【シリーズ】改正!種の保存法(3)象牙、そして海外の野生生物をめぐる課題


希少な野生生物を守る日本の法律「種(しゅ)の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」。その対象には、日本に生息する野生生物だけでなく、日本が輸入や消費をすることでかかわっている、海外の希少な野生生物も含まれます。現在、その改正案が国会で審議されている「種の保存法」は、今後どう変わるのか。残された課題を検証するシリーズ第3回目の今回は、象牙をはじめ日本で流通している海外の野生生物に関連した内容に注目します。

野生生物取引と「ワシントン条約」

普段使っている家具の原材料である木材や、ノートで使っている紙、魚介類などの食品や、身に着ける装飾品などの品々。

サンゴや象牙などの装飾品は、元をたどれば、海や陸上で漁獲、捕獲された野生動物、またその一部であり、木材や紙なども天然の樹木であったりします。

日常的な暮らしの中で利用、消費しているさまざまな製品の中には、こうした海外の野生の動物や植物を原料としたものが少なくありません。

特に、日本は海外から多くの野生生物に派生した製品や原料を輸入・消費して使っています。

インドネシアの森で違法に伐採された木材。

しかし、こうした消費や取引が、一部の野生生物の乱獲による減少を招き、絶滅の危機を大きくする要因になっています。

そこで、1973年、その過剰な利用を防ぐために、野生の動植物の国際的な取引(輸出入)を規制・管理する国際条約が採択されました。

「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の取引に関する条約:CITES)」です。1980年に加盟した日本も、その締約国の一つとなっています。

2016年に南アフリカ共和国で開かれたワシントン条約第17回締約国会議(CITES COP17)のエンブレム

「種の保存法」とワシントン条約

この条約では「附属書」と呼ばれる3万5,000種にのぼる動植物のリストを作成し、Ⅰ~Ⅲあるそれぞれのレベルに応じて、国際間の取引を規制しています。

しかし、「国際法」である「ワシントン条約」が取り締まれるのは、基本的に国と国の間で行なわれる国際取引だけ。

一度、なんらかの形でその国の中に規制対象の動植物が入り込んでしまった後は、それを守る力は持っていません。

つまり、「国際法」で規制対象となっている絶滅危機種の販売などを、国内で規制・禁止するには、各国がそれぞれ「国内法」を制定し、保護・管理のための体制や政策を整備、実施する必要があるのです。

イギリスのヒースロー空港で押収されたワシントン条約違反の物品。野生生物の国際取引を規制する「ワシントン条約」のユニークな点は、対象を生きた個体だけに限らず、剥製、爪や骨といった体の一部とその加工品まで含めていることです。識別やラベルによって対象種を含むと認識できるすべての形態が取引規制の対象となっているのです。

そこで、日本ではこのワシントン条約に対応する国内法の一つとして「種(しゅ)の保存法(絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律)」が整備されました。

この「種の保存法」では、ワシントン条約が対象としている動物や植物を、「国際希少野生動植物種」として指定し、日本国内での流通の管理について、規定しています。

「国際希少野生動植物種」に含まれるのは、ワシントン条約が取引規制の対象としている種のごく一部(789種類)にすぎませんが、それでも、ここで指定された動植物の日本国内での取引(売買や譲渡など)は、原則として禁止。

例外的にこれを認める場合も、環境省の定める要件(たとえば、ワシントン条約が適用される前から所持していた個体であること、など)を満たした上で、個体ごとに登録を行なうことが求められる規則になっています。

実際、「国際希少野生動植物種」には、ワシントン条約で規制の対象となっている、熱帯魚のアジアアロワナや、観賞用に人気の高いパフィオペディルム属のランなど、ペットや栽培目的の取引で人気のある動植物が含まれるため、こうした一連の規制には、一定の効果が期待されてきました。

ヒースロー空港で押収された象牙の加工品。生きた状態で日本にやってきた動植物を日本国内で繁殖させ海外に輸出すること、また輸入した皮革や象牙、宝石サンゴなどを加工し製品化して輸出することも、すべて野生生物を利用した国際取引の一部です。

