国連気候変動ボン会議(APA1-5・SB48)・第1週目報告
2018/05/09
2018年12月にポーランド・カトヴィツェで開催予定の国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)に向けての準備会合がドイツ・ボンで会議が開催されています。COP24で合意する予定のパリ協定のルール作りについては、堅実に進展しつつも、そのペースはゆっくりとしたものです。もう1つの注目点である「タラノア対話」については、これまでの国連気候変動「交渉」ではなかった新しい「ストーリー」を語るというスタイルが意外に好評を得ていますが、問題は次のステップです。
2つの主要テーマでの進捗状況
今回の会議の主要テーマは2つあり、1つは「パリ協定の『ルールブック(実施指針)』作り。もう1つは「タラノア対話」というイベントです。
パリ協定の「ルールブック」作りのゆっくりとした進展
パリ協定の「ルールブック」作りに向けての交渉は、議題ごとに作られた「インフォーマル」と呼ばれる分科会に分かれて行われています。いずれの分科会でも交渉上の対立はあり、進展はしているものの、そのスピードは「COP24での採択」という締切を考えるとやや心配になるペースです。
対立が顕著な争点の典型例の1つは、NDC(Nationally Determined Contributions)と呼ばれるパリ協定の下での国別目標についての指針です。現状、多くの国は2030年に向けての排出量削減目標を持っていますが、2020年までにはそれを見直して再提出し、2025年までには次の、新しい(2031年以降の)目標を提出することがパリ協定で決まっています。この次の目標を出す際に、どういう情報を入れ込むべきか、という論点が大きな議論を呼んでいます。
日本も含めた先進国は、基本的に、「途上国にもっと目標についての情報を出させる」という点を重視して、主張を展開しています。これに対し、中国、インド、サウジアラビアなどからなる途上国の強硬派のグループが反対し、逆に、パリ協定の下での国別目標(NDC)には、パリ協定での定義上、「(先進国からの)資金支援」等に関する目標も含まれるべきだ、と主張をします。そこに、アフリカ諸国のグループが、あまり途上国からの情報を求め過ぎるなと同調したり、逆に、島嶼国グループや一部の中南米諸国(ペルー、コロンビアなど)からなるグループが、やはりこの議題は緩和(排出量削減)に関する情報をきちんと整理するべきだ、と主張をしたりして、交渉を複雑な様相を呈しています。
こうした対立を見せながらも、なんとか、各国は各分野での「ルールブック」の下書きになっていく文章を少しずつですが、作り始めています。各国が意見を言い合い、それを、分科会ごとに割り当てられたファシリテーターがまとめて文書に落とし込んでいく、という作業が何回か行われました。
ただ、現状の文書を見てみると、まだまだ詰め切れていないことが山積みです。COP24に向けて、堅実に進展はしているものの、明らかにペースが遅いので、残された時間内での合意のためには、交渉をかなり加速しなければなりません。
国際交渉の新しいやり方を導入しようとしたタラノア対話
「タラノア対話」は、世界全体での温暖化対策の進捗状況の確認を行い、COP24においてそれについてどう対応するのかについて、何らかの結論を出すことが期待されているプロセスです。
公式には、このタラノア対話というプロセスは、1月に国連気候変動枠組条約事務局がウェブサイトを開設して、各国や非国家主体(企業・自治体・市民社会など)からの意見提出を求めた時点で始まっていますが、今回の会議では、初めて国連が正式に開催するイベントがありました。
それが、5月6日日曜日に開催されたグループ・ディスカッションです。このグループ・ディスカッションは、国連気候変動会議の歴史の中では極めて異例な形式で行われました。7つのグループが作られ、それぞれに、政府及び非国家主体からの参加者も含む35人が割り当てられ、一日かけてタラノア対話の3つの課題について「ストーリー」を語った上で議論をするという形式で行われました。
普段は交渉上の議題で議論を戦わせている交渉官たちが、自国での気候変動影響を語ったり、自国での温暖化対策の歴史を語る中で、今後どのような対策をするべきかを語りました(各国代表や非国家主体代表が何を語ったかは、事務局によって整理されて公表されます)。これが、「タラノア」と呼ばれる、フィジーを始めとする南太平洋諸国で一般的に行われている問題解決のための対話のやり方ということで、交渉官たちも戸惑いながらも楽しんでいたようです。
ただ、初の試みということもあり、何を語ればいいのかについての混乱もあったようです。より重要なのは、こうした対話を通じて醸成されつつある、「やはり気候変動問題には、国際社会協力を通じて皆で取組まなければならない」という精神を、いかに行動に移していくかという点であることがやはり浮き彫りになってきました。
COP24では、閣僚を招いての議論が予定されており、そこまでに、タラノア対話のプロセスを通じて、いかに「温暖化対策を強化する素地は十分ある」ことを共通理解としていくかが大きな課題です。その共通理解が十分に醸成されれば、COP24において、各国はやはり目標を強化するべきだし、できるという結論を出すことができるはずです。