続く中部アフリカでの密猟 内戦の影響も懸念
2013/03/29
中部アフリカでの密猟が、野生のゾウを絶滅の危機に追い込んでいる―― 2013年2月、ゾウの保護と調査に取り組むWWFとWCSは、ガボン北東部におけるゾウの密猟についての新しい報告をまとめ、2004年以降、1万頭以上のゾウが密猟の犠牲になったことを指摘しました。同じく中央アフリカ共和国でも、ゾウの激減が続いていますが、現在、軍事クーデータにより大統領が国外に亡命するなど、政局は混迷を極めており、2月から強化していた密猟対策への影響も懸念されています。
1万頭を超えるゾウがガボンで密猟の犠牲に
中部アフリカの国、ガボン。その北東部に位置するミンケベ国立公園とその周辺域で、2004年以降、現在までに密猟されたゾウの数、およそ11,100頭。
これは、2013年2月に、ガボン国立公園局、WWF、WCS(アメリカ野生生物保護協会)がまとめた研究結果の発表による数字です。
ミンケベ国立公園と、その周辺は、2004年当時、アフリカで最大のマルミミゾウの個体群の生息地でした。ここで殺された1万頭を超えるゾウの数は、個体群の44~77%に相当するとみられています。
ガボンの森林は中部アフリカ地域全体の森林のうち、約13%を占めるのみです。
しかし、WCSの保全科学者フィオーナ・メイゼルは、「少なくとも、今回の調査の結果が明らかになるまでは」ミンケベ国立公園が、すべてのマルミミゾウの半数以上が生息する、おそらくアフリカ全体で最大のマルミミゾウ個体群の生息地であった、と指摘しています。
その重要な生息域が近年、組織的な密猟団に狙われ、ゾウは減少の一途をたどってきました。
WWFの違法取引撲滅キャンペーン中部アフリカ担当のバス・ヒューブレッツは、「ここ中部アフリカでは、世界に気づかれないまま、目にも止まらぬ速さで」状況が深刻化していると指摘します。
拡散・拡大する密猟の危機
メイゼルは、今回明らかになったガボンでの現状は、他の地域の危機的な状況を示すものでもある、と言います。
「ガボンのミンケベ森林のデータは、中部アフリカ地域に残された、すべてのマルミミゾウ生息地における傾向を表しています。コンゴ民主共和国などは、現在7,000から10,000頭のゾウが生息していると信じられていますが、これは20年前の個体数の10パーセント未満に過ぎません」
内戦が再び激化しはじめた中央アフリカ共和国においても、状況は深刻です。
1980年代半ばには、中央アフリカ共和国には80,000頭近くのゾウが生息していましたが、現在生き残っているのは、せいぜい数千頭にすぎません。そして、そのゾウも、政情不安の中で暗躍する密猟者により、今や消え去ろうとしています。
中央アフリカ共和国南西部のバヤンガに駐在する、森林省ザンガ‐サンガ保護区担当のグエン・ゾコエは、2013年2月、国の南部にあるンゴットの森周辺で少なくとも17頭のゾウが密猟者に殺されたと話しています。さらに北部のヤロケ町の近くでは、60頭近くのゾウが殺されたとの未確認情報が村人から得られており、殺害報告が国中の至るところであったと述べています。
ゾコエは、次のように述べます。
「中央アフリカ共和国の政府は、2012年に世界遺産になったばかりの、ゾウに残された最後の楽園であるザンガ・サンガ国立公園を、密猟者から守るために軍を派遣すべきです。
これは、ただ単に中央アフリカ共和国の自然資源を守るために必要なだけではなく、武装した密猟団が国中をのし歩き、行く先々で地元住民を脅威にさらすのを止めさせるためでもあります」。
しかし同国では、2013年3月24日、反政府勢力が首都バンギを武力制圧し、大統領が隣国のコンゴ民主共和国に亡命する事態が出来。国がゾウや国立公園の保全に、十分な体制で取り組むのは、きわめて難しい状況に追い込まれています。
そして、こうした混乱は、密猟者を野放しにする危険な要因になりかねません。
もしこの状況が放置されれば、中央アフリカのゾウは、密猟により絶滅に追い込まれたアフリカ西部のクロサイ亜種個体群や、キタシロサイと同じ運命をたどることになるでしょう。
国際支援と取引規制による保護の強化を
WWFは約100カ国で活動している環境保全団体です。
「中部アフリカ地域の各国政府、そして象牙を国内で売買している需要国の政府が、この密猟の問題を世界的な緊急事態として認識し、対策に取り組まない限り、遠くない未来に、この地域のゾウの個体群は姿を消すかもしれません」ヒューブレッツはそう話しています。
「密猟象牙をめぐる戦いが、すでに中部アフリカ地域からアフリカ大陸の他の地域へ移った」という、報道がいくつかありましたが、これも間違いであるといいます。これは、密猟者たちが、中部アフリカ地域だけでなく、アフリカの東部や南部の保護されたアフリカゾウ個体群にも、銃口を向け始めたということにほかなりません。
そして、ガボンをはじめとする中部アフリカ諸国での密猟は、今も確実に続いています。
「この地域のカメルーンやチャド、ガボンなどの政府は、レンジャーを増員し、密猟者と戦うために軍を派遣しています。しかし、これだけでは不十分です」と、ヒューブレッツは訴えます。
現在の密猟団は、国境を越えて侵入し、国の安全と地域の経済を脅かす、いわば国際的な犯罪ネットワークです。これを特定し、追跡し、阻止するためには、世界の国々が協力し、対抗する必要があります。
そのためには、アジアの国々が高値で売買している、象牙の需要の問題にも取り組まねばなりません。アジアゾウが国内に生息しており、象牙の売買が合法的に認められている国は、今も多数ありますが、こうした国々で国内取り締まりが不十分な国には、密猟された違法な象牙が多く持ち込まれ、「ブラック・マーケット」が生まれています。
2013年3月に、第16回ワシントン条約会議(CITES/COP16)が開催されたタイは、こうしたブラック・マーケットの存在が指摘されていた国の一つですが、会議の開催に際して、象牙の国内取引を全面禁止する意思を明らかにし、世界の国々から高い評価を受けました。
アフリカのゾウを絶滅から救うためには、今後、他の国や地域についても、象牙をめぐる取引の規制や監視を、より早急に、強化してゆくことが求められます。