラム部長ハンス・ベロームは言う。
2007年2月、インドネシアのジャカルタでは、過去最悪の洪水の一つとなる豪雨を経験した。洪水で40万人が住居を失ったために、大量の疾病の発生と4億5,000万USドルの経済負担を生じた。
「それは、今ここで起こっていることなのだ。インドネシアはすでに地球温暖化の影響に直面し苦しんでいる。インドネシア政府は、バリ会議をより安全な未来に向けて導くべきである」と、WWFインドネシアのフィトリアン・アルディアンシャーは言う。
一方2007年は、アマゾン、オーストラリア、アフリカ、中国の様々な地域といった世界の多くの場所で、継続的な厳しい干ばつに見舞われた。干ばつは、ヨーロッパ南部と東部、米国の西部を襲った、これまでで最悪の森林火災の原因ともなっている。
9月16日には北極を覆う夏の海氷面積の最小値を記録し、2005年に記録されたこれまでの値を更新することになった。米国テキサス州とコロンビア州を合わせた面積が減少したことになる。
「2020年までに温室効果ガスの排出を少なくとも30%削減するとバリ会議で約束することで、先進国は地球温暖化を直ちに食い止めることに真剣であると示すべきだ。時間はない。京都議定書の仕組みを活用して、国際的な炭素市場を拡大させ、クリーン技術への投資を刺激することが必要である」と、WWF欧州気候変動プログラム代表のステファン・シンガーは強調した。
バリ会議報告 本日の化石賞!2007年12月5日
2007年12月3日にインドネシアで始まった、国連気候変動バリ会議。世界が注目するこの会議の初日、日本の発言に注目が集まりました。「日本は「京都」を捨てようとしている?」日本政府は温暖化の「促進」に貢献する国に贈られる「本日の化石賞」も受賞しました。
日本が「京都」を捨てる!?
「京都議定書」の約束期間が終わる2013年以降に、世界がどのような国際枠組みを作るかが、今回の会議の焦点です。その初日の午後に、「京都議定書」の親条約である気候変動枠組み条約の全体会議が開催されました。その中で行なわれた、「長期的な協力のための対話」のセッション(対話)の中で、日本政府代表団は「京都を越えたすべての国が参加する新しい枠組み」を提案。この表現に非難が集中しました。
「京都議定書」の一番の特長は、条約を批准している先進国が国別に温室効果ガスの削減目標を持っていること。しかし、今回の日本の提案は、そのことについて全く触れずに、むしろ「セクター別のアプローチや、官と民の協力」などを、重点としてあげています。しかし、このことは、「日本が、京都が生まれた10周年記念の今年に、京都を葬り去ろうとしているのではないか?」という、参加国の疑念を引き起こしました。
WWFも参加している、国際気候変動NGOの集まり「気候アクションネットワーク(CAN)」も、強く反発。日本のNGOが中心となって、会場で配布されるロビーペーパーである「ECO」に「日本は京都議定書を捨てようとしているのか?」という記事を掲載しました。その中で、WWFジャパンをはじめとする日本のNGOは、「もし日本が京都議定書をなきものにしようとする意図ではないのなら、すぐにそのポジションを明らかにして、2020年までの日本の提案する数値目標を出すように」と促しました。
「本日の化石賞」を受賞
日本政府の発言に対する強い反発は、あくる2日目もやみませんでした。この日は、世界から集まった気候変動関連のNGOメンバー100人の、ほぼ全員の意見が一致した末、日本は「本日の化石賞」を受賞してしまったのです。
「化石賞」とは、国際NGOが、その日の国際交渉の中で、もっとも交渉を妨げている国を「化石」であるとして表彰する、極めて不名誉な賞です。しかも今回、日本は化石賞の1位、2位、3位を独占してしまいました。
1位を受賞した理由は、「(京都議定書の柱である)数値目標をなきものにして、規制の緩い自主行動へ移ろうとしている」こと。2位の受賞理由は、「京都議定書が生まれた10周年に「京都議定書を超えて、新しい枠組み」を提案し、議定書を亡きものにしようとしている」こと。そして3位は、「(温暖化防止のための)技術の途上国などへの移転の議論を、技術的な話し合いの場(SBSTA)ではなく、実施のための話し合いの場(SBI)に持っていくことを妨げている」こと、でした。
いずれにしても、バリで決められるべき2013年以降の話し合いのプロセスと中身を決める「バリ・マンデート(もしくは、バリ・ロードマップ)」の採択に向けた議論と進展を、著しく妨げたことを理由とした受賞になりました。
日本政府が、アメリカを意識しすぎるあまりに、アメリカの現政権が参加しやすいような、ゆるい枠組みの話し合いのプロセス作りに奔走し、自らの削減目標を明らかにしないことに対して、世界の市民社会の目が集中しています。
IPCCは、危険な気候変動の悪影響を避けるためには、2020年までに先進国全体で25%から40%が必要であると明言しました。今こそ日本政府は、それに応える決意を世界へ向かってはっきりと示すべきです。
科学のメッセージは届くのか?問われる国際政治の重責 2007年12月10日
12月10日、インドネシアのバリ島で行なわれている国連気候変動会議の会議場に、ノルウェーのオスロから、IPCCとアル・ゴア米前副大統領へのノーベル平和賞授賞の模様が生中継され、温暖化防止に向けた強いメッセージが発せられました。しかし同日、2013年以降の温暖化防止の枠組みを話し合う会議において、提示された文案から、IPCCによる言及が削られるという事態が発生しました。
オスロからの中継
インドネシアのバリ島で開かれている国連気候変動会議では、12月12日より、閣僚級会合が始まります。
この会合を目前にした10日、本会議場の大スクリーンに、ノルウェーのオスロから、ノーベル平和賞の授賞式の模様が生中継されました。2007年の受賞者は、地球温暖化の脅威を全世界に広く知らせることに大きく貢献した、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)と、アル・ゴア米前副大統領です。
中継が始まると、会議は一旦中断され、その授賞式の様子を全世界から集まった参加者が見守りました。
ノーベル賞の審査委員長が、両者の受賞の理由をまず説明し、「温暖化を無視することは、罪である。美しく脆い地球の明日は、私たちの手にある」と、バリで行なわれている国際交渉の場へ向けた強いメッセージを発すると、バリの会場では大きな拍手が沸き起こり、スクリーンに大写しになったIPCCのパチャウリ議長とゴア氏に向かって、カメラのフラッシュがいくつも光りました。
地球の反対側にあるノルウェーから、インドネシアのバリにいる世界の代表団は、間違いなくそのメッセージを受け取ったのです。
政治は役割を果たせるのか?
