2013年 第2回国連気候変動ボン会議(ADP2.2/SB38)はじまる
2013/06/06
2013年2回目の国連気候変動会議が、ドイツ・ボンにおいて6月3日~6月14日の日程で開催されています。今回は、前回の4月下旬~5月上旬の会合に引き続き、ダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)において、2020年以降の新しい国際枠組みが議題になるとともに、その新枠組みができるまでに、いかにして世界全体の排出削減の取組みの底上げを図るかが議題になります。これらに加えて、今回の会合は、補助機関(SB)の会合も同時開催されるので、その他の個別分野の議論(削減努力の透明性確保、資金、適応、技術、REDD+、市場メカニズム)も行われます。今回の会合が、2013年11月のポーランド・ワルシャワでのCOP19・COP/MOP9前の最後の会合となる可能性が高いため、今回でどれだけ議論を前に進めることができるかが重要となります。
2大テーマと個別論点:ADPとSB
今回開催されるのは、「ダーバン・プラットフォームに関する特別作業部会(Ad Hoc Working Group on the Durban Platform for Enhanced Action;ADP)」と「補助機関(Subsidiary Bodies; SBs)会合」の2つです。
このADPと呼ばれる作業部会は、2011年のCOP17の決定によって設立され、2012年から交渉の場として機能しています。そして、同年のCOP18・COP/MOP8(カタール・ドーハ)において、既存の2つの作業部会である条約AWG(AWG LCA)と議定書AWG(AWG KP)がその作業を終了したことで、このADPが、今後の交渉の主な舞台となりました。
ADPの2つの「ワークストリーム」
この作業部会に課せられた作業は大きく分けて2つあり、それら2つは、「ワークストリーム(作業の流れ、過程)」と呼ばれています。
ワークストリーム1は、新しい国際枠組みに向けた交渉です。COP17の決定では、この交渉は、2015年までに合意を得ることが目指されています。そして、その時点で合意された新枠組みは、各国での批准等の手続きを経て、2020年から効力を持つものとされています。現状においては、全ての国々が参加する包括的な枠組みを、新しい「議定書」のような国際協定として合意することが目指されていますが、どのような形の枠組みに具体的になるかは、今後の交渉次第です。
ワークストリーム2は、2020年「まで」の野心のレベルの引き上げです。ここでいう「野心(ambition)」とは、一般的には世界各国の排出量削減努力の度合いのことを指します。
現状では、各国(先進国・途上国両方含む)が自主的に掲げている削減目標を達成したとしても、「気温上昇を2℃未満に抑える」という大目標を達成するために必要な削減量と比較すると、2020年時点で80~130億トンの差があると言われています。これはアメリカの1年間の排出量よりも多い甚大な差です。
また、本来、「2℃未満」目標達成のためには、世界全体の排出量の傾向が、2020年よりも前に(WWFは2015年までを主張しています)増加方向から減少方向に転じなければならないと言われています。
この意味からも、「2020年までの野心の引き上げ」は重要で、各国の目標や取組みの直接的な底上げの他に、国際船舶や航空からの排出量削減や、温室効果ガス以外で気候変動の原因となる物質の削減等、様々な案が議論されています。
ワークストリーム1 | 2015年合意 | 2020年からの新しい国際枠組みに関する合意を 2015年までに作ること |
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ワークストリーム2 | 2020年までの 野心の引き上げ |
世界各国の2020年までの排出量削減の 取組みを底上げする |
個別論点を議論するSB
補助機関(SB)会合は、これまでもCOP(国連気候変動枠組条約の締約国会議)やCOP/MOP(京都議定書の締約国会議)で決められたことの詳細を交渉したり、具体的に実施するために必要な事項を詰める作業に使われてきました。
2012年のドーハ会議(COP18・COP/MOP8)の決定において、いくつかの重要な論点がこの場で議論されることになりました。SBで議論される論点には、たとえば以下のものが含まれます。
- 先進国・途上国の2020年までの削減取組みに関する測定・レビュー・検証(MRV)の仕組みの詳細
- 気候変動の影響による損失と被害(loss and damage)に対処するための手法
- REDD(途上国における森林減少及からの排出量削減)の方法論に関する指針
- クリーン開発メカニズム(CDM)および共同実施(JI)の現行制度の見直し
- 新しい市場メカニズムおよび各国が独自に作っているメカニズム制度の管理/調整を行なう「フレームワーク」のあり方
- 2013~2015年に行うことになっている1.5℃/2℃目標に関するレビューの詳細
何が争点か
今回の会合でも、前回に引き続き、ADPのワークストリーム1については、2015年合意の中で、「衡平性(こうへいせい)」がどのように扱われるべきか、(排出量削減だけでなく)「途上国への資金・技術支援」「適応」などの問題がどのように扱われるべきか、などが議論されると予想されます。
また、各国の削減目標等の「約束」のあり方は多様であるべきだが、具体的にはどのようにするべきかといった論点についても議論がされるでしょう。前回、アメリカは、各国がまず削減目標を出して、それをしばらく(6ヶ月程度)議論する過程が必要だという提案を出しました。こうした提案に関しても、引き続き議論がされると考えられます。
ADPのワークストリーム2については、2020年までの削減の水準を底上げしていく手段にはいくつか案が出てきていますが、それらをどこまで具体化できるかが焦点です。
前回出された、削減目標の実質的な底上げを、再生可能エネルギーや省エネルギー分野における経験を共有することで行なえないかというAOSIS(小島嶼国連合)の提案は、多くの国に好意的にとらえられています。
また、各国の削減目標や削減行動計画の引き上げ以外にも、国際的協力の下で行える事項として、代替フロンであるHFCの段階的廃止、国際航空船舶分野での削減、化石燃料補助金の段階的廃止、短期寿命気候強制物質(ブラック・カーボン、メタン、オゾン等)の削減等が挙げられており、これらを具体化できるかどうかも重要です。
日本は?
日本は、現在、国内の排出量削減目標の見直し作業が宙に浮いた状態となってしまっており、「2015年合意」や「2020年までの野心の引き上げ」の双方について、あまり突っ込んだ議論ができない状態にあります。
やはり「自国がどこまでやる用意があるのか」を持って議論に参加できないことには、大きな制約がつきまといます。日本国内では「海外での削減に貢献すればよい」との声も強くありますが、この議論は国際交渉では安易な責任転嫁・放棄ととらえられることもあるので、注意しなければなりません。
2015年に向けて徐々に難しくなっていくことが予想されるこの交渉過程において、日本がどの程度「重要な国」であることができるのか、引き続き問われている状態です。