「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト


九州から台湾にかけて連なる南西諸島。温帯と亜熱帯、双方の気候と動植物相をあわせもつ南西諸島は、世界的に見ても貴重な自然環境が、今も残る場所です。 WWFジャパンは、2006年10月より2009年3月にかけて、ソフトバンクモバイル株式会社の携帯電話のリサイクル収益金による支援を受け、「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト(南西諸島生物多様性評価プロジェクト)を実施しました。

プロジェクトの概要

このプロジェクトでは、GIS(地理情報システム)を用いて、様々な生物・環境情報を処理し、生物多様性優先保全地域(BPA:Biodiversity Priority Area)を抽出しました。

その成果を「南西諸島生きものマップ」として公開することを通じて、南西諸島における生物多様性地域戦略の策定への関心を喚起し、保全と持続的な利用の促進を目指したものです。プロジェクトは、50名以上におよぶ哺乳類、鳥類、サンゴ類などの多様な分野の専門家や地域NPO、行政関係者の協力を得て実施しました。

対象地域

鹿児島県及び沖縄県にまたがって広がる南西諸島の陸海域

  • 大隅諸島、トカラ列島、奄美諸島
  • 沖縄諸島、大東諸島、宮古諸島、尖閣諸島、八重山諸島

プロジェクトの構成

  1. 生物多様性優先保全地域の地図作り
  2. 緊急フィールド調査
    ・ 哺乳類、両生爬虫類、昆虫類、甲殻類、貝類
    ・ 海草藻類、造礁サンゴ類
  3. 自然資源の現状と保全に関する住民意識アンケート調査
    ・ 石垣島、奄美大島

協力者

哺乳類、鳥類、両生爬虫類、昆虫類、魚類、甲殻類、貝類、海草藻類、造礁サンゴ類を専門とする研究者や地元有識者。プロジェクト会合にオブザーバーとして、環境省、林野庁、沖縄県、鹿児島県の担当部局が出席。

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問題と機会

南西諸島は、その生物多様性の豊かさから世界自然遺産の候補地となっています。
しかし、ヤンバルクイナなど在来の生物に悪影響を及ぼす外来種への対応、法的な保護区域の面積が不十分であるといった課題が指摘されており、登録には至っていません。
また、自然環境を不可逆的に破壊してしまう埋め立てなどの開発行為も少なくありません。

一方、2008年には生物多様性基本法が施行され、県や市町村は生物多様性地域戦略を策定することが規定されました。
南西諸島の自然環境の保全に限らず、その恵みを賢明に活用した地域の活性化、持続的に利用した次世代への継承を目指すためには、「南西諸島生物多様性地域戦略」を作ることが必要です。

これまでの主な活動

  • 「地域検討会の開催」(2007年9月、2008年6月、2009年6月)
    哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、魚類、甲殻類、海草・藻類、昆虫類、貝類の専門家らが一同に会し、それぞれ の生物群にとって重要な地域の素案し、生物多様性優先保全地域の選定方法・基準を検討。
  • 「重要サンゴ群集選定会合」(2007年9月、2007年11月、2008年3月)
    日本サンゴ礁学会保全委員会と共同で、南西諸島の重要サンゴ群集の選定方法、潜水調査プロトコールを検討。 2008年7月、選定した154群集を発表。同年8月から10月にかけて、潜水調査を実施。
  • 「フィールド調査」(2007年12月~2009年10月)
    【哺乳類】 沖縄本島産希少哺乳類の生存と分布の確認調査
    【ウミガメ類】薩南諸島のウミガメ類の重要産卵地の抽出
    【昆虫類】移動力の低い昆虫類の分布調査(奄美大島、宮古島)
    【甲殻類】琉球列島の飛沫転石帯に生息する甲殻類
    【甲殻類】沖縄島大浦湾沿岸における甲殻類の種多様性について(速報)
    【貝類】種子島の陸産および陸水産貝類の現況調査
    【貝類】喜界島における非海産貝類の現況調査
    【海草藻類】大隅諸島(屋久島・種子島)及び奄美大島における海草藻類
    【サンゴ類】 南西諸島重要サンゴ群集広域一斉調査と画像解析
    【アンケート】 自然資源の保全と利用の将来像に関する住民調査報告書
  • 「生物多様性優先保全地域地図を公開」(2009年12月)

主な成果物

生物多様性優先保全地域地図が出来るまで

地図が出来るまで

生物多様性優先保全地域(BPA)は、生物群重要地域(TPA)の重なりや島々に生息する固有種の分布、自然度の高い植生や海岸環境の有無、集水域等を考慮して抽出しました。

BPAの抽出には、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、昆虫類、魚類、甲殻類、貝類、海草藻類、サンゴ類といった生物群ごとに作成した重要地域のデータを用いました。また、集水域、植生自然度、自然海岸のデータも既存のデータを活用しました。

以下は、久米島を例に、それぞれのテーマや生物群ごとに、重要なエリアを示した地図です。

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GISを用いて様々なデータを重ね合わせると、TPAが多く重なる領域、自然度が高い環境やTPAが多く集まる集水域を視覚化することが出来ます。BPAは、全てのTPAの和集合に占めるBPAの面積が30%以上となる条件を設定し、抽出しました。

今回公開した「生物多様性優先保全地域地図」は、南西諸島を広域的に、また、土地利用などの社会状況を加味せず、自然科学的な視点で捉えたものなので、色分けした区分が、厳密に保護区もしくは開発の適地であることを示したものではありません。

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TPAなどを重ね合わせて作成した地図

今回のプロジェクトで得られた地図、抽出手法、課題等の情報を「たたき台」「呼び水」として活用し、様々な関係者が連携した「地域版・多様性マップ」を作成する必要があります。

この「地域版・多様性マップ」は、生物多様性地域戦略を策定する上での基盤となります。
地図づくりをきっかけとした地域づくりを進めていきましょう。

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これから期待される展開

今回のプロジェクトの結果をもとに、BPAに占める保護区の割合を見たところ、奄美諸島の陸域と沖縄諸島の海域では共に10%ほどである一方、八重山諸島の陸海域では70%以上が保護区となっており、地域により保護区設定の落差が大きいことが分かりました。

以上の観点から、WWFジャパンでは、県・市町村に対しては、生物多様性基本法に基づいた南西諸島の「生物多様性地域戦略(*)」の早期策定を、また政府に対しては、奄美・沖縄地域の振興開発計画における生物多様性分野への予算化を働きかけていきます。

  • (*)生物多様性地域戦略:2008年6月に施行された生物多様性基本法では、地方公共団体が生物多様性地域戦略を策定することが努力義務として規定されている。戦略には、対象とする区域、当該区域内の生物多様性保全及び持続可能な利用に関する目標、総合的かつ計画的に構ずべき施策を定める必要がある。

地域レベルでの戦略策定の意義について

WWFジャパンのサンゴ礁保護研究センターでは、白保自治公民館と連携し、「白保村ゆらてぃく憲章」の策定を支援しています。ゆらてぃく憲章は、村づくりの基本計画として位置づけられるものですが、"海と緑と心を育む、おおらかな白保"を将来目標とし、さらに「世界一のサンゴ礁を守り、自然に根ざした暮らしを営みます」として、サンゴ礁の保全を盛り込んでいます。また、サンゴ礁文化の継承や、自然と調和した産業の育成にも取り組むことが謳われています。

この憲章の制定は、サンゴ礁保全が地域で合意された重要課題と位置づけられたことを意味しており、白保自治公民館を中心に、村を挙げたサンゴ礁保全への取り組みを可能としています。憲章の策定前は、ボランティア活動として捉えられてきた自然保護が、地域づくりの一環として位置づけられたことで、多様な主体の参加や活動の広がりが見られるようになっています。

南西諸島は小さな島々からなり、それぞれに特徴のある自然生態系を有しており、生態系サービスを多面的に享受してきた暮らしと文化を有しています。南西諸島生物多様性優先保全地域の発表を機に、島ごと、地域ごとに地域の自然や生態系への関心が高まり、生物多様性の価値や重要性が再認識され、地域社会と自然環境が共生する地域マップづくりや地域戦略の策定に向け、WWFジャパンも一層の努力をしてゆきます。

 

関連情報

久米島応援プロジェクトについて

ソフトバンクモバイル株式会社の支援

ソフトバンクモバイル株式会社では、ソフトバンクショップなどで携帯電話を回収し、そのリサイクルによって発生した収益を社会貢献活動として、2002年度より毎年多様な団体に寄付しています。2005年1月に実施した携帯電話利用者向けアンケートの結果、リサイクル収益の環境対策への使用を望む回答が全体の68%と最も多かったことから、2005年度のリサイクル収益の寄付先としてWWFジャパンが選定され、「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトが支援されることになりました。

ソフトバンクモバイル株式会社 ケータイリサイクル について

南西諸島生物多様性評価プロジェクト 協力者 一覧

哺乳類
伊澤 雅子   琉球大学理学部 
山田 文雄   森林総合研究所
半田 ゆかり  奄美哺乳類研究会
阿部 優子   奄美哺乳類研究会
舩越 公威   鹿児島国際大学  
丸山 勝彦   沖縄県立首里東高校  
阿部 愼太郎 環境省那覇自然環境事務所

鳥類
中村 和雄 沖縄大学大学院非常勤講師
高 美喜男  奄美野鳥の会
川口 和範 奄美野鳥の会
川口 秀美  奄美野鳥の会
鳥飼 久裕  奄美野鳥の会
佐野 清貴 カンムリワシリサーチ 
嵩原 建二  沖縄県立美咲特別支援学校
花輪 伸一 WWFジャパン

両生類・爬虫類
太田 英利 兵庫県立大学
岡田 滋 鹿児島県環境技術協会 
亀崎 直樹  日本ウミガメ協議会   
戸田 守  琉球大学熱帯生物圏研究センター
亘 悠哉  森林総合研究所

昆虫類
屋富祖 昌子 元琉球大学農学部  
山根 正氣  鹿児島大学理学部
渡辺 賢一  県立八重山農林高校 
長田 勝  
松比良 邦彦 県農業開発総合センター
前田 芳之   芳華園      
山室 一樹  奄美マングースバスターズ

魚類
立原 一憲  琉球大学理学部
太田 格 沖縄県水産海洋研究センター 
米沢 俊彦  鹿児島県環境技術協会

甲殻類
藤田 喜久  海の自然史研究所    
鈴木 廣志  鹿児島大学水産学部
成瀬 貫   琉球大学 
諸喜田 茂充 琉球大学名誉教授

貝類
黒住 耐二  千葉県立中央博物館    
小菅 丈治  東海大学沖縄地域研究センター
名和 純   潟の生態史研究会

海草藻類
香村 真徳  沖縄県環境科学センター
吉田 稔 有限会社海游

造礁サンゴ類
興 克樹    ティダ企画有限会社
酒井 一彦   琉球大学
山野 博哉   国立環境研究所
安部 真理子 沖縄リーフチェック研究会 
井口  亮    琉球大学理工学研究科
入川  暁之  慶良間海域保全連合会 
岡地  賢    有限会社 コーラルクエスト 
木村  匡    自然環境研究センター 
佐藤  崇範   環境省石垣自然保護官事務所 
鈴木 倫太郎  駒澤大学応用地理研究所
野沢 洋耕   黒潮生物研究所
藤井 賢彦   北海道大学
小林 朋代   国際サンゴ礁研究・モニタリングセンター
山川 英治   沖縄県環境科学センター
長田 智史   沖縄県環境科学センター
上野 光宏   石西礁湖サンゴ礁調査(個人事業所)
松本 毅    YNAC 屋久島野外活動総合センター
梶原 健次   宮古島市役所

植物
横田 昌嗣   琉球大学理学部      
久保田 康裕  琉球大学理学部 

GIS他
柴田 剛    エアロ・フォト・センター
島崎 彦人   国立環境研究所
中井 達郎   国士舘大学
岡松 香寿枝  Coaching STEP

行政 (オブザーバー)
林野庁  九州森林管理局 
林野庁  鹿児島森林管理署 
林野庁  沖縄森林管理署 
林野庁  西表森林環境保全ふれあいセンター 
環境省  自然環境計画課 
環境省  那覇自然環境事務所 
環境省  奄美自然保護官事務所 
鹿児島県 環境保護課 
沖縄県  自然保護課 

WWF
上村 真仁  サンゴ礁保護研究センター
前川 聡   サンゴ礁保護研究センター
町田 佳子  自然保護室
草刈 秀紀  自然保護室
安村 茂樹  自然保護室

所属先は当時
敬称略・順不同


「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト関連 情報まとめ(2005年~2010年)

  • 「南西諸島生きものマップ」完成! 屋久島~沖縄の自然の豊かさを明らかに(2009年12月15日)
  • 沖縄島・大浦湾で35種以上の新種を確認(2009年11月25日)
  • 「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト 第三回地域検討会 報告(2009年8月5日)
  • オキナワトゲネズミの生息地が森林伐採対象地から除外(2009年4月21日)
  • オキナワトゲネズミの森が伐採の危機!?(2009年3月25日)
  • 奄美諸島でのウミガメ産卵調査 実施報告(2009年1月9日)
  • 南大東島で新種発見! 4800万年の歴史を物語る「生きた化石」(2008年12月10日)
  • 南西諸島の甲殻類の生息調査を実施(2008年9月20日)
  • 屋久島、種子島、奄美大島で藻類・海草類の調査を実施(2008年8月15日)
  • 沖縄諸島のサンゴ礁で広域一斉調査を開始(2008年8月1日)
  • 「重要サンゴ群集マップ」が完成 南西諸島のサンゴ群集域の現状が明らかに(2008年7月3日)
  • 「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト 第二回 地域検討会 報告(2008年7月2日)
  • 種子島でカタツムリなどの調査を実施(2008年6月18日)
  • 絶滅危機種オキナワトゲネズミの捕獲成功!(2008年3月5日)
  • 絶滅危機種オキナワトゲネズミの生息調査(2008年2月25日)
  • 「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト発足~携帯電話リサイクルによる収益で、南西諸島の「生物多様性調査」を実施~(2006年9月26日)

「南西諸島生きものマップ」完成! 屋久島~沖縄の自然の豊かさを明らかに(2009年12月15日)

2009年12月15日、WWFジャパンは、南西諸島の生物多様性優先保全地域の地図、通称「WWF南西諸島生きものマップ」を公開しました。多くの研究者の協力を得て、九州南端から台湾にかけて連なる、種子島、屋久島、沖縄、奄美などの島々に生息する、さまざまな野生やその生息環境を調査し、特に重要なエリアを明らかにした「WWF南西諸島生きものマップ」は、今後のこの地域の自然保護を進めてゆく際の確かな基盤となるものです。

3年越しのプロジェクトがついに完結!

