【WWF声明】使い捨ての大量生産前提のプラスチックシステムによる世界の不平等を是正するためにーー INC-3開催に際し、日本政府に対し調和した世界共通の義務的ルールの導入を基盤とした国際条約を明確に支持することを求める


  • WWFが新たに発表したレポートによると低所得国では高所得国に比べプラスチックの一人当たりの消費量が3分の1 であるにもかかわらず、プラスチックのライフサイクル全体で負担しなければならないコストが高所得国より10倍大きいことが示された
  • 現在のプラスチックのバリューチェーンには、プラスチック汚染による悪影響とその対策への負担を、インフラが未整備の国々に偏らせるという構造的な不平等が存在し、危機をさらに悪化させている
  • 日本はプラスチックの国際的バリューチェーンの上流に位置づけられる大量消費国である。日本政府は、国際条約において、国別の規制や行動計画を重視しているが、国際的な不平等を是正できる条約とするためにも、世界共通の義務的ルールの導入を最重視する姿勢を明確に示し、他国に働きかけるべき

WWFがDalbergに委託して2023年11月7日に公開したレポートでは、低所得国のプラスチックの一人当たりの消費量は高所得国の3分の1であるにも関わらず、自然環境、健康、経済へのコストは、高所得国よりも10倍も大きいことが示されている(WWF, 2023)。

現在のプラスチックのシステムにおいて、以下三つの構造的な不平等がある。

  1. 低所得国、中所得国は、どのようなプラスチック製品がどのように設計して作られるのかにつき、ほとんど影響を及ぼせないのにも関わらず、世界のプラスチックの廃棄物の管理を押し付けられている。
  2. 低所得国、中所得国で世界のプラスチックの廃棄物を処理せざるを得ない状況下で、これらの国々における適正管理のための技術的、資金的なリソースを大幅に上回る形で、使い捨てプラスチックを中心に生産や消費の急拡大が続いている。
  3. 現行のプラスチックシステムは、プラスチック汚染、私たちの健康、自然環境、経済(義務的な拡大生産者責任等)への影響において、各国や企業に公正な形で対策をとらせることに失敗している。

このようにプラスチック製品を大量生産する企業や大量消費する高所得国が、廃棄物を管理するインフラが未整備な低所得国に対策を押し付ける形で、プラスチックのシステムが構築されている。

調和した法的拘束力のある世界共通ルールを基盤とした国際プラスチック条約を新たに制定し実行することで、低所得国、中所得国にとって公正なシステムが構築され、最も効果的・効率的な解決策が優先されることになる。この世界共通ルールには、最もリスクの高いプラスチック製品、素材(ポリマー)、化学物質を規制することが含まれ、特にプラスチック廃棄物を管理するリソースが不足した国々の負担を軽減することが可能となる。同様に、世界共通の製品設計基準を設定することで、製品がどの国で生産・使用されたかに関わらず、リユース、リサイクルすることが可能となる。

プラスチック汚染を根絶するための国際条約の制定に向け、2023年11月13日から19日にかけて、第3回政府間交渉委員会(INC-3)がケニア・ナイロビで開催される。WWFは日本を含むすべての政府が、以下の主要事項を含む条約に合意することを呼び掛ける。

  • ハイリスク(流出可能性と流出後の被害が大きい)で、現実的に根絶することが可能なプラスチック製品、ポリマー、有害化学物質の、国際的即時禁止や段階的禁止
  • 安全で無害なリユースやリサイクルを確実に行える製品設計やシステムの世界的な導入
  • 特に低所得国、中所得国に配慮し、公的、民間の十分な資金供給や調整が可能となる確固とした方策の導入

なおINC-3開催に際して日本提出が提出した文書(サブミッション)によると、国別行動計画を新たな国際条約の核とすべきであると主張し、避けることのできるポリマーや製品について、世界共通の統一した(禁止等の)方策を導入することよりも各国の状況や既存の方策に配慮すべきであるとしている。
今世紀に入ってからのプラスチック汚染の顕在化に伴い、プラスチック汚染対策を意図した規制が各国で次々に導入され、2021年の時点でその数は既に571に達している(WWF, 2022)。しかしながら自然環境へのプラスチック流出量は増加の一途であり、2019年には推定で年間2,200万トンに達し、このまま対策を強化したとしても、2060年には年間4,400万トンにまで倍増する見込みである(OECD, 2022)。

