「わいるどアカデミー+(ぷらす)@東京 2012年夏」実施報告


WWF会員の皆さまにスタッフが日々取り組んでいる活動を紹介し、意見交換を実施する場として、2012年8月23日、第1回「わいるどアカデミー+(ぷらす)@東京 2012年夏」を、東京港区のWWFジャパン事務局で実施しました。「自然エネルギー100%の生活を実現するには」と題した今回の「わいるどアカデミー+(ぷらす)」には、会員とご同伴の方、合わせて38名の方にご参加いただきました。当日の開催の様子、皆さまにお寄せいただいたご感想をご報告いたします。

会員の皆さまとの交流の場として

この「わいるどアカデミー+(ぷらす)」は、これまでにWWF事務局が行なってきた会員アンケートの結果、WWF自然保護オフィサーからの直接の活動報告や交流の機会を要望する声があったことから、実施することになりました。

「わいるどアカデミー」とは、会員向けに隔月で発行している会報誌『WWF』の一コーナーで、毎回WWFオフィサーが登場し、自身が携わっている環境問題や、その取り組み、課題について解説するというもの。

今回の「わいるどアカデミー+(ぷらす)」は、実際に会員の皆さんを前にして、同様のお話をさせていただこう、という企図で実現したものです。

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自然エネルギーの未来について熱く語るWWF小西雅子

会員の皆さんが抱いている疑問は?

会報誌やウェブサイトでの情報発信は、普段から行なっているとはいっても、個々人の方々が抱かれるさまざまな疑問にお応えするのは、なかなか困難です。

そこで、今回の「わいるどアカデミー+(ぷらす)」では、実施に先立ち、自然エネルギーについて、参加者の皆さんが知りたいと思っていることをお知らせいただきました。ご質問やご意見は多岐に渡りましたが、大別すると次のようにまとめられました。

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脱電発は本当に可能?真剣に考える参加者の皆さん

  1. 自然エネルギーの基本的なことを勉強したい。
     
  2. 自然エネルギー(脱原発)を推進することで、地球温暖化防止が後回しにならないか心配。
     
  3. 太陽光発電や蓄電池など、自然エネルギー利用のための技術が、どの程度利用できるのか、また集合住宅や都会でも自然エネルギー利用の実用的な手段があるのか知りたい。
     
  4. 各エネルギー源の、理想的な使用比率(ベストミックス)を知りたい。
     
  5. 自然エネルギーを広めるため、他人をどう説得すればいいかを知りたい。
     
  6. 自然エネルギーを拡大することで、今に比べてくらしが大幅に不便になったり、電気代などのコストが上乗せされることはないか心配。

当日は、参加者のこうした疑問にできるだけ答える形で、WWFジャパン気候変動・エネルギープロジェクト・リーダーの小西雅子が講義しました。

ポイント1:脱原発を推進するなかでも、温暖化対策は待ったなし!

まず地球温暖化の影響の身近な例として、国内では毎年夏期の真夏日、熱帯夜、熱中症患者の数などが増加していること、東京都を襲う50mm/時間以上の極端な豪雨の回数などを紹介。

温暖化が、人命を危機にさらし、局部的な洪水や出水など、思いがけない災害の要因になる可能性が、年々大きくなっていることを解説しました。

そして地球全体では、産業革命の頃と比べ、平均気温が2度以上上昇すると、深刻な水不足や異常気象、伝染病などの発生頻度が高まること。そのため国連の温暖化交渉では、気温上昇を「2度未満」に抑えることを目指すことに合意していることを説明しました。

また、現在の経済生活を続けていると、100年後には平均気温が4度以上も上昇することが懸念されることから、温暖化を食い止める取り組みは、脱原発を推進する現在においても、後回しにしてはならない課題であることを、お伝えしました。

ポイント2. 自然エネルギーは頼れるエネルギー源になってゆく

とはいえ、脱原発を実現するには、不足するエネルギーをどうするか?という課題が残ります。この辺は、参加者の皆さんにとっても、関心の集まるところ。

続いては、温暖化防止のポイント「自然エネルギー」について、お話をさせていただきました。

自然エネルギーがどれほどすばらしいものでも、実用化できる技術でなければ意味がありません。そこで、担当者からWWFが自然エネルギーを推進する根拠や、推進するにあたっての基本的なポイントを説明しました。

100%自然エネルギーのくらしは、科学的根拠のあるもの

WWFが2011年に発表したエネルギーレポートは、「2050年までに世界のエネルギー需要は100%、自然エネルギーによってまかなうことができる」としています。これは、研究機関に委託し、技術的にしっかりした根拠のあるシナリオの結果で、現在WWFが世界中で自然エネルギーを推進する、一つの拠り所となっています。