ところがこの日に、「京都議定書」の約束期間が終了した後、2013年以降の温暖化防止の枠組みを話し合う会議において、提示された文案から、IPCCによる言及が削られるという事態が発生しました。
削られたのは、IPCCが指摘した「先進国は2020年までに、温室効果ガスの排出量を、1990年レベルから20%~40%削減する必要がある。そして今後10年から15年の間に、世界全体の排出量をピークとして減少に向かわせ、2050年には2000年よりも排出量を半分以下にまで減少するべきである」という言葉です。
これは、先進国とその他の国々を含めた今後の世界に示された、温暖化防止のために取り組むべき、明確な目標であり、今回の交渉においても、最も大切なIPCC報告からの引用に他なりません。
11月にスペインで開催したその総会において、IPCCの科学者たちは、温暖化の脅威を明らかにし、科学はその役割を果たしました。現在のバリは、世界の政治が、その危機を回避するための役割を果たす場に他なりません。
それにもかかわらず、もっとも重要な科学による言及を無視し、IPCCのノーベル賞を受賞した日に「落とせ」と強く主張した国々があったことは、地球の未来に暗い影を落とす現実といえるでしょう。
翌日、議論はまた二転三転し、特別作業部会(AWG-先進国の 次期約束を話し合う場)のドラフトに、IPCCの引用が再び入りました。現在は、このAWGの中と、それから「対話(アメリカが入って将来枠組みを話し 合っている場)」の両方に、「先進国は25%から40%の排出削減を必要とする」という表現がはいっているので、この二つの場で、議論の焦点と なっています。日本やアメリカなどは終始、この表現に強い抵抗を示しており、行方が危ぶまれます。
IPCCの第4次評価報告書がはっきりと、地球温暖化の原因が人間活動にあることを明記し、危険なレベルを超えないために必要な削減分についても、科学は具体的な数字を示しました。これを実現する立場にある世界の政治は、その役割と責任を果たすことができるのか。12日からの閣僚級会合に、そのゆくえがかかっています。 政治は科学にはっきりと応える姿勢をこのバリで示すべきです。
南極からのSOS!ペンギン・パンフレットを作成 2007年12月11日
国連気候変動バリ会議の閣僚級会合を翌日に控えた11日、WWFは南極に生息するペンギンが地球温暖化の脅威にさらされている状況についてまとめたパンフレットを発表。地球温暖化が世界の隅々にまで影響を及ぼす、深刻な問題であることを訴えつつ、バリ会議において各国政府が温室効果ガス排出削減の明確な約束を交すよう求めました。
南極にも危機が
インドネシア、バリ島での国連気候変動会議・閣僚級会合を翌日に控えた11日、WWFは南極に生息するペンギンが地球温暖化の脅威にさらされている状況についてまとめたパンフレット「Antarctic Penguins and Climate Change 」を発表しました。
これは、地球温暖化が世界の隅々にまで影響を及ぼす、深刻な問題であることを訴えると共に、現在バリ島で行なわれている会議において、温室効果ガス排出削減の明確な約束を交すよう、各国の政府代表に求めるものです。
パンフレットは、WWFがアデリーペンギンの研究者デビッド・エインリー博士の協力を得て作成しました。南極大陸で繁殖する、アデリーペンギン、ヒゲペンギン、ジェンツーペンギン、コウテイペンギンの4種が、増大する温暖化の脅威にさらされていることを解説。繁殖地を失ったり、食料不足の深刻化にさらされている個体群の現状についてまとめています。
南極半島の平均気温は、地球上の平均的な気温上昇の5倍以上の速さで上昇しているといわれています。また、南極大陸周辺に広がる広大な南極海も、3,000メートルの深さまで、海水温が上昇していることが分かっています。
ペンギンからのSOS
海の氷も減少しています。南極半島西側の沖合いでは、26年前より海氷の面積が、40%も縮小。このため、ヒゲペンギンの主食であるオキアミが減少。ヒナの生存が困難になったためか、ヒゲペンギンのいくつかのコロニーでは、個体数が30~60%あまり減少しました。
ジェンツーペンギンも、過剰な漁獲によって主食の魚が減少したため、オキアミへの依存度を高めていますが、そのオキアミも資源量が減少しています。
世界最大のペンギンであるコウテイペンギンも、南極大陸のアデリーランドにあるコロニー(集団繁殖地)の個体数が、過去半世紀の間に半減するなど、影響を受けています。冬の気温上昇と強風化が、海氷を薄くし、その上でヒナを孵すペンギンたちに脅威を与えているのです。
また、アデリーペンギンは、南極半島の北西海岸では、過去25年の間に65%減少しました。ここは、南極の中でも、最も温暖化の影響が顕著に出ている地域です。アデリーペンギンを脅かしているのは、海氷の減少に伴なう食物の不足。
さらに、気候が変わることで、より温かい場所に生息していたジェンツーペンギンとヒゲペンギンの生息地が変化して、アデリーペンギンの生息地に侵入することにより、ペンギン同士の間で生息場所の競合が起き、その影響も受ける可能性があるとみられています。
今回のパンフレットの発表に際し、WWFインターナショナル事務局長ジム・リープは、南極の生態系の未来が、今後の温暖化防止のゆくえに深いかかわりを持っていることに言及。「バリ会議で一堂に会する閣僚たちは、南極大陸を守り、地球の健全を守るためにも、先進国のCO2排出量の大幅な削減を約束するべきである」と強く訴えました。
気候変動で危機にさらされるペンギン
記者発表資料 2007年12月11日
インドネシア、バリ発―WWFは、南極に生息するペンギンが地球温暖化の脅威にさらされている状況についてまとめたパンフレットを作成し、12日から始まる国連気候変動バリ会議の閣僚級会合を前に、温室効果ガス排出削減の明確な約束を訴えた。
パンフレットは、南極大陸で繁殖する4種のペンギン(アデリーペンギン、ヒゲペンギン、ジェンツーペンギン、コウテイペンギン)が、増大する脅威にさらされていることを解説。地球温暖化によってヒナを孵す貴重な場所が奪われつつある個体群や、漁業資源の乱獲に加え地球温暖化が原因で、食料がますます不足するようになった個体群もある。
「南極のペンギンたちは、すでに長くて苦しい行進を始めている。今や南極を象徴するこの動物がこれまでにない速さの気候変動に適応するために、非常に厳しい戦いに直面することになるだろう」と、WWF気候変動プログラム副部長のアンナ・レイノルズは言う。
南極半島の気温は、地球上の気温の平均的な上昇速度にくらべて5倍以上の速さで上昇している。広大な南極海が、3,000メートルの深さまで暖められている。
海水が凍結してできる海氷は、南極半島の西側の沖合いで、26年前より40%面積が縮小している。そのため、ヒゲペンギンの主な食料源であるオキアミの数は減少した。ヒゲペンギンの個体数は、いくつかのコロニーで、30%から66%も減少した。食料が減ってヒナの生存が困難になったのである。ジェンツーペンギンでも同様のことが言える。ジェンツーペンギンも、温暖化でオキアミにますます依存するようになっているが、それは乱獲によって魚類の資源量が枯渇しているからである。
