ラムサール条約について

この記事のポイント
ラムサール条約の正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。ラムサール条約は、地球規模で移動する渡り鳥を保護するために、国家間で協力して水辺の自然「ウェットランド」を保全することを目的とした環境条約。しかし現在は、国境を越えて広がるウェットランドを「流域」という大きな視野で捉え、その保全を目指すとともに、そこで育まれる健全な淡水資源の「賢明な利用(ワイズユース)」の促進をより大きな目標として掲げています。
目次

ウェットランドの価値と役割

ウェットランドとは、浅い開放系の水域- 湖、池、河川、海岸の外縁部-そして、規則的に、またはある時期に水で覆われる土地や、水で充満する土地-湿原、沼沢地、氾濫原やそれらに類する土地-のことです。何世紀にもわたって人類はウェットランドを、「開拓したり、農業のようなはっきりした利用目的のために改修したりすべき土地」とみなしてきました。

そして、近代のめまぐるしい経済の発展と開発は、湿原や干潟などのウェットランドの環境に、多大な悪影響を及ぼしてきました。価値のない土地とされた干潟や湿地などは、大規模な埋立てや干拓により次々と破壊されて行き、見る見るうちに減少と質的な変化(乾燥化等)を遂げていったのです。

湿原、干潟、湖沼などのウェットランドは、水系の流量調節を行ない、また、水を浄化させるすばらしい能力を持っています。また、それぞれのウェットランドは、特有の動植物、とりわけ水鳥にとっての重要な生息場所となっているのです。多くの生命が息づく、豊かな生態系。それが、ウェットランド。多様な生態系の保全や、水質や水量の適切な管理を考えたとき、私たちはウェットランドの果たす役割の大きさに気付くはずです。

そこで、地球規模で失われつつあるウェットランドの生態系を保全することを、特に国境を越えて旅をする水鳥たちの生息地であるウェットランドを保存する事を、必要とする認識が、1960年代から西ヨーロッパ諸国を中心に高まってきました。
この湿地保全運動の盛り上がりを背景にして、ヨーロッパ、北アフリカ、中近東を結ぶ渡鳥のルートを保全していこうという活動が、始められました。それをきっかけに、国際的に重要なウェットランドのリスト作成などが進められることになりました。

ラムサール条約の成立

ラムサール条約の正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」です。この条約は、1971年にイランのラムサールという小さな町で採択されました。ラムサール条約は特定の生態系を扱う唯一の地球規模の環境条約です。

ラムサール条約は、水鳥の生息地保全のために、湿地の生態系と生物多様性を保護し、賢明な利用に重点をおいて、各国が取るべき措置を規定しています。

条約締約国の義務


ラムサール条約は、地球規模で移動する渡鳥を保護するために、国家間で協力してウェットランドを保全することを目的とした条約です。第一回の会議に参加した国は、わずか18カ国でした。それが現在では約170カ国が、条約の締約国となっています。

日本では、自然保護団体を中心に、水鳥や生息地保護の気運が高まり、1980年に締約国となりました。締約国になるためには、その国にあるウェットランドを少なくとも一ヵ所、保全する場所として指定し、スイスのグランにある条約事務局に登録をしなければなりません(第2条)。
そして、締約国は、その国の制度によって、登録したウェットランドの保全を図り(第3条)、登録していないウェットランドについても、自然保護区を設け、調査を行ない、保全を図っていくことが義務づけられます(第4条)。

ラムサール条約は3年毎に締約国会議を開催しています。会議では、条約事務局の活動報告、事業計画、予算の承認などの他に、各国におけるウェットランド保護の状況の検討などが行なわれます。会議には世界のウェットランド保護の専門家、担当者が一同に集まり、意見を交換し合う場でもあります。

ワイズユースと流域保全

ワイズ・ユース(賢明な利用)について


ラムサール条約におけるウェットランドの保護は、「ウェットランドのワイズ・ユース(賢明な利用)」を基本原則としています。採択されたワイズユースの定義は、「湿地のワイズユースとは、生態系の自然財産を維持し得るような方法での、人類の利益のために湿地を持続的に利用することである。」というものです。

条約第3条1項では、「締約国は、登録簿に掲げられているウェットランドの保全を促進し、およびその領域内のウェットランドをできる限り適正に利用することを促進するため、計画を作成し、実行する。」と規定しています。

つまり締約国は指定登録地のウェットランドの保全を促すと共に、登録されていない自国のウェットランドについてもできるだけ適正に利用しなければならないということです。しかし、問題はこの「適正に」という言葉の解釈です。経済中心の現代社会においては「適正に」が、時としてあまりに人間の金銭的な利益に重きを置いて解釈される場合が多いのです。
例として観光利用の場合を挙げてみましょう。適正に管理された観光利用は、すばらしい自然を楽しむことや環境教育を学ぶことができる場を提供し、保護のための資金を生み出します。

