重要な機会損失に繋がる気候変動目標
2015/07/17
声明 2015年7月17日
2015年7月17日、日本政府は、地球温暖化対策推進本部の決定を受けて、日本としての「約束草案」を国連気候変動枠組条約事務局に提出する。約束草案の主な内容は、2030年に向けた温室効果ガス排出量削減目標であるが、WWFジャパンは、その中身が不十分であることを改めて指摘しておきたい。
世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるためには、世界全体の排出量を2050年までに2010年比で約40〜70%削減しなければならない。40〜70%というのは大きな幅であるが、2℃未満を達成する確率は、70%削減に近い方が当然高くなる。このため、先のドイツG7では、首脳たちがなるべくこの70%に近い削減にすることに合意すると同時に、今世紀内の経済の「脱炭素化」についても合意した。
この流れの中で、日本は、世界第5位の排出国でありながら、過去20年間、大きな排出量削減を達成できなかった国として、この問題に積極的に取り組む責任がある。日本の一人当たりの排出量は、世界平均と比べても多く、多くの環境容量を使ってしまっている。また、日本は、技術や経済的な能力を有する国として、世界全体の脱炭素化に積極的な貢献ができる国でもある。
そのための目標として、今回決定された「2030年までに2013年比で26%削減」という目標は、その責任からみても不十分であるし、背景としてあるエネルギーミックスにも問題が多い。これらの点については、WWFジャパンは、過去の声明およびパブリックコメントの中でも何度も指摘してきた。今回の目標決定にあたっては、「欧米と遜色ない」との主張だが、2030年の一人当たり排出量で見てもはるかに欧州に劣るし、基準年の操作などで過去に着実に減らしてきた欧米の努力を無視する目標ともいえる(参考情報②を参照)。そもそも、欧米の目標も不十分であるため、本来は先進国を主導するような目標とするべきであった。日本は、この分野でリーダーシップをとる貴重な機会を逸してしまったといっていい。今後、低炭素分野における技術的優位性や競争力を低下させていく恐れもある。
現在、国内では規制的な政策が少ないため、今回の目標の達成ですら、不安がある。特に、近年の石炭火力発電所の増加は大きな懸念であり、排出基準規制や排出量取引制度などの規制的政策の導入が急務である。電力分野だけではなく、今後は、国内での温暖化対策計画整備が必要である。
今後、国際交渉の中では、日本が資金的・技術的な貢献として何ができるのかが問われてくるであろう。その中で、日本がいかなる貢献をできるのかをきちんと検討していくことが重要である。その際には、石炭に関する支援の拡大に重点を置くのではなく、省エネや再生エネに対する支援に重点が置かれるべきである。
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