コウテイペンギンは、世界で最も大型で堂々としたペンギンで、アデリーランドのコロニーでは過去半世紀の間に、個体数が半分になった。冬の気温上昇と強風化は、コウテイペンギンが、ますます薄くなった海氷の上でヒナを孵さなくてはならないことを意味する。何年もの間、温暖化の影響で、海氷が早い時期に壊れ、多くの卵やヒナが自力で生き残れるようになる前に、流されてしまうということが起きている。
温暖化の影響が劇的な南極半島の北西海岸では、アデリーペンギンが過去25年間で65%減少している。海氷が減少するにつれ食料が不足するようになったというだけでなく、アデリーペンギンと同じアデリーペンギン属のジェンツーペンギンとヒゲペンギンが、アデリーペンギンの生息域に侵入してきているのだ。
気温が上昇すると大気中の湿度が上がり、降雪量の増加をもたらす。科学者たちは、ヒナを孵すのに雪にも氷にも覆われていない陸地を必要とするアデリーペンギンが、温暖化に適応可能なジェンツーペンギンとヒゲペンギンに生息地を負われることになるかも知れないと科学者たちは心配している。
WWFインターナショナル事務局長ジム・リープは「南極大陸の食物連鎖、つまりペンギンとその他多くの種の生存は、海氷の将来と固く結びついている。京都議定書の長い道のりを象徴するバリ会議で一堂に会する閣僚たちは、南極大陸の生物の多様性を守り、地球の健全を守るために、今、先進国のCO2排出量の大幅な削減を約束するべきである」と強く主張した。
▼パンフレット (英文:PDF形式:6.01MB)
Antarctic Penguins and Climate Change
註:このパンフレットはアデリーペンギンの研究者であるデビッド・エインリー博士(Dr. David Ainley)とのパートナーシップのもとで作成されました。研究に関する詳細な情報はwww.penguinscience.comをご参照ください。
京都議定書、10周年誕生日記念パーティ2007年12月11日
12月11日は、議定書が京都で採択されてから10年目の誕生日です。記念すべき温暖化の初の国際協定の誕生日を祝って、日本のNGO主催による誕生日パーティが催されました。
京都から10年
12月11日は、議定書が京都で採択されてから10年目の誕生日です。記念すべき温暖化の初の国際協定の誕生日を祝って、会議終了後の午後6時半から、日本のNGO主催(気候ネットワーク主催、及びWWFなどその他日本の気候変動関連NGO共催)で、会議場となっているリゾートホテルのプールサイドで、誕生日パーティが催されました。
京都議定書の生まれ故郷である日本のNGO主催とあって、条約事務局の全面的な協力を得ることができ、なんと国連の潘基文事務総長もお祝いにかけつけ、豪華なパーティになりました。会場では、潘基文事務総長を目当てにした、メディアのカメラが壮烈な場所争いを繰り広げる中、各国政府の交渉担当官、NGOら数百人が参加しました。
まず、会場には、大きなバースディケーキが登場。京都議定書の策定に大きな役割を果たした、気候変動枠組み条約会議の初代議長で、現マルタ政府代表のクタヤール氏(Michel Zummit Cutajar)、そして、日本の鴨下環境大臣と、デンマークのヘデガルト環境大臣 (Connie Hedegaard)、さらにNGOの代表として前WWF気候変動ディレクターのジェニファー・モーガンが、バースディ・ソングに乗って、全員でろうそくを吹き消し、ケーキカットをしました。そして、それぞれのスピーチの後、京都で用意された、「京都議定書から次の約束へ」と書かれた大きなバナーに、全員がサインをしました。
続いて、潘基文事務総長が登場。日本の気候ネットワーク代表の浅岡美恵さんから事務総長に、全員がサインをしたバナーが手渡されました。そして、今度は事務総長から、明日の世界を担う若者の代表に、バナーが引き継がれました。 これは、京都議定書が生まれた日本から、国際連合に、そして京都議定書後の国際協定がここバリで合意されることを祈って、そのバトンを未来の若者へ引き継ぐ意味があります。世界中から集まったメディアのカメラの放列から強烈なフラッシュを浴びながら、儀式はにぎにぎしく行なわれました。
世界の気候変動関係者が集まる会議で、これだけのゲストを集め、パーティを実施に導いた気候ネットワークの平田仁子さん、川阪京子さんの仕事ぶりは本当にすばらしく、この模様は世界中に報道され、日本のNGOの存在感を高めるのにも役立ったのではないかと思われます。WWFジャパンのスタッフも司会とカメラマンを担当。潘基文事務総長の参加を得た、かなり緊張した舞台を踏むことになりました。 ところが翌日、鴨下環境大臣が、本会議場におけるスピーチの中で、この誕生パーティに触れ、「気候変動枠組み条約事務局が主催した誕生パーティに、潘基文氏とともに参加した」とコメント。せっかく日本のNGOが主催したにもかかわらず、残念な誤解を与えることになってしまいました。
京都議定書の成立から10年。世界は果たして、温暖化防止のために前進してきたといえるでしょうか。これまでを振り返ると共に、これからの未来に向け、世界が一つになって温暖化の危機を食い止める、そんなたくさんの人たちの願いが集まったパーティでした。
バリ会議報告 ハイレベル会合はじまる 2007年12月12日
12月12日、会議はいよいよ大臣レベルのハイレベル会合に入りました。いよいよ、今回の会議の焦点である、2013年以降に世界がどう温室効果ガスを削減してゆくかについての道筋が話し合われます。
「バリ・ロードマップ」を話し合う場
会議は2週目に入り、事務方レベルの会合を終え、12日からいよいよ大臣レベルのハイレベル会合に入りました。京都議定書の第一約束期間が切れた2013年以降に、どのような国際枠組みを作るのか、その道筋を決めるのがバリ会議の焦点。
1)いつまでに決めるかのデットラインをいつにするか 2)それまでに何回会合を開いて議論していくか、そして 3)何を話し合うか
など、3点が入った「ロードマップ」を立ち上げることができるかどうかが、カギになります。
この3つの議題を話し合う場としては、3つの場が想定されます。
1)「気候変動枠組み条約(温暖化防止条約)」のもとで、アメリカを含めて行われている「対話」 2)京都議定書のもとで先進国の時期約束を話し合う特別作業部会(AWG)。それに、 3)京都議定書9条に基づく全体の「見なおし」の場
この3カ所です。中でも、一番中心となってもめているのは、条約の下での「対話」です。結局事務レベル会合は混迷の度合いを深め、各国政府代表団は合意に達することができず、議題は山積みのまま、12日からの大臣会合に預けられることになりました。
何がもめている?
