シベリアトラの密猟者に懲役刑
2014/07/15
※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。
絶滅の危機にあるシベリアトラを追いつめる「密猟」。近年、ロシアでは密猟に対する取り締まりが強化されています。2014年2月には、沿海地方でシベリアトラの密猟者に対し、2年5カ月の懲役と2万USドル(200万円)の罰金の支払いを命じる判決が下されました。厳罰化は密猟の防止にどれくらい貢献し得るのか。その成果が注目されています。
シベリアトラを追いつめる密猟
極東ロシアの森に生息するトラ亜種のシベリアトラ(アムールトラ)は、その個体数が500頭ほどとみられ、絶滅の危機に瀕しています。
危機の大きな原因の1つが後を絶たない密猟。 WWFロシア アムール支部によると、2012年から2013年の間に、ロシアの沿海地方で密猟されたトラは22頭にのぼり、さらにアムールヒョウ1頭が、密猟の犠牲になったとみられています。
ここには、2012年4月にナホトカでトラ6頭分の毛皮と複数の骨が押収された事件や、同じく8月にアルセニエフで8頭分の毛皮が見つかった事例も含まれています。
5月には実際にトラを撃った密猟者が逮捕される事件も起きました。
現場は、沿海地方北部の人里離れた森の中。 密猟者はメスのシベリアトラを追いかけて殺し、毛皮をはいで川の近くに隠しました。そして、後日その毛皮を売りさばくために所持しているところを逮捕されたのです。
これまで、シベリアトラやアムールヒョウなどの稀少動物の死体が発見された際、ほぼ全てについて調査を行なってきたWWFロシアのスタッフたちは、この事件の時にも、シベリアトラの死因を特定するため、法医学の専門家として捜査に協力。
そして2014年2月、2年近くを要した裁判に、ついに判決が下されました。
その内容は、被告に対し、2年5カ月懲役と、20,000USドル(200万円)の罰金刑を科す、という厳罰を命じたものでした。
実現した密猟者に対する厳罰
この厳しい判決が実現した背景には、2013年3月に、ロシアの天然資源・環境省が決定した罰金の大幅な引き上げがありました。
この決定によって、トラの密猟に対する罰金は、14,000USドル(140万円)から31,000USドル(310万円)へと倍以上に引き上げられたのです。
長年、密猟の抑止力として密猟の厳罰化を強く求め続けてきたWWFでは、このロシア政府の処置を評価。
WWFロシアのアムール支部で生物多様性保全プログラムのコーディネーターを務めるパベル・フォメンコは、次のようにその意義を述べています。
「罰則の強化は、稀少な野生動物の密売を抑制する上で、極めて重要です。拘束力のある罰則だけが密猟を根絶し、稀少動物の保護を推進できるからです。
シベリアトラとアムールヒョウの密猟事件はすべて捜査し、解決しなければなりません。密猟の根絶は、当局の捜査執行と裁判所の判決にかかっているのです」
今回の判決は、そうした取り組みの中で初めて、厳罰の適用が実現した判例でした。
WWFロシアの法律顧問オルガ・ズェレブキナは、これを「稀少動物を殺した罪で被告に懲役刑が下ったのはここ10年で初めての出来事」と指摘。
さらに懲役刑に加えて、密猟者が得る利益よりはるかに高額な罰金が科されたことで、「トラの密猟に手を出し難い環境が整いつつある」と、判決を歓迎するコメントを述べました。
トラが生きる森の未来をめざして
しかし、今のところ、判決が出た裁判はこの一件のみ。 こうした係争中の密猟事件に対する裁判所の判決は、高い注目を集めているにもかかわらず出されておらず、密猟者たちはいまだ自由の身です。
また、トラやヒョウを脅かす問題は、密猟だけではありません。
生息環境である森林の環境の悪化も、その危機を増大させる大きな要因になっています。
そして日本もまた、この森林破壊という問題を通じて、シベリアトラの絶滅危機に関わっている可能性があります。
生息地の森で行なわれる違法な森林伐採によって作られた建材や家具が、中国を経由して日本に輸入・販売されている可能性があるからです。
こうした問題を解決するためには、消費者一人一人がどこでどのように木材が生産されているかに関心を持ち、木材背品を選ぶ「目」を持つことが重要です。
持続可能な森林の利用を認証する「FSC(森林管理協議会)」のラベルが付いた木材製品や紙製品を選ぶことは、その具体的な手段の一つとなるでしょう。
WWFでは、トラとその森を守るために、今後も企業や消費者に対して持続可能な木材の調達と購入を呼びかけていくと共に、密猟をめぐる裁判の行方に注視していきます。