今回、WWFが発表した「WWF南西諸島生きものマップ」は、南西諸島の哺乳類、サンゴ類、自然林、自然海岸などを調査し、それぞれの調査結果によって明らかになった地域を、地理情報システム(GIS)を用いて綜合したもので、南西諸島の中でも、とりわけ生物多様性が豊かで、優先的に保全すべき地域を明らかにしています。

2006年10月に、ソフトバンクモバイル株式会社の携帯電話のリサイクル収益金による支援を受けて発足した、この「WWF南西諸島生きものマップ」を制作するプロジェクトには、南西諸島の生物に詳しい約60名の研究者や地域の専門家が参加。調査の過程で、さまざまな生物の現状や、新種の存在を明らかにしました。

また、このマップ作成作業の中では、現状の保全対策が不十分である点も明らかになりました。奄美諸島と沖縄諸島の海域に、現在設置されている自然保護区が、今回のプロジェクトで明らかにされた重要な海域を、ほとんどカバーしていないことが分かったのです。

2010年の「国際生物多様性年」に向けて

2010年は国際生物多様性年。10月には名古屋市で、第10回「生物多様性条約」締約国会議(CBD-COP10)が開催されます。

世界が日本の生物多様性保全にも注目する中、WWFジャパンはこの会議に向け、「WWF南西諸島生きものマップ」を活用し、奄美・沖縄の地域振興を通じた南西諸島の自然保護を進めてゆきたいと考えています。

このために最も有効な方法の一つは、生物多様性基本法に基づいて策定できる「生物多様性地域戦略」を、南西諸島の自治体でも早期に策定し、市町村や市民団体、環境NGO、研究者の参加のもと、具体的な保全のあり方を検討してゆくことです。

WWFは、完成した「生きものマップ」を広く発信し、保全に向けた取り組みを呼びかけてゆきます。

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記者発表資料 2009年12月15日

南西諸島の生物多様性優先保全地域の地図を公開

【東京発】12月15日、WWF(世界自然保護基金)ジャパンは、南西諸島生物多様性評価プロジェクトの調査報告書集と、南西諸島における生物多様性の保全上重要な地域を示した地図を発表した。

こ のプロジェクトは2006年から2009年までの3年間にわたり、南西諸島の生物相に詳しい50名以上の研究者や地域の専門家の協力を得て実施したもの。 南西諸島の自然環境の現状を評価し、地理情報システム(GIS)を用いて、哺乳類、サンゴ類、自然林、自然海岸など、多様な生物群・生息環境の視点で、生 物多様性優先保全地域(BPA;Biodiversity Priority Area)を抽出したことが最も大きな成果である。

2010年1月から国際生物多様性年が始まり、10月には名古屋市で、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)が開催される。日本は議長国として2010年から2年間、国内外の生物多様性の保全と持続利用を確実に進める役割と責任を負うことになる。

今回のプロジェクトの結果をもとに、BPAに占める保護区の割合を見たところ、奄美諸島の陸域と沖縄諸島の海域では共に10%ほどである一方、八重山諸島の陸海域では70%以上が保護区となっており、地域により保護区設定の落差が大きいことが明らかとなった。

以上の観点から、WWFジャパンでは、県・市町村に対しては、生物多様性基本法に基づいた南西諸島の「生物多様性地域戦略(*)」の早期策定を、また政府に対しては、奄美・沖縄地域の振興開発計画における生物多様性分野への予算化を働きかけていく。

(*) 生物多様性地域戦略... 2008年6月に施行された生物多様性基本法では、地方公共団体が生物多様性地域戦略を策定することが努力義務として規定されてい る。戦略には、対象とする区域、当該区域内の生物多様性保全及び持続可能な利用に関する目標、総合的かつ計画的に構ずべき施策を定める必要がある。

南西諸島における生物多様性の保全上重要な地域

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  • <注 意>今回公表した地図は、自然科学的な観点から南西諸島の生物多様性を広域的に捉えたものである。BPAの区割りが、保護区設定が必要な区域や開発の適地 であることをそれぞれ厳格に示しているわけではない。社会状況を勘案し、多様な主体が参加した形での地域戦略策定を促す「呼び水」「たたき台」としての効 果を期待して公表するものである。

ダウンロード:南西諸島生物多様性優先保全地域地図

生物多様性優先保全地域(BPA)の地図が出来るまで

BPAは、生物群ごとの重要地域の重なりや島々に生息する固有種の分布、自然度の高い植生や海岸環境の有無、集水域等を考慮して抽出した。BPA地図は、以下の特徴を持つ。

  1. 多様な生物群、生息環境の視点
    BPA の抽出には、哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類、昆虫類、魚類、甲殻類、貝類、海草藻類、サンゴ類といった生物群ごとに作成した重要地域(TPA;Taxon Priority Area)のデータを用いた。また、集水域、植生自然度、自然海岸のデータも既存のデータを活用した。
  2. GIS(地理情報システム)を使った客観的抽出
    GISを用いて様々なデータを重ね合わせると、TPAが多く重なる領域、自然度が高い環境やTPAが多く集まる集水域を視覚化することが出来る。BPAは、全てのTPAの和集合に占めるBPAの面積が30%以上となる条件を設定し、抽出した。
    南西諸島BPAの面積: 陸域1,763平方km(陸域の約37%)、海域749平方km(水深20m以浅海域の約33%)

沖縄島・大浦湾で35種以上の新種を確認(2009年11月25日)

日本最後のジュゴンの生息海域として知られる、沖縄県名護市の大浦湾で、35種以上の新種のエビ、カニ類の生息が確認されました。これは、2009年6月に、WWFジャパンの「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として行なわれた調査により明らかにされたもので、今後の調査によりさらに種数は増えるものと予想されます。今回、新種が発見された大浦湾は、生物多様性が豊かな海域として知られており、今後、生物多様性地域の一つとして、保全のための戦略を策定してゆくことが求められます。

未知の生命が息づく大浦湾

沖縄島の東部沿岸には、遠浅の内湾的が多く、規模の大きな干潟や、海草藻場、砂地の海底など、さまざまな景観が見られます。

その一つである沖縄島東部の大浦湾では、数種の十脚甲殻類(エビ・カニ類)が発見されたほか、2007年には国内でも最大級のアオサンゴ群落が見つかるなど、とりわけ豊かな生物相が確認されており、その保全が求められてきました。

今回、新種が確認された調査は、2009年6月19日から25日まで、琉球大学の藤田喜久博士を代表研究者とする研究チームによりWWFジャパン「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として実施されたもので、大浦湾の河口部、およびサンゴ礁を除いた、海岸から水深60mまでの水域で行なわれました。

この結果、62科241属496種の十脚甲殻類が採取され、そのうち36種が新種(未記載種)、25種が日本で初めての記録となることが分かりました。

さらに、シャコ類(口脚目)についても、3種の新種と、4種の日本初記録種を確認。今回の調査期間が、短期間であり、また、サンゴ礁を調査対象から外していた点を考えると、大浦湾にはまだ多くの、未知の生命が息づいているものと思われます。

南西諸島の内湾環境

しかし、藤田博士らの調査チームでは、このような生物多様性の豊かさは、決して大浦湾だけのものではない、と見ています。

なぜなら、これまで沖縄をはじめとする南西諸島各地の内湾では、今回の調査のような、分類学的な視点に基づいた研究が、ほとんど行なわれてこなかったためです。

しかも現在、これらの内湾的な環境を持つ地域の多くでは、十分な調査もなされないまま、埋め立て事業や開発が進められています。

2008年6月に施行された生物多様性基本法では、生物多様性地域戦略を策定することが、努力義務として規定されていますが、戦略を策定した南西諸島地域の自治体は、今のところまだありません。
同地域の生物多様性の保全と持続利用の基盤となる戦略策定、生物データベースの構築は急務です。

WWFジャパンでは、この海域での米軍基地建設やその他の大規模開発をやめ、ジュゴンをはじめとするさまざまな生物を育む自然環境の保全を訴えて行きます。

また、多分野の専門家の協力を得て進めている「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の成果を公開し、科学者や行政、市民、NPOが協力した、生物多様性の保全と、資源の持続可能な利用に役立ててゆきたいと考えています。

なお、今回の甲殻類調査の結果は、2009年11月27日~29日に 沖縄県 本部町 中央公民館で開催される日本サンゴ礁学会第12回大会で発表される予定です。


記者発表資料 2009年11月25日

沖縄島・大浦湾沿岸で35種以上の新種甲殻類を確認

【東京発】沖縄島東部・大浦湾沿岸(沖縄県名護市)において、少なくとも36種の新種(未記載種)ならびに25種の日本初記録となる十脚甲殻類(エビ・カニ類)の生息が確認された。今回の発見は、NPO法人海の自然史研究所代表理事および琉球大学大学教育センター非常勤講師の藤田喜久博士(36)を代表研究者とする調査チームにより、WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)が「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として実施した調査で明らかとなった。調査結果の詳細は、2009年11月27日~29日に本部町中央公民館で開催される日本サンゴ礁学会で発表する。WWFジャパンでは、南西諸島地域の生物多様性の保全と持続利用の基盤となる「南西諸島生物多様性地域戦略」策定を強く促していく。

調査の背景

沖縄島の東部沿岸は、西部沿岸に比べて遠浅で内湾的な環境をもつ場所が多い。特に、大浦湾・金武湾・中城湾には、大規模な干潟、海草藻場、砂泥底質の海底などの特殊な環境が発達している。近年、本調査メンバーらは、金武湾や大浦湾沿岸から複数の十脚甲殻類の未記載種を発見している。また、ごく最近、大浦湾において国内でも最大級のアオサンゴ群落が見つかるなど、これらの内湾環境における特異な生物相が注目されつつある。

しかしながら、これらの環境は、埋め立てや水質汚染などの社会的・人為的影響を受けやすく、近年、十分な調査もなされぬまま環境が悪化している。同環境では、今後も新種発見などの学術的に重要な発見が続くものと予想されるが、これまでに十脚甲殻類相に関して網羅的な研究は行われていない。

今回の調査は、本来、従来十分な調査がなされてこなかった金武湾および大浦湾の十脚甲殻類相を解明するためのもの。しかし、調査チームを組織できる期間が短かったため、金武湾は短期間の調査対象としては規模が大きすぎるという理由から、大浦湾において集中的な調査を行うことになった。

沖縄島大浦湾沿岸における十脚甲殻類相の解明調査

沖縄島大浦湾沿岸の十脚甲殻類相を把握するため、3日間の予備調査の後、2009年6月19日から25日の日程で、採集調査を行なった。採集は、河川の河口部および海岸潮間帯から水深約60mまでの環境において、徒手、タモ網、ヤビーポンプ、トラップなどを用いて行なった。
なお、本調査は、WWFジャパンの「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」現地調査の一環として実施した。調査メンバーは以下の通りである。

  • 藤田 喜久(NPO法人海の自然史研究所/琉球大学大学教育センター)
  • 大澤 正幸(琉球大学 非常勤講師)
  • 奥野 淳兒(千葉県立中央博物館分館海の博物館)
  • 駒井 智幸(千葉県立中央博物館)
  • 成瀬 貫(琉球大学亜熱帯島嶼科学超域研究推進機構)

*上記に加えて、沖縄島在住のダイバーや琉球大学の学生など多数の協力を得た

10日間の採集調査の結果、現在までに62科241属496種の十脚甲殻類を得た。これらの中には少なくとも36種の未記載種および25種の日本初記録種が含まれていた。
加えて、口脚目(シャコ類)についても4科8属14種(3未記載種、4日本初記録種)が記録された。ただし、調査期間が極めて短期間であることと、サンゴ礁環境を主研究対象から外している点を考えると、今後の調査によりさらに種数は増えるものと思われる。
上述した十脚甲殻類のうち、すでに1種については新種記載が終了し、学術論文として発表されている(参考文献参照)。残りの種についても、順次発表準備を進めていく予定である。ただし、通常、新種が命名されるまでには通常数カ月~数年程度かかるため、今回採集された十脚甲殻類全種についての詳細なとりまとめにはさらに時間を要する。

調査結果の考察ならびに今後の取り組み

今回の調査結果は、大浦湾における十脚甲殻類の高い種多様性を示すものである。しかしながら、これが直ちに大浦湾の特殊性を示すことにはならないことには十分注意する必要がある。なぜなら、生物多様性の保全と持続的利用を進める上で正確な生物相の把握は必要不可欠な情報であるにもかかわらず、それを担うべき分類学者は不足しており、また、本調査のような分類学者によるチーム研究はほとんど行われてこなかったからである。残念ながら、現在の多様性保全活動の現場では、そのような現状が取り上げられることは少ない。

今後、大浦湾の生物多様性の「真の価値」を科学的に議論するためには、大浦湾以外の沿岸域や陸域においても、分類学に基づいた生物相の把握を進めてゆく必要があるだろう。また、それらの情報を体系的に収集・統合・更新していくためのプラットフォームを構築する(例えば「生物データベース」など)必要がある。そのためには、科学者、行政、地域NPO等の連携が不可欠である。この連携を担保する機会として、「南西諸島生物多様性地域戦略」の策定が有効である。

昨年6月に施行された生物多様性基本法では、生物多様性地域戦略の策定の努力義務が規定されている。戦略には生物多様性の保全と持続的利用を推進する区域や施策を盛り込む必要があるが、これには適切に管理、運用された生物データベースの存在が重要である。現時点で、戦略を策定した南西諸島地域の自治体は皆無であり、WWFジャパンでは、同地域の生物多様性の保全と持続利用の基盤となる戦略策定、データベース構築を今後とも強く促していきたい。

参考文献

Naruse,T.,Fujita,Y.,&Ng,P.K.L.,2009.
Anewgenusandnewspeciesofsymbioticcrab(Crustacea:Brachyura:
Pinnotheroidea)fromOkinawa,Japan.Zootaxa,2053:59-68.


「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト 第三回地域検討会 報告(2009年8月5日)

南西諸島の重要な自然の現状を明らかにする、「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトの、第三回目となる地域検討会を、沖縄県那覇市で開催しました。2007年の第一回、2008年の第二回検討会に続き、さまざまな生物群の専門家やオブザーバーの行政関係者など50名ほどが集まり、プロジェクトの成果である「優先保全地域マップ(通称:生きものマップ)」完成へ向けての最終調整を行ないました。

南西諸島の自然の豊かさを明らかに

2009年6月27日~28日、沖縄県那覇市にて「南西諸島生物多様性評価プロジェクト(生きものマッププロジェクト)」の第3回検討会が実施されました。このプロジェクトは、2006年10月に、ソフトバンクモバイル株式会社の携帯リサイクル収益金の一部からの支援を受け開始され、2009年で3年目となります。

このプロジェクトでは、日本だけでなく、世界からみても生物多様性が豊かな南西諸島の中で、どの地域を優先的に保全すべきかを示す地図を作っています。南西諸島の生物多様性をどのように守り、その恵みを持続的に利用していくか。行政や地域の関係者が今後の環境保全計画や開発計画などを立案する際、この地図を活用することが期待されています。

専門家の英知を結集!