会議でもめている点は、主に以下の5点です。
1)IPCCの指摘をめぐる表記
前文にある「危険な気候変動の悪影響を避けるためには、条約の付属書1国(先進国)の排出量を、2020年までに1990年レベルから25~40%削減し、世界の温室効果ガスの排出のピークをこれから10~15年の間に迎え、2050年までに排出量を2000年レベルから半分以下にすることが必要」とする、IPCC第4次評価報告書の科学的知見を重視することについての表記。
これは、8月にオーストリアのウィーンで行なわれたAWG会合で、IPCC第4次報告書を引用する形で書き込まれることになった、温暖化防止のために必要とされる先進国の排出削減分についての記述ですが、日本やカナダなどの先進国は強く反対しています。 特に、京都議定書の第一約束期間(2008~2012年)の6%削減約束の達成すら危うい日本としては、2013年以降の削減分を明確にしたこれらの数値目標を入れることに、絶対反対する姿勢を示しています。 一方、積極的な削減の姿勢を見せているEUや、中国を始めとする途上国は、この25%から40%の数値を入れようと強く運動しています。WWFをはじめとする世界の環境NGOは、基準年を1990年としたこの数値目標が残るように、強く働きかけています。
2)アメリカに関する記述
京都議定書を批准していないアメリカに対して、特別に対応を考えようとするための記述が問題になっています。 アメリカとはっきりは書かれていないものの、「すべての先進国が、AWG(京都議定書に参加している先進国の2013年以降の削減数値を決める場)において決定された内容を考慮し、それと同等の絶対量での排出削減目標を持つ」と記述されており、この「全ての先進国」には、アメリカが含まれています。
このような、アメリカを含む「全ての先進国」に、京都議定書と同じような「絶対量での排出削減抑制目標を持たせる」と読める記述に、アメリカは当然、大反対の姿勢を貫いています。
そして、アメリカを支持する日本やカナダなどの国々と、アメリカにも削減目標を持たせようと狙う中国などの大量排出途上国の間に刻まれた溝は深く、この議題も大臣会合へ持ちこされることになりそうです。 WWFなどの環境NGOは、アメリカにも明確な削減目標を持たせるべく、要項をより厳しいものにするべく働きかけています。
3)大量排出途上国の削減について
2013年以降は、中国やインド、ブラジルなど、経済発展が著しく、温室効果ガスの排出量が急増している途上国にも、何らかの排出削減対策に取り組むことが求められます。絶対量として多くの排出量を占めているこれらの国々による努力が無ければ、世界全体での排出を抑えることはできないからです。 2012年までの削減目標を定めた「京都議定書」の第一約束期間では、「共通だが差異ある責任」をうたっており、産業革命以降温室効果ガスを排出してきた先進国の責任を強く認めたため、途上国には削減義務を課してきませんでした。しかし、その期限が終わる2013年以降には、先進国側も、中国やインドなどの急激に発展している途上国に、何らかの排出削減に合意することを強く求めています。 今回バリでは、今まで「いかなる削減義務ももたない」という交渉姿勢を貫いてきた、大量排出途上国の一つである中国が初めて、「先進国が資金や技術を提供するという条件で、持続可能な開発のための政策を温暖化ガス削減の方策にもする」という方法を提案し、注目を集めています。議論を始めようとする姿勢を示したことは、これまでの方針を大きく転換した印象を与える内容ですが、日本政府などは、これまでの姿勢と変わらないと評価し、示した対策についても全く不十分としています。
4)京都議定書の見直しとこれから
京都議定書の3条9項で先進国の次期(2013年以降)枠組みの中で、先進国の削減約束を話し合うAWGや、京都議定書そのものの見直しを定めている議定書の第9条の議論の問題があります。 気候変動枠組み条約の下での「対話」の議論と、京都議定書の下での9条の見直しや、AWGとの議論は、同じ2013年以降の将来的な排出削減の枠組みを議論するものです。いずれ、この3つが一つになり、先進国のさらなる削減強化と、途上国の何らかの形での削減義務の両方が、関連付けられて話し合われることが理想です。 しかし、このリンクについても、もめています。バリ会議では、先進国の削減約束を決めるAWGと、条約の下での「対話」での議論を、無理にリンクさせ、一つにしようとすると、途上国側の強い反発をまねき、決裂してしまうおそれがあるためです。 これらの途上国は、「今起きている温暖化は先進国が引き起こしたものなのだから、先進国が大きく排出削減を進めてから、途上国の義務の話をすべきだ」という立場を変えていません。とりわけ、中国やインドなどの大量排出途上国は、先進国の削減約束と、途上国の削減義務を関連付けたくないため、二つの道筋を関連付けたくないと考えています。大量排出途上国が、二つの道筋を決める期限を、それぞれ2009年と2010年に、別々に設定しようとしているのも、この二つがあくまで別物であることを主張するためです。 一方、先進国は、2013年以降に、大量排出途上国が何も削減のための方策を約束しないまま、先進国だけ削減数値目標を持つことは絶対に避けたいと考えているため、なるべくこの二つの道筋を強く関連付けようとしています。
WWFをはじめとする環境NGOは、AWGと「対話」の二つの話し合いの道筋で議論を続けることが現実的であると考え、それぞれの道筋で議論をしながらも、二つを強く関連付けることを求めています。
5)2013年以降の枠組みの中で話し合うべき課題(ビルディングブロック)
「対話」のドラフトの中には、ビルディングブロック(2013年以降の議論で優先的に話し合うべき課題)として、緩和、適応、技術と資金の4点をあげています。そのほかに、森林の減少や劣化に伴なう温室効果ガスの排出削減(REDD―Reduced Emission from Deforestation and Degradation)に関する条項も含まれており、国内に熱帯雨林を持つブラジルやパプアニューギニアなどを中心に、今回会議での大きな議題になっています。 途上国側には、今までの条約や京都議定書の下で定められてきた適応や技術移転の議題が、全く実践レベルまで進展していないことに危機感を強めています。そのため、バリでの話し合いが2013年以降の枠組みの話し合いに集中して、これらの適応や技術移転の問題が軽視されることを警戒しており、京都議定書や条約で定められた適応や技術移転をきっちりと履行するほうを優先するべきだと強く主張しています。 途上国側は、これらの課題が進展しない限り、途上国に削減義務を課すかどうかといった、将来的な枠組みの話し合いを進めることに、反発する姿勢を見せています。
