ゾウを守る中部アフリカ各国と密猟団の最新動向


2012年初頭に、中部アフリカ・カメルーン北部でアフリカゾウを大規模に密猟したと考えられるスーダンの武装密猟団が、再び動きはじめました。2013年の年明けとともに、小部隊に分かれてチャド南部から中央アフリカ共和国西部に展開、カメルーンの国境近くを移動しながら、ゾウを殺しています。この事態に、関係各国は保護官や軍を派遣して取り締まりを急ぐとともに、2月終わりに中部アフリカ諸国経済共同体として緊急首脳会議を開き、国境を越えた密猟に対抗する地域協力体制を整える予定です。

小部隊でゾウの分布を調べる密猟団

2013年1月末に、WWF中部アフリカ地域事務所(WWF Central African Regional Programme Office:CARPO)から、スーダンの武装密猟団を含む、密猟団探索の続報が届きました。

WWF CARPOは関係団体と共同し、中部アフリカ各国の保護区や森林地域で密猟をモニターする地域団体の情報をまとめ、国際社会の注意喚起を促しています。

この情報によれば、1月初旬に中央アフリカ共和国南西部でまとまった密猟団が目撃された後、チャドの南端から、コンゴ共和国の北端に近い、中央アフリカ共和国南端の保護区までを含む広範な地域で、武装密猟団が確認されました。

密猟団は10人程度の小部隊に分かれ、各地のゾウの分布状況と、警備の手薄な地域の調査をはじめたようです。

密猟団を防ぐために出動したカメルーン軍の部隊

中部アフリカに生息するマルミミゾウの子ども。右はスイギュウ。


より大きな地図で 2013年1月密猟団の出没地点 を表示

中央アフリカ共和国での動き

スーダンの密猟団の動き

1. 2013年1月8日 中央アフリカ共和国南西部、ンゴット森林保護区西のバンビオへ向かうスーダン密猟団が目撃された。

2. 1月10日 馬とラクダに乗った別のグループが、北西部のボズームで目撃され、2手に分かれて、南のベルベラティと西のカメルーン国境方面へ向かった。

3. 1月15日 完全武装したスーダンの密猟団が、ンゴット森林保護区東のロバイエ川を渡渉するのが目撃された。

4. 1月24日 その後しばらく、この密猟団の動きが追えなかったが、ベルベラティ北のガジで20人以上の完全武装集団が特定され、西のムバエレに向かったのが確認された。ここは2011年に、森林省のレンジャーと中央アフリカ共和国軍が、同じスーダン密猟団と対峙した地点。

5. 1月29日 ガジで4頭、その南のシプラックで2頭、ゾウが殺される。この密猟が、1月10日に南へ向かった一団の仕業か、2つの小部隊の仕業かは不明。

  • ※ザンガ‐サンガ国立公園の管理局は、30日夕~31日朝、報告の確認と密猟団の位置特定のために、北のマンベレ‐カジ地方へ出向く。

そのほかの密猟

6. 2013年1月17日 ンゴット森林保護区入口の滑走路わきで、野営する8人の武装団が目撃された。

7. 1月19日 この武装団はボダのイスラム教徒で、バッファローやゾウの肉を売り、またボダのスーダン人ビジネスマンに象牙を売って、一儲けをもくろんでいる。カラシニコフ4丁その他の武器を携帯し、衛星電話でボダから取り締まり情報を得ている模様。

  • ※南部のザンガ・サンガ国立公園の専門家と保護官長が、ンゴットのすぐ北のボダ市で情報収集。森林省は保護官37人を派遣し、取り締まりに当たらせる予定。

8. 1月24日 この武装団がゾウを1頭殺し、肉をンゴット保護区周辺の村に分配。

9. 1月29日 ンゴット保護区内で少なくとも2頭のゾウが殺され、10㎞離れた村でゾウ肉が出回っている(犯人はスーダン密猟団か、つながりのある集団かは未確認)。

チャドでの動き

10. 2013年1月27日 チャド南部のロゴーヌ・オリエンタル地方中部で、現地のパトロール隊が40人規模の武装したスーダン人と思われる密猟団に遭遇。

11. 1月30日 密猟団は4頭のゾウを殺害。軍が追っている。

対抗措置を取る中部アフリカの国々

こうした密猟団の動きは、2012年2月に、カメルーン北部のブバ・ンジダ国立公園で450頭に及ぶ密猟に及んだ武装集団が、スーダンから中央アフリカ共和国とチャドを通り、馬で1,000 km以上移動してきたときと同じと考えられます。

特に、ザンガ・サンガ保護区は、WWFジャパンがWWFカメルーンを通じ、2012年から支援を開始したロベケ国立公園にも近く、今後これらの国立公園が密猟者の標的になる可能性も懸念されます(地図参照)。

しかし、こうした密猟団の動きに対しカメルーン政府は、自国の軍隊を派遣し、取り締まりに当たることを発表しており、ロベケでも、2012年9月に軍隊で訓練を受けたレンジャーが新たに19人配置され、従来の倍近い陣容で、取り締まりにあたっています。

