京都議定書が築いてきた礎の上に
2013/02/15
声明 2013年2月15日
京都議定書の発効記念日と第2約束期間への移行に際してのWWFジャパン声明
明日(2013年2月16日)、京都議定書が発効してから8年を迎える。国際社会が温暖化対策への具体的な一歩を踏み出すことを約束した条約が効力を持った記念すべき日である。今年は、それに加えて、京都議定書の第1約束期間が2012年で終了し、今年から第2約束期間に入っていくという意味で、国際的な温暖化対策にとっても移行期に当たる。
京都議定書の一般的な意義は、先進国に排出量の具体的な削減義務を法的拘束力のある形で課したことである。しかし、意義はそれだけにとどまらない。排出量を一定期間にわたって量的に管理する仕組みや市場メカニズムなど、今日の国際的・国内的気候変動政策に影響を与える仕組みをその中に内包している。
それら全てが上手くいっているわけではなく、改善を要するものもあるが、ただ1つ確実に言えることは、京都議定書は、直接的・間接的に世界の排出量の抑制に貢献しただけでなく、世界的に温暖化対策が整備されていく変革の震源地であったということである。
しかし、私たちは同時に、国際社会の現状での取組みが、十分とは言い難いことも認識しなければならない。国連環境計画(UNEP)が昨年発表した報告書によれば、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して「2度未満」におさえるために必要な削減量と、現状において各国が誓約している削減総量との差は、2020年時点で80~130億トンに上るという。このまま行けば、良くて4度上昇、悪ければ6度上昇へと世界は向かってしまう可能性が示されている。
4度以上の上昇は世界にとって極めて深刻な影響を与える。昨年発表された世界銀行による「4度」影響をまとめた報告書は、「いかなる国も気候変動による影響から無縁ではいられない。しかし、気候変動の影響は、経済的・制度的・科学的・技術的に対応・適応することが難しい、世界で最も貧しい地域に対して、本質的に不平等な形で顕れる可能性が高い」と警告している。
国際社会は、今、この途方もない「達成すべき」ものと「現状の取組みの延長戦」との間のギャップを埋めるべく、新しい国際的枠組みへ向けた交渉を進めているが、衡平性(こうへいせい;先進国と途上国、国々や世代、人々の間での責任と義務について、何が平等といえるか)に関する考え方の違いなど、様々な意見対立の中で、大きな困難に直面している。
京都議定書が築いた礎の上に、新たな、さらに強力な国際的な枠組みを築くことができるか。それは、これからの国際交渉上の大きな課題であると同時に、各国がそれを支えるような取組みを行っているかどうかにもかかっている。
それでは、日本の温暖化対策は進んできたと言えるだろうか。日本は、地球温暖化対策推進法と「京都議定書目標達成計画」の下で、京都議定書の目標を達成するための整備をしてきた。そして実際に、削減目標を達成できる予定である。しかし、日本の温室効果ガス排出量を見ると、決して楽観視できない。日本は、2008年のリーマンショックで経済そのものが落ち込むまで、自国の排出量を1990年(基準年)水準以下に引き下げることすらできていない。それでも「6%削減目標」が達成できるのは、京都議定書の中の柔軟性メカニズムや森林吸収源を適用できるからである。
日本の中で京都議定書が否定的に語られ、第2約束期間に参加しないという決定がされた要因の1つが、議定書の中で新興国が削減義務を負っていないことであった。しかし、それ以前に今見直さなければならないことは、日本は、他国に削減を求めるに足るだけのことを自らが行う意志があるのか、ということではないだろうか。
震災以降、排出量は再び増加の兆しを見せている。では、それに対応する対策はどうなのか。2020年に向けての温室効果ガス排出削減目標は、「見直し中」という店晒しになったまま、早2年が経とうとしている。具体的な政策面では、個別分野では進展がみられるが、全体的な計画や政策方針は曖昧な状態が続いている。少なくとも、現状を見る限りにおいては、日本の温暖化対策は、目標すら失い、政策方針は迷走し、後退への兆しを見せていると言わざるを得ない。気候変動の脅威を示すニュースが毎日のように世界中から届き、「今、行動を起こさなければ止められない」という危機感を抱くべき科学的理由が山積する中にあっての後退である。
これが、京都議定書の第2約束期間に参加しないという決定の意味なのか。これが、自らが議長国としてまとめた国際条約に背を向けて、「日本として」独自の道を選んだことの意味なのだろうか。日本は、今一度、京都議定書と、それが象徴する国際的な温暖化対策へ向けての強い取組みの中で、積極的に貢献する意志を示すべきであろう。
壮大な挑戦となるが、悲観的な状況ばかりでもない。固定価格買取制度導入に伴い再生可能エネルギー関連産業が活気付き始めていることのように、気候変動問題解決のために必要な再生可能エネルギーや省エネルギーは、これからの時代において、新しい発展の果実をもたらし、雇用を生み出し、持続可能な社会を創っていくために鍵となる分野である。
「4度」以上の世界で大きく損なわれていく生態系や人々の暮らしを救うだけでなく、これからの日本の発展のためにも、確実にプラスになる取組みである。その壮大な挑戦を前にして、現状維持を選択するのか、大胆な一歩を踏み出すのかが、今年の日本には問われることになる。京都議定書が発効したことを記念し、次のステップへと踏み出していくこの時期に、新たな排出量削減目標をかかげ、それを達成するための計画・政策を導入し、そして、他国の取組みを支援していくことを早急に示していくべきである。
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