地図をつくるためには、かつてない試みとして、多くの研究者の知見が結集されています。通常、同じ分野での学識者が集うことはあっても、その分野の垣根を越えて意見を交換することはあまりありません。

このプロジェクトでは、南西諸島を研究フィールドとしている9つの生物分類群(哺乳類、鳥類、両生/爬虫類、昆虫類、魚類、貝類、甲殻類、海草/藻類、造礁サンゴ)の専門家が、約3年間にわたり協力し、毎年の検討会で議論を重ね、どの地域を優先的に保全すべきか、地図におとす作業を行なってきました。

また研究者だけではなく、保護活動に取り組む地元の団体や、県や国の行政担当者たちもオブザーバーとして参加。検討会は、多様な意見が交換される場となってきました。

優先地域の候補を選ぶ作業から始まったこの取り組みは、3年近い年月を重ね、今回の検討会で、ようやく地図の全貌が見えるところまでやってきました。

第三回検討会の開催

今回の第三回検討会では、まず、プロジェクトの目的から選定プロセスを再確認。その後に生物多様性優先保全地域をどう選び出すか、その手順と評価基準について、地理情報システム(GIS)を用いて抽出した候補地の様子を見ながら、最終的な検討が参加者の間で行なわれました。

その場では、地域ごとの固有性に焦点をあてた選定のあり方や評価基準値の妥当性について、真剣な議論が行なわれ、また、優先保全地域に指定されていないからといって開発されてもいいという誤解が生じないようにするにはどう説明をすればよいかなど、地図完成に向けて必要な調整が行なわれました。

夜には、参加者の交流会も開かれ、地域の人たちの参加を得ながら、研究調査を行なっている研究者が、それぞれの活動について発表を行ないました。

実際、多角的な関係者の参加を得て、保護活動を進めるのは、容易なことではありません。とかく閉鎖的になりがちな研究を、どう地域の人たちに還元すれば、そこに残るすばらしい自然環境を保全できるのか。また、地元の人たちにも率先して保全に取り組める形が作れるのかは、非常に難しい課題なのです。

しかし、このプロジェクトでは今、その協力が実現しようとしています。それは、「地域の人の暮らしとともに環境を保全する」というWWFの活動の方針そのものでもあります。

地図の完成に向けて

こうした新しい動きが、他の研究者たちにも波及し、今後の南西諸島の自然を保全する礎となることをWWFは期待しています。

今回の検討会での意見を最終的にまとめ、2009年の秋には完成した「生きものマップ」を公表できる予定です。ただもちろん、このマップを作るだけでは、目的を達成したことにはなりません。

今後、南西諸島の各地域で、地域の住民の方々が主体となり、地元の自然環境の将来像(ビジョン)と、その保全にむけた検討と活動がスタートして、はじめてこのマップは役立つことになります。

WWFでは引き続き、地域の自然環境保全の担い手として重要な立場にある人々に対し、地域の保全ビジョンやそれを達成するための保全・管理計画の検討を実施していく予定です。


オキナワトゲネズミの生息地が森林伐採対象地から除外(2009年4月21日)

絶滅が心配される沖縄の固有種オキナワトゲネズミの生息域が、森林伐採対象地に含まれていた問題で、WWFジャパンが提出した保護の要望に対し、沖縄県より前向きな回答がありました。県は該当する一帯の森を、伐採対象地としないよう関係者に通知。国頭村も県と連携した対応を取るとしています。

伐採対象地に指定されていた生息域

2008年3月、30年ぶりに捕獲され、生息が確認されたオキナワトゲネズミ。世界で沖縄島北部の亜熱帯林「やんばる」の森にだけ生息する、希少な固有種です。

WWFジャパンでは2007年12月より、「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として、この「やんばる」の森で、オキナワトゲネズミの調査を支援してきました。この活動では、捕獲成功による生息確認後も、分布域に関する調査活動を継続。謎に包まれてきたその生息地が、徐々に明らかにされつつあります。

ところが、このオキナワトゲネズミの生息地を含めた沖縄県国頭村の森が、2006年度に設定された、木材生産の拠点地区として、伐採対象地に含まれていたことが、調査を進める過程で明らかになりました。
まだ生息状況の全貌もつかめていない状態で、貴重な森が失われることになれば、個体数が非常に少ないと見られているオキナワトゲネズミは、さらに大きな危機にさらされることになります。

そこで、WWFジャパンは3月25日、生息地を木材の生産拠点の対象から外し、長期的な保全に取り組むことを求めた要望書を、沖縄県知事と国頭村長へ提出しました。

県と村が保全に向けた姿勢を表明!

この要望に対し4月8日、沖縄県から回答が届きました。
その内容は、沖縄県が「(オキナワ)トゲネズミの生育環境保全を積極的に図るため、生息地域及びその周辺での森林伐採について、対象地から除外するよう」国頭村長、国頭村森林組合長、北部農林水産振興センター所長に対して通知した、というものでした。

これは、要望書提出からわずか2週間の間に、森林緑地課、自然保護課、教育委員会等の関係部局が、迅速な調整を行ない、保全に向けた積極的な姿勢を示したものといえます。
また、該当する森がある国頭村からも、この問題について、沖縄県と連携して対応する、という回答を得ることができました。

WWFジャパンは、この対応を歓迎するとともに、オキナワトゲネズミ生息地の詳細な地図情報(GPS情報)や、オキナワトゲネズミが好む生息環境に関する情報を、沖縄県に提供。伐採対象地から除外すべき地域について今後、沖縄県が関係者へ具体的な要望を行なう際の情報として、役立てることにしました。

もっとも、今回提供した「オキナワトゲネズミの生息地」に関する情報は、あくまでもこれまでに調査した範囲で明らかになった生息地と、その大まかな周辺地にかかわる情報に限られています。
オキナワトゲネズミの行動範囲をより正確に把握し、その知見に基づいた、重要な地域の推定や、まだ調査の手が及んでいない地域での分布状況も、今後調査してゆく必要があります。

オキナワトゲネズミ調査に携わっている、森林総合研究所 山田文雄研究員のコメント

「オキナワトゲネズミは,過去20年ほど前は,やんばるの南部にまで生息していましたが、近年生息情報がなくほぼ絶滅したと思われていました。しかし、今回の調査から、やんばる北部の極めて限られた狭い範囲(数km程度と推定)の森林に少数で生き残っていることが明らかになりました。
このような、オキナワトゲネズミの急速な減少は、種の存続にとって極めて危険な状況と考えます。一方で、この生息地の森林や周辺の森林の伐採問題が起きてきましたが、この事態を回避するため、関係者の方々が分布データや情報を共有しながら、柔軟な姿勢で対応し行動してくれています。希少種保護にとっては適切な姿勢と対処法です。これは、地元の人々にとって、オキナワトゲネズミが重要で大切な生き物と理解されているためと考えます」


記者発表資料および要望書 2009年3月26日

オキナワトゲネズミ生息地を解明 沖縄・国頭村の木材生産のための伐採対象地域に含めないよう県知事及び国頭村長に要望

WWFジャパンでは、南西諸島生物多様性評価プロ ジェクト(通称:WWF南西諸島生きものマッププロジェクト)の一環として、2007年12月からオキナワトゲネズミの生息分布調査を支援している。その 2008年と2009年の調査から、絶滅した可能性が高いとされていた個体群の30年ぶりの生息が確認され、生息地が明らかになってきた。それに伴い、オ キナワトゲネズミの重要生息地が、国頭村の木材生産拠点産地として設定されていることから、WWFでは、25日、沖縄県知事及び国頭村長宛に「オキナワト ゲネズミ生息地保護の要望書」を提出した。

オキナワトゲネズミ(Tokudaia muenninki)は、国の天然記念物指定種(1975年)で、環境省レッドデータブックで絶滅危惧1A類(CR)に位置づけられている。「琉球諸島」 世界自然遺産登録において、象徴的な種として位置づけられる本種の重要な生息地を木材生産拠点地計画の対象地としないよう配慮することをWWFは求める。


オキナワトゲネズミ生息地保護の要望書

沖縄県知事 仲井真弘多 様 / 国頭村長 宮城馨 様

2009年3月25日
WWFジャパン事務局長 樋口隆昌

日頃よりWWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)の活動にご理解とご協力をいただき、御礼申し上げます。

現 在、WWFジャパンではオキナワトゲネズミの生息調査を実施しております。この2年間の生息調査の結果、オキナワトゲネズミの生息地として、沖縄等北部の 亜熱帯林「やんばる」の中に、およそ3平方km程度あることが暫定的に明らかになってきました。このオキナワトゲネズミの重要生息地を含んで、沖縄県は、 平成18年度に国頭村を木材生産拠点産地として認定しており、伐採対象地に含める可能性が高いと思われます。

オキナワトゲネズミ Tokudaia osimensisは、国の天然記念物指定種(1975年)で、環境省レッドデータブックで絶滅危惧1A類(CR)、沖縄県版レッドデータブック絶滅危惧 1A類に位置づけられています。近年その生息情報がなく、ほぼ絶滅したのではないかと危惧されていました。しかし、去年(2008年)と今年(2009 年)に実施したWWFジャパン他の調査によって、「やんばる」の森に生息していることが暫定的ながら判明しました。しかし、生息数はきわめて少数で、かつ 生息地もきわめて狭いことが明らかになりました。

一方、沖縄県は林業活性化を目的に、平成18年度には国頭村が木材生産拠点産地区として認 定されており、オキナワトゲネズミの生息地もその地区に含まれております。本種の生息地はきわめて限られており、現状の生息状態では生き残りも風前の灯で す。ましてや、森林伐採が行われますと、オキナワトゲネズミは生息地を失い、また餌となるイタジイ堅果も大幅に減少するため、本種の絶滅を加速すると考え られます。今後、「琉球諸島」世界自然遺産の指定において、オキナワトゲネズミは絶滅させてはいけない貴重な遺存固有種の一つと位置づけられます。

そこで、木材生産拠点産地の伐採対象地の選定に当たり、今回明らかになりましたオキナワトゲネズミの生息地及びその周辺の森林を、対象地からは外すように、ご理解とご対応をお願い申し上げます。

∗希少種保護のため、具体的な場所の記述については控えさせていただきました。


記者発表資料 2009年4月21日

WWFジャパン が沖縄県知事と国頭村長に提出したオキナワトゲネズミ生息地保護を求めた要望に対して、オキナワトゲネズミの生息地を森林伐採対象地としないよう関係者に 通知した、と沖縄県知事から回答(4月8日付)を得た。WWFジャパンは今回の沖縄県の対応を高く評価する。

WWFジャパンでは、「南西諸 島生物多様性評価プロジェクト」の一環として、沖縄島北部の亜熱帯林「やんばる」の森で、絶滅危惧種オキナワトゲネズミの調査を2007年12月より支援 してきた。2008年3月には30年ぶりに捕獲に成功し、生息が確認されました。その後も生息分布に関する調査活動を継続し、徐々に謎に包まれてきたその 生息地が明らかになってきた。その一方で、オキナワトゲネズミ生息地を含めた沖縄県国頭村の森が、2006年度設定された木材生産の拠点地区に含まれてい たことが調査の過程で明らかになった。WWFジャパンは、オキナワトゲネズミの重要な生息地を、木材の生産拠点の対象から外し、長期的な保全に取り組むこ とを求めた要望書(3月25日付)を沖縄県知事と国頭村長へ提出した。

4月8日に、沖縄県から、沖縄県が「(オキナワ)トゲネズミの生育環 境保全を積極的に図るため、生息地域及びその周辺での森林伐採について、対象地から除外するよう」国頭村長、国頭村森林組合長、北部農林水産振興センター 所長に対して通知した旨、の内容の回答を得た。森林緑地課、自然保護課、教育委員会等の関係部局が、要望書提出からわずか2週間の間に関係者の調整を行 い、保全に積極的な対応を表明したことを、WWFは高く評価する。また、国頭村においても沖縄県と連携し、対応する旨の回答を得たことに、敬意を表す。

WWF ジャパンではこの回答を受けて、オキナワトゲネズミ生息地の詳細な地図情報(GPS情報)やオキナワトゲネズミが好む生息環境の情報を沖縄県に提供。これ らは、伐採対象地から除外すべき地域について、沖縄県が関係者へ具体的な要望する際に活用される予定だ。ただし、今回提供した「オキナワトゲネズミの生息 地」は、あくまでもこれまで調査した範囲で明らかになった生息地とその大まかな周辺地のみの情報であり、オキナワトゲネズミの行動範囲を把握し、その知見 に基づいた重要地域の推定や未調査地での分布確認調査も必要だ。関係機関が連携したより詳細な、より広範囲な調査が今後求められる。


オキナワトゲネズミの森が伐採の危機!?(2009年3月25日)

絶滅が心配される沖縄の固有種オキナワトゲネズミの生息域が、森林伐採対象地に含まれていた問題で、WWFジャパンが提出した保護の要望に対し、沖縄県より前向きな回答がありました。県は該当する一帯の森を、伐採対象地としないよう関係者に通知。国頭村も県と連携した対応を取るとしています。

伐採対象地に指定されていた生息域

2008年3月、30年ぶりに捕獲され、生息が確認されたオキナワトゲネズミ。世界で沖縄島北部の亜熱帯林「やんばる」の森にだけ生息する、希少な固有種です。

WWFジャパンでは2007年12月より、「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として、この「やんばる」の森で、オキナワトゲネズミの調査を支援してきました。この活動では、捕獲成功による生息確認後も、分布域に関する調査活動を継続。謎に包まれてきたその生息地が、徐々に明らかにされつつあります。

ところが、このオキナワトゲネズミの生息地を含めた沖縄県国頭村の森が、2006年度に設定された、木材生産の拠点地区として、伐採対象地に含まれていたことが、調査を進める過程で明らかになりました。
まだ生息状況の全貌もつかめていない状態で、貴重な森が失われることになれば、個体数が非常に少ないと見られているオキナワトゲネズミは、さらに大きな危機にさらされることになります。

そこで、WWFジャパンは3月25日、生息地を木材の生産拠点の対象から外し、長期的な保全に取り組むことを求めた要望書を、沖縄県知事と国頭村長へ提出しました。

県と村が保全に向けた姿勢を表明!