日本政府の主張通り、新たな国際条約において、国別行動計画を基盤としつつ、各国の状況や既存の方策に過度に配慮するということは、これまで汚染を拡大させ続けてきた各国独自の規制の導入をさらに続けていくことを意味し、汚染を根絶できる可能性はゼロに等しい。

一方で日本政府は、INC- 2 開催直前の2023 年6 月にプラスチック汚染を確実に根絶することを目指す高野心連合(HAC)への参加を表明し、2023年11月3日には国際的禁止を含む義務的拘束力のある条約を目指す59カ国が参加した共同の大臣声明にも署名している。よって、日本政府の主張とHACでの野心的な主張との間にずれが生じてしまっている。

また、日本政府は、意図的に使用、追加するマイクロプラスチックにつき、日本では業界による自主規制により、自然環境中への流出は根絶できていると主張する。しかしながら、日本で自主規制されているのは、洗い流しのスクラブ製品におけるマイクロプラスチックビーズの使用等一部に過ぎず、流出の根絶とは程遠い状況である。

ついては、WWFは日本政府に対し、署名した高野心連合の共同声明の趣旨に沿いつつ、INC-3における政府間交渉において、国際条約に以下を反映させることを明確に支持し、他国にも働きかけていくことを呼び掛ける。

  • 一次プラスチックポリマー(バージンプラスチック)の生産、使用、消費を国際的に持続可能な水準まで抑えることを義務付ける条項
  • ハイリスクで、現実的に根絶することが可能なプラスチック製品、ポリマー、有害化学物質の、即時禁止や段階的禁止を国際的に義務付ける条項
  • 廃棄前に発生するマイクロプラスチック、特に、意図的に使用、追加するマイクロプラスチックの生産と使用を国際的に禁止する条項
以上

WWFインターナショナル プラスチック政策責任者 Eirik Lindebjergのコメント:
INC-3開催前に議長から示されたゼロドラフトには、ほとんど実効性がない方策やあいまいな義務が含まれており、それらが各国政府に、国別や自主的行動に依存するこれまでの悪い習慣を続けさせようとする誘因となってしまっている。今回WWFが発表したレポートによると、対策を各国政府それぞれの決断に委ねることは、汚染の影響と対策への負担とをインフラが未整備な低所得国に偏らせる、不平等なシステムを維持することにつながる。国別行動計画に基づいた国際条約とした場合、これまでと構造は変わらず、プラスチック汚染の脅威を抑えることは不可能だ。プラスチックを安い使い捨ての汎用品であるかのように取り扱い続けることは、プラスチックのシステムを変えられない低所得国に莫大な負担を押し付けることになり、現状維持はこの負担をさらに増加させることを意味する。各国は、公正なバリューチェーンを構築し、プラスチック汚染の無い未来を築くことを望むのであれば、調和した法的拘束力のある野心的国際ルールを基盤とした国際条約をまとめ上げなければならない。

WWFジャパン プラスチック政策マネージャー 三沢行弘のコメント:
日本政府が高野心連合への参加を表明し、国際的禁止を含む義務的拘束力のある条約を目指す合同声明に署名したことは、野心的な世界共通ルールを基盤とした国際条約を支持したということを意味する。しかしながら、INC-3開催に際して日本政府が提出したサブミッションによると、国別行動計画を条約の核とすべきであると主張し、避けることのできるポリマーや製品について、世界共通の統一した方策の導入には基本的に反対している。これは、高野心連合の共同声明との矛盾を意味している。バリューチェーンの上流に位置する高所得国の日本には、不平等に低所得国に偏るプラスチック汚染やその対策を是正する義務がある。日本政府には、実効性のない条約をとにかくまとめ上げることに注力するのではなく、条約への野心的な世界共通の義務的ルールの導入を先導していくことを強く期待したい。

参考文献

OECD (2022), OECD POLICY HIGHLIGHTS Global Plastics Outlook: Policy Scenarios to 2060
WWF (2022), TOWARDS A TREATY TO END PLASTIC POLLUTION: GLOBAL RULES TO SOLVE A GLOBAL PROBLEM
WWF (2023), Who Pays for Plastic Pollution? Enabling Global Equity in the Plastic Value Chain

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