エネルギー基本計画の見直しに対する要望書
2011/09/30
要望書 2011年9月30日
総合資源エネルギー調査会基本問題委員会
委員長 三村明夫 様
委員各位
公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン
会長 德川恒孝
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
さて、今年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故によって、日本のエネルギー政策を根本から見直す必要が生じていることは、国民のほとんどが同意する所だと存じます。以前より温暖化をはじめとする地球環境問題に取り組むWWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)では、今後の日本のエネルギーのあり方として、第一に、自然エネルギーで100%のエネルギーを賄うことをめざし、第二に、これまでにないような水準での省エネルギーを実施し、第三に、新規の原子力発電所は造らず、既存の原子力発電所は段階的に廃止していくという3つを基本方針とし、三位一体で進めていくことが重要であると考えております。現在これを実現するためのシナリオも検討しています。また、この3つの方針を実現するために、日本のエネルギー基本計画を改善することについて、全国および海外から賛同署名を募っております。賛同者は、9月30日までの時点で、国内から4万217人、海外から1,178人となっており、現在も増え続けております。
このたび、エネルギー基本計画の見直しについて総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会が開催されるにあたり、WWFジャパンは、以下の7つの要素が、新しいエネルギー基本計画に明確に盛り込まれることを要望いたします。
ぜひ、ご高配のほど、よろしくお願い申し上げます。
敬具
記
1.自然エネルギーの野心的な普及目標を明確に設定すること
日本のエネルギーの安定供給や新しい産業育成の観点から、自然エネルギーの普及促進は不可欠です。ところが、現行のエネルギー基本計画は原発拡充に偏るあまり、自然エネルギー目標については明確に示されないほど軽視されています。原発と自然エネルギーを一緒にしてゼロエミッション電源とひとくくりにして、2030年までに発電電力に占める目標を70%とおき、原発の目標が2030年に少なくも14基以上新設と具体的であるのに対し、自然エネルギー目標は明示的にはありません。発電電力量の内訳としてグラフで原発を5割、自然エネルギー2割と示しているにすぎません。また電気以外のエネルギーも含めた一次エネルギー供給については、10%を自然エネルギー由来のものとすることが「目指すべき姿」として掲げられていますが、いずれも、日本での自然エネルギーのポテンシャルを十分に活かすことができる野心的な目標とはいえません。ましてや、福島第一原発事故以後、更に高まった自然エネルギーの加速度的な普及の必要性から考えても不十分です。
菅前首相は仏ドーヴィルでのG8サミットにおいて、自然エネルギーによる電力の割合を「2020年代のできるだけ早い時期に、少なくとも20%を超える水準」にするという目標を掲げました。 この目標を維持するのは最低限必要であり、さらに電力に対する発電量の割合は25%以上、一次エネルギーでは15%以上となるような野心的な目標を掲げ、基本計画の中に明確に書き込むことが必要です。
また、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」によって設立される固定価格買取制度が、自然エネルギー普及目標をきちんと達成できるものとなるように、制度の運用面でのルール作りを後押しすることも必要です。
2.省エネルギー目標を掲げること
現行のエネルギー基本計画には、省エネルギーに関する目標が明示されていません。根拠となる計算では、2030年までに2007年比で、一次エネルギー供給が13%減るような省エネが想定されていますが、この数字は計画自体には書かれていません。また、2006年5月に策定された「新・エネルギー国家戦略」には、「今後、2030年までに更に少なくとも30%の効率改善を目指す」(※ここでの効率はGDP単位量当たりの最終エネルギー消費)という目標が書き込まれていますが、前政権時に策定されたこの目標が現在も有効なのか、曖昧な状況が続いています。