この要望に対し4月8日、沖縄県から回答が届きました。
その内容は、沖縄県が「(オキナワ)トゲネズミの生育環境保全を積極的に図るため、生息地域及びその周辺での森林伐採について、対象地から除外するよう」国頭村長、国頭村森林組合長、北部農林水産振興センター所長に対して通知した、というものでした。

これは、要望書提出からわずか2週間の間に、森林緑地課、自然保護課、教育委員会等の関係部局が、迅速な調整を行ない、保全に向けた積極的な姿勢を示したものといえます。
また、該当する森がある国頭村からも、この問題について、沖縄県と連携して対応する、という回答を得ることができました。

WWFジャパンは、この対応を歓迎するとともに、オキナワトゲネズミ生息地の詳細な地図情報(GPS情報)や、オキナワトゲネズミが好む生息環境に関する情報を、沖縄県に提供。伐採対象地から除外すべき地域について今後、沖縄県が関係者へ具体的な要望を行なう際の情報として、役立てることにしました。

もっとも、今回提供した「オキナワトゲネズミの生息地」に関する情報は、あくまでもこれまでに調査した範囲で明らかになった生息地と、その大まかな周辺地にかかわる情報に限られています。
オキナワトゲネズミの行動範囲をより正確に把握し、その知見に基づいた、重要な地域の推定や、まだ調査の手が及んでいない地域での分布状況も、今後調査してゆく必要があります。

オキナワトゲネズミ調査に携わっている、森林総合研究所 山田文雄研究員のコメント

オキナワトゲネズミは,過去20年ほど前は,やんばるの南部にまで生息していましたが、近年生息情報がなくほぼ絶滅したと思われていました。しかし、今回の調査から、やんばる北部の極めて限られた狭い範囲(数km程度と推定)の森林に少数で生き残っていることが明らかになりました。
このような、オキナワトゲネズミの急速な減少は、種の存続にとって極めて危険な状況と考えます。一方で、この生息地の森林や周辺の森林の伐採問題が起きてきましたが、この事態を回避するため、関係者の方々が分布データや情報を共有しながら、柔軟な姿勢で対応し行動してくれています。希少種保護にとっては適切な姿勢と対処法です。これは、地元の人々にとって、オキナワトゲネズミが重要で大切な生き物と理解されているためと考えます。


奄美諸島でのウミガメ産卵調査 実施報告(2009年1月9日)

WWFジャパンでは、南西諸島の「生きものマッププロジェクト」の一環として、2008年6月から9月上旬にかけて、奄美諸島の5つの島々で、ウミガメ類の産卵状況を調査しました。いずれも絶滅が心配されているウミガメ類。その産卵環境の現状が明らかになり始めています。

奄美諸島でウミガメの産卵状況を調査

絶滅の危機が指摘されているウミガメ類。九州以南に連なる南西諸島の島々は、世界的にも貴重なウミガメ類の産卵場所です。しかし、奄美諸島南部では、これまでウミガメに関する調査がほとんど行なわれてきませんでした。

そこで、WWFジャパンでは、南西諸島の生物多様性評価プロジェクト「生きものマッププロジェクト」の一環として、日本ウミガメ協議会の亀崎直樹会長らの協力のもと、奄美諸島南部で、ウミガメ類の産卵調査を実施。未確認だった産卵場所や、その環境についての調査を行ないました。

この調査は2008年6月から9月上旬にかけて、奄美大島のすぐ南に隣接する、加計呂麻島、与路島、請島、須子茂島、ハンミャ島の5つの島々で行なわれました。
調査に携わった、日本ウミガメ協議会会長 亀崎直樹・東京大客員准教授からのレポートを紹介します。なお、この調査の詳細は、2008年11月下旬に開催された、日本ウミガメ会議でも発表されました。

報告:奄美諸島のウミガメの重要産卵地調査

日本ウミガメ協議会会長 亀崎直樹・東京大学客員准教授

地形図から砂浜を判読し、産卵状況を調査

関東地方から八重山諸島にかけての砂浜ではアカウミガメ、屋久島以南の南西諸島や小笠原諸島の砂浜ではアオウミガメ、沖縄島以南の南西諸島ではタイマイが産卵することが知られています。
つまり、南西諸島の海岸線には、3種のウミガメに産卵場を提供している、ウミガメの保全上、重要な場所と言うことができます。

しかし、奄美大島の南に位置する島々では、これまで全く調査が行なわれておらず、ウミガメ類が集中して産卵する重要な砂浜が存在する可能性が残されています。

ウミガメの産卵場となる砂浜の調査は、5月から8月の産卵シーズン中、夜間に砂浜に出て、産卵個体を観察するのが一般的ですが、多大な時間と労力を要します。
そこで、今回の調査では、地形図から砂浜を判読。ウミガメが産卵のためその砂浜に上陸し、砂の表面に残した足跡や、産卵のため砂を掘り返したときに形成される「ボディーピット」から、上陸・産卵回数を推定しました。
また、必要に応じて卵の有無を確認し、その発生状況も調べました。

奄美諸島の砂浜を踏査

2008年6月と7月、加計呂麻島、与路島、請島、須子茂島、ハンミャ島の総計5島22砂浜にて産卵痕跡の調査を8日間にわたり実施しました。
この調査期間中に、足跡37カ所と「ボディーピット」143カ所の産卵痕跡を確認することが出来ました。足跡は比較的最近にウミガメが上陸したことを示す痕跡で、「ピット」は産卵巣を作ったことを示す痕跡です。

調査中、残された「ピット」の中に、産卵巣が掘り返された痕跡が見られました。周辺にイノシシと思われる足跡や散乱したウミガメの卵殻があったことから、これらの大部分はイノシシによる食害に遭ったものと思われます。

奄美島嶼部ではアオウミガメが優先的に産卵か?

ウミガメの痕跡からは、ある程度、種を判別することが出来ます。
今回の調査では、【アカウミガメ】、【アオウミガメ】、【不明】に分類しました。
明らかになった「ピット」痕跡は、アカウミガメ19カ所、アオウミガメ53カ所で、残りは不明でした。

今回の奄美諸島での調査結果では、種が判別できた痕跡のうち、アカウミガメの割合は26.4%と、アオウミガメがアカウミガメの3倍近く確認されました。
また、奄美諸島ではアカウミガメの産卵が優占するという過去の調査とは異なる傾向も見られました。奄美大島ではアカウミガメが優先して産卵するものの、奄美大島南部に位置する島嶼部では、アオウミガメが優占種となっている地域もあることが、今回の調査から推定されました。

多様性な環境を維持すること

アカウミガメとアオウミガメは、両種ともに日本の環境省のレッドデータブックに記載されている、絶滅が心配されている野生生物です。
特に、アカウミガメの北太平洋個体群は、日本の海岸でしか産卵場が見つかっていないため、その将来は日本国内の保護体制にかかっているといって過言ではありません。

ウミガメの産卵場は、開発による砂浜環境の破壊と卵の採取あるいは食害により脅かされています。
今回の調査では、開発による破壊を危惧される砂浜や、人による採取は、鹿児島県ウミガメ保護条例の浸透もあり、確認されませんでした。

しかし、イノシシと思われる動物による食害は、請島や与路島の西岸で高い頻度で見られ、ある砂浜では産卵が確認された22カ所の内、10カ所の約45%が食害にあっていました。この砂浜は、奄美諸島内でも特に産卵数が集中して見られる場所でした。
イノシシによるウミガメの卵の捕食は自然の生態系の一部ではあるにしても、被害の割合が高い事から、現状を詳細に把握したうえで慎重に検討し、対策を立てていく必要があります。


南大東島で新種発見! 4800万年の歴史を物語る「生きた化石」(2008年12月10日)

沖縄県の南大東島で、テルモスバエナという新種の甲殻類が発見されました。この甲殻類は、中米、アフリカ西部、オーストラリア西部に、3種が確認されているのみで、きわめて珍しい種です。WWF「南西諸島生きものマッププロジェクト」では、2008年12月に行なわれる追加調査を支援することにしています。

南大東島で新種発見!

沖縄島の東およそ350キロの海上に浮かぶ南大東島で、新種の小型甲殻類が発見されました。これは、2007年12月に、琉球大学の藤田喜久博士研究員が採集したもので、大きさは2ミリほど。採集された場所は、島の洞穴にある地下水域でした。

発見された新種は、テルモスバエナ(Thermosbaena)目ハロスバエナ(Halosbaena)属の1種で、テルモスバエナ目の種としては、日本で初めて確認されたものです。
この目の甲殻類は、これまでに7属33種が知られていますが、いずれも体長が4ミリほどで、温泉や地下水域などに生息しており、分布域はそのほとんどが地中海やカリブ海周辺に限られています。

また、テルモスバエナ目の中でも、ハロスバエナ属に分類される甲殻類は、今回、南大東島で発見された新種を除くと、世界に3種が生息しているのみで、きわめて珍しい種と考えられています。
その3種の分布域は、それぞれ、中米のカリブ海、アフリカ西海岸のカナリア諸島、そしてオーストラリアの西部。今回の新種の生息地である南大東島を加えても、全くつながりがありません。

なぜ、地下水などに生息する近縁の甲殻類が、このように離れた場所に生息しているのか。このことは、テルモスバエナ類が、きわめて古い起源を持つ生物であることと、深いかかわりがあります。

地球の歴史の生き証人

約2億年から2000万年前、まだ大陸が現在の形になる前のこと、地球上にはテチス海と呼ばれる海が広がっていました。テルモスバエナ類は、このテチス海に生息していた生物を起源とする甲殻類で、その後、地殻の変動や大陸の移動に伴って、現在の場所に生き残るようになったと考えられています。

今回、南大東島で発見されたテルモスバエナ類の甲殻類もまた、島の歴史と大きなかかわりがあるとみられています。
南大東島を含む大東諸島が火山島として誕生したのは、今から約4800万年前のこと。場所は、南半球にある、現在のニューギニア諸島付近でした。その後、島は太平洋プレートの動きと共にゆっくりと北上し、沈降とサンゴ礁の隆起を経て、現在の位置に移動してきたと考えられています。

発見した藤田研究員は、この南大東島の新種が、オーストラリア西部の地下洞穴に生息する同属の甲殻類に最も近縁であるとみられていることから、島の誕生当時から島と共にはるばると沖縄の近海までやってきた「歴史の生き証人」なのではないかと見ています。

さらなる調査と保護の取り組み

この新種は、2007年12月に初めて採集された後、WWFジャパンなどの支援を受けた追加調査が行なわれ、今回、藤田研究員と、北九州市立自然史・歴史博物館の下村通誉学芸員の共同研究論文が、学術雑誌「Zootaxa」で発表されたことで、世界的に新種と認められることになりました。
南大東島でのテルモスバエナ目の新種発見は、生物地理学と自然環境の保全の観点から見ても、大きな意味を持つものといえるでしょう。

しかし、その未来に懸念が無いわけではありません。現在までに、藤田研究員らは、南大東島の7カ所の洞穴の地下水域で調査を行ないましたが、この新種が確認できたのは、ただ1カ所だけでした。しかも、生息地洞穴の付近では土地改良が進んでおり、生活や農業の排水が流入している所もあるようです。緊急に保全のための手立てを講じることが必要です。

藤田研究員と下村学芸員は、2008年12月18から21日にかけて、南大東島で新種の生息状況調査や繁殖生態に関する野外調査に取り組むほか、島内の子どもたちとの調査などを行ない、保全に向けた普及活動を進めることにしています。
WWFジャパンでも、南西諸島の生物多様性評価プロジェクトの一環として、この現地調査を支援する予定です。


記者発表資料 2009年1月7日

南大東島で発見された新種の小型甲殻類テルモスバエナ、追加調査を実施

4800万年の島の成り立ちを物語る"生きた化石"

【東京発】 南大東島の洞穴地下水域からテルモスバエナという極めて珍しい小型甲殻類の新種が発見された。この度、北九州市立自然史・歴史博物館の下村通誉(36)学 芸員と琉球大学の藤田喜久(35) 博士研究員の共同研究による学術雑誌Zootaxa(ズータクサ)への論文投稿が受理され、新種として発表されることになった。今回発見されたテルモスバ エナは、ハロスバエナ属の新種とされたが、この属は日本とはかけ離れたカリブ海、カナリア諸島、オーストラリア西部から3種が報告されているだけである。 この発見は、4800万年前に南半球で誕生したとされる大東諸島の成り立ちや地殻プレートの移動を知る上で、極めて貴重なものとなる。

WWF(世界自然保護基金)ジャパンでは、南西諸島の生物多様性評価プロジェクトの一環として、12月18日から21日にかけて行われた追加の現地調査も支援した。

追加の現地調査について

発 見者の藤田喜久氏と下村通誉氏は、2008年12月18-21日にかけて、南大東島において本種の生息状況調査や繁殖生態に関する野外調査を行った。一部 調査には島の子供たちも同行し、島内7か所の洞穴地下水域において、プランクトンネットを用いてハロスバエナ属の一種の採集を試みた。

その 結果、島の北部と南西部の2か所の洞穴地下水域にてハロスバエナ属の一種を採集することができた。島の北部の洞穴地下水域は、新たな生息地として記録され た。この洞穴の入り口部分にはアダンが生い茂り、人の出入りもほとんどないものと思われる。また、周辺部には民家も無く、大規模な開発の影響を受けにくい ものと思われる。一方、南西部の洞穴は集落に近く、周辺部では土地改良が進められており、今後の経過に注意を払う必要があると思われる。

また、調査した洞穴の中には、外来生物であるオオヒキガエルの生息が確認された場所もあった。その洞穴地下水域には、環境省のレッドデータブックで絶滅危惧 Ⅱ類(VU)、沖縄県版では絶滅危惧ⅠB類(EV)に指定されているドウクツヌマエビAntecaridina lauensis(Edomondson,1935)が生息していた。今後は外来生物が地下性生物に与える影響についても考慮する必要がある。

今 回の調査により、ハロスバエナ属の一種を多数採集することができた(少なくとも50個体以上)。採集後、速やかに検鏡したが、抱卵雌などの繁殖個体はまっ たく得られなかった。得られた標本は70%エタノールに固定し、研究室に持ち帰った後にサイズ計測などを行う予定。一部の個体は、将来の分子遺伝学的研究 に用いるために99%エタノールにて固定した。さらに、一部位の個体は、活かしたまま持ち帰り、飼育実験(長期飼育が可能か否か)や行動の観察などを行う 予定である。

保全に向けた普及啓発活動

  1. 南大東小中学校における特別講話
    12月19日に、南大東小中学校の中学生を対象に「島と一緒に4800万年の旅?南大東島のテルモスバエナ」の講和を行った。講師は藤田氏。下村氏の指導の元、前日に採集した標本を顕微鏡を使って観察してもらった。
  2. 共同調査
    12月20日、「島まるごと館」子供スタッフ(小学生~中学生)とともに調査を行った。子供スタッフは、南大東島の自然環境に関する調査研究などを行って いる。プランクトンネットによる採集方法を指導し、実際に子供たちに採集してもらった調査箇所もあった。また、洞穴内で本種が生息する新たな湧水点を発見 してもらうなど、多大なる貢献があった。
  3. 18日には、南大東村役場を訪問し、仲田建匠村長と会談。今回の発見の報告と、本種の生息環境の保全について意見交換を行った。

調査者の感想

* 今回の調査での最大の成果は、新たな生息地が見つかったことである。1箇所だけではかなり生息状況に不安があったが、あまり人が入らない場所での生息が確 認されたため、「調査研究や普及啓発を行う生息地」と「厳格な保護を行う生息地」とを分けて考えることができるかもしれない可能性もでてきた。今回の調査 で、洞穴地下水域であればどこにでもいるわけではないことも判明したので、保護・保全については、今後のさらなる調査によって慎重に考えていきたい。(藤田)

*2mm程度の小さな生き物に島民が予想以上に関心をもってくれた。琉球列島の生物多様性の凄みを示す事例だと思うので、HOTなうちに積極的に働きかけて、様々な保全策を実行したい。特に、地域の人々と協働で見守っていく仕組みを作れればと思う。(藤田)

*これほどアクセスし易い場所でテルモスバエナ類を採集することができるのは世界的にも少ない。南大東島は研究を進めるために非常に有利である。今後の研究展開が楽しみである。(下村)

今 後の調査予定としては、1月の上旬に藤田氏が、下旬に下村氏が別々に南大東島を訪れ、本種の繁殖生態に関する調査を行う。今回の調査では多数個体が採集さ れたが、2008年2月下旬に実施した調査では採集ができなかった。今回の調査で多数個体が見られる理由としては、繁殖に関係する可能性が考えられるの で、これからの1-2ヶ月先の本種の動向には注意を払う必要がある。もちろん周年での調査も重要となる。

関連情報:南大東島で発見されたテルモスバエナ:発見の経緯と学術的重要性

今回発見された新種は、2007年12月に南大東島の洞穴地下水域から藤田研究員により採集された。その後、WWFジャパンやTaKaRaハーモニストファンドの研究支援を受けて、追加調査を行った。これまでに得た標本の精査の結果、 テルモスバエナ目ハロスバエナ属(Thermosbaenacea,Halosbaena)の未記載種(新種) であることが分かった。

テ ルモスバエナ目は、温泉や地下水域などに生息する体長4mm程度の微小な甲殻類の一群で、現在までに4科7属33種が知られている。そのほとんどが地中海 周辺や西インド諸島などに分布しており、これまで日本では生息が確認されていなかった。ハロスバエナ属は、これまでにカリブ海、カナリア諸島、 オーストラリア西部から3種が報告されているのみで、太平洋上の島嶼からの初めての発見となる。

南大東島からのテルモスバエナ目の新種発見は、生物地理学と自然環境保全の観点から極めて重要である。

南大東島の成り立ちとテルモスバエナ「島」といっしょに4800万年の旅?

