シベリアトラの森は守れるか?先住民が参加する「ビキン国立公園」の保全


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

「ロシアのアマゾン」とも呼ばれる豊かな森が広がる、極東ロシア、沿海地方のビキン川流域。シベリアトラの約1割が生息するこの地域に、新たな保護区「ビキン国立公園」が設立されたのは、2015年11月のことでした。それから1年。保全のための法令がいよいよ施行され、注目されていた先住民の人々による取り組みが本格的に始まりました。現地より届いた新たな動きについてご報告します。

「ロシアのアマゾン」を守れ!国際協力が実現した保全プロジェクト

極東ロシアのビキン川流域には、今も1万1,600万平方キロ(東京都の5倍以上)の広さを持つ原生林が残されています。

この手つかずの森は、針葉樹と広葉樹が織り交ざり、ヒグマやツキノワグマ、オオヤマネコ、二ホンジカ、アカギツネなど、温帯と寒帯に生きる多くの野生生物が息づく場所で、その豊かさから「ロシアのアマゾン」とも称されています。

また、ここは最大で約540頭と推定されるトラの亜種シベリアトラ(アムールトラ)の全個体数の10%が生息する重要な地域であるとともに、ウデヘ、ナナイといった昔から森の中で暮らしてきた先住民の人々にとっても大切な場所です。

ビキン川流域で森林保全プロジェクトはスタートしたのは2009年。

ロシア政府とWWFロシア、そして地元の先住民の人々が作った企業「タイガー」の協力に加え、ドイツ連邦環境省とドイツ復興金融公庫、さらにWWFドイツの支援が、その実現を後押ししました。

国際的な協力によって集められた活動資金は、森林を利用する権利の借り上げや、自然環境などの調査、森林火災の防止基準の策定をはじめとする管理計画の制定、密猟防止活動などに活用されました。

その後も、ロシアとドイツの両政府がプロジェクト推進に向けた協力体制を固める一方、WWFや先住民の人々による具体的な保全策の策定と実施が進展。

2013年11月にはプーチン大統領が新たな国立公園設立の大統領令に署名し、その2年後の2015年11月3日、ついに「ビキン国立公園」が誕生したのです。

プロジェクト開始から6年。WWFもその実現に全力を注いできた、新たな森の聖地が生まれた瞬間でした。

国立公園設立から1年、先住民参加による保全がスタート

この取り組みは、世界で極東の森にしか分布していないシベリアトラがすむ原生林の、確実に保全できる手立てを実現するものとなりました。

何より特筆すべき点は、このビキン国立公園が、伝統的な生活様式を今も保ち続ける先住民の権利を保障する形で設立されたことです。

こうした先住民への配慮を明らかにした保護区のために、十分な国家予算と職員数が確保され、連邦政府の保護地域としてしっかりと管理していく方針が打ち立てられたのは、ロシアでは初めてのことでした。

そして設立から1年近くが経った2016年9月20日、ビキン国立公園に関する法令が施行されました。

この法令の作成にあたっては、WWFと沿海州地方政府のサポートの下、先住民の代表者らが提案書を作成。これを基に、ロシアの環境天然資源省が法令案としてまとめました。

先住民の人々は、実質的に国立公園を共同管理として、ビキンの森の保全にかかわることになったのです。

始まった新しい取り組みのかたち

法令では、先住民コミュニティはビキン国立公園の3つのゾーン(レクリエーション、経済的利用、および自然利用が可能なゾーン)で伝統的な生活様式を維持することが認められています。

この3つのゾーンの合計は8,00平方キロ(東京都の約4倍)に上り、これは沿海州の5%に相当します。

そして、こうした先住民の権利を確実に行使するため、先住民の代表で構成される特別協議会が組織されました。

ビキン川の流れ

この特別協議会には、先住民に認められた限定的な狩猟が可能な区画や、マツの実やワラビなどを収集できる区画の割り当て、また人の立ち入りを禁止した地域の保存や、エコツアーのインフラを整備を行なう場所の選定など、幅広い権限が与えられる一方、その代表は公園内での伝統的な自然利用について、責任を持つことになります。

先住民の人々が、伝統的かつ持続可能な森での暮らしを続け、国立公園の自然が保全に貢献してゆく上で、今後の特別協議会の役割には、大きな期待が寄せられています。
さらに、法令の施行と同時に、ビキン国立公園の園長に、先住民の人々が推薦するアレクセイ・クドリャフツェフ氏が正式に任命されました。

ビキン川を下るWWFロシアのトラ調査保護チームのメンバーたち

クドリャフツェフ氏はウデヘの村で10年以上にわたり、野生生物学の専門家としてトラの保全活動に従事。

経験豊富なウデヘ族の一員となって、ビキンの保全にかかわってきました。

ロシア大統領府もまた、さまざまな候補者の中から、クドリャフツェフ氏を選んだウデヘの人々に、大きな信頼をおいています。

このように、ビキン川流域の広大な自然の中で、先住民の人々は森と共に、自分たちの暮らしと伝統を、自らの手でも守ることができるようになりました。

シベリアトラ。世界で最も北にすむトラの亜種です

このプロジェクトのように、先住民の人々の土地と暮らしがに寄り添った取り組みの例は、まだ決して多くはありませんが、WWFはこれからも先住民の人々と協力しながら、森とトラの保全を支援してゆきます。

また、ロシア産の木材を輸入、利用している日本でも、持続可能な方法で生産された木材製品の購入を推進することで、その取り組みを後押ししていきます。

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