「種の保存法」改正のポイント: 個体識別措置について

求められる希少野生動植物種の流通管理強化

しかし、この管理体制には課題があることも明らかになりました。

たとえば、登録する個体の年齢を偽り、条約の適用前から飼育している体裁で申請を行なったり、死んでしまった個体の登録票を、生きている別の個体の物として使い回し、取引を行なう、といった違反行為が続いたためです。

中には、「この登録票があれば、アジアアロワナを売買できます」といった触れ込みで、死んだ個体の登録票自体をオンラインで販売する、といった、そもそもの制度とその意味を理解していない行為も認められました。

そこで、今回2017年の「種の保存法」の法改正では、登録の「更新義務(5年以内)」とマイクロチップの埋め込みなどを利用した、個体識別をするための措置を講じることが定められ、それを登録票に記載することも義務化されました。

アジアアロワナ

また、虚偽の申請や、記載事項の不備に対する登録の拒否、その他、違反行為が認められた際の登録の取り消しも、改正案には盛り込まれています。

これらは、WWFとトラフィックが、長年求めてきた改善点であり、歓迎すべき内容といえます。

しかし、課題もまだ残ります。
たとえば、厳正化される個体識別のルールが、どの動植物に適用されるかは、環境省の「省令で定めるもの」に限定されており、その内容やルールがいまだ明確になっていません。

また、大きさや生息環境がそれぞれ異なる、すべての動植物種について、同じ方法で個体識別を行なう、というのも、技術的には大きな困難が伴います。

このため、個体識別を行なう対象を当面限定することについては、やむを得ないとしても、WWFとトラフィックとしては、生きた個体はすべて対象とすべきと考えています。

対象種の選定は、手続きや対策の手間の大きさではなく、その動植物を脅かす危機が、どれくらい大きいのかで選定すべきものです。

「種の保存法」改正のポイント: 象牙に関わる改正について

日本国内の象牙をどう管理するか

もう一つ、今回の「種の保存法」の改正で注目される内容として、象牙の流通管理制度の改正が挙げられます。

国際希少野生動植物種に指定されているアフリカゾウの牙=象牙は、日本ではハンコやアクセサリー、楽器の部品など、さまざまな形で古くから利用されてきました。

象牙は言うまでもなく、ゾウの体の一部ですから、ワシントン条約では現在輸出入が禁止されているだけでなく、日本においても、「種の保存法」に基づき、国内での取引が規制・管理の対象となっています。

日本では現在、象牙の輸出入や国内での売買、譲渡が原則的に禁止されています。

タイのバンコクに持ち込まれる途中、ベルギーのブリュッセル空港で押収された52kgの象牙の一部。木の色に着色されていました。

しかし、国内でアフリカゾウの象牙の合法的な販売が認められている、2つの例外があります。

一つは、1989年のワシントン条約会議の決定で、象牙の国際取引が禁止されるより前に、日本に持ち込まれた象牙。つまり、規制前から国内に存在した象牙。

もう一つは、ワシントン条約会議での国際的な合意の下、数量と回数を限り、1999年と2009年の2回にわたって、日本が合法的に輸入した象牙です。

この限定輸入の象牙は、アフリカゾウの生息状況が安定していた南部アフリカ諸国(ナミビア、ジンバブエ、ボツワナ)から、密猟由来ではない、自然死したゾウなどの象牙で、その売上資金はゾウの保全活動および地域の開発に利用する、という取り決めでした。

南アフリカ共和国クルーガー国立公園でストックされている象牙。これらはいずれも自然死したゾウの牙などで、当局により厳重に管理されています。これまで比較的ゾウの密猟が少なかった南部アフリカ諸国は、ワシントン条約事務局の監視下で、こうした管理象牙の合法的な輸出許可を久しく求めてきました。

この時、ワシントン条約の専門家パネルは、違法な象牙が国内での流通に紛れ込まないよう、輸入する側の日本の管理制度について、厳しい条件を示しました。

これを受け、日本政府は1999年と2004年「種の保存法」を改正。

すでに実施していた、牙のままの形をとどめた「全形象牙」の登録制度や、象牙を取り扱う一部の業者に対する事業者届出制度などを改正し、象牙を扱うすべての事業者(扱う形態を問わず製造・卸売・小売業者)を届出の対象とするなど、管理体制を改善し、南部アフリカ諸国からの象牙輸入を行ないました。