特に今回、最大のカギになっているのは、温暖化防止のため、先進国から途上国に向けて行なわれる、技術移転です。 気候変動枠組み条約と京都議定書の下で、今まで15年以上も議論されてきた先進国から途上国への、緩和(温室効果ガスの削減)や適応(温暖化の悪影響に対応できるようにすること)のための「技術移転」は、技術的な側面を話し合うばかりで、移転に必要な先進国からの資金提供など、技術移転を実践に移す方策は、全く決まっていませんでした。
途上国側は、このことに対し、非常に強く不満を持っており、2013年以降の話し合いの中で、技術移転について、特に移転を促す資金作りなどの議論を強化することを強く要求しています。
これは、気候変動枠組み条約の「対話」のドラフトにおいても、2013年以降の議論に不可欠であるとする4点の一つにはあげられていますが、非常にあいまいな表現のままで入っており、途上国側はこれを不満としています。 「技術移転」の進展は、バリ会議において、ターニングポイントとなっており、これが進まない限り、2013年以降の話し合いを途上国側が進展させないという様相を呈してきています。
以上の課題をいかに進めるかが、途上国側を2013年以降の温暖化防止の枠組みの話し合いに参加させるカギになっています。一方、日本やアメリカ、カナダなどは、今回のバリの会議は、2013年の枠組みを話し合うプロセスを立ち上げることが目的であるとしており、中身を具体的なものにすることに対して、強く抵抗しています。 日本政府はとりわけ、国内での議論が統一されていないため、細かく議題を決められてしまうと困ることになると思われます。そのため、プロセスだけの合意を主張し、中身を入れることを主張している途上国側と、鋭く対立しています。
大臣会合はどうなるか?
2013年以降の排出削減についての話し合いは、多くの対立点を残したまま、大臣レベルの会合へ持ち越されました。あと3日間、世界各国から集まった大臣たちの力量が問われることになります。 なお、京都議定書を批准したオーストラリアは、新首相のケビン・ラッドが、バリ入りし、熱烈な歓迎を受けました。そのほか、国連の潘基文事務総長が姿を現し、国連において、気候変動がもっとも大きな問題になっていることを印象付けています。
バリ会議報告 深夜のアメリカ提案で会議が混乱 2007年12月13日
バリ会議は閣僚級のハイレベル会合に入り、 13日朝には2013年以降の削減目標の設定に向けた、新しいプロセス作りについて、決議のドラフト改定案が出てきました。そして同日夜、そろそろ合意が得られるのではないかとの見方が広がった矢先に、突然アメリカによる妨害が入りました。
ロードマップの採択に向けて
12日より閣僚級のハイレベル会合に入り、各国の大臣が本会議場でスピーチを続けるかたわら、同日の夕方から、「議長の友(Friends of Chair)」と称される40カ国の閣僚レベルの協議が始まりました。いよいよバリ・ロードマップに向けての交渉が、最終局面に差し掛かったのです。
13日朝には、気候変動枠組み条約(COP)の下で行なわれる、2013年以降の削減目標の設定に向けた、新しいプロセス作りについて、決議のドラフト改定案が出てきました。
このドラフトには、WWFを始めとするNGO側も強く推していた、「今後10年から15年の間に排出を減少に転じさせる」「すべての先進国(つまりアメリカを含む)は、京都議定書を批准している先進国の排出削減数値目標に沿った形での絶対量削減を行なう」といった内容も組み込まれており、決して悪いものではありませんでした。
このドラフトに基づき、13日の夜には少しずつ合意に向けた動きが見られ始め、一時は、このドラフトの延長線上で妥協点が見出され、合意が得られるのではないかという希望が広がりました。
終了直前に妨害が
ところが、会議終了予定時刻のほんの1時間前、13日の夜中11時過ぎになって、アメリカが突然、削減のあり方について、とんでもない提案を出してきたのです。 その内容は、それぞれの国が「経済発展などの状況に応じて国内行動をとること」とするもので、先進国、途上国の区別すらなくしており、具体的には、それぞれの国が自主的に好きな削減方法を選んでやればよい、とするきわめて乱暴なものでした。 内容があまりにひどいことに加え、会議最終に差しかかる段階で、多くの国が受け入れられない提案をしてきたこと自体、会議を妨害して、合意をはかられなくする意図すら感じられるものでした。
時刻は既に深夜。しかし、WWFは即座に各国の通信社をはじめ、世界のメディア関係者を呼び集め、アメリカの意図を公開。その提案が「会議をボイコットする意図のものである」として、非難のコメントを出しました。WWFジャパンのスタッフも深夜1時半、日本の記者に向けた解説と情報発信を行ない、明くる日にはこれが、日本のメディアでも大きく取り上げられました。
あくまで、温暖化防止に消極的な態度を貫き、世界の合意を阻害しようとするアメリカ政府。私たちは何としても、アメリカの妨害を打破して、バリ・ロードマップを立ち上げなくてはなりません。世界のNGOは一丸となって戦っています。
バリ会議報告 「予定通り」の会期延長! 2007年12月14日
13日深夜に突如出されたアメリカの提案の影響を受け、会議は終了予定日である14日になっても終わる気配を見せません。日付も変わり、夜を徹した交渉が続きました。
アメリカ提案の余波
前日の晩、アメリカが行なった提案に対する興奮と憤慨もさめやらぬまま、いよいよ会議は最終日に突入しました。
しかしこれは、あくまで予定されていたスケジュール。「14日の午後5時には会場設備が使えなくなるので、それまでに決着がつくはずだ」といった、まことしやかな噂も流れていましたが、午後に入る頃には、それすら希望的観測であり、やはり当初からの予想通り、会議はおそらく14日の日付内には終わりそうにもないことがあきらかになります。