現在消費しているエネルギーの半分は、省エネで減らすことができる。

100%自然エネルギーの生活を実現する上で、もう一つ、大きなポイントとなる「省エネ」についてもお話しました。省エネ、すなわち「エネルギーの無駄を見直し、無駄を省くこと」は、「100%自然エネルギー」の社会を支える大前提です。
こちらについても、WWFのエネルギーレポートを基に、「現在消費しているエネルギーの50%は省エネによって削減できる」技術的な可能性を解説しました。
このエネルギーレポートで提唱する省エネが実現されれば、2050年になっても、2000年と同程度のエネルギー消費量で世界のエネルギー需要をまかなえる計算になります。

政府の「3つのエネルギーシナリオ」の問題

脱原発と、自然エネルギーへのシフトが、徐々に実現に向けた動きを見せ始めている中、日本政府は2012年7月末に、国の将来のエネルギーシナリオとして、3つの選択肢を提示しました。

しかし、この選択肢は「何%原発に依存するか」という区分けだけで、しかも3つに絞り込んだ内容になっており、温暖化対策については国民が選択できる余地のない内容となっています。「原発0%」という選択肢についても、その中に、どれくらい温暖化対策を行なうのか、複数の選択肢を設けるべきですが、そのようになっていない問題を解説しました。

不安定な自然エネルギーをどう安定利用するか

自然エネルギーの代表格である太陽光や風力による発電は、天気次第で発電量が変動する「不安定」なエネルギーです。しかし、夏に発電量が多くなる太陽光と、冬に多くなる風力発電を組み合わせると、お互いに補完してより安定して供給することが可能となるなど、工夫次第でいろいろな解決法があります。そもそも電力の需要も、昼に多くなり、夜に少なくなるといった具合に、変動するものです。変動する需要に合わせて、太陽光と風力、地熱、水力などさまざまな自然エネルギーを組み合わせたり、既存の揚水発電やバッテリーの活用で変動量を吸収することによって、自然エネルギーですべての需要を賄っていくことは夢ではないのです。 

ポイント3. 自然エネルギーのコストは必ずしも高くない

もう一つ、参加者の皆さんの関心のポイントでもあった、自然エネルギーの「コスト」の話。
太陽光の発電コストは、現在10~20円/kWh、風力では10円/kWhとなっています。決してコストの安いエネルギーではありません。しかし、自然エネルギーの技術開発は日進月歩、普及を後押しする政策が実現すれば、今後のコストは徐々に低くなることが予想されます。

一方、約9円/kWhと見積もられている原発の発電コストですが、こちらには、事故時の社会的費用(企業などによる私的経済活動の結果、第三者や社会全体が負担するが、その経済活動の主体には計上されない損失)などが含まれていません。これまで原発は「安くて安定したエネルギー」とされてきましたが、コストに含まれる価格の内訳を追及すると、必ずしもそうは言えない現状があります。また、その安全性について、大きな疑問が突き付けられていることは、言うまでもありません。

また、気になる電気料金の値上げについてですが、2012年7月に日本政府が提示した3つの「エネルギー選択肢」の中の一つ「2030年までに原発依存率0%」のシナリオによれば、平均的な家庭では1.4~2.1万円/月の電気代アップ、「原発15%」シナリオでは1.4~1.8万円/月、「原発20~25%」シナリオでは1.2~1.8万円/月アップとの予測となっています。いくつかのモデルが計算しているので幅があるのですが、実は原発比率による値上げの差は2千円程度。ふつうは原発比率が高いほど、電気料金が上がらないと思われるかもしれませんが、あまり大きな違いはないと示されたのです。

ポイント4. 結論:脱原発と温暖化対策は両立する

こうした考察の結論として、原発への依存から自然エネルギーへと転換することで、脱原発と温暖化対策は無理なく両立できる、というのが、現在のWWFとしての考え方になります。WWFは、独自にまとめたシナリオである「エネルギーレポート」に基づいて、これからも温暖化防止と脱原発に向けた活動をしてゆくことを、あらためてお話しました。

多様な観点から、質問が続出!

予定時間を少し上回って説明が終わり、質疑応答に移りました。はじめ緊張気味だった参加者の皆さんでしたが、スタッフの声かけに応じて徐々に質問が出始め、結果、全参加者の3分の1がコメントをくださいました。

まず口火を切ったのは、自然エネルギーの技術面について専門知識をお持ちの参加者からのご意見です。蓄電池をはじめとする各種の自然エネルギーの技術は日進月歩で、普及に応じてコストが低下すると期待ができること、それらをWWFのシナリオに盛り込めば、自然エネルギー100%の生活が実現可能である説得力がより大きくなるのではないか、というお考えでした。

また、参加者は一律に、自然エネルギー100%のシナリオには賛同しているわけではありません。原子力発電の安全性を増すことで、日々深刻になる地球温暖化を緩和することも、現実的には考えざるを得ないのではとの意見を率直におっしゃる方もいらっしゃいました。