大 東諸島は、約4800万年前に南半球(現在のニューギニア諸島付近)で火山島として誕生し、島の沈降とサンゴ礁の隆起を経ながら移動して現在の位置にある と言われている(大東諸島移動説 http://vill.kitadaito.okinawa.jp/nature/nature1.html)。
今回、南大東島で発見された新種のテルモスバエナは、以下の点から大東島の移動と共にはるばるやってきた「大東諸島移動説」を裏付ける"歴史の生き証人"となる可能性が考えられる。今後、生活史研究や分子遺伝学研究などの研究を行う必要がある。

  1. 今回発見された種は、形態的にはオーストラリア西部の洞穴地下水域に生息する種に最も類似している。
  2. 分散能力が低い [本種の仲間は、一般的に卵を頭胸甲内に産みつけ、そこで胚発生が進み、親とほぼ同じ形で産まれてくる(=直達発生)]。
  3. テルモスバエナ類は、その分布パタンからテチス海遺存性生物であり、起源の古い生物であると考えられている(テチス海:約2億年前~約2000万年前にかけて存在していた海のこと。)

テルモスバエナおよび洞穴環境の保全の必要性

現 在までに、南大東島の7箇所の洞穴地下水域において調査を行ったが、テルモスバエナ目の新種は、ただ1カ所の洞穴地下水域でしか生息が確認されていない。 生息地洞穴の付近では土地改良が進み、生活(農業)排水の流入が見られる場所もある。緊急な保護・保全策の立案と実行が必要であると思われる。

論文の詳細

Shimomura, M., & Fujita, Y. (accepted). First record of the thermosbaenacean genus Halosbaena from Asia: H. daitoensis sp. nov. (Peracarida: Thermosbaenacea: Halosbaenidae) from an anchialine cave of Minamidaito-jima Is., in Okinawa, southern Japan. Zootaxa.
上記論文は、ニュージーランドの学術雑誌「ズータクサ」に受理されており、数ヶ月中に発表される予定である。


南西諸島の甲殻類の生息調査を実施(2008年9月20日)

一見荒れたように見えるサンゴ石が積み重なった海岸。実はそこは、ヤシガニやヤドカリなど、たくさんの甲殻類たちの楽園です。WWFジャパンでは、南西諸島の生物多様性を調べる「生きものマッププロジェクト」の一環として、6月から9月上旬にかけて、奄美大島、石垣島などの海岸で、甲殻類の調査を実施しました。

「転石域」という安住の地

「転石域」という言葉は、あまり耳慣れない言葉かもしれません。これは、サンゴ塊(死んだサンゴの骨格)など打ち上げられて積み重なった、波打ち際の環境の一つで、沖縄周辺の海岸でよく見られます。
砂浜やサンゴ礁の海と比較すると、あまり目を向けられることのない地味な環境ですが、生きものたちにとっては、とても大切な場所です。

転石域で多く見られる生きものの一つとして、陸域と海域をよく行き来する甲殻類が挙げられます。
石域にはたくさんの石と、その石の隙間があり、温度や湿度が適度に保たれているため、この小さな生きものたちにとって、最適な環境が整っているからです。

とりわけ、ヤシガニやオカヤドカリなどの陸棲甲殻類の幼生(子ども)にとって、転石域が重要な生息環境であることが、近年の研究で明らかになりました。
しかし、日本国内の転石域は各地で、護岸工事や道路工事などによってその環境が失われています。

2008年6月、WWFジャパンでは、南西諸島の海岸で見られる転石域で、そこに生息する甲殻類の分布状況を調べる調査を実施することにしました。
転石域は陸と海をつなぐ、重要な場所に位置する転石域の自然を調べ、現状を明らかにすることで、南西諸島の海と陸、二つの保全を実現してゆくためです。

調査メンバーは、琉球大学教育センター非常勤講師でNPO海の自然史研究所の藤田喜久さん、鹿児島大学の鈴木廣志さんと鈴木研究室の院生・学部生の皆さん3名の、総勢5名。
調査対象となった地域は、奄美大島、加計呂麻島、南大東島、石垣島の海岸です。

生息数を把握する詳細な調査

今回の調査では、対象として、満潮になっても通常は波が押し寄せない、海岸のやや高い場所にある転石域です。

調査ではまず、満潮線から転石帯上部まで巻き尺を張り、浜の傾斜を計測。そして巻き尺に沿って50cm四方の枠を3つずつ置き、地面の写真をカメラで撮影した後、枠内にある石を一時的に一つずつどかして、下にいるカニやオカヤドカリを採取します。その後、元通りに石を戻し、採集したカニは研究室に持ち帰って、種類、性別、体長などを記録します。
一つの枠内の探索が終わったら、枠を50cmずらして同じ作業を繰り返します。夏の炎天下、日陰もない浜で、長時間にわたり、転石を一つ一つひっくり返していくのは、かなりの根気と体力がいる作業です。

6月に調査を開始したチームは、最終的に奄美大島で13カ所、加計呂麻島で4カ所、石垣島で12ヵ所、南大東島で8ヵ所の合計37カ所の海岸でデータを集めました。全てのデータを解析することで、転石域のどういった環境に、どのような甲殻類が、どれくらいの密度で生息しているのか、把握することが出来ます。

奄美大島では初記録種を確認!

今回の調査では、貴重なデータを多く収集できたのみならず、調査員の苦労が報われるような素晴らしい発見もありました。

たとえば、奄美大島では、鹿児島県で初めての記録となるカニの仲間を複数、確認することが出来ました。
見つかったのは、イワトビベンケイガニ(Metasesarma obesum)、ヤエヤマヒメオカガニ(Epigrapsus politus)、ムラサキオカガニ(Gecarcoidea lalandii)の3種です。
このうち、イワトビベンケイガニとヤエヤマヒメオカガニは、沖縄県のレッドデータブックでは準絶滅危惧に、ムラサキオカガニは沖縄県で絶滅危惧1B類、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧(NT)として指定されている、絶滅の危険がある種です。

これらの種はいずれも、鹿児島県では初めて記録されたため、当然のことながら鹿児島県のレッドデータブックには掲載されていません。調査チームでは、今回の発見を日本甲殻類学会の学会誌で報告し、鹿児島県版のレッドデータブックが改定される際に、これらの種をレッドデータブックに掲載するか検討できるよう情報を提供することにしています。

また、石垣島の調査では、奄美で確認した3種のカニ類に加えて、ヒメオカガニ(Epigrapsus notatus)も見つかりました。ヒメオカガニは、環境省と沖縄県のレッドリストで共に「準絶滅危惧(NT)」となっています。
さらに、石垣島の調査で調査員を驚かせたのが、カニ類のメガロパ幼生の発見でした。残念ながらまだこのカニの種名は分かっていませんが、この発見により、潮の寄せる線より高い場所にある潮上帯転石域が、甲殻類の子どもの生息や成長の場として、重要な価値を持つことを、改めて証明することができました。

一方、周囲を断崖絶壁に囲まれた南大東島では、奄美大島や石垣島で見られたような潮上帯転石域は見られませんでした。
調査隊は険しい岩礁海岸を歩きに歩きましたが、カニ類はなかなか見つからず。岩の窪みに僅かに溜まった転石の下から、若干のカニ類やオカヤドカリ類が見つかりましたが、奄美大島や石垣島の転石域で多く見られたヤエヤマヒメオカガニやイワトビベンケイガニはついに見つけることはできませんでした。
しかし、この結果は、これら2種のカニ類が潮上帯転石域という環境に強く依存していることを裏付けることになりました。

多様な環境を維持すること

今回の調査では、調査地の島々の転石域が直面している問題も、あらためて明らかになりました。奄美大島や石垣島での調査では、本来は転石帯であったと思われる場所が道路となっていたり、護岸化されているなど、環境が失われている場所が多く見られたのです。
これらの場所では、調査対象である転石域そのものを見つけること自体が大変な作業でした。

近年、ウミガメの産卵場所となる砂浜の場合は、開発に際して一定の環境配慮がなされるようになってきましたが、残念ながら、転石域については、まだ知見が不足していることもあり、その重要性が一般的には広く理解されていません。

しかし、海の生物多様性と、希少な野生生物を守ってゆくためには、サンゴ礁や砂浜はもちろんのこと、転石域のような環境も、他のさまざまな海辺の環境とつながった形で、維持し、保全していくことが必要です。

WWFジャパンでは、今回の調査で得られた情報を、南西諸島の地図の中から、特に生物多様性が高く、優先的に保全すべき地域を選ぶための資料とし、また、転石域の重要性を伝え、環境に配慮した開発を考える際の科学的資料として活用していきたいと考えています。


屋久島、種子島、奄美大島で藻類・海草類の調査を実施(2008年8月15日)

WWFジャパンは4月と6月に、それぞれ大隈諸島(屋久島と種子島)と奄美大島で、海草類と藻類の調査を行ないました。海草や藻類は、多くの生きものに食物やすみかを提供する、いわば沿岸の生態系の基礎となる生物。今回の調査では、これらの海草藻類が育つ、特に貴重な水域を確認したほか、一部の種の危機的な現状を明らかにしました。

「海のゆりかご」を調べる

九州南部から台湾にかけて広がる南西諸島。この島々に残る自然環境の中で、とりわけ重要な地域を選定し、その保全をめざす、WWFの「南西諸島生きものマップ」プロジェクトでは、現在さまざまな分野の野生生物について、調査を行なっています。

この一環として、4月と6月に、屋久島と種子島、および奄美大島で、海草類と藻類の調査を行ないました。

調査対象となった海草と藻類(海藻)は、川や河口、マングローブや干潟、サンゴ礁などの浅い水域に育ち、貝やエビなどをはじめとする、さまざまな動物たちの食物となっています。

また、海草や藻類が群生する場所は、魚が卵を生み、その稚魚が育つ「海のゆりかご」でもあります。サンゴ礁や干潟、マングローブ林などと同様に、格好の隠れ家であり、多くの生きものを育む、沿岸の重要な環境なのです。

今回の調査では、南西諸島に生育する海草藻類の中から、指標となる30種の海草藻類を選び、その分布と生育状況について情報を収集。現地での調査は、琉球大学名誉教授で財団法人沖縄県環境科学センターの香村真徳博士を中心に、同センターの長井隆先生、鹿児島大学の寺田竜太先生、有限会社海遊の吉田稔さんらにより行なわれました。

屋久島での調査

屋久島では4月19日~22日まで、4カ所の海域と5カ所の汽水域(海水と淡水が混ざる場所)、淡水域1カ所の、計10カ所で調査を実施。指標種30種のうち7種を確認したほか、指標種に含まれていない、2種の絶滅のおそれのあるレッドデータブック記載種、カモガシラノリと淡水産のタンスイベニマダラも確認しました。

指標種が比較的多く確認されたのは春日浜と塚崎浜です。共にサンゴ礁が広がる沿岸部で、いずれも屋久島の中で貴重な自然が残る、重要な地域であることがうかがえる調査結果となりました。

種子島での調査

4月23日~26日までは、屋久島の隣に浮かぶ種子島で調査を行ないました。調査地点は、6カ所の海域と4カ所の汽水域、それに2カ所の淡水域を加えた12カ所です。確認できた指標種は、海産種が7種、それに汽水種1種を合わせた8種でした。さらに、指標種以外のレッドデータブック記載種が2種確認されました。

ここでも、指標種が多く確認できたのは住吉と安納、二カ所のサンゴ礁の海岸で、特に沖縄のサンゴ礁に似た住吉の平坦なサンゴ礁では、沖縄に産する貴重種のほか、南方系の海藻、例えば緑藻のバロニア類やキッコウグサ、紅藻のマクリなどが観察されました。

奄美大島での調査

奄美大島での調査が行なわれたのは、6月2日~5日の5日間。海域9カ所と汽水域4カ所、それに淡水域2カ所の計15カ所で、11種の指標種を確認しました。さらにこの他、10種にのぼるレッドデータブック記載種を記録。調査地点の一つ大勝では、天然記念物級の淡水紅藻オキチモズクも確認しました。

奄美大島で比較的多くの指標種が確認された海域は、内湾としての地形を備えた清水や、サンゴ礁が広がる、あやまる岬、佐仁といった海域です。また、汽水域についても、今回唯一、希少になりつつあるカワツルモ(ヒルムシロ科)の生育が確認された、宇検村の順吉のような場所があり、調査結果を踏まえた今後の検討によっては、これらの水域が南西諸島で重要なエリアの一つに数えられることになりそうです。

現状と課題

今回の調査では、生育場所の埋め立てや汚染によって減少している、希少種カワツルモの生育状況を確認したことで、今後の保護活動に役立つ情報の提供を行なうことができました。また、レッドデータブック記載種を多く記録し、さらにこれらの海草藻類の危機的な現状について、特に鹿児島県など、地域ではまだ情報が十分に把握されていないことが明らかになりました。

しかし一方で、時期的に遅かったためか、いずれの島々でも確認できなかった、温帯系のヒジキやウミトラノオといったホンダワラ類の海藻の現状や、リュウキュウアマモやボウバアマモといった大型の海草が群生する藻場が、奄美大島のどこに、どの程度存在するのかなど、今後に残された調査の課題点も見えてきました。

今回は、現場でのフィールド調査に加え、漁業関係者への聞き取り調査や、1960年代の記録との比較なども行ないながら、海藻や海草類が多く育つ豊かな沿岸部で進む、埋め立てや漁港の整備などによる環境の改変の影響についても調べることにしています。そして、今も重要な自然が残る地域を明らかにしたマップの制作を進め、これに基づいた環境の保全策を策定してゆくことにしています。


沖縄諸島のサンゴ礁で広域一斉調査を開始(2008年8月1日)

WWFの「南西諸島生きものマップ」プロジェクトでは、希少な固有種のオキナワトゲネズミをはじめ、貝類や甲殻類などさまざまな生物群の調査を行ない、生物多様性を優先的に保全すべき地域のマップ作りを進めています。この一環として、南西諸島の広域で現在、サンゴの一斉調査を実施しています。

屋久島から西表島までの広域を調査

WWFの「南西諸島生きものマップ」プロジェクトでは、7月初めに南西諸島において保全すべき重要なサンゴ群集154域を発表しました。これは、地元の有識者の評価や、過去の調査結果、サンゴの生育環境の試算などに基づいて選定したものです。

 今回、WWFは選定した重要サンゴ群集域の中から、大隅諸島、奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島にある、それぞれ3~5つのサンゴの群集域を、各島々の代表的なサンゴ礁として選び、2008年8月1日には沖縄諸島での調査を開始しました。

日本サンゴ礁学会との共同調査

この調査は、日本サンゴ礁学会保全委員会の広域一斉調査チームと共同で取り組んでいるもので、現在、宮古諸島と八重山諸島でも調査が進められています。

沖縄諸島での調査メンバーは、広域一斉調査チームの全体リーダーである、琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底実験所の酒井一彦さん、沖縄諸島リーダーである沖縄県環境科学センターの長田智史さん、山川英治さんにWWFジャパンのスタッフを加えた4名です。