しかし、1989年の象牙の国際取引全面禁止を受けた国内での利用自粛の風潮や、その後の景気の後退により国内におけるハンコをはじめとする象牙市場は縮小。ハンコの取引市場の規模も1989年比で約10分の1となり、今も残る象牙の需要についても、2回の例外的な輸入の在庫でまかなわれていると考えられています。

「届出」から「登録」へ 象牙取扱事業者の認定

しかし、こうした日本国内での象牙管理体制の改善も、決して万全といえるものではありませんでした。

何より、WWFジャパンとトラフィックが強く指摘し、改善を求めてきたのは、象牙の一部やハンコやアクセサリーなど製品の取引を行う事業者の管理を「届出制」に頼っていたことです。

届出をする際の審査や要件もなく、また違反行為による処罰(届出取消など)がなかったのです。正しく事業をおこなっているかどうかは精査されていませんでした。

また、事業者が自主的に届出情報を公開している場合もありますが、あくまでも自主的な取り組みであり、事業者側が何もしていなければ消費者が確認することはできませんでした。

これでは、象牙の国内市場の状況を正確に把握できず、適正に取引を行っていることが担保できていたとは言えません。

そうした中、今回の「種の保存法」の法改正では、象牙を扱う事業者を「特別国際種事業者」として新たに指定し、現在の「届出制」から「登録制」へと変更する法案が提示されました。

日本における象牙市場の縮小の歴史をまとめたトラフィックの報告書『SETTING SUNS:The Historical Decline of Ivory and Rhino Horn Markets in Japan』(2016年)

これにより、象牙を扱う事業者は国に対し、「届出」から、「登録」を行なうことが義務付けられることになります。

しかも、この登録に際しては、保有する全形象牙が全て登録済であることなど、定められた要件を満たしていることが必要とされます。

また、一般の消費者に対し、事業者登録番号を表示する義務や、事業者情報の公開を行なうといったことも、改善内容に盛り込まれました。

この対応によって、今まで正当に届出をしている事業者かどうかを、消費者には確認する術がなかった課題が解消されることになります。

その他、5年毎の登録の更新や、虚偽の申請・立ち入り検査で発覚した違反行為による登録の取り消し、全形象牙から切り出したカットピース等の記録をつけることも義務化されました。

事業者の登録制導入は、かねてからWWFジャパンとトラフィックが求めてきた重要な点であり、それが今回の改正で、改善される兆しが見えてきたことは、歓迎すべきことです。

残る課題

象牙(全形)の所持に関する登録

今回の「種の保存法」の改正に際して、もう一つ提示された象牙に関する法案は、事業者に対する「全形象牙(牙の形を保持した象牙)」の所持についての規制です。

現在、日本では全形象牙の売買や譲渡、貸し借り等を行なう際には、事業者、個人を問わず、一本ずつ国に登録すること、さらに販売・頒布目的の取引の際には、その登録票を備え付けることが義務付けられています。

しかし、見方を変えれば、取引などの「移動」が無い限り、全形象牙がどこに、どれくらいあるのかは、分からないままとなります。

つまり、日本国内にはどれくらい全形象牙が保有されているのか、それを知る術はなく、違法なものが紛れ込んだとしても、また、国外に違法に持ち出されたとしても、判別することが困難であるということです。

これを改善するためには、日本が持つ全形象牙の在庫について、1本1本、全て登録し、定期的に情報更新することで総数を把握しながら、印をつけ(マーキング)追跡できるシステムを構築する必要があります。

カメルーンのブバ・ンジダで密猟されたアフリカゾウ(2012年)。象牙を狙った組織的な密猟が深刻化しています。

今回の「種の保存法」の改正では、その一つのステップとして、事業者に対して全形象牙の「保有」についても、登録を義務付けることが提案されました。

しかし、個人が所有する象牙については依然全容がわからないままです。

個人所有を含める国内の在庫を把握しマーキングするようなシステムの構築が実現すれば、全形象牙の在庫量と、その変化についてのデータが得られるようになり、違法に持ち込まれた場合、それを取り締まることがより容易になります。

アフリカで年間2万頭ともいわれるゾウが、密猟の犠牲になっているとされる中で、象牙の違法取引に日本が加担しないことを保証するためには、この国内在庫をより徹底して把握することは、必要な対応です。