午前中から、COP(気候変動枠組み条約会議)およびCOP/MOP(京都議定書会議)の本会議が開催され、各国大臣による声明の続きや、国連機関、そしてオブザーバーによる声明の発表が行なわれました。オブザーバーによる声明の中では、環境NGOの声として、Climate Action Network (CAN:気候変動ネットワーク)も声明を読み上げ、今回のバリにおいて、中身をともなった交渉プロセスが設立されることの重要性を説きました。
こうした公式な表の式次第が進む裏で、ロードマップに関する交渉は、午前10時の大臣の非公開会合から開始されました。しかし、大きな進展があったという報告は聞くことができないまま、時間だけが過ぎていきました。 この時点で交渉は、気候変動枠組条約の下で新しい交渉の場を設立することに関する決定文書の内容に絞られていました。京都議定書の下でのAWGや議定書9条に基づく見直しなどについての合意がまとまったわけではなかったので、一端それらは棚上げの状態となり、先に条約下の新しい交渉の場について合意を得ることが優先されているようでした。
議論の争点
昨晩から引き続き、特に議論の的になっていたのは、以下の3点です。
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IPCCの第四次評価報告書の知見に基づいた表記である、「世界の排出量は今後10~15年以内にピークを迎え、それ以降は減少していく必要がある」または「先進国がグループ全体として2020年までに1990年までに25~40%の排出量を削減することが必要」などの表現を、決定文書の前文にどれくらいはっきり入れ込むことができるか
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今後、新しく設立される場で話し合われるべき先進国および途上国の削減について、どれくらいはっきりとした形で、かつ厳しい表現を盛り込むことができるか。たとえば、先進国については排出量の抑制・削減数値目標といった言葉を入れることができるかどうか。途上国については、「測定可能、報告可能、かつ検証可能な行動」などの文言がはいるかどうか。
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新しい交渉の場をどのように作り、京都議定書のAWGとどのような関係を持つのか
とりわけ第1の点については、この時点で、年数や%などの数字が入っていない決定文書のドラフトがでるなど、絶望的な雰囲気が流れていました。これら以外の他の部分については、おおかた合意がまとまったという話はありましたが、総じて大きな進展がなかなか見えない状況が続きました。
18時半頃から、こうした非公式な会合とは別に、COPとCOP/MOPの本会議が再び開催されました。本来のスケジュールでは、この本会議で全ての議題についての結論を採択して終了するはずでしたが、結局、一番肝心なロードマップに関する部分についての交渉が終わらなかったため、議論が終わっている議題についてのみ、先に結論を採択するために開かれたのでした。
南アフリカからのプレゼント
かくして、再開された本会議で、ロードマップに関連する議題を除く、他の議題の結論について形式的な採択が続く中、ちょっと変わった出来事が起きました。 条約事務局の予算に関する議題についての採択が済んだ時です。南アフリカが自国のプレートを挙げて発言の意志を示しまた。それまでとんとん拍子で採択が続いていたので、一体何だろうと皆が思う中、南アフリカの政府代表が次のように述べたのです。
「今年前半に条約の予算について議論があったとき、予算制約上から、設備すらまかなえないという話がありました。南アフリカは、条約事務局長が床に座るようなことになっては大変だと思い、今日、2つの椅子をプレゼントすることにしました。1つは青い椅子、もう1つは緑色の椅子です。片方は条約のため、もう片方は京都議定書のための椅子です。どちらの椅子にお座りになるかは条約事務局長にお任せ致しますが、どうか、2つの椅子の間に落っこちてしまうことだけは避けて下さるようお願いします」
この発言の後、壇上で議長の横に座る条約事務局長イヴォ・デ・ブア氏に、折畳み式の椅子が南アフリカ代表団からプレゼントされました。イヴォ・デ・ブア氏はちょっと照れながらも嬉しそうにその椅子を袋からとりだして広げ、腰掛けて見せました。 やや低い椅子だったので、イヴォ・デ・ブア氏はまるで子供が大人用の椅子に腰掛けたように胸から上だけが見える形になり、会場から笑いが起こりました。当人も笑いながら、「右手のひじ掛けの部分に円い穴があるけれど、これはここにビール缶を入れて会議中に飲んでいいということですね」といった冗談を交えて感謝の意を南アフリカに伝えました。
国連会議では、時折こうした「外交的ユーモア」がとりかわされます。厳しい交渉の中に、こうした一服の清涼剤が入ることで、雰囲気が和らぐことにつながるからでしょう。会場が暖かい雰囲気に包まれたひとときでした。
そして深夜の交渉へ
本会議において他の議題が採択された後、再び20時半からロードマップに関する、非公開の交渉が開始されました。部屋を変えたりしながら交渉は続きましたが、24時になっても交渉は終わりません。
そして、深夜2時頃、ようやく合意がなされた様子で、会合が行なわれていた部屋からぞろぞろと各国代表が出てきました。外で眠気と闘いながら、この時を待ち続けていたNGOのメンバーやメディアも、情報を集めるために慌ただしく動き始めます。
出てきた各国代表等からNGOが得た情報によると、具体的なテキストはないものの、どうやら先に挙げた3つの論点のうち、最初の論点については具体的な数字は全て取り払われ、唯一、IPCC第四次評価報告書の該当ページへの脚注が残されているとのことでした。 また、新たな交渉の場で話し合われるべき先進国と途上国の目標を規定する文章についても、弱い表現に落ち着いてしまっている模様で、NGOの立場からすれば、決して満足できるような内容ではありませんでした。
それでも、どうやら合意がまとまりそうだという期待感と、決して満足できる内容になっていないという危機感とがないまぜになった複雑な心境を抱きつつ、ある人は滞在先のホテルへ、ある人はそのまま会議場に泊まって翌日の朝からの最終決定の場に備えたのです。
しかし、実際には、この時点で各国は、まだ合意には至っていたわけではありませんでした。これが発覚したのは、翌15日の朝8時に本会議が開催されてすぐでした。
バリ会議報告 会議閉幕!「バリ・ロードマップ」採択される 2007年12月15日