2012年にガボンで焼却された違法象牙。密猟と密輸に対する中部アフリカ諸国の意志が示された。

WWFカメルーンも、密猟対策を最優先に政府に協力し、レンジャー部隊への技術的、あるいは野営装備などの物資面での支援を行なっています。

またチャド政府も、環境大臣が警備強化を約束し、地元の保護団体が連携して情報提供。例年に比べ犯罪集団が、野放しで密猟できる状況ではありません。

一方、懸念があるのは中央アフリカ共和国です。
就任したばかりの首相は、まだ組閣と自国政府を機能させることに忙しく、密猟対策まで手が回らないことが心配されます。このままでは、2年前のように森林省の保護官や国防軍を派遣する、取締りの許認可を出すまでに時間がかかりそうです。

各国が協力し、国境を越えて合同で取り締まりを行なうことは、重要な対策ですが、どこまで他国のレンジャーや軍隊が、別の国の領内で活動できるのか、そうした対応についても、急ぎ検討が必要とされています。

中部アフリカ諸国による合同密猟対策戦略の検討

2013年の動きを見てもわかるように、密猟団は変幻自在に小部隊に分かれ、また国境をまたいで移動しており、位置を正確に把握して逮捕するのが難しい状況です。

密猟者たちは、例えばボダといった中規模の町で、象牙ビジネスに興味をもつスーダン人を初めとする外国人に雇われ、高性能の武器だけでなく衛星電話やGPSなどの機器をフル活用しながら、絶えず場所を変え、効率よく象牙を手に入れようとしている節がうかがえます。

そして、ゾウやスイギュウなどを殺した後、周辺の村々にまんべんなく肉を配り、口止めを図って発見を遅らせるといった周到さも見せています。

このような状況に危機感を強める中部アフリカ各国は、2013年2月末に、カメルーンのガルアに集まり、地域の密猟対策戦略を決めるための緊急首脳会議を開催する準備を始めました。

会議は平和に関する首脳会議の直後に開催され、2日間の専門家会議に続き、最終日に意思決定のための首脳会議において、戦略を採択する予定です。

また、国際的な支援の動きも活発になっています。 EUは、2012年のブバ・ンジダ国立公園におけるゾウの大規模密猟を受け、第5期「中部アフリカ劣化生態系の回復プログラム」で、この国立公園の保全の支援を表明するとともに、緊急首脳会議に対する資金的な支援も表明しました。

さらに2012年、ワシントン条約事務局、世界銀行、 国際刑事警察機構(インターポール)などが構成する「野生生物犯罪と闘う国際コンソーシアム」(ICCWC)は、「野生生物・森林犯罪分析ツールキット」を開発。

各国の野生生物や森林に関する法令、法執行措置、検察・裁判能力、犯罪助長要因、国レベルでの予防措置の効果などの情報をとりまとめ、現場のデータや、違法行為の証拠の収集・分析、また犯行現場の保全、容疑者の特定などに活用できる素材を提供しました。

違法象牙の行き先のひとつは「ワシントン条約」会議開催国

そして、一連の国際的な密猟・密輸の防止において、最大の役割を果たすのが、「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の取引に関する条約:CITES)」です。

この条約と、締約国による会議は、これまで象牙の取引に関する国際社会の合意と協力を受け持つ場として、ゾウの保護に大きな役割を果たしてきました。

しかし今のアフリカゾウをめぐる危機的な状況が今後も続けば、各国によってこれまで培われてきた、野生動物と自然環境を保全する長年の国際協力は、無に帰してしまうかもしれません。

2013年3月には、ワシントン条約の第16回締約国会議が、タイのバンコクで開催されますが、このタイも、そのカギを握る国の一つです。

そもそも、アフリカゾウの密猟問題が急速に拡大している背景には、急成長を遂げるアジア諸国での象牙需要の急増がありますが、タイは、国内市場に「違法な象牙」が紛れ込んでいる、世界最大のブラック・マーケットの一つである可能性が指摘されている国だからです。

WWFでは、ワシントン条約の規定に則り、厳密な象牙管理を可能にするため、国内の象牙取引を禁止するよう、タイ政府に求める署名活動を開始しました。

これに対し、タイ政府は「死んだあとのゾウの部位(象牙を含む)をどうするかは、持ち主の個人的権利である」から、「取引を禁止することはそぐわず」、政府として「国内取引禁止」にする予定はない、と回答。バンコク・ポスト紙では、政府高官の談話として、「今回の締約国会議では、違法象牙、違法犀角(さいかく)取引とトラ保護に関する話題が最重要事項となる。タイのイメージを下げないために、強力な対策を取る必要がある」と伝えましたが、今のところ、その対策は十分というにはほど遠い状態です。

こうした象牙消費国の状況が一刻も早く改善され、武装した密猟集団の手からアフリカの野生動物と地域住民が守られるように、WWFジャパンも、タイ首相に対する署名運動に協力していくほか、カメルーンの現場への協力やTRAFFICの活動を通じた取引の監視活動を、引き続き行なっていく予定です。

関連情報

タイへの要望の署名とご支援のお願いについて(終了しました)

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