日本初!沖縄固有の野生動物をワシントン条約対象種に提案
2012/10/12
近年、固有種を含めた日本の希少な野生動物が、海外で販売される事実が指摘されています。2012年10月4日、環境省は沖縄の固有種リュウキュウヤマガメを、ワシントン条約の附属書に掲載し、国際取引の規制対象種とすることを、2013年の条約会議の議題として提案しました。こうした自国内の動植物を、日本政府が新たに条約の附属書に加える提案を行なったのは、初めてのことです。
海外に持ち出される日本の爬虫類
日本国内の、特に沖縄や奄美諸島といった南西諸島には、世界でそこにしか分布していないさまざまな野生生物が生息し、固有の生態系が育まれています。
しかし近年、それらの動物種のいくつかが海外の市場で見かけられる、という事実が効かれるようになってきました。中には天然記念物として捕獲や移動が禁止され、法的に保護されている種も含まれています。
そこで、WWFとIUCNの共同プログラムで野生生物の取引を監視する「トラフィック」は、リュウキュウヤマガメを含む、南西諸島にだけ生息する5種の爬虫類について、中国の市場調査を実施。
香港の市場でそのうち4種の販売を確認したほか、中国語のオンライン販売で3種の取引を確認しまた。中には、日本産、野生からの捕獲された個体、などとうたっているものもあり、何らかの形で国内において捕獲され、海外に持ち出されたものと考えられます。
南西諸島の野生の危機
こうした沖縄などの島々で固有の野生生物は、もともと限られた生息地にしか分布していないため、絶滅の危機にさらされているものが少なくありません。
沖縄県版のレッドデータブックに、絶滅の危機が最も高い「絶滅危惧1類(CR)(EN)」および、それに次ぐ「絶滅危惧2類(VU)」としてリストアップされている野生動物は332種にのぼります。
ここには、24種のトカゲやカメなどの爬虫類が含まれていますが、その多くは、世界で南西諸島にのみ生息する固有の生きものたちです。
もともと開発などによって、絶滅の危機が高まっている野生動物にとって、販売や取引を目的に行なわれる密猟は、きわめて深刻な脅威となります。
国際取引を規制することで保護を強化する
トラフィックでは、今回の調査によって明らかにした、日本の爬虫類の海外での販売の事実をふまえ、日本の環境省に対し、保護や取引の管理を強化するよう求める提言を行ないました。
この提言の中には、世界の野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」の附属書(リスト)に、これら南西諸島の野生動物を掲載するよう、検討を求める提案も含まれています。
もちろん、こうした取引を規制するためには、市場の状況のみならず、南西諸島の野生生物が、今どのような危機にさらされているかについても現状を明らかにし、科学的な知見に基づいた提言が必要です。
これについては長年、南西諸島をはじめとする国内の爬虫類の保全と研究に尽力されてきた琉球大学の太田英利教授により、生態学的な調査が行なわれ、その危機の現状が明らかにされてきました。
そして、現場の危機と市場の現状をふまえたトラフィックの提言と情報提供を受け、環境省は2013年3月に開催される予定の第16回ワシントン条約締約国会議(CITES/COP16)において、リュウキュウヤマガメの附属書掲載を提案することを、2012年10月4日に決定しました。
この提案がCITES/COP16において可決されれば、リュウキュウヤマガメは国際取引の規制対象種となり、取引監視が強化されることになります。
ワシントン条約に対する日本の姿勢
今回のように、日本政府がワシントン条約会議において、自国の野生生物を附属書に掲載するよう求める「アップリスト提案」は、日本政府が1980年にワシントン条約に加盟して以来、初めてのことになります。
提案の内容が、附属書掲載の基準を満たすかどうかなど、検討課題は残されているものの、トラフィックイーストアジアジャパンでは、この日本による「ワシントン条約へのアップリスト提案」が、日本が生物多様性の保全に向け、一歩前進したことを示すものとして評価しました。
何より、南西諸島には、今回提案されたリュウキュウヤマガメの他にも、同等、もしくはそれ以上の危機にさらされている野生生物が、まだ数多く残されています。
南西諸島に固有の野生生物を守ることは、世界にとっても、そこにしか存在しない、貴重な生物多様性を守ることに他なりません。
こうした動植物についても、今後引き続き、積極的なアップリストの提案が期待されます。