京都議定書の第一約束期間が終わった2013年以降に、国際社会は地球温暖化防止のためにどう動くのか。その枠組みを決める議論の工程表(ロードマップ)が12月15日、成立しました。厳しい交渉の末、当初の予定より1日期間を延長した末に採択されたロードマップには、具体的な温室効果ガスの削減に関する数値目標は入りませんでした。
混迷の果てに
2013年、京都議定書の第一約束期間が終わったあと、地球温暖化防止のため、国際社会はどのような取り組みを行なうのか。その枠組みを決める議論の工程表(ロードマップ)が15日、成立しました。
結局、IPCCの第4次評価報告書が明らかにした、危険な気候変動の悪影響を防ぐために必要とされる「先進国は、2020年までに、90年比で25%~40%削減する」という数値目標は、日米を始めとする一部の国々の強い反対により、ロードマップの中には入りませんでした。
一方、京都議定書を離脱したアメリカと、京都議定書のもとで削減義務を負っていない中国、インドなど大量排出途上国の参加を話し合う条項を盛り込むことには成功。決裂は何とか回避されました。WWFは、会議終了に際した声明の中で、「バリ・ロードマップは、立ち上がったが、入るべき中身について先送りした」と、その問題を指摘しつつ、「今後の国際交渉の中で、法的に絶対量での排出削減義務を科した、将来の枠組みに向け、早急に議論をつめていくべき」と訴えました。
会議最終日となるのはずの14日から日付がかわり、翌15日の午前3時を回っても、ロードマップの決定案は、合意に達することができませんでした。こうして会議は、一日延長して継続されることになります。 12日の閣僚級会合以降、交渉はほとんど全て、密室での非公式会合という形で行なわれたため、WWFをはじめとするNGOも、その内容を傍聴できないまま、激しい交渉が続けられました。 結局、会期が延長された15日、決議案のドラフトは、最後まで各国政府による合意に達しなかった文章を、括弧つきで入れた形で、本会議の場に戻ってきました。そしてWWFも、最後の交渉を目の前で傍聴し、自らが働きかけたロビー活動の結末を見ることができました。
ドラフトに残ったもの
この最後のドラフトからは、もともとの議長案に盛り込まれていた「先進国は2020年までに1990年比で25~40%削減する」という数値目標が、すっぽり抜け落ちていました。密室で行なわれた議論において、明確な数値目標の設定に反対するアメリカ、日本、カナダなどの激しい抵抗により、すっかり姿を消してしまったのです。 京都議定書の母国であるにもかかわらず、もともと「すべての国が参加する枠組み」を最重要視していた日本は、交渉過程で「数値が入ると各国(アメリカ)に受け入れられない」と、難色を示し続け、アメリカ寄りの発言ばかり繰り返していました。こうした日本の姿勢は、世界の環境NGOの激しい非難の的となり、アメリカ、カナダと共に何度も「化石賞」を受賞しました。
かくして、残念ながら、目安となるべき数値目標は、今回決定されるバリ・ロードマップからは抜け落ちたことになります。 それでも、京都議定書に入っていないアメリカを、次の枠組みに参加させるための条項は、弱められた形ながらも入り、また途上国の削減努力を促し、大量排出途上国に、何らかの義務を課すことをめざす条項もドラフトに入りました。
そして、ドラフトはいよいよ、本会議における採択を迎えます。多くの場合、本会議の場では、先にすべて合意されたドラフトが用意され、形式的に「採択」の手続きをとるのが通常です。ところが今回は、この本会議場で、途上国側からの不満の発言が吹き出し、火花が散ることになりました。途上国側が、ドラフト案の文面の修正を求め始めたのです。 口火を切ったのは、インドでした。インドは、「途上国の削減行動について」の条項の文面修正を強く要求。さらに、中国も「非公式会合はまだ終わっていない」として、本会議の中断を求めました。結局、議長の判断で、本会議場における議論は中断され、別会場で途上国側とインドネシアの外相と話し合いが行なわれることになりました。 約1時間後、本会議は再開されましたが、ここでまた中国が「まだ非公式会合が続いているのに、なぜ本会議が始まるのか。条約事務局のミスではないか」と発言。またも会議が中断されました。2週間の会期を経て、さらに延長されたこの最終日。未だ終わりのみえない議論に、会場中のいらだちが募っていました。
途上国の立場とアメリカの立場
午後になってやっと再開したCOP本会議でも、混乱は続きました。 まず、南太平洋などの島嶼国が発言。「途上国は、温暖化の悪影響にすでに大変苦しんでいる。なぜアメリカのような大国が、『国の事情によって』排出削減義務を選べるのに、途上国側の条項には『国の事情によって』という言葉が入らないのか。途上国こそ、大量排出途上国や、まったく経済力のない小さな島国、低開発途上国など、差が大きいのに、国の事情が省みられないのはおかしい」と訴えました。 この意見に多くの途上国が同調。議論は、途上国側の条項を書き換える形を要求する方向へ進みました。
ところがそこで、アメリカの代表団が発言。「アメリカは、途上国の努力に関する条項の書き換えを一切認めない」と強調し、会場中から大きなブーイングを浴びました。 このアメリカの発言に対し、まず抗議の意を示したのは南アフリカでした。同国の政府代表は「途上国は今回の会議で、排出削減に向けた行動を取るという強い意欲を見せた。それに対し、世界一の排出国であり豊かな国であるアメリカが、このような姿勢でどうするのか。もっと強い削減約束をして当然である」という趣旨の発言をし、会場中から喝采を浴びました。 その後も、ブラジルが「アメリカはもっと温暖化防止に取り組むべきだ」と同調。ツバルやウガンダなど、目下なすすべもなく温暖化の悪影響にさらされている国々も次々に発言し、最後には、パプアニューギニアの若き環境大臣が「世界一の温室効果ガスの排出大国であるアメリカは本来、温暖化対策をリードすべき立場にある。しかし、アメリカにその気が無いのなら、他の国々にその立場を譲るべきだ。アメリカは、邪魔するのをやめ、道をあけなさい」とアメリカを非難。これには会場中が総立ちになり、拍手喝采を送りました。
こうして公然の非難に打ちのめされたアメリカはついに追い込まれ、最後にアメリカ代表団が「アメリカは世界の合意を止めるつもりはない。世界の合意に従う」と発言。とうとう折れることになりました。会場が、大喝采に包まれたことは言うまでもありません。