初日の調査ポイントは、ウミガメやマダラトビエイなども見られるダイビングスポットでもあり、自然観察会でも利用されている沖縄島南端に位置する大度海岸。
この海域のサンゴ群集域は、サンゴの生育に影響を及ぼす、波のうねりや台風、風などの物理的な環境条件が整った場所で、過去の調査でも、テーブル状のサンゴを中心に被覆度が高く、オニヒトデの食害も少なくて、白化からの回復も良好な、重要サンゴ群集域の一つであることが明らかになっています。

2000枚のサンゴの画像を解析

潜水調査では、水深3mから5mの礁斜面(波あたりの強いリーフの外側斜面)上に、1m四方の「方形区」と呼ばれる枠を置いて、写真を撮影します。
また、オニヒトデや巻き貝など、サンゴを食べる生物の有無や、サンゴの病気、白化状況を記録。必要に応じてサンゴのスケッチも取ります。

そして、この潜水調査が終わった後、撮影した写真やスケッチから、サンゴの種類と形状を識別し、写っている方形区のゆがみを補正してから、それぞれのサンゴが海底で占めている面積(被度)を計測します。

一つの群集域で設置する方形区の数は合計で21個。一つの方形区の写真も50cm四方ずつ4つに分割して撮影するので、大隅諸島から八重山諸島の23群集域で解析の対象となる写真の合計は、2000枚近くにのぼります。

将来の環境変化をモニタリング

石灰質の骨格をもち、サンゴ礁を形成する造礁サンゴは、暖かい海に好んで生息するため、海水温が低くなる緯度の高い海域へゆくほど、種数が減る傾向があります。
今回の広域一斉調査は、南西諸島の中でも、北に位置する大隈諸島から南の八重山諸島まで、同じサンゴ礁という自然環境を、同じ手法を使って調査し、サンゴの被度や種の内容を記録することにしています。

ここから得られる定量的なデータは、将来、地球温暖化などにより変化していく可能性のある、南西諸島のサンゴ礁環境の変化を調べてゆく上で、貴重な基盤となるものです。
WWFジャパンと日本サンゴ礁学会保全委員会では、今回作成した広域一斉調査の手順や解析結果を公開して、この方法が他の地域での調査やサンゴ礁保全に役立てられるよう、環境の整備を行なうことにしています。


「重要サンゴ群集マップ」が完成 南西諸島のサンゴ群集域の現状が明らかに(2008年7月3日)

WWFジャパンが「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として制作を進めてきた、「重要サンゴ群集マップ」が完成しました。これは、日本の生物多様性のホットスポットである南西諸島で、今後、優先的に保全していくべき地域を選び、実際の保全に取り組む際の基礎資料の一つとなるものです。WWFは2008年国際サンゴ礁年にあたり、このサンゴのマップを7日からアメリカで開かれる国際サンゴ礁シンポジウムで発表することにしています。

重要なサンゴ群集域 154カ所を選定

2006年10月にスタートした、WWFの「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」では、多くの貴重なサンゴ礁が残る南西諸島において、重要なサンゴ群集がある海域を調査し、選定する取り組みを行なってきました。

今回、日本サンゴ礁学会保全委員会の広域一斉調査チームと共同で行なってきた、この選定の作業が終了。沖縄島や奄美大島をはじめ、多くの離島の島々を含めた南西諸島の海域から、重要サンゴな群集域154カ所を選び出し、その内容を一枚の「重要サンゴ群集マップ」にまとめました。

 ▲クリックすると拡大します

 

期待される重要サンゴ群集域マップの役割

「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」では現在、サンゴのほかにも、哺乳類や鳥類、両生・爬虫類、魚類、無脊椎動物、海藻類など、他の生物群についても、各分野の研究者の協力を仰ぎながら、同様の重要生息域マップの作成を進めています。

南西諸島のような広いエリアに広がる生態系を、効率よく保全してゆくのは容易なことではありません。
  WWFでは、最終的にこれらの重要マップの情報を綜合し、全体の中でどの海域や陸域を優先的に保全する必要があるのか明らかにすることで、より多くの、さまざまな立場の人たちと協力しながら、南西諸島の生物多様性の保全に役立ててゆきたいと考えています。

なお、WWFは今回、「重要サンゴ群集マップ」を、他の生物群マップの発表に先がけて公開することにしました。また、7月7日から11日まで米国フロリダで開催される第11回国際サンゴ礁シンポジウムでもこのマップを発表。国際サンゴ礁年にあたる2008年のサンゴ礁保全の取り組みに、弾みをつけたいと考えています。


記者発表資料 2008年7月3日

日本サンゴ礁学会保全委員会とWWFジャパン 南西諸島の保全すべき重要サンゴ群集154域を選定

WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)は、日本サンゴ礁学 会保全委員会(委員長:東京工業大学大学院 灘岡和夫氏)と共同で、南西諸島における保全すべき重要なサンゴ群集域を154箇所選定した。WWFジャパン では、日本の生物多様性のホットスポットである南西諸島で、どの地域を優先的に保全していくかを、地理情報システム(GIS)を用いてマップに表し、保全 ビジョンを公表していく。今回のサンゴ群集域の選定はその中のひとつ。生物多様性条約の第10回締約国会議が2010年に名古屋で開催されるにあたり、 WWFジャパンでは、日本の生物多様性のホットスポットである南西諸島の優先保全地域マップと保全ビジョンを公表し、さまざまな主体が保護区設定や資源管 理、教育の場などでの、環境保全活動に活用してもらうことをねらっている。
 この選定された重要サンゴ群集域は、海外に向けて、7月7日から11日まで米国フロリダで開催される第11回国際サンゴ礁シンポジウム(http://www.nova.edu/ncri/11icrs/)においても、発表する。

重要サンゴ群集域の選定方法について

 今回の重要サンゴ群集域の選定は、WWFジャパンが2006年10月より取り組んでいる「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として、日本サンゴ礁学会保全委員会の広域一斉調査チーム(リーダー:琉球大学 酒井一彦氏)と共同で行ったもの(参考資料1)。

 選定方法として、下記4つの指標を元に、南西諸島のサンゴ群集域を、包括的&客観的に評価する手法を用いた(参考資料2)。

  1. 地域有識者による評価

  2. 環境庁による89年-92年当時のサンゴ被度調査結果

  3. 環境省による2006年のサンゴ被度調査結果

  4. 物理環境データ解析に基づくサンゴ生育の「潜在力」評価結果)

1つ目の指標である地域有識者による評価では、サンゴの種類の多様度や群集域の広がり、オニヒトデ食害影響、サンゴの幼生の加入・定着率等を目安とした。 また4つ目の指標であるサンゴの潜在力評価に関しては、国立環境研究所の山野博哉氏らと共同で、今回の選定のためにプログラム開発を行った。具体的には、 海水温、波浪、過去の台風、人口密集地や河口からの距離などのサンゴの群集形成に影響を与える物理環境データを、任意の地点毎に計算することで、サンゴの 「潜在力」を算出・評価した(参考資料3)。こうした評価基準に基づき、大隅諸島から八重山諸島にいたる南西諸島の各諸島について20箇所を目安として選定の作業を行ったところ、合計154群集域が重要保全サンゴ群集として選定された(参考資料4)。トカラ列島や尖閣諸島などの地域は情報不足のため、選定の対象外となっている。 

選定した重要サンゴ群集域マップの活用

  今回の重要サンゴ群集域マップの公開により、潜在的な重要地域の情報蓄積や保護区の設定・拡充など、保全に向けた取り組みが活性化されることを期待してい る。WWFジャパンでは、7月から9月にかけて、重要サンゴ群集域の任意の地点で、日本サンゴ礁学会保全委員会広域一斉調査チーム、財団法人沖縄県環境科 学センターらと共同で潜水調査を実施する。調査箇所は、大隅諸島、奄美諸島、沖縄・慶良間諸島、宮古諸島、八重山諸島の重要群集域の中から波あたりの強い 礁斜面環境下にある3~5地点を選定する。調査では、撮影した写真を元に、属~種レベルでサンゴ被度を算出し、諸島間でその構成を比較する。また、WWF 南西諸島生物多様性評価プロジェクトの中で、今回選定した重要サンゴ群集域マップを、同様に地理情報システム(GIS)を用いて作成したサンゴ以外の生物 群の保全すべき重要域マップ8種(哺乳類、鳥類、両生爬虫類、昆虫類、魚類、甲殻類、貝類、海草藻類)と重ね合わせ、生物多様性の観点から、南西諸島の保 全上、特に重要な海域・陸域の優先保全地域を選定する。

*一連の活動は、ソフトバンクモバイル(株)による支援(携帯電話のリサイクルによって抽出したレアメタルの売却代金の一部)を受けて実施している。
 

参考資料 (PDF形式)

参考1: 南西諸島重要サンゴ群集域選定 関係者一覧

参考2: 重要サンゴ群集域 選定フロー

参考3: サンゴ 潜在力評価 データ一覧

参考4: 南西諸島重要サンゴ群集域 一覧


「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト 第二回 地域検討会 報告(2008年7月2日)

沖縄などの島々を含む南西諸島の重要な自然の現状を明らかにする、「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトの、第二回目となる地域検討会を、2008年6月7日~8日に鹿児島県奄美市で開催しました。2007年の第一回検討会に続き、さまざまな生物群の専門家やオブザーバーの行政関係者など50名ほどが集まり、今後、南西諸島の中で優先して保全するべき地域と、そのための取り組みについて、活発な意見交換が行なわれました。

南西諸島で真っ先に守るべき場所は?

2006年10月に、ソフトバンクモバイル株式会社の携帯電話のリサイクル収益金による支援を受け発足した「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトでは、東洋のガラパゴスとも呼ばれる南西諸島の自然環境の現状を把握して、優先的に保全すべき地域を選ぶためのマップ(地図)づくりを進めています。

南西諸島の多様性に満ちた生態系が急速に失われている現在、この地図は自然環境の保全や利用に携わる、地域内外の関係者にも活用してもらう基礎資料となるものです。

このプロジェクトは以下の3つのステップで実施されます。

  1. 生物多様性の観点から優先的に保全すべき地域を選ぶ(2007、2008年度)

  2. 生物多様性の保全ビジョン(将来像)を立案する(2008年度)

  3. 保全ビジョンを達成するための保全・管理計画を検討する(2009年度)

今回の検討会はこの1および2に関わる作業を行ないました。

優先して保全すべき地域を選ぶ試み

検討会では、まずWWF担当者が、2007年に沖縄の宜野湾市で開催した、第一回地域検討会の結果を集約して作成した9つの生物分類群(哺乳類、鳥類、両生・爬虫類、昆虫、魚類、甲殻類、貝類、海藻類、造礁サンゴ)それぞれの重要保全地域地図を示しました。

またGIS(地理情報システム)を活用し、これら9つの生物群にとって重要な地域が重なりあっている場所や、隣接している状況を色分けして示した地図を示し、その根拠を説明しながら、南西諸島の中で、優先的に保全すべき地域を選定するに際しての、基本方針の原案を提案しました。

さらに、南西諸島の生物多様性全体の保全を考えたとき、この抽出方針に漏れがないかなど、地域毎に確認する作業を行ないました。
この確認作業では、優先的に保全する地域についての解釈や、地域間で異なる基準の採用、参照する調査データの有無や精度、時期など、さまざまな点について指摘や提案がなされました。

そして、将来に向けた保全ビジョンを立案するための話し合いでは、保全に関する問題点や理想のあり方、それらにかかわる関係者が、どういう立場の人たちであるかを確認しながら、現状発生している問題と、問題が解決した際の理想のスタイル、また、今はまだ起こっていないけれども将来起こる可能性のある問題などについて、積極的な意見交換が行なわれました。

多様な生物、多様な主体との関係に目を向けた保全活動の展開

特定の種や生物群という枠を超え、さまざまな生物にかかわる研究者が一同に会し、環境の保全について話し合う取り組みは、日本ではあまり行なわれてきませんでした。

WWFでは現在、南西諸島のように広大なエリアを持つ地域で、こうした取り組みを「エコリージョン保全(下記参照)」という新しい自然保護スタイルとして提案し、実施しています。
日本では初めてとなるこの取り組みについては、今回の検討会に出席した専門家からも、多様な分野・視点を交えて行なわれた優先保全地域の抽出作業に参加できたことは、たいへん意義のあることだ、という意見が多数聞かれました。

 さらに今回の検討会には、研究者の他に、オブザーバーとして、地域の保全活動に取り組む団体や、行政関係者も出席していただき、研究者とは異なる視点の意見やアドバイスを積極的に提示していただけました。

現在のところ、まだ一部では現地の調査が継続されて行なわれている分野もありますが、WWFでは今後、それらの調査情報を地図に加え、また、この検討会を通じて交わされた意見やアイデアを整理し、再度優先保全地域の地図を提案し、研究者に確認をお願いすることにしています。
そして仕上がった地図を基に、3年目となる次のステップへとプロジェクトが進められます。3年目にあたる2009年度は、研究者だけでなく、その地域で自然保護活動に取り組む団体や、観光業や環境教育に携わる関係者、行政、住民など、保全の担い手として重要な立場にある人たちにも幅広く参加を呼びかけ、その地域の保全ビジョンや、それを達成するための保全・管理計画の検討を実施していく予定です。

一般向けの講演会も開催

 6月7日の夜には、一般の方向けの基調講演会「奄美と沖縄最近の野生生物事情」を奄美哺乳類研究会と共催しました。高校生から地元のお年寄りまで、約80名の参加者で会場は満員となりました。

オキナワトゲネズミの調査報告

最初に、WWFが南西諸島生きものマッププロジェクトの一環として支援した、オキナワトゲネズミ調査を指揮した森林総合研究所の山田文雄さんから、「オキナワトゲネズミの再発見の意味」と題した講演をいただきました。
オキナワトゲネズミは、森林伐採による生息地の喪失や、ノネコ、ノイヌ、マングースなどの外来種の影響により、個体数が減少しています。また、Y染色体を持たない極めてまれな哺乳類で、ここ30年は生きた個体全く捕獲された記録がありませんでした。

講演では、生息実態の把握と、遺伝学的分析などに供するために捕獲調査や情報収集を開始した背景、捕獲した場所の環境状況について、詳しい調査データを示しながらご説明いただきました。
今回の再発見を契機に、絶滅回避や個体群の安定化を図るため、関係者が連携した形での生息地の保全と、外来種への対策が必要であると山田さんは訴えました。

外来生物の影響

続いて、地元奄美大島の哺乳類研究者であり、WWFジャパンもエコパートナーズ事業で支援している、野生化したヤギに関する研究に携わっている奄美哺乳類研究会の亘悠哉氏が「奄美が抱える諸問題を整理する」講演を行ないました。
亘さんは、マングース、イヌ、ネコ、ヤギなどの外来種や、森林伐採がもたらす野生生物への影響の実例、伐採によりこうした外来種による個々の悪影響が助長させることを指摘。その上で、開発の計画段階で希少種の生息状況を考慮する場を導入することや、事業者の保全意識を向上させる取り組み、重要地域マップの作成と共有が、これからの保全活動のカギであるとお話いただきました。

講演を受けて、地元高校生からは、なぜ奄美大島や徳之島と比べて、沖縄本島の調査では何故トゲネズミ捕獲率が低いのか、等というするどい質問がありました。これに対し、山田さんは、人口の多さ、人間居住地からのアクセスのし易さによるノイヌ、ノネコの補食圧が関係しているかもしれない、と回答されました。
また、外来種の駆除方法が自治体によって異なっている事情について、フロアの出席者を交えたコメントが取り交わされるなど、短い時間でしたが、活気あふれる講演会となりました。
 

