吉野川河口での自動車道建設の見直しを求めて
2014/02/24
徳島県を東西に横切る吉野川。日本でも有数の大河川であり、その河口は多くの渡り鳥が飛来するアジアでも有数の干潟として知られています。しかし今、この河口では実に4本目となる大規模な橋の建設が進められようとしています。環境や野生生物への影響が十分に検討されないまま計画が進められている現状を受け、WWFジャパンを含む4つの自然保護団体は、この事業の見直しを求める意見書を提出しました。
自然あふれる吉野川の危機
吉野川の流域は四国4県にまたがり、河川全長は194km、流域面積は3,750平方キロ、四国全体の約2割におよびます。
幅1.3kmもある広大な河口には、カニや貝類などの息づく干潟が広がり、シギ・チドリ類をはじめとする、多くの渡り鳥が飛来するほか、満潮時には、河口から上流に向かって14.5kmの地点まで海水が入り、広大な汽水域(淡水と海水の混ざった水域)が形成されます。
こうした吉野川の持つ自然の特性は、美しい景観を作り出し、流域の人々の暮らしにも深く関わってきました。
とりわけ河口域は、1996年に国際的に重要な湿地帯のネットワークである、「東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」にも参加したほか、2010年には環境省によって、ラムサール条約湿地潜在候補地にも指定されるなど、国内外において、生物多様性の保全上、重要な環境として認められてきました。
しかし、この吉野川河口は、すでに事業中止となった可動堰建設をはじめとして、2012年に完成した徳島東環状線阿波しらさぎ大橋、2005年に第2期埋立事業が着工されたマリンピア沖洲の建設など、ここ20年余りの間に大規模な開発計画が相次いで検討、実行されてきました。
そして現在、四国横断自動車道の建設が進められようとしています。この自動車道が完成すると、4本の巨大な橋が、川に面したわずか5キロほどの間に、ひしめき合うことになります。
必要性はあるのか? 事業の見直しを求めて
この四国横断自動車道の建設事業については、今から20年も前に行なわれた環境アセスメント(環境影響評価)に基づいて、実施が合意されています。
つまり、その後、周辺で行なわれた開発の影響や、環境に生じた変化が、事業推進にあたり、十分に考慮されていないのです。
実際に、阿波しらさぎ大橋建設では、シギ・チドリ類が干潟を利用する行動パターンが変化したことが、徳島県の調査からも明らかになりました。
ここから1.8kmの下流に、自動車の通る新たな橋を建設することは、さらなる影響を生み出しかねませんが、そうしたことは検討会では一切検討されていません。
こうした現状を受けて、2014年2月24日、WWFジャパンは、国内の重要な自然保護団体である、NPOラムサールネットワーク日本、日本自然保護協会、日本野鳥の会と連名で、四国横断自動車道の事業主であるNEXCO西日本に対し、橋の建設の見直しを求める意見書を提出しました。
この意見書は、主に下記の2点を強く指摘しています。
- 四国横断自動車道吉野川渡河部建設の影響評価ならびに保全対策を、既存のしらさぎ大橋やマリンピア沖洲埋立地などの周辺の大規模人工構造物と関連づけて行なうこと
- 将来の人口減少などの社会状況の変化を加味し、事業の効果、必要性を再評価すること
アジアを代表する湿地の一つであり、日本の自然の豊かさを体現する、素晴らしい景観を備えた吉野川河口の姿を未来に引き継いでゆくために、WWFはこの事業に対し、自然環境と生物多様性を保全する上での十分な配慮を求めています。