これで、条約の下におかれていた「対話」は、対話を超えて、無事「正式な交渉の場」として、バリロードマップの一つとして新たな「特別作業部会」が立ち上がり、2009年までに決定することが決まりました。2013年以降の枠組み形成の工程表はできたわけです。
ちなみにこの時、日本の立場はどうだったのでしょうか。会議が終わった後、参加していたWWFジャパンのスタッフは、多くの海外のNGOの仲間に声をかけられました。「日本政府は今回はよかったですね!アメリカを支援する発言もせず、おとなしく黙っていたじゃないか!」。 つまり、誉められたわけですが、「発言しない」「アメリカを応援しない」ということでのみ誉められる国など、他にあるでしょうか。確かに、最後のアメリカの発言に対し、支持の意を示さなかった日本政府代表団判断は、「まとも」であったと言えそうです。ただ、このままで果たして、2008年の洞爺湖サミットにおいて、「リーダーシップ」を世界に発揮することができるのか、疑問符は残ったままです。
バリからの道
かくして、バリ・ロードマップは、途上国の条項だけを書き換えられることになり、残りはそのままに、採択にこぎつけました。「気候変動枠組み条約」の下で行なわれてきた「対話」の場は、バリ・ロードマップに基づき、これからは正式な交渉の場である「特別作業部会」としてスタートします。
2013年以降の「京都議定書」の次期約束期間に、先進国がどれだけ排出量を削減するのか、その数値目標を話し合う議定書の下でのAWGでの議論についても、ロードマップに織り込まれ、合意されました。
残念ながら、気候変動枠組み条約のもとでのバリ・ロードマップには、「先進国は、2020年までに、90年比で25%~40%削減する」というIPCCの文言は入りませんでしたが、AWGの文言には、この文言が議定書の本会議での承認を経て、無事残されることになりました。つまり、最大で40%を削減する、という、先進国が目標とすべき削減量の基礎が確立されたわけです。 そのほか、今後どのように何を話し合っていくかの作業プランについても合意されました。
また、京都議定書の9条で規定された議定書全体の見直しについても決められました。こちらも、条約のもとでの「対話」の話し合いの結果を待つ形で止まっていましたが、「対話」のもとの新たな「特別作業部会」の発足と、先進国の削減目標に関するAWGの決定を受け、主に京都議定書で定められた「適応」や「柔軟性メカニズム」などの実施の見直し、附属書を作成する手順の見直しなど、上記二つの議論の場がカバーできない分野について話し合うことを盛り込み、無事合意されました。
2週間と一日続いた温暖化防止バリ会議は、「バリ・ロードマップ」を採択して、終わりました。しかし、この工程表(ロードマップ)の中身の議論はこれからスタートします。期限と定められた2009年に、コペンハーゲンで行なわれる、第5回京都議定書会議、および第15回気候変動枠組み条約会議において、2013年以降の枠組みを決定するべく、本当の議論が始まります。
バリ・ロードマップ採択、しかしその中身は不十分 2007年12月15日 Closing Statement
【インドネシア、バリ島発】 国連気候変動バリ会議に参加した政策決定者たちは、2009年までの合意を前提とする、2013年以降の国際的取組に関する正式な交渉の開始に合意した。しかし、当初期待された具体的削減目標は盛り込まれず、内容は弱いものとなった。
各国政府代表は、先進国の排出量を2020年までに1990年比で25~40%削減することを盛り込んだ次期枠組み交渉を軌道に乗せることを目的として、この10年間で最も重要な気候変動に関する会合のためにバリ島に集まった。今年ノーベル平和賞を受賞したIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書にある知見が示すように、世界の平均気温を産業革命以前に比べて2℃未満に押さえるためには、世界全体の排出量の最高値を2020年以前とし、その後、減少させなければならないことは明らかである。
15日間の会合の最終局面に、国際社会からの強い圧力に屈して、米国政府は地球規模の協議への参加を決断した。しかし米国の参加と引き替えに、その取り決めの内容は実質的には弱いものとなった。
「米国政府は合意成立の邪魔をしないよう求められ、最後に圧力に屈した。バリ・ロードマップは、地球温暖化の影響を最小限にする世界規模の戦いに、次期米国大統領が現実的に貢献するよう、協議への席を残したのだ」と、WWF気候変動プログラム部長のハンス・ベロームは言う。
今後2年の間に先進各国は、大幅な排出削減と、技術移転・資金調達・適応のための新たな出資と支援に合意する必要がある。EUや、ブラジル、中国、南アフリカといった指導的立場にある途上国は、この2年間の交渉の作業計画を提案する必要がある。これらの協議によって、バリで欠けた部分を補うようにしなければならない。
将来の気候変動への取組体制の実質的な構成要素に関しては、そのいくつかによい進展があった。それは、資金的なインセンティブと同時に、緩和と適応のための技術を含む技術移転に、適切な注意が払われたことだ。適応基金は最終的に決定されたが、最貧国向けの追加的資金援助と技術支援が、新たに創出される必要がある。
森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減(Reducing Emissions from Deforestation and Degradation:REDD)として知られる、熱帯地域での森林伐採に対する取組の約束も、バリ・ロードマップにおける重要な構成要素である。各国政府はCO2排出の20%は森林消失に起因することを認識している。そして、この2年間でREDDがどのように実施されるかの規則を決めなければならない。
「REDDが強力で良好かつ潤沢な資金調達の下で行われる仕組みになれば、熱帯林を保有する国々は、森林を破壊することなく自国の経済を発展させることができるだろう。そうすることで、熱帯林保有国は地球温暖化の緩和に貢献することになるだろう。その仕組みには、REDDのプロジェクトによって、確実に、森林に依存する人々が恩恵を受け、生物多様性が保全されるための保障措置が含まれなくてはならない」と、WWF森林プログラム部長のロドニー・テイラーは語った。