WWFの「エコリージョン保全」について

エコリージョン(生態域)とは、生態系の大きなつながりを地理的に捉えたものです。

  • 野生生物が豊富であること。種の多様性が高いこと

  • 固有性が高いこと。その地域にだけ見られる生物が多いこと

  • 特異性が見られること。氷河期の生き残りや、原始的な種などが生息すること

  • 生態学、進化学の見地から、特異な現象が見られること

  • 地球規模で見て、珍しいタイプの自然環境であること

この5つの基準に沿って、WWFでは世界の中で優先的に保全するべき、約200カ所のエコリージョン『グローバル200』を選んでいます。南西諸島はその中の1つに数えられています。

このエコリージョン保全という考え方が、従来の保護区や国立公園などと違う点は、まずその圧倒的な規模の大きさと、資源の持続的な利用をふまえた環境保全が推進できる点にあります。
これまでの環境保全の多くは、動植物や、地域の環境などに重点が置かれていました。もちろん、それなりの成果を挙げた取り組みは、多くありましたが、それでも、多様な広がりを持つ環境や生態系の保全を実現してゆくという点については、まだまだ新しい取り組みが必要とされます。

WWFはこうした保全の手法を通し、希少な野生動物の保護をはじめ、地域住民への普及活動、そして、自然保護区の設立・管理といった、さまざまなタイプのプロジェクトを組み合わせ、よりスケールの大きな環境保全の実現をめざしています。


WWFジャパン 南西諸島生物多様性評価プロジェクト 2008年度 地域検討会【奄美大島】

出席者名簿(敬称略 順不同)

1.伊澤雅子 琉球大学理学部(哺乳類)
2.山田文雄 森林総合研究所/奄美哺乳類研究会(哺乳類)
3.半田ゆかり 奄美哺乳類研究会(哺乳類)
4.阿部優子 奄美哺乳類研究会 (哺乳類)
5.高美喜男 奄美野鳥の会 (鳥類)
6.川口和範 奄美野鳥の会 (鳥類)
7.川口秀美 奄美野鳥の会 (鳥類)
8.太田英利 琉球大学理学部 (両生爬虫類)
9.岡田滋 鹿児島県環境技術協会 (両生爬虫類)
10.亀崎直樹 日本ウミガメ協議会 (両生爬虫類)
11.戸田守 京都大学大学院理学研究科 (両生爬虫類)
12.亘悠哉 森林総合研究所/奄美両生類研究会(両生爬虫類)
13.屋富祖昌子 元琉球大学農学部 (昆虫類)
14.山根正氣 鹿児島大学理学部 (昆虫類)
15.渡辺賢一 沖縄県立八重山農林高校(昆虫類)
16.立原一憲 琉球大学理学部(魚類)
17.太田格 沖縄県水産海洋研究センター石垣支所(魚類)
18.米沢俊彦 鹿児島県環境技術協会 (魚類)
19.藤田喜久 自然史研究所(甲殻類)
20.鈴木廣志 鹿児島大学水産学部 (甲殻類)
21.黒住耐二 千葉県立中央博物館 (貝類)
22.小菅丈治 東海大学沖縄地域研究センター(貝類)
23.香村真徳 沖縄県環境科学センター(海草藻類)
24.吉田稔 有限会社海游 (海草藻類/サンゴ)
25. 興克樹 ティダ企画有限会社 (サンゴ/魚類)

発表・進行

1.岡松香寿枝 Coaching STEP(保全ビジョン ファシリテーション)
2.柴田剛 (株)内外地図 (GIS 地理情報システム)
3.中井達郎 国士舘大学地理学教室 (BPAs選定基準案)

オブザーバー

1.甲斐博文 林野庁 九州森林管理局
2.山長重成 林野庁 鹿児島森林管理署
3.大柿恵範 林野庁 鹿児島森林管理署
4.岡野隆宏 環境省 自然環境計画課
5.山本麻衣 環境省 那覇自然環境事務所
6.鑪雅哉 環境省 奄美自然保護官事務所
7.田中準 環境省 奄美自然保護官事務所
8.堀上勝 鹿児島県環境保護課
9.中西希 琉球大学 理工学研究科 COE 研究員

事務局

1.草刈秀紀 WWF 自然保護室 室次長
2.花輪伸一 WWF 自然保護室 南西諸島プログラム グループ長
3.上村真仁 WWF 自然保護室 サンゴ礁保護研究センター センター長
4.町田佳子 WWF 自然保護室 広報
5.安村茂樹 WWF 自然保護室 南西諸島プログラム


種子島でカタツムリなどの調査を実施(2008年6月18日)

現在WWFが展開している「南西諸島生きものマップ」プロジェクトの第ニ弾として、種子島におけるカタツムリを含む貝類の生息分布調査が開始されました。世界遺産として有名な隣の屋久島とも共通性が多いとされる一方、島固有の生きものが生息することでも知られる、種子島の生態系。研究チームでは、その現状を追求しています。

カタツムリが物語る「生物の多様性」

九州の南に浮かぶ大隈諸島の種子島は、隣の屋久島と共に、南西諸島の北端に位置する島です。屋久島は、亜熱帯の海から亜寒帯の高山まで、多様な自然環境があることで知られる世界自然遺産に登録された島ですが、実は種子島にも、固有種を含めた多様な生物が数多く生息しています。

その代表的な生きものの一つが陸生の貝類、すなわちカタツムリです。
現在までに、世界中で確認されているカタツムリは約3万種。そのうち、日本には約800種が生息していますが、その9割を、日本のみに分布する固有種が占めています。
また、移動する力が弱く、行動範囲や分布域が、それぞれとても狭いカタツムリ類は、地域ごとに見られる生物の分化(進化)と多様さとを物語ってくれる、代表的な生きものといえます。

 カタツムリは暖かい地方に行くほど、種数が増え、多様になってゆくこともあり、奄美諸島以南の南西諸島には、実に北海道の4倍近い、約230種ものカタツムリが生息しているといわれています。
種子島にも、世界でこの島にしか生息していない、独自の分化を遂げた固有のカタツムリや、その亜種が生息しています。しかし最近では、十分な生息調査が行なわれていませんでした。

種子島初!新たに発見されたイボイボナメクジ

そこで今回、南西諸島の生物多様性を調査する、WWFの「南西諸島生きものマップ」プロジェクトでは、種子島のカタツムリ調査を実施しました。

調査チームの専門家で、千葉県立中央博物館の黒住耐二先生と、日本貝類学会の大須賀健先生が現地を訪れたのは、4月の中旬。
カタツムリが生息環境として好む島内の森林で、調査を行ないました。また、干潟に生息する貝類についても、河口に形成されるマングローブの林を中心に、調査を実施。この種子島のマングローブは、日本国内で見られる、ほぼ北限のマングローブでもあります。

この結果、種子島の固有種のクビマキムシオイや、固有亜種のタネガシマアツブタガイをはじめとする、30種あまりのカタツムリが確認されました。

この中には、1973年の調査時にも、ただ1カ所の社寺林でしか確認されなかった、種子島と屋久島の固有種ハラブトギセルや、1975年以降、記録が途絶えていたタネガシマヒメベッコウ、さらに、今回の調査で新たに発見されたイボイボナメクジ類などが含まれています。

しかし、1973年の調査をはじめ、過去に行なわれた調査の記録と、同じ地点で今回行なった調査の結果を比較してみると、今回確認できた種数はかなり少なくなっており、個体数も大きく減少していました。

種子島の環境が変化している?

今回の調査で明らかになった、カタツムリ類全体の減少について、その原因はまだよく分かっていませんが、一つには、カタツムリの生息環境が変化したことが考えられます。

カタツムリはもともと、大きな木や、その倒木が多い、自然度の高い森林に多く生息していますが、そのような森林がほとんど失われた種子島のような島では、神社やお寺にある社寺林が、貴重な生息場所になっています。

ところが今回、社寺林を中心に調査を行なったところ、社殿などを新しく建替えていた場所が少なからずあり、周辺にあった森も一部伐採されたり、地面をきれいに清掃されている例が目立ちました。昔のように、古い瓦や木材が積まれた、湿度の高い環境が無くなったことも、カタツムリが激減した理由の一つといえそうです。

また、島内数カ所の干潟で行なった貝類の調査でも、一見良好に保たれているように見えるマングローブ林や干潟で、サクラガイ類やハマグリ類などの二枚貝が非常に少ないことが確認されたほか、2003年と2007年の調査を比較すると、ウミニナ類やオカミミガイ類が激減していることが明らかになりました。

干潟の貝類の減少についても、主な要因はまだ不明ですが、黒住先生は、面積の小さな種子島では、強い雨が降ったりすると土砂の流出が突発的に生じたりすることがあるため、これが干潟にすむ貝類の生息に大きな影響を与えているのではないかと推測しています。

WWF「南西諸島生きものマップ」プロジェクト展開中!

WWFジャパンは現在、「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる南西諸島の島々において、生物多様性の調査を行ない、その結果を基に特に重要な自然が残る地域を選び出し、優先して保全する、「南西諸島生きものマップ」プロジェクトを進めています。
その第一弾の調査となる、オキナワトゲネズミの調査では、約30年ぶりに捕獲に成功するという、大きな成果が得られました。

この時と同様に、第二弾となる今回の調査では、近年の調査データが乏しかった種子島の生態系についての最新情報や、社寺林のような特異かつ非常に限られた場所が、生物多様性を保全する上での重要な環境となることを示す、貴重な知見を得ることができました。

 WWFでは調査に携わった研究者の方々の協力を得て、これらのデータを今後の保全活動の基盤として活用してゆく一方、他の南西諸島の重要地域での調査活動を進めてゆく予定です。


絶滅危機種オキナワトゲネズミの捕獲成功!(2008年3月5日)

WWFが「南西諸島生きものマップ」プロジェクトの一環として調査を支援している、絶滅危機種オキナワトゲネズミが、3月3日、沖縄島北部のやんばるの森で捕獲されました。実物が捕獲・確認されたのは約30年ぶりのことです。WWFでは調査を手がけている森林総合研究所などの研究者と共に、今後も生息分布調査を継続しながら、その保全を検討してゆきます。

すでに絶滅!?

WWFジャパンでは南西諸島の生物多様性を調べ、その保全をはかる「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトの一環として、オキワナトゲネズミ(Tokudaia muenninki)の捕獲調査を支援しています。

このオキナワトゲネズミは沖縄島北部の「やんばる」の森にだけ生息する南西諸島の固有種で、国の天然記念物に指定されていますが、野生化したネコ(ノネコ)などの被害により減少。2003年以降は生息が確認されておらず、絶滅したのではないかともいわれてきました。

WWFが南西諸島の自然を保全するため、その生態系を代表する生きものの一種としてオキナワトゲネズミを選び、調査を開始したのは、2007年12月のことでした。この調査は、奄美大島でトゲネズミの捕獲調査に実績のある森林総合研究所に委託して行なわれ、現在も、環境省那覇自然環境事務所や地元の方々の協力を得て行なわれています。

しかし、これまでにも独自に調査を行なってきた森林総合研究所が、オキナワトゲネズミが好むイタジイなどの森林を選び、すでに2,000回以上も罠をかけて捕獲を試みてきたにもかかわらず、一度も成功してきませんでした。

ついに捕獲に成功

しかし2008年2月28日、同じやんばる地域で、ヤンバルクイナなどの調査を行なっている研究者から「調査用の自動カメラに、オキナワトゲネズミらしい動物が写っている」という情報が寄せられ、これを森林総合研究所が鑑定したところ、ほぼ間違いないことが確認されました。この撮影は、最後にオキナワトゲネズミが自動カメラに撮影されてから、実に15年ぶりのことです。

調査チームがこの撮影地点を含めて捕獲調査を実施したところ、3月3日、ついにメス一頭の捕獲に成功しました。捕獲されたこのオキナワトゲネズミは、体重などを計測し、尻尾の先の皮膚細胞を採取した後、すぐ森に放されました。

採取された皮膚細胞は北海道大学で培養され、遺伝的分析に利用されることになっており、まだ謎の多いこの動物の生態解明に役立てられることになっています。

今回の捕獲により、オキナワトゲネズミがまだ生き残っていること、そして、その分布域の一端が明らかになってきました。今後プロジェクトでは、調査を継続すると共に、オキナワトゲネズミが生息するやんばる地域の保全対策を関係者と検討していくことにしています。


記者発表資料 2008年3月5日

絶滅危惧されていたオキナワトゲネズミ捕獲に成功、実物で確認

【東京発】
WWF(世界自然保護基金)ジャパンが、昨年12月より調査を委託してきた独立行政法人森林総合研究所が、2008年3月3日、絶滅が危惧されていたオキナワトゲネズミ(Tokudaia muenninki)の捕獲に成功した。実物が捕獲・確認されたのは約30年ぶりとなる。個体は雌の成獣。捕獲個体は計測し、遺伝的分析用の皮膚細胞を採取した後、森に放された。今後も調査を続け、生息分布状況を明らかにしながら、関係者と保全対策の検討を行っていく。

 南西諸島に生息する、国の天然記念物トゲネズミ属のうち、沖縄本島北部・やんばるの森に生息するオキナワトゲネズミTokudaia muenninkiは、 少なくとも2003年以降に生息情報がなく、絶滅したのではないかと懸念されていた。トゲネズミの仲間は3種に分類され、沖縄本島,徳之島及び奄美大島に それぞれ生息し、1972年に国の天然記念物に指定されている(図1)。沖縄本島北部地域(やんばる)に生息するオキナワトゲネズミは、1998年に環境 省のレッドリストで絶滅の危険性が最も高い「絶滅危惧IA類」に指定され、この3種の中では絶滅危機度は最も高い。オキナワトゲネズミは体長15cmほど で赤褐色の毛で覆われ、背中に白色の尖った扁平の毛があるとされる。イタジイなどの広葉樹林に生息するというが、近年実物を見た人は誰もいない。生息情報 は近年なく、ノネコ糞に含まれていた体毛の確認から5年、自動カメラの確認から15年経過していた。実物が捕獲・確認されたのは約30年ぶりとなる。

  WWFジャパンでは「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」の一環として、2007年からオキワナトゲネズミの捕獲調査を開始した。奄美大島でトゲネズミ の捕獲経験のある森林総合研究所に委託し、環境省那覇自然環境事務所や地元などの協力を得て実施した。森林総合研究所では、トゲネズミが棲んでいそうな森 林を求めて、この2年間に2,000回以上の多数のワナをかけたが捕獲は全くなかった。一方、ヤンバルクイナ調査などで設置された自動カメラの情報や地元 の写真家などの協力を得て情報を集めたが、最近トゲネズミらしい写真(2008年2月28日撮影)が写っているという情報が得られた。この写真を森林総合 研究所が鑑定したところ、ほぼトゲネズミであることが確認された。早速、捕獲調査チームは、撮影された場所に捕獲地を移動したところ、2008年3月3日 に雌の成獣個体1頭が捕獲され、オキナワトゲネズミの生息が実物によって確認されることになった(図2)。捕獲個体は計測し、皮膚細胞を採取した後、生息 地に直ちに戻された。この雌トゲネズミは、元気に森に帰っていった。

 採取された皮膚細胞は北海道大学で培養され、遺伝的分析に利用され る。今後、今回の経験を生かし捕獲調査を続け、生息分布状況をさらに明らかにしていく。これらの情報をもとに、オキナワトゲネズミが生息するやんばる地域 の保全対策を関係者と検討していく。これらを通じて、南西諸島の特異な生物多様性の保全に役立てていく。

