【WWF声明】1.5度目標に整合しない2035年NDC等の決定に抗議する


2025年2月18日、政府は日本の地球温暖化対策を方向づける、「地球温暖化対策計画」「第7次エネルギー基本計画」「GX2040ビジョン」を閣議決定し、2035年の温室効果ガス排出削減目標が日本のNDCとして国連に提出される。
 WWFジャパンは、2035年削減目標や2040年エネルギーミックスが野心に乏しく、パリ協定が掲げる1.5度目標の達成に必要な水準に達していないことに強く失望し、抗議する。2025年末のCOP30はパリ協定初のNDC改定の節目であり、そこでいかに野心高いNDCを集結できるかが、2035年に向けた脱炭素化の潮流と1.5度目標の達成を大きく左右する。世界をリードするべき先進国で、かつ排出量も多い日本が、高い目標を掲げてこそ、それらを確固たるものにできる。そのためには、次の3点が改善される必要がある。

(1) 2035年排出削減目標を少なくとも2013年比66%減以上とするべき

 政府は既存の2030年排出削減目標から2050年ネットゼロへ直線的に削減を進めるとして、2035年の削減目標を2013年比で60%減とした。しかし、この水準は不十分である。
 IPCCは世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるために、温室効果ガス排出量を世界全体で2035年までに2019年比60%削減する必要性を示す。これは日本の温室効果ガス排出量の基準年2013年で換算した場合、66%減に相当する。この削減水準は2023年のCOP28で合意された第1回グローバルストックテイク成果文書でも確認されたが、排出削減の責任と能力を持つ先進国である日本は、それを十分に上回る必要がある。また、60%減の場合、66%減と比べると温室効果ガスをより多く排出する結果、2050年までの累積排出量も多くなってしまう。一方、大気の気温上昇は温室効果ガスの濃度に比例するため、気候変動の影響を抑えるためには累積排出量を可能な限り小さくすることが求められる。
 こうしたことから、日本は少なくとも2013年比66%減以上の水準で2035年削減目標を設定するべきである。例えば、WWFジャパンの分析では、2035年までに2013年比で約68%削減することが可能である。こうした野心的な水準を示して、世界の脱炭素化の流れを力強く牽引することが求められる。

(2) 2030年までに国内で再エネ設備容量を3倍とし、石炭火発を段階的に廃止するべき

 日本の温室効果ガス排出量のうち、エネルギー起源CO2は約85%を占めるため、地球温暖化対策はエネルギーのあり方を考えることにほかならない。「第7次エネルギー基本計画」では、2040年の電源構成として、再エネ4~5割、火力3~4割、原子力2割とする方向性が示された。ただ、この比率では電力部門の脱炭素化を示せているとは言い難い。
 再エネの大幅な導入拡大と火発の段階的廃止が、国際社会からは求められている。上述の第1回グローバルストックテイク成果文書では、世界全体で、2030年までに再エネ設備容量を3倍にすることや、化石燃料からの転換に向けた取り組みを加速することなどが合意された。さらに、ガス火発の2倍の温室効果ガスを排出する石炭火発には、特に厳しい視線が注がれており、2024年のG7プーリアサミット首脳宣言では、2030年代前半までの石炭火発の段階的廃止が初めて合意された。また、LNGもトランジション期での一定の役割は認められるが、どのように使用を止めていくか戦略的な対応が求められる。
 加えて、既存の再エネ・省エネ技術は1.5℃目標に整合する道筋で排出削減を進めるうえで合理的な手段となる。IPCCによれば、2030年までに温室効果ガスを2019年比で半減することは、1トン当たり100ドル以下の費用で済む対策で実現でき、その半分以上は20ドル未満で、さらにその大半が太陽光・風力、省エネといった既存技術でもたらされる。
 これらに鑑みるならば、国民的議論が尽くされていない原子力や、大規模な社会実装が見通せないゼロエミッション火力に頼るのではなく、再エネ・省エネの導入を大幅に進めるべきである。WWFジャパンがシステム技術研究所に研究委託した「脱炭素社会に向けた 2050 年ゼロシナリオ 〈2024年版〉」によると、太陽光・風力の導入加速で2030年までに再エネを国内で3倍に増やすことは可能であると示された。また、石炭火発を2030年までに段階的に廃止しても、省エネ・再エネの導入拡大とガス火力の稼働率引き上げで電力供給には問題が無いことも指摘された。これらを通じて、2040年には電源構成での再エネ比率を90%にしつつ、2050年には熱も含めたエネルギー供給全てを再エネで賄うことが可能である。

(3) 国内外の様々な知見を加味できる、オープンかつ公正な議論プロセスを経るべき

 今回の地球温暖化対策計画に関する経産省と環境省の合同審議会では、環境省の委員構成に一部進展が見られたが、削減目標の事務局案がまだ関係団体のヒアリング時に唐突に示されるなど議論の進め方に問題があった。しかも事務局案は2024年10月に提案された経団連の提言と同じ数値目標であった。複数の委員が抗議したことで、土壇場ではあったが、包括的に独立系研究機関のモデル分析も紹介され、議論を尽くす形になるなどプロセスに進展はあった。しかし、エネルギー基本計画に関連する審議会では、エネルギー多消費産業に属する一部の企業の委員が多い一方で、それ以外のエネルギー需要側や独立系の研究機関、市民社会を代表する委員は少なく、包括的な議論がされたとは言い難い。
 地球温暖化の影響は社会の全てのアクターに及ぶことに鑑みると、国内外の様々な団体が行なう分析・提言を検討する包括的で透明性あるプロセスが当初から採られるべきである。
 削減目標について、例えば気候変動対策に積極的な非国家アクターのネットワークである気候変動イニシアティブ(JCI)は、2035年までに2013年比66%以上とすることを求めていた。また、持続可能な脱炭素社会の実現を目指す企業から成る日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、2035年目標として2013年比75%以上を提言している。その他、国内ではWWFやIGESなどのほか、自然エネルギー財団やClimate Integrateなど、海外ではClimate Action TrackerやClimate Analytics など、多くの独立系シンクタンクが削減目標に係るモデル分析を示している。
 同様に電源構成についても、前述のJCIは再エネ導入の最大化や化石燃料からの早期脱却を求めているほか、JCLPも2035年の電源構成での再エネ比率を60%以上とすることを提言している。加えて、RE100やCEBA、SEMIといった日本で操業する需要家から成る国際的なグループも、再エネ導入の加速に向けた高い目標と施策を日本政府に求めている。
 こうした多角的な分析や豊富な提案を加味してこそ、日本にとって望ましい将来の姿を描くことが可能になる。社会のアクターの多様性を反映する形で、地球温暖化対策に関する議論を行なうことが必要である。

 2024年の世界の平均気温は単年ではあるが1.5度を超え、政治的な状況にかかわらず、地球温暖化をはじめ自然の劣化は深刻さを増している。こうしたなか、産業競争力の強化のみならず、安心できる国民生活の確保のためにも、脱炭素化に向けた取り組みの加速は不可欠である。上記の改善を通じて、野心的な目標の設定と対策の強化をWWFジャパンは強く求める。

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