重大な懸念を残したままの処理水海洋放出は支持できない


2023年8月22日、日本政府は福島第一原発からの処理水の海洋放出を決定し、24日に放出を開始した。この度の海洋放出については重大な懸念が残っており、WWFジャパンとしてはこの決定を支持できない。

第一に、代替案の検討が不十分である。海洋放出以外の選択肢として、海外で実施例もあるモルタル固化案などが原子力市民委員会からも提案されていた。政府は、過去6年間にわたる専門家による検討の中で議論は尽くされたと説明しているが、実際には政府のタスクフォースおよび委員会での検討は数回であり、提案された代替案について真剣に検討された形跡はない。

また、検討当時から前提も変わってしまっている。海洋放出案が選択された一つの前提として、現在の廃炉計画では、汚染水の発生をいずれは止めることができるという想定がある。現行の廃炉計画では燃料デブリを取り出すことで、汚染水が発生し続ける状況を改善できることになっており、取り出しは本年すでに始まっているはずであった。しかし現状、燃料デブリを取り出す見通しは立っていないため、このままでは汚染水の発生は止まらず、海洋放出の期間が長引くことは必定である。そして、汚染のリスク、経済的・社会的な費用が増え続けることになり、「技術面・制度面で現実的」とされた海洋放出の前提も揺らいでいる。

第二に、過去の政府の約束に反する。日本政府および東京電力は2015年に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と福島県漁連に文書で伝えている。しかし、現状、全国漁業協同組合連合会、福島県漁業協同組合連合会も反対を続けており、「理解」が得られたとは言えない状況である。

第三に、海洋放出される処理水についても懸念は残っている。ALPS(多核種除去設備)等によって処理・浄化された水(処理水)には、トリチウム以外の放射性物質は基準値以下しか含まれていないと説明されている。また、トリチウムについても濃度は国際的な基準値以下に希釈されてからの放出となる。しかし、2018年に一部報道で、トリチウム以外の放射性物質の濃度が基準値を上回ったことが指摘された際、その問題が外部からの指摘を待つまで出ないという課題が改めて示された。燃料デブリに触れた汚染水の処理は、通常の原発からのトリチウム水の排出とは、含まれうる放射性物質の点において根本的に異なるため、問題を積極的に指摘しうるモニタリング体制構築も含めてより慎重になるべきである。放射性物質の影響については、根拠を欠く過度の警鐘も、不十分なモニタリングも、いずれも漁獲水産物の風評被害を拡大させ得るため、信頼できる体制構築が急務である。

政府および東京電力は、処理水について海洋放出前および放出後にかかわるデータを公開し、かつ、第三者によるモニタリングも継続的に行うと説明しており、現在すでに、東電、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、環境省等によって、一部公開が開始されている。WWFジャパンは、これらが実質的に機能することを強く求めたい。つまり、これらの公開およびモニタリングが、形式上データを公開しているだけで済まされ実質的には意味がないものとなっていたり、警告を挙げる意志のない“第三者”モニタリングとなって形骸化したりすることは絶対に避けねばならない。そして、政府報告書の結論にある通り、万が一、問題が発覚した場合の迅速な停止と海洋放出全体の再検討が必要である。

そして、このような災禍が二度と起きぬようにするためにも、日本のエネルギーシステムは、持続可能な自然エネルギー100%を目指すべきである。

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