一方で「適正に」管理する基準や利用の制約がなく、観光客が増えすぎたために、ごみが増えたり、トイレのし尿で水質が汚染されたり、観光用道路を作って生態系を分断したりと、環境を破壊する例も少なくありません。また、利潤を追求するあまり、客寄せのために野生生物に必要以上の餌付けを行ない、生態系のバランスを崩すなどの問題も生じています。

流域保全


現在のウェットランドのワイズユースにおける、基本的な考え方の一つが、「流域保全」です。
1996年にブリズベンで開かれた会議では、ラムサール条約の戦略計画として「集水域や沿岸域の環境管理」を各国に求める決議が採択されました。そして、1999年コスタリカで開かれた第7回ラムサール条約締約国会議では、防災や水資源の確保という視点からも、集水域という広域の環境保全を進めていくべきことが各国に対し強く求められました。

これは、条約従来の主目的であった、「水鳥を始めとする生物の生息にとって重要な湿地の保全」という枠組みを超え、「水」環境を広く捉えてその保全を図ることを目指した決議でした。

ここで登場したのが、「流域(または集水域)」という考え方です。これは言うなれば、一本の川の水を取り巻く周囲の広いエリア、つまり「集水域」のことです。水の環境を、この「流域」という広い視野で捉えたとき、流域全体に広がる山林や草地といったあらゆる景観が、一つのまとまった環境として見えてきます。

流域を丸ごと保全するのは容易なことではありません。しかし、逆にこの取り組みを実現することにより、一種一種の動植物の保護から、水資源の維持、流域の生態系の保全、さらに防災までを含む、幅広い環境保全が可能となるのです。そして、この取り組みこそが、21世紀における「水」環境の保全の主流に他なりません。

地球規模の環境保全が求められている今、ラムサール条約のような国際的な取り組みの重要性は、ますます高まりつつあります。

ラムサール条約の登録湿地

ラムサール条約では各国に存在する重要なウェットランドを、国際的な保全地域として登録する制度を設けています。この保全地域は、ラムサール条約に加盟している各締約国が、それぞれの国内でウェットランドの保護を行なったエリアを申請する形で登録され、正式には締約国会議で決定されます。

2018年7月現在で、条約に登録された湿地は、世界全体で 2,314カ所。
その合計面積は、2億4,561万4,112 ヘクタールにのぼります。

この登録は、条約事務局や締約国会議が一方的に決めるものではなく、各国が自らの意志で登録するものです。もちろん、登録が可能なのは、国際的にも豊かな環境であることが内外に認められ、なおかつ国が保護に取り組み、環境の保全が確認されたエリアに限られます。

指定登録地になるためには


国際的に重要な湿地を指定するための基準の概略は次の通りです。
ラムサール条約締約国会議では、ラムサール条約の規定を推進・実施するため、湿地の国際的重要性を確認する基準を作成しています。1999年にコスタリカで開かれた第7回締約国会議では、以下の基準が設けられました。

 

基準グループA:代表的、希少又は固有な湿地タイプを含む湿地
(基準1) 適当な生物地理区内に、自然の又は自然度が高い湿地タイプの代表的、希少又は固有な例を含む湿地がある場合。
基準グループB:生物多様性の保全のために国際的に重要な湿地
(基準2) 危急種、絶滅危惧種又は近絶滅種と特定された種、また絶滅の恐れのある生態学的群集を支えている場合。
(基準3) 特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合。
(基準4) 生活環境の重要な段階において動植物種を支えている場合、または悪条件の期間中に動植物に避難場所を提供している場合。
(基準5) 定期的に2万羽以上の水鳥を支える場合。
(基準6) 水鳥の一の種または亜種の個体群において、個体数の1%を定期的に支えている場合。
(基準7) 固有な魚類の亜種、種、または科、生活史の一段階、種間相互作用、湿地の利益もしくは価値を代表する個体群の相当な割合を維持しており、それによって世界の生物多様性に貢献している場合。
(基準8) 魚類の重要な食物源であり、産卵場、稚魚の生育場であり、または湿地内もしくは湿地外の漁業資源が依存する回遊経路となっている場合。

これは、基準の一部でしかありませんが、これらの基準は間接的に私たち人間が利用している淡水や水産資源の保全にもつながるものです。

ラムサール条約の公式サイト

WWFの取り組みとかかわり

民間の立場でウェットランドを含む環境保全に取り組むWWFは、ラムサール条約が公式パートナーとして認めている6つの団体の一つに選ばれています。

国際条約とは国と国の代表が話し合う場であり、議決権を持つのも各締約国の代表に限られます。
しかし、ラムサール条約では、WWFのようなNGO(非政府組織)も参加ができる仕組みになっています。

WWFは締約国会議に世界各国のスタッフを送り、国という枠組みを超えた視点で、よりウェットランドの保全に貢献する取り組みと議決が行なわれるよう、評価や提言を行なっています。

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