【WWF声明】この10年は気候危機を防ぐ最後の砦、石破新政権は地球温暖化対策を抜本的に強化するべき


 2024年10月1日、石破氏が首班指名を受け、新内閣を発足させた。同氏の選出に至るまでの議論で、地球温暖化対策は残念ながら大きな争点とされなかった。しかし、各国政策が現行にとどまれば世界の平均気温は今世紀末までに約3度上昇すると予測され、このままでは気象災害の激甚化など過酷な環境に将来世代を陥らせる。それを防ぎパリ協定の掲げる1.5度目標を達成できるかどうかは、今後10年の取り組み次第であることが科学的に示されている。そのただ中に発足する石破新政権は、何より将来世代への責務を負う。
WWFジャパンは、石破新政権が地球温暖化対策を最優先の政策課題とし、今後10年の対策の抜本的強化に直ちに取り組むことを求める。その一環として、特に次の3点の実施を強く期待する。

(1)2030年43%、2035年60%減を上回るGHG排出削減目標を掲げること

 IPCCは、世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えるには、世界全体でのGHG排出量を2019年に比べて2030年までに43%、2035年までに60%削減する必要があると示す。これは、2023年11月のCOP28で合意された、第1回グローバルストックテイク成果文書にも盛り込まれており、各国が次期NDC検討の起点とすることが要請される。
 排出削減の能力と責任を有する先進国である日本は、IPCCの示す上記削減幅を上回る形で、2030年目標を強化し、2035年目標を新設すべきである。WWFジャパンの「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ2024年版」(以下、WWFシナリオ)では、GHG排出量を2019年比で2030年までに44.6%(2013年比52.4%)、2035年までに62.7%(2013年比67.9%)削減できることが明らかとなった。こうした科学的根拠に基づき高い目標を掲げることは可能であり、企業や自治体が目標や取り組みを引き上げる後押しにも繋がる。

(2)GX・エネルギー政策を1.5度目標に整合する形で改善すること

 岸田前政権の下では、脱炭素と経済成長の両立を図るものとしてGX推進戦略が策定され、種々の政策が進められた。しかし、国民的な議論がないまま原発の積極活用に方針転換したり、石炭火発へのアンモニア混焼など排出削減の効果が疑わしい技術開発を支援したりと、問題も多くはらんでいる。新政権は、これらのGX・エネルギー政策を無批判に継承するのではなく、1.5度目標の達成に整合するように国内での排出削減を進めるという観点で改善を図るべきである。
 WWFシナリオは、日本には農地や建物などの再エネ導入ポテンシャルが豊富にあり、既存技術の活用により2030年までに太陽光・風力の設備容量を2019年比で合わせて3倍にできることを示す。同時に、石炭火発は2030年までに段階的に廃止しても、電力供給に問題は生じないことが明らかとなっている。これらは、上述の第1回グローバルストックテイク成果文書の、1.5度目標の達成に向けて世界全体で再生可能エネルギー設備容量3倍、および化石燃料からの転換の加速という要請に応えるものである。
 他方、政府審議会で議論の進むGX-ETSなどのカーボンプライシングは、早期導入と制度強化に向けた検討を加速させるべきである。2030年までの排出削減の観点では、これ以上の導入時期の遅滞や制度の弱体化を許す余地はない。過度に低い炭素価格とならないように上限価格の必要性を慎重に吟味すること、GX-ETSで対象部門からの総排出量上限(キャップ)を設定すること、化石燃料賦課金の導入時期を前倒しすること、などが必要である。

(3)社会全体の議論と省庁横断的な取り組みを実質において確保すること

 地球温暖化は広く社会に影響を及ぼすことから、全ての主体が地球温暖化対策の議論に参画する必要がある。しかしこれまで、GX実行会議やエネルギー基本計画に関する議論では、地球温暖化対策に積極的な企業や市民団体の声を反映する機会が限られていた。
 新政権は、こうした市民団体や企業が限られたヒアリングの機会に留まらず継続的に議論に参加できるように、検討プロセスを再考するべきである。また一般市民の意見も、形式的な意見募集以外に、例えば気候市民会議を開催するなど実質的な反映方法を検討するべきである。
 また地球温暖化対策は様々な政策分野と関連し、省庁横断的な取り組みが不可欠となる。それはただ省庁再編を行なえば実現できるわけではない。緩和策・適応策を一体的に基礎づけ、生物多様性やエネルギーなど隣接する政策との調整を政府全体で行なえるような「地球温暖化対策基本法」の制定が求められる。

 以上の点を踏まえて、新政権の下で、まずは次期NDCおよびエネルギー基本計画の検討が間断なく進まなければならない。特に前者は、2025年に開催予定のCOP30の9~12か月前に提出することが強く推奨されている。日本もその時期に遅れないようにNDCを提出するべきである。
 加えて、近く衆議院選挙が行なわれた場合であっても、上記の諸点は揺らいではならない。地球温暖化の影響を最小化し安心できる環境を将来世代に引き継ぐことは、石破新政権のみならず全ての政治家・現役世代が負う責任であるのは言うまでもない。WWFジャパンはいずれの政党・政権であっても、この責務が全うされることを期待する。

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