2017年「大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)」年次総会 報告


2017年11月14日から22日まで、モロッコ・マラケシュにて、大西洋のクロマグロ資源の管理機関であるICCATの第25回年次会合が開催されます。今回の会議では、10月に科学委員会が「2015年の総漁獲枠から倍以上の増枠が可能」と報告したことを受け、大幅な総漁獲枠の引き上げが議論される見込みです。一時は資源枯渇の危機にあったも大西洋クロマグロ。2012年頃から安定的に回復傾向にあるとされていますが、その資源管理の今後に向けて、どのような合意が成されるのか注目されます。

大西洋クロマグロの大幅な漁獲枠引き上げに警告

地中海を含む大西洋地域のマグロ類の資源管理を行なう国際機関「大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)」。

2017年11月14日には、その年次会合がモロッコのマラケシュで開催されます。

今回の会議では、ICCAT科学委員会が10月に報告した「2015 年の総漁獲枠から2倍以上の増枠が可能」との見解を踏まえた議論を経て、最終的な総漁獲枠が決定されます。

日本が最大の輸入国であり、かつ漁業国である大西洋クロマグロは、過剰な漁獲により一時は資源枯渇の危機にありましたが、10年来の厳しい漁業管理措置と総漁獲枠の削減により、2012年の委員会では資源の回復傾向が確認されました。

以来、日本を含むICCAT加盟国は、その回復水準に応じて総漁獲枠を徐々に拡大してきました。

そして今回、2017年のICCAT年次会合では、2015年の総漁獲枠から倍以上の増枠となる36,000トンへの引き上げや、2007年に採択された2022年までの資源回復計画の終了時期の前倒し等が提案されています。

地中海で蓄養された大西洋クロマグロ

スペインで蓄養された大西洋クロマグロ

ICCAT科学委員会による、東部大西洋および地中海のクロマグロ総漁獲枠の推移

性急すぎる総漁獲枠の引き上げ

しかし、これに対してWWFは、大西洋クロマグロの資源回復は未だ不完全であるとし、懸念を表明。

大幅な総漁獲枠の引き上げは、安定的に回復してきている資源量を、再び減少させる恐れがあると指摘し、2017年11月13日にはICCATに対し、慎重になるよう求めるポジションペーパーを公表しました。

その内容で指摘している主な要請の内容は次の通りです。

  • 2018年の大西洋クロマグロの総漁獲枠の引き上げを28,000トンに留めること
  • 2007年に採択した資源回復計画は予定通り2022年まで遵守すること
  • 地中海で今も横行する、違法・無報告・無規制の漁業(IUU漁業)に対する措置を強化すること
  • 小規模漁業者への漁獲枠割り当てを拡大すること 他

短期的な利益を求めるのではなく、大西洋クロマグロの確実な資源回復と、長期的に利用し続けるための持続可能な漁業管理が強く求められています。

クロマグロのさしみ。クロマグロは「本まぐろ」とも呼ばれ、日本では最も人気の高い魚種の一つ


ICCAT会合閉幕 大西洋クロマグロの漁獲枠増枠に懸念(2017年11月22日)

モロッコのマラケシュで開かれていた第25回「大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)」年次会合が2017年11月21日に終了しました。大西洋クロマグロの資源回復がいまだ不完全であるなか、漁獲枠を大幅に引き上げることが合意されました。大西洋クロマグロの資源状況は、近年、回復の兆候がみとめられていたとはいえ、まだ完全には回復していないなか、早計な増枠は資源枯渇の危機を再び招くおそれがあります。

漁獲枠を2020年までに36,000トンまで引き上げ

2017年のICCAT年次会合では、大西洋クロマグロの漁獲枠を2020年までに36,000トンまで引き上げることが、加盟各国により合意されました。
これは、クロマグロに対してこれまで設定された総漁獲可能量(TAC)の最大値となります。これに対して、科学者は、大西洋クロマグロの資源量はまだ完全に回復していないこと、また、漁獲の大幅な増枠については、十分な予防的アプローチをとるように警告を発しています。

この合意に対して、WWFジャパン海洋水産グループ長の山内愛子は、次のように述べています。
「資源の完全な回復が確認されていない状況で、大幅な漁獲の増枠が合意されたことを大変懸念しています」

WWF漁業プロジェクトマネージャーのAlessandro Buzziも、この合意について、強い懸念を表明しています。
「長期的視点にたった資源管理を求めてきたWWFは、ICCATが短期的な経済的利益を選択したことに強い憤りを覚えています。私たちは、大西洋クロマグロの資源回復のため、過去10年にわたって活動してきました。その資源回復に向けて非常に近いところまで到達していただけに、今回の、ICCATの決定は、これまで積み上げてきた進展を台無しにするものです」

合意されなかった、資源管理措置の包括的な見直し

一方で、増枠にともない、資源管理措置の包括的な見直しもされるはずでしたが、こちらは合意に至りませんでした。

WWFジャパン海洋水産グループ長の山内愛子は、次のように述べています。
「加盟国が一旦凍結や削減した漁獲能力を、増枠に伴い短絡的に増やすことは、長期的かつ持続可能な資源管理のリスクになります。また、蓄養生け簀のキャパシティ管理も、求められている予防的アプローチを十分考慮しているとは言えません」

WWFはまた、熱帯マグロ類の乱獲を止めるために何の決定もなされなかったことを、強く懸念しています。これは、メバチやキハダといったマグロ類に対する現在の計画を弱体化させるものです。

WWFは、集魚装置に関連する小型魚の死亡率や混獲を減らすための、世界的なベストプラクティスの採用を求めました。また、違法・無報告・無規制で行われる「IUU漁業」を撲滅するために、はえ縄漁船に対する監視員を増加すること、またすべての洋上積み替えに対するコントロールを強化することを、要請しました。


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