栃木県足尾の森のツキノワグマ


先日、栃木県足尾にて行なわれた自然観察会へ参加しました。

足尾と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、かつて国内一の産出量を誇るといわれた「足尾銅山」です。

しかし、その一方で、日本の公害問題の原点とも言われる鉱毒事件でも知られています。

銅を取り出す時に発生する化学物質が渡良瀬川に流れ込み、魚の大量死を招き、流域の農作物にも大きな被害を与えました。

また、精錬時の燃料による排煙、精製時に発生する鉱毒ガス(主成分は二酸化硫黄)は森の木々を枯らしました。

荒廃した足尾地区の森林を復元する治山事業が始まったのは1897年。現在もNPOによる植林が続けられていますが、一度木を失い土壌を喪失した山肌は崩落を繰り返し、21世紀となった今も、森は完全にはよみがえっていません。

しかし、そんな回復の途にある足尾の山は、野生動物の観察には非常に適しています。斜面を覆う木々に邪魔されることなく、その姿を見ることができるからです。

ツキノワグマなど接近が難しい動物についても、一定の距離(300~400メートル)を保って観察行なえる場所があります。

今回も、ツキノワグマがアリの蛹(さなぎ)を食べる様子を見ることができました。

こうしたクマの食性は知っていましたが、ツメで岩板をひっくり返して小さなアリを探し、大きな体で一生懸命舐め取って食べている姿は、本や資料では分からない、「野生で生きることの厳しさ」を教えてくれるようでした。

2日間にわたる観察会では、5頭のツキノワグマのほか、カモシカ、アナグマ、イワツバメ、ニホンザル、シカを見ることができました。

多くの動物が息づき、今まさに再生しつつあるとは言え、人間が自然につけた大きな爪痕は簡単に回復するものではないということを、足尾の森は語っているように感じました。(企画調整室:谷野要)

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