© 撮影 北野 忠

幻のゲンゴロウを蘇らせる~域外保全の現場へ


水中を自在に泳ぎ回り、空を力強く飛ぶ、水陸両用の甲虫ゲンゴロウは、子どもの頃から憧れの生きものです。
今、このゲンゴロウを含む水生昆虫の多くが、絶滅危惧種となっています。
このまま有効な対策が講じられなければ、多くの水生昆虫が日本の水辺から姿を消してしまうことが懸念されます。

既に姿を消してしまった種も少なくありません。
そうした種の一つ、日本では南西諸島だけで生息が確認されている日本最大のゲンゴロウ、フチトリゲンゴロウ(上の写真)は、沖縄県内では1999年を最後に記録が途絶えています。

先日、このフチトリゲンゴロウや、同じく絶滅の危機にあるタイワンタイコウチの域外保全を実践している、東海大学 北野 忠教授の研究室を訪問しました。

ヤゴを食べるタイワンタイコウチ 絶滅危惧ⅠA類(CR)(環境省)、絶滅危惧ⅠB類(EN)(沖縄県) 国内では西表島・石垣島・与那国島に分布しているが近年個体数が激減している
© WWFジャパン

ヤゴを食べるタイワンタイコウチ 絶滅危惧ⅠA類(CR)(環境省)、絶滅危惧ⅠB類(EN)(沖縄県) 国内では西表島・石垣島・与那国島に分布しているが近年個体数が激減している

研究室では、これらの種の生態に関する研究成果を活かして、独自に考案された飼育設備を駆使して、系統保存の様々な取り組みを進めていました。

東海大学 北野研究室に設置された、共食いを避けつつ水質管理できる構造のフチトリゲンゴロウ等飼育設備
© WWFジャパン

東海大学 北野研究室に設置された、共食いを避けつつ水質管理できる構造のフチトリゲンゴロウ等飼育設備

フチトリゲンゴロウの幼虫 フチトリゲンゴロウは絶滅危惧ⅠA類(CR)(環境省・沖縄県)絶滅危惧Ⅰ類(鹿児島県)、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種

フチトリゲンゴロウの幼虫 フチトリゲンゴロウは絶滅危惧ⅠA類(CR)(環境省・沖縄県)絶滅危惧Ⅰ類(鹿児島県)、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種

視察を通じて感じたのは、保全対象となる野生生物の食性や生態に関する基礎研究の重要性と、いったん絶滅の危機に瀕した種を保存するには膨大な労力を要すること、そして、研究室の皆さんの並々ならぬ熱意と強い生きもの愛でした。

フチトリゲンゴロウやタイワンタイコウチ等希少種の調査研究・域外保全を実践している東海大学 北野 忠教授(写真右から3人目)と研究室の皆さん 餌となるヤゴの飼養場所で
© WWFジャパン

フチトリゲンゴロウやタイワンタイコウチ等希少種の調査研究・域外保全を実践している東海大学 北野 忠教授(写真右から3人目)と研究室の皆さん 餌となるヤゴの飼養場所で

こうした地道で不断の研究と保全の取り組みが、希少種の保全につながるように、生息地のフィールドでの取り組みも進めていきたいと考えています。

(野生生物グループ 小田倫子)

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自然保護室(野生生物)
小田 倫子

弁護士として10年間稼働後、家族の転勤に伴い沖縄県名護市に居住したことを契機に、自然保護の仕事を志し大学で保全生態学を専攻、2013年WWF入局。法人パートナーシップ担当として生物多様性保全・気候危機対策に関する企業との協働プロジェクトの提案・実施業務を担当後、野生生物グループに異動、今は国内希少種を保全するフィールドプロジェクトを担当。
学士(法学・農学 東京大学)
法学修士(カリフォルニア大学バークレー校)

国内希少種の宝庫である南西諸島で主に活動しています。フィールドで生き物に出会い、その美しさ・不思議さを仲間と分かち合える瞬間が至福の時。趣味は里山散策と水生生物の観察。

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

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