WWFスタッフが、現場でどのようなことをしているか、「生の姿」に興味を持っている方もいらっしゃいました。原発はこれからも必要という意見が大勢を占める政界や経済界など、意見の違うグループを説得し、考えを転換してもらうための苦労談やポイントは何か、という質問に対し、スタッフからは、まずキーパーソンとなりそうな人と個人レベルで信頼関係を築き、意見交換をしながらWWFの考え方を理解してもらうこと、そしてその輪を徐々に広げていくという例を説明しました。

個人レベルで、周囲の人を説得して自然エネルギーに向かわせるためどのように行動したらよいか、何を言えばよいかヒントを欲しいという参加者もいらっしゃいました。異なる意見の人との対話を通し、望ましい方向に意見を転換してもらうことは、WWFの活動の重要なテーマですが、参加者ご自身も、周りを変えるために行動しようと真剣に考えておられることが伝わってきました。

そして将来を担う世代である中学生の参加者からも、現在、温暖化をはじめとして、多くの人に認識されている環境問題がある一方、今知られていないようなまったく新しい環境問題が発生することはないのかという、若い世代ならではの質問もありました。

未来の地球にどんなことが起こるのか、正確に予測することは不可能です。しかしながら、このままのペースで地球の平均気温が上昇してゆき、ある時点(転換点)を超えると、それ以前の状況に復帰できないような大きな変化が起こるだろうということは、多くの科学者が予期しています。それはわたしたちの想像を超える巨大な変化になることだけは、間違いありません。

そうした事態を招かないようにするためわたしたちは、温暖化の傾向を緩和するため、できるだけのことをしてゆく必要があることを、改めてスタッフからご説明しました。

ひとりひとりがすぐに取り組めることも少なくないでしょう。企業にお勤めの方は、ご勤務先でペットボトルのリサイクルをする際、蓋を分別して集め始めたところ、周りの人も真似し出したという体験談をお話くださいました。小さなことが、ひいてはライフスタイルの見直しにつながります。皆さんがそれぞれ、小さなことでも身近なところから変えていただけば、WWFの目指す環境に負荷の少ない生活の実現が、それだけ近くなってゆきます。引き続きのサポートを、是非お願いしたいと思います。

これ以外にも寄せられた、皆さんの思い

質疑応答を含め1時間30分のわいるどアカデミーぷらす(+)。時間内ではとても語り尽くせない話題でした。ここで、実施後のアンケートにご記入いただいた、参加者のコメントをいくつか抜粋してご紹介します。

  • WWFのサポーター歴は長いですが、具体的な政策提言など、どのような活動かを初めて知って、とても貴重な機会でした。また参加したいと思います。ありがとうございました。
  • 会員の皆さん、全員同じ立場なのかと思い込んでいましたが、原発推進派の方、温暖化の影響について懐疑的な方もいて、正直驚き...。もっと皆さんと、フランクにお話できたら、とも思いました。
  • WWFが脱原発に取り組まれていることはパブコメの案内を見るまで知りませんでした。国内の脱原発のアクションや業界団体などとのコラボにより、より広い認知を得られ、説得力を得られるのではと思いました。なお今回のパブコメに参加しましたが、参加サイトの案内が大変参考になりました。具体的で、友人にも勧めやすかったです。
  • 政府や経済・産業界へのはたらきかけも大切ですが消費者への啓もう活動をもっとしてほしいと思います。現在の人々はただ受け取るだけでなく、自分で発信するツール(twitter、ブログなど)をたくさん持っているので、そういった一般の人たちを参加させるような企画をこれからもっと考えていただければと思います。ネットで討論会とか。
  • 今日思ったのは「まず、隗より始めよ」。まずは自分から行動、日本から行動、世界へ広がってほしいです。

参加者の皆さんの知識や関心が多岐に渡り、また時間の制約で、充分な意見交換ができなかったことなど、反省点もありました。

しかし、それでも皆さんが同じWWF会員として、それぞれの立場から、地球環境の未来のために何かをしようとしていることは、短い時間の中でも共有することができました。

そして間違いなく共通していたのは、当日ご参加者全員が、エネルギーや地球温暖化など、地球の未来を心から気にかけ、真剣に考えていらっしゃることです。

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皆で揃って。ご参加お疲れ様でした!

また、会員の皆さんと直接言葉や意見を交わすことができる場は、事務局のスタッフにとっても大変貴重な機会となりました。参加者からのお励ましやご意見は、これからの活動に大きな力となります。

お忙しい中、第一回のわいるどアカデミー+(ぷらす)にご参加いただいた皆様に、この場を借りまして改めて厚く御礼申し上げます。わいるどアカデミーぷらす(+)はこれからも、別のトピックでも実施してゆきたいと考えています。

残念ながら今回ご参加いただけなかった会員の皆さまも、是非次回以降のご参加をお待ちしています。

 

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