協力機関
環境省那覇自然環境事務所、島嶼生物研究所、山階鳥類研究所、地元写真家、アージー研究会、北海道大学他


記者発表資料 2008年3月13日

オキナワトゲネズミ、新たに4頭を捕獲 一頭はヒメハブ咬傷により衰弱死

【東京発】
WWFジャパンでは「南西諸島生物多様性評価プロジェクト(*)」の一環として、2007年12月からオキワナトゲネズミの生息分布調査を支援している。今年度の捕獲調査が終了したので、概要を報告する。
調査では、成獣や幼獣個体を含む合計5頭のオキナワトゲネズミを捕獲した。調査を実施した地域では、繁殖個体群が生息すると予想される。捕獲個体は体重な どを計測し、尾部先端皮膚を採取した。ワナ内でヒメハブにより咬傷を受け死亡した個体を除き、すべて放獣した。調査場所は希少種保護の観点から公表しな い。

 オキナワトゲネズミの生息分布調査は、奄美大島でトゲネズミの捕獲調査を実施してきた森林総合研究所による沖縄島での調査を支援する もので、環境省那覇自然環境事務所や地元関係者など多くの協力を得て実施した。沖縄島北部の国頭村において、2007年12月と2008年2月にのべ約 2,000個のワナを設置して捕獲調査を行ったが、捕獲には至らなかった。しかし、2008年3月の調査において、のべ約400個のワナを設置して捕獲調 査を実施したところ、合計5頭のオキナワトゲネズミを捕獲した(表1)。捕獲個体には成獣や幼獣個体が含まれたことから、調査を実施した本地域では、繁殖 個体群が生息すると予想される。捕獲個体は、体重や体長の計測を行い、尾部先端皮膚を採取後にすべて放獣した。ただし、ワナ内でヒメハブにより咬傷を受 け、死亡したトゲネズミが1個体あった。

 これは、ヒメハブがワナの扉部からワナ内に先に侵入し、その後にトゲネズミがワナに侵入し捕獲さ れたために起きたと考えられる。トゲネズミはワナ内でヒメハブに2、3回咬傷を受けた模様で、調査者がワナを点検した時点では、ワナ内でヒメハブと横た わって虫の息状態のトゲネズミを発見した。調査員はワナからヒメハブを慎重に取り出した後、カゴに入ったトゲネズミを獣医師の処置を受けるべく運搬した が、運搬途中に死亡した。このようなワナ内へのヒメハブの侵入とトゲネズミの死亡例は、これまで実施した他地域(奄美・徳之島)の捕獲調査も含めて、のべ 約4,000個のワナを設置した中で初めてのケースで、この事態を予想することはできなかった。なお、ヒメハブの待ち受け型の補食生態やカゴワナのメッ シュサイズ(約8mm)から、ネズミが先に入り、扉の閉じたワナにヒメハブが後から網部分から侵入し、捕食することは考えにくい。

 採取さ れた尾部皮膚および死亡個体は、遺伝的分析に供するために北海道大学創成科学共同研究機構に直ちに送付した。3月8日に設置したワナは、3月10日にすべ て回収し、2007年度の捕獲調査を終了した。現在は自動カメラを設置し、生息分布確認調査を実施している。死亡個体については、文化庁へ滅失届を提出し た。今後の捕獲調査については、改善策を関係者で十分検討し、本種の他地域での調査を2008年12月頃から進める予定である。

 オキナワ トゲネズミは、環境省や沖縄県のレッドデータブックで絶滅危惧1A類/近絶滅種(CR)として記載され、国の天然記念物にも指定されているが、ここ数年痕 跡の情報もなくほとんど絶滅したと考えられていた。今回の調査で得られた成果は、生物多様性保全上、重要な意義がある。生息と繁殖が確認されたことで、沖 縄島北部地域における希少種保護、生息地保全を検討する上で貴重な知見が得られた。また、遺伝的分析用に採取されたサンプルは、トゲネズミ属3種(本種、 トクノシマトゲネズミ及びアマミトゲネズミ)の進化、南西諸島の成り立ち、哺乳類
の性決定機構の解明に貢献する。

今回の調査では、30年ぶりに個体を捕獲し、繁殖個体群の生存を確認できたことは大きな成果である一方で、希少な個体1頭が死亡したことは大変残念であっ た。WWFは関係者の協力を得ながら、今後もオキナワトゲネズミの個体群が絶滅することなく生存できるように、生息地の保全活動にいっそう努力していきた い。

表1.2008年冬期のオキナワトゲネズミの捕獲結果

ワナ設置状況

捕獲個体

捕獲確認日

放獣日

備考

3月 1日  50個設置

3月 2日 128個

3月 3日128個

3月 4日ワナ回収

メス成獣A

合計1個体

3月3日

3月3日

3月5日に記者発表済

3月 8日 128個設置

3月 9日 ワナ扉閉鎖

3月10日 ワナ回収

メス成獣B

オス成獣C

性別不明幼獣D

メス幼獣E*

合計4個体

3月9日

3月9日

(幼獣個体E除く)

 

設置ワナ数 のべ434個

捕獲総数5頭

     
  • 合計5個体(捕獲数5頭は、環境省鳥獣捕獲許可証と文化庁現状変更許可の年度許可数内)

  • 生捕個体はすべて放獣。幼獣Eはワナ内に同所のヒメハブにより死亡、遺伝分析に供試。

  • 死亡個体については、文化庁へ滅失届を提出。

協力機関

環境省那覇自然環境事務所、島嶼生物研究所、山階鳥類研究所、地元写真家、アージー研究会、北海道大学他


絶滅危機種オキナワトゲネズミの生息調査(2008年2月25日)

WWFジャパンの「南西諸島生きものマップ」プロジェクトの第一弾として、沖縄本島におけるオキナワトゲネズミの生存と分布の確認調査が開始されました。地元名で「アージー」と呼ばれたオキナワトゲネズミは、個体数がきわめて少なく、イリオモテヤマネコやヤンバルクイナ以上に絶滅の恐れが高いといわれている哺乳類です。

やんばるの森にすむアージーを探せ! 

2007年12月から、沖縄本島北部の亜熱帯林「やんばる」地域で、オキナワトゲネズミ(Tokudaia muenninki)の生息調査が開始されました。この調査は、南西諸島の生物多様性の保全をめざし、現在WWFが展開している「南西諸島生きものマップ」プロジェクトの一環として行なわれているものです。

オキナワトゲネズミは、世界でただ一カ所「やんばる」にだけ生息する南西諸島の固有種で、現在国内で最も絶滅が心配されている哺乳類の一種です。
かつて方言名で「アージ」または「アージー」と呼ばれたオキナワトゲネズミは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに、絶滅寸前のランクであるCR(近絶滅種)としてその名前が記載されている、世界的な絶滅危機種。また、環境省や沖縄県のレッドデータブックでも同じくCR(絶滅危惧1A類/近絶滅種)として記載され、国の天然記念物にも指定されています。

しかし、現在までのところ、本格的な生息調査は行なわれておらず、特に近年の生息状況については詳しいことがわかっていません。
1970年代から80年代初め頃にかけては、比較的多く姿が見られたといわれていますが、この10年間では生息を裏付ける痕跡が1、2件確認されたのみで、その確かな姿さえほとんど目撃されておらず、さらなる減少が心配されてきました。

森の危機と外来生物の脅威

オキナワトゲネズミが減っている理由は、生息地である森林の環境悪化に加え、野生化したネコ(ノネコ)をはじめとする外来生物により捕食されているためです。

森の環境悪化は、整備・拡張が続けられている大規模な林道やダムの建設、また伐採などによるものです。特に林道は、人が持ち込んで野生化したノネコやマングースなどの外来生物が、オキナワトゲネズミの生息場所に入り込む侵入ルートにもなっており、オキナワトゲネズミが外来生物に捕食される間接的な要因になっています。
2001年に報告された、オキナワトゲネズミの最後の確かな生存情報も、実際にノネコのフンから見つかった毛でした。

今回は、調査地点に森の奥部が選ばれました。林道付近の森では、ノネコの影響が考えられるため、生き残っていたとしても、その数がとても少ないと考えられたからです。
行なわれた探索調査では、その生存を確かめるため、オキナワトゲネズミが巣穴として利用しそうな大木の根元付近に、自動撮影カメラや一時的に捕獲するためのカゴ罠を仕掛けました。

この仕掛けは全部で100箇以上にのぼり、調査の期間中、毎日調査員が確認して歩きます。罠にかかった場合には、すぐに計測を行ない、細胞学的研究のためのしっぽ先端の皮膚や血液など採集した後、捕獲地点で放します。

2008年2月半ばまで時点で、まだオキナワトゲネズミは1匹も捕獲されておらず、また自動カメラにも撮影されていません。しかし、何かの動物がかじった跡が残るドングリが、多数集まって落ちている穴が見つかるなど、生存確認の期待もつながれています。

調査を指揮している森林総合研究所の山田文雄さんは、この調査について、次のように言っています。
「(オキナワトゲネズミについては)これまで体系的な調査が十分に実施されていなかった。今回の調査でオキナワトゲネズミが捕獲できれば、分類学的、進化学的に極めて重要な知見が得られることになり、喜ばしい。しかし、たとえ捕獲できなくても、そこに生息していなかったという情報が得られる。何もしないことと、いないことを確認することでは、意味が全く違うのです」。 

 

オキナワトゲネズミは守れるか

ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコと比べて、オキナワトゲネズミの危機的な状況は一般にほとんど認識されていません。しかし、これらはいずれも、南西諸島でしか見られない日本固有の生きものたちであり、この島々の特異かつ貴重な自然環境を代表する野生生物です。

現在、やんばるの森には、本来そこに生息していなかったノネコやマングース、クマネズミなどの外来生物が侵入しており、オキナワトゲネズミをはじめとする、地域固有の生きものたちを脅かしていますが、この自然が失われ、固有種が絶滅することは、地球上からその動物が姿を消す、ということに他なりません。

WWFジャパンは、オキナワトゲネズミなどが生息する、南西諸島の中でも特に重要な地域の現状を把握し、その生物多様性を保全する「南西諸島生きものマップ」プロジェクトを現在進めています。
今回の現地調査の結果も、そのための貴重なデータとして活用される予定です。この調査は沖縄が梅雨に入る直前まで続けられます。

【オキナワトゲネズミについて】 学名:Tokudaia muenninki / レッドリストの評価:CR(近絶滅種)

オキナワトゲネズミは体長12cm~17cm。夜行性で、「やんばる」の亜熱帯の豊かな自然林にすみ、イタジイなどの大木の根元にできた穴などを巣として利用しています。特に重要な生息環境は、シイなどの常緑広葉樹の森で、食物もシイを中心とした樹木の実(ドングリ)や、森にすむ昆虫に頼っています。その名の通り、先が尖った毛を生やしており、同じ南西諸島の奄美大島とその隣の徳之島にも、近縁種のアマミトゲネズミ(Tokudaia osimensis)とトクノシマトゲネズミ(Tokudaia tokunoshimensis)が生息していることが知


「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクト発足~携帯電話リサイクルによる収益で、南西諸島の「生物多様性調査」を実施~(2006年9月26日)

共同記者発表資料2006年9月26日

財団法人 世界自然保護基金ジャパン
ボーダフォン株式会社

財団法人世界自然保護基金ジャパン(以下、WWFジャパン)は、ボーダフォン株式会社(以下ボーダフォン、10月より社名をソフトバンクモバイル株式会社へ、ブランド名をソフトバンクへ変更)の支援により、「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトを2006年10月より発足します。

ボーダフォンでは、ボーダフォンショップなどで携帯電話を回収し、そのリサイクルによって発生した収益を2002年度より毎年寄付しておりますが、昨年1月に実施した携帯電話利用者向けアンケートの結果、リサイクル収益の環境対策への使用を望む回答が全体の68%と最も多かったことから、昨年度のリサイクル収益の寄付先としてWWFジャパンを選定しました。

当プロジェクトは2~3年をかけ、南西諸島(琉球列島)の自然環境を包括的に捉え、生物多様性の現状を一括調査し、必要な保全策を検討することを目的としています。南西諸島の生態系は、現在も開発などによる影響で劣化が大きくなっており、南西諸島全体を見据えた生物多様性保全策を策定することが緊急に求められます。WWFでは、この地域で長年保全活動を続けてきましたが、さらに踏み込んだアクションをとることが必要です。今回のプロジェクトによって、南西諸島における広域な保全ビジョンおよびアクションプランの策定を目指すことで、21世紀の新たな自然保護活動の世界的なケースとなるための基礎が築かれることになります。

<「WWF南西諸島生きものマップ」プロジェクトの概要>


1.プロジェクトでの実施事項

(1)南西諸島生物多様性調査:重要生物の生息分布など南西諸島の自然環境に関するデータの地図化(生物多様性マップの作成)
(2)沖縄島生物多様性調査:ホットスポット(ジュゴン生息地)の保全のための調査、生物多様性調査へのデータ還元
(3)石垣島白保生物多様性調査:ホットスポット(白保サンゴ礁)の環境モニタリング調査と生物多様性調査へのデータ還元

2.ボーダフォンからの寄付および支援期間

3,339万円(2005年度の携帯電話リサイクル収益)
支援期間は、2006年10月~2007年9月の1年間

南西諸島についての補足説明は、別紙の資料をご覧ください。


以上


*ボーダフォン株式会社は、2006年10月1日より社名を「ソフトバンクモバイル株式会社」へ、またブランド名を「ソフトバンク」へ変更します。
*Vodafone(ボーダフォン)は、Vodafone Group Plcの登録商標です。
*SOFTBANKおよびソフトバンクの名称、ロゴは日本国およびその他の国におけるソフトバンク株式会社の登録商標または商標です。

別紙

「南西諸島」とは、
鹿児島県と沖縄県にまたがり、屋久島を北端とし、種子島、トカラ、奄美、沖縄島と周辺の沖縄諸島、宮古、南端は八重山の島々までが含まれ、琉球列島とも呼ばれる。

希少かつ多様な生物相
温帯と亜熱帯の気候が混在し、島々はそれぞれが違った景観を擁している。また、大陸から切り離され孤島となったため、生物は独自の進化を遂げてきており、それぞれに特有な動植物が生息している。「東洋のガラパゴス」といわれるほど、その自然の希少性と多様性は世界的にも貴重なものである。

陸の環境としては、沖縄島北部に広がる「山原(やんばる)」に代表される亜熱帯性の森林や、樹齢千年を超える屋久島の杉が、海の環境としては400種以上のサンゴからなるサンゴ礁がその代表。中でも、石垣島白保のアオサンゴ群落は北半球で最大最古といわれ、その豊かさは世界的にも知られている。

WWFと南西諸島
1982年、WWF本部(スイス)の名誉総裁エジンバラ公フィリップ殿下が来日した際、南西諸島の保全活動をWWFジャパンに要請、翌1983年より保護活動に着手した。1996年には、WWF本部は、重点的に保全すべき世界の自然環境200箇所(グローバル200)のひとつにこの地域を選定し、保護活動に力をいれている。またWWFジャパンは、2000年4月に石垣島白保地区にサンゴ礁保護研究センター(しらほサンゴ村)を建設し、地域に根ざした自然保護活動に取り組んでいる。

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