消極的な温対法の改正は気候変動対策後退の兆しか
2013/03/15
声明 2013年3月15日
本日、地球温暖化対策推進法(以下「温対法」)の改正案が閣議決定された。日本の気候変動対策の要であるこの法律が状況に応じて改正されること自体は自然な流れである。しかし、今回の改正は、日本での気候変動対策の位置づけが後退していることの象徴になりかねない危険を孕んでおり、WWFジャパンは重大な懸念を表明する。
本来必要なのは「基本法」
2010年に当時の民主党政権は「地球温暖化対策基本法案」を国会に提出した。
これは、気候変動対策が世界および日本にとって重要な課題となり、個別法の位置づけである温対法だけでなく、基本法が必要との認識の顕れであった。当時野党であった自民党・公明党もそれぞれ独自の基本法案を提出し、議論は「気候変動対策の基本法を作る」方向性で進んでいた。
これが、今回、温対法の改正にとどまり、改正する中身も、1)新たな温室効果ガスの追加、2)温暖化対策の「計画」を作ること、3)地球温暖化対策推進本部の所掌事務を「計画」策定を含むものとすること、という最低限の3点に絞られた。
この背景には、現政権として他に優先する政策課題があることや、エネルギー政策の見直しが進行中であること、そして今国会で通すための時間的制約があったと推測できる。
しかし、「基本法の制定」から「個別法の最低限の改正」という方向性の変更は、気候変動対策の位置づけが日本の中で下がってしまったとの印象をぬぐいえない。
WWFジャパンは、本来、現時点では少なくとも次の3点が必要であったと考える。
せめて長期目標を法の中に
第1に、本来は、中長期の目標が法の中に必要である。
中期の目標として、2020年までの温室効果ガス排出量削減目標が必要である。前政権が掲げた25%削減目標を極力維持する方向で、最低限、国内削減で1990年比15%削減以上を掲げるべきである。
現在、エネルギー政策の見直しが行われており、中期目標はその見直しの影響を受けるということで、今回の中期目標提示は見送られている。しかし、2050年へ向けた長期目標は過去にも閣議決定されており、せめて、それは入れ込むべきである。
2009年に自民党がまとめた「低炭素社会づくり推進基本法案」においても、「2050年80%削減」は明記されている。中期目標について見直しがあることには一定の理があるが、長期の目標すら放棄してしまうのであれば、「低炭素社会を目指す」という方向性自体が失われつつあるとの印象を受ける。
「エネルギー政策が決まらなければ長期の目標は決められない」との理屈に拘泥するのではなく、気候変動政策の長期的な方向性を先に打ち出した上で、それに対応できるエネルギー政策を検討するべきである。
2020年/2030年/2050年それぞれに重点をおいた「計画」策定を
第2に、計画は、2020年/2030年/2050年という3つの年次へ向けた対策を含む中身となるよう、法の中で規定するべきである。気候変動の緩和だけでなく、適応の分野も含めることも重要である。
2020年目標へ向けての計画は、京都議定書の第2約束期間に参加しない日本が、それでも着実に対策を実施していくことを示すために、具体的な政策の裏打ちを持った計画を示すことが必要である。
2030年目標へ向けての計画は、今後のエネルギー政策との統合的な計画として示すことが必要である。今後、国連交渉で中心となる新しい国際枠組みは、2020年から効力を持つものとされている。このため、2030年近辺の温室効果ガス削減目標が鍵となると想定することは自然であり、その交渉の中で日本としての指針を持つためにも必要である。
そして、2050年目標へ向けての計画は、日本を長期的には低炭素、そして脱炭素社会へと導いていく方向性を明示するものとして必要である。
政策の導入を規定する
第3に、計画の実効性を担保するための主要政策の導入を規定することが必要である。
特に、排出量取引制度の導入が必要である。先行して同制度を導入したEUにおける同制度の苦境が報じられていることや、アメリカにおける連邦政府レベルでの同制度導入が頓挫したことなどが背景にはあると考えられる。しかし、せめて同制度の「検討」を義務づけるべきである。
また、現在、電力会社の中で石炭火力発電所への依存を強めようという傾向が出ている。こうした、低炭素へ向けた取組みに逆行する流れに歯止めをかけるために、発電所の達成基準(CO2原単位基準)の導入を規定していくべきである。発電所の基準については、アメリカやイギリス等の国々でも導入の検討が進んでおり、いずれの場合でも、特別な条件下でなければ新規の石炭火力発電所は建設できないような基準の導入が検討されている。
今回の温対法改正では、以上のような中身は、全て、法改正後の「地球温暖化対策計画」の策定の中で議論されることとして後回しにしてしまっている。しかし、現状の改正案では、上記のような中身が後の議論で議題にあがってくるという保証もない。これからの国会審議で、これら諸点を確保していくことが必要である。
■お問い合せ先:
WWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン) 気候変動・エネルギーグループ
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