2013年の四国でのツキノワグマGPS追跡調査
2013/12/30
四国で現在取り組んでいる、ツキノワグマの調査・保護プロジェクトの2013年が終わりました。この1年間で、前年の2012年秋に捕獲した3頭のツキノワグマにGPS(全地球測位システム)首輪を装着して山へ返し、その行動を追跡・調査する ことができました。2013年は、調査のための捕獲が残念ながら成功しませんでしたが、データは着実に蓄積されており、今後の保護管理計画に役立つ「クマの生息適地マップ」づくりに向けた歩みが進んでいます。
追跡調査と「クマの生息適地マップ」
四国地方のツキノワグマは、国内で最も絶滅が危惧されるツキノワグマの地域個体群です。
徳島と高知にまたがる剣山(つるぎさん)山系に、十数頭から数十頭のみ生息していると推定され、環境省のレッドリストに「絶滅のおそれのある地域個体群」として掲載されています。
WWFジャパンと認定NPO法人四国自然史科学研究センターは、2005年から共同でその調査を実施、2012年7月からは、新たなステージでのプロジェクトを開始しました。
その一つが、GPS(人工衛星を使った全地球測位システム)を用いたツキノワグマの追跡調査です。この調査は、四国では初めての試みであり、今まで 行なってきたラジオテレメトリー調査以上に詳細なデータの収集と蓄積が可能になります。
最終的には、そのデータを既存の地理情報とあわせて解析 を行なうことで、剣山山系一帯の「クマの生息適地マップ」を作成することが、プロジェクトの一つの目標です。
このマップは、今後のクマの保護を考える上で、とても重要な資料となるものです。
データが多ければ多いほど解析の精度が上がり、より正確なマップを作成することができるため、プロジェクトでは2012年に続き、2013年も調査のためのクマの捕獲を試みました。
しかし、四国のツキノワグマの推定生息数はわずか数十頭。何頭のクマにGPS首輪を装着し、データを集めることができるか、乗り越えねばならない課題は小さくありません。
GPS(全地球測位システム)を使った追跡調査
しかし、プロジェクトを開始した2012年には、プロジェクト・チームは3頭のメスグマの捕獲に成功。GPS首輪を装着し、再び山に放すことができました。
年間3頭の捕獲数は、2005年にツキノワグマの追跡調査を始めてから、最多 となる数字です。
それ以降、GPS首輪を付けた3頭のクマは、貴重なデータを提供してくれ続けました。2013年春季には、この追跡調査によって、冬眠穴で母グマの出産と、生後数ヶ月の仔グマを確認。貴重な映像の撮影にも成功しました。
しかし、順調な滑り出しの一方で、懸念点もありました。一つは、オスグマの捕獲が成功していなかったことです。
過去の四国自然史科学研究センターの調査結果も示す通り、一般的にオスはメスよりも広い行動範囲を持ちます。
四国のツキノワグマの、より正確な「生息適地マップ」を作成するためには、何としてもオスのデータを入手する必要がありました。
2013年は、すでにGPS首輪を装着した3頭のメスグマの行動データを収集するとともに、オスグマを新たに捕獲し、その行動範囲を調べることをめざす1年となりました。
2013年のチャレンジ
2013年は予算の関係で、2012年より規模を縮小せざるを得ませんでしたが、それでも8月17日から12月10日まで、最大で2地点、4基の学術用のクマ捕獲檻を稼動させ、調査が行なわれました。延べ日数では、115日 にわたり、捕獲を試みた計算になります。
この捕獲檻はドラム缶を2つ繋ぎ合わせたもので、高知の地元の鉄工所に特注して作ってもらっており、内側が丸くツルツル滑るため、檻の中でクマが暴れても、自らのツメやキバを傷つけることがありません。
檻の奥にハチミツとワインを混ぜたエサを置き、そのエサを取ると、エサを吊るしてあるワイヤー に力が加わって、仕掛けが作動し檻の扉がおりる(閉まる)というシンプルな仕組みです。この仕掛けが作動したかどうかを、現地スタッフが2~3日おきに確認を行ないました。
今までクマが捕獲された時期は、7月下旬~8月上旬、そして8月下旬~9月上旬の、大きく2回。2012年は2回目のピーク時期にあたる、8月31日 、9月5日、そして9月14日 に3頭のクマが捕まっています。
しかし2013年は、この捕獲がうまく行きませんでした。1回目のピークは何事もなく過ぎ、2回目のピークにも、クマを捕獲することができなかったのです。
8月末に、罠の仕掛け扉が閉まった反応がありましたが、現場にスタッフが確認に向かったところ、扉は閉まっているものの、中は空っぽでした。
何かの拍子に、誤作動した可能性があるため、檻の前に設置してあった自動撮影カメラで確認すると、そこには、一度檻に入ったところで蓋が閉まって挟まれたにもかかわらず、逃げおおせたオスグマの姿が映っていました。
自動撮影カメラは動画ではなく、静止画での撮影だったため、どのようにして逃げおおせたか、その詳細についてはっきりしたことは分かっていません。 一方、画像には写っていなかったものの、檻の中からエサが運び出されていたことは、現場で目視確認されました。
「トラップ・ハッピー」にも負けず
このオスグマは、過去に2回捕獲され、以来現在まで8年間にわたり、ラジオテレメトリーによる追跡調査を通じて、さまざまなデータを提供してくれたオスグマ「ゴンタ」であることが分かりました。
ゴンタはその後、9月にも同じ行動を見せ、捕獲を逃れつつもエサを手に入れました。静止画の様子から想像すると、どうやら扉がうまく閉まりきらないように、うまく自分の身体を扉に挟みながら、エサだけを取り出した模様です。
こうした罠のエサを何度も食べにくる常習犯を研究者は「トラップ・ハッピー」 と呼び、決して珍しいことではないそうです。ゴンタは2005年と2009年に2回捕まっていますが、過去に捕獲された経験から学習し、「食い逃げ」の技を身に着けたのかについては、今回の静止画だけでは明確な答えを出すのが難しそうです。
2013年の学術捕獲では、結局クマを捕獲することができませんでしたが、2014年の調査に際しては、捕獲檻を改良する案も出ており、改善が期待されます。
現在GPS追跡調査をしているメスグマ3頭についても、2014年秋には電池の容量がなくなります。
したがって、学術捕獲で新たにクマを捕獲し、GPS追跡調査を継続することは、このプロジェクトの生命線を握る、重要なポイントとなります。WWFジャパンとNPO法人四国自然史科学研究センターでは、捕獲体制を強化して、新たな調査の1年に備えています。