懸念される日本からの密輸

また、象牙をめぐる問題は、これだけではありません。
日本から国外への象牙の違法な流出という懸念があります。

これまでにも日本が輸出元とされる象牙や象牙製品が海外で押収されており、日本の市場管理の課題が指摘されていました。

こうした、水際監視の強化は「種の保存法」の改正によってできるものではなく、税関の取り締まり強化などによって、対応しなくてはなりません。

そして、こうした対応は日本に取り組むことが可能な、国際的なゾウ保護活動への貢献にもなるものです。

どのような形であれ、違法に流通し、闇市場を活性化させるような象牙が増えることは、生息地のアフリカ諸国で、ゾウの密猟をさらに激化させる引き金になりかねないためです。

全形象牙の登録とともに、マーキングの制度が確立されれば、海外で違法に押収された象牙が日本由来かどうかなどについても、確認できるようになることが期待できます。

さらに、象牙を取り扱う国内の事業者や、全形象牙だけでなく、ハンコなどの形に加工された個々の製品についても、合法なものは認定を受けることを義務化し、トラッキング(追跡)できるようにすれば、日本市場に違法な象牙が紛れ込むリスクも、より高い確度で防ぐことができるでしょう。

世界のゾウ保護に貢献するひとつの方策としても、日本が象牙管理を通じて違法な象牙の取引に加担しないよう、流出の防止を含めた、総合的かつ強化された市場の管理を徹底して、日本市場から違法取引を完全に排除することが、強く求められます。

WWFジャパンとトラフィックは、日本政府と関係者がその実現に向け、確かな意志をもって対応できない場合は、象牙の国内取引を禁止する、といった厳しい措置を選択する必要があると考えます。

「種の保存法」の改正による改善の可能性

今回の「種の保存法」改正にあたって示された改善点は、象牙の問題を全て解決できるものではありません。

それでも、違法な象牙を日本から締め出してゆく上で、効果が期待されるいくつかの改正案は提示されることになりました。

また、象牙を含む「国際希少野生動植物種」に関連した改正案については、特に指定される内容の詳細の多くが、国会での法改正の成立後、環境省でまとめる政省令に委ねられているため、今後、同省から示される施行令や施行規則の内容がどのようなものになるかが、極めて重要です。

いずれも、実際の施行の状況が確認できるまでは、是非の判断は控えねばなりませんが、それでも法的な裏付けをもって、今の日本が直面する希少な野生動植物の保全を改善しようという意思は、示されたといえます。

WWFジャパンとトラフィックは今後も、「種の保存法」が日本の自然保護によりよい効果と影響を及ぼすように、問題点の指摘と、その改善案の提示を行なっていきます。

*「【シリーズ】改正!種の保存法」では、次回は4つ目の改正のポイントとして、自然や野生生物の危機を評価する「科学委員会の法定化」についてお伝えいたします。

関連情報


補足情報

*全形を保持した象牙について

1.ゆるやかに弧を描き、根元から先端にかけて先細るといった一般的に象牙の形と認識できるものを、全形が保持されている象牙として扱う。具体的には以下の通り。   

(1)管理票の記載その他の情報により、分割されたこと(形状を整えるための軽微なものは除く。以下同じ。)が確認できないものは、以下の通り扱う。
  ①先端部を含み、歯随腔が確認できる象牙は、全て全形を保持している象牙として扱う。
  ②先端部を含み、歯随腔は確認できないものの、長さが20cm以上の象牙は、全形を保持している象牙として扱う。
  ③先端部を含むものの、歯随腔が確認できず、長さが20cm未満の象牙は、全形を保持している象牙ではないものとして扱う。
(2)管理票の記載その他の情報により、分割されたことが確認できるものは、全形を保持している象牙ではないものとして扱う。    
(3)象牙の一部が欠けている場合であっても、一般的な象牙の形を認識することができる程度であれば、全形を保持しているものとして扱う。

2.全形を保持している象牙に加工を施したもの(例:磨牙、彫牙)は、その彫りの程度や、追加の部品の有無等の加工の程度に関わらず、一般的な象牙の形又は象牙の形を含むと認識することができる場合は、全形を保持している象牙の加工品として扱う。

(出典:環境省 www.env.go.jp/press/102876.html)

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