今年の夏が明らかにしたのは、節電を含む省エネルギーには、まだまだ多くの余力があるということです。不測の事態の節電であったため、準備不足で無理をしたところもあったかもしれませんが、無駄を見直すことができ、大幅な省エネも意思次第で可能であることがわかりました。原子力発電への依存から脱却し、自然エネルギー中心の社会を築いていくためには、省エネルギーの推進が大前提です。
「日本のエネルギー効率は世界一」という驕りを捨て、エネルギー基本計画の中にも明確に目標を記載し、省エネ・エネルギー効率の改善について、今一度、更なる飛躍を目指すべきです。
3.発送電分離を含む電力システムの抜本的な改革を進めること
これまで自然エネルギーを不安定な電源であるとして冷遇し続けた背景には、既存の電力システムの維持を前提とする既得権の固守という意図がありました。既存の電力システムの抜本的な改革を前提とする大胆な社会インフラの整備に踏み込めば、自然エネルギーの大幅拡充は可能です。このことを広く国民に開示し、速やかに方向性を変えるべきです。地域内・地域間の系統連携の強化、発送電分離と電力自由化による電力事業のあり方の改革、電力需給のバランス調整を行なえるような次世代電力網・スマートグリッドの確立、自然エネルギーの優先接続の確保などの社会的インフラの整備について、速やかに議論のプロセスを立ち上げて改善をはかっていくことが必要です。
4.原子力発電所を段階的かつ可能な限り早期に廃止していくこと
現行のエネルギー基本計画は、2030年までに新規の原発を14基建設する上に、設備利用率も90%まで引き上げることが書かれています。このような計画は非現実的かつ不適切です。
新しい計画では、新規の原子力発電所建設は行なわないことに加え、既存の原子力発電所を早期に全廃してくための原則・スケジュールも明示していくことが必要です。浜岡原発など特にリスクが高い原子力発電所については、数年内の停止・廃炉にしていくべきです。また、事実上破綻している核燃料サイクル政策の見直しを行なうべきです。
5.化石燃料に対する依存度を計画的に下げる方向性を打ち出すこと
国益を考えるエネルギー基本計画において、エネルギーの自給率を高めるためには、化石燃料への依存度を計画的に下げ、自然エネルギーの拡充を打ち出すのがベストな選択です。日本の化石燃料の輸入額は、1998年には約5兆円でしたが、近年では15~20兆円と数倍に膨れ上がり大きな負担となっています。産油国の政情によっても価格が乱高下し、安定確保が難しくなる化石燃料に依存し続けることは、エネルギー安全保障の観点からも決して得策とはいえません。石炭や石油にくらべるとCO2排出の少ないLNG(天然ガス)については、自然エネルギーが本格的に普及するまでのつなぎの技術として活用する必要はありますが、中長期的には利用を縮小し、自然エネルギーで代替していくべきです。
6.温室効果ガスに関する「25%削減目標」と整合的なエネルギー起源CO2排出量削減目標を設定すること
エネルギー政策は温暖化対策の要です。このため、「温室効果ガス排出量を2020年までに90年比で25%削減する」や「2050年までに90年比で80%削減する」という目標と整合した形で進めていく必要があります。さらに、達成のために必要な政策として、排出量取引制度や炭素税の導入を前提として、エネルギー需要の削減やエネルギー起源CO2排出量削減についての計画を作るべきです。
7.議論のプロセスでの市民参加および透明性を確保すること
枝野経産大臣は、基本問題委員会の委員として、自然エネルギー推進派や原発に批判的な立場の方も任命され、かつインターネット中継等により議論をオープンにする方向性を打ち出しました。エネルギー政策は国民全体の生活に影響を与えるものであり、東日本大震災と原発事故以降、エネルギー政策への国民の関心がかつてない程に高まっていることを考えると、こうした方向性は当然のものと言えます。会議で使用される資料や根拠となるデータをすべて開示するなどさらなる透明性の確保に注力し、公平な議論がなされるように配慮し、その上で、議論のプロセスにおいては、市民からの意見を聞き、それをきちんと考慮する機会を、重要な決定がされる前に、一定期間の余裕を持って設けることが必要です。
以上
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