ウミガメの密漁に実刑判決!フィリピンより
2010/08/16
ウミガメの密漁が頻発しているフィリピンで、2008年に起きた101頭のウミガメの密漁事件。この事件で逮捕されたベトナム人の密漁者に対し、実刑判決が言い渡されました。同様の事件においては、希なケースとなったこの判決に、今後のウミガメ保護活動に進展をもたらすものとして、期待が集まっています。
頻発するウミガメの密漁事件
フィリピンで起きた、13人のベトナム人による、大規模なウミガメの密漁事件から2年。司法の場で、この密漁者たちに実刑が宣告されました。
この事件は、2008年8月29日に、ベトナムから船で違法に侵入した密漁者たちが、パラワン島北部エルニドの近海で、世界的に絶滅の危機が高いとされるウミガメの一種タイマイを101頭も密漁し、逮捕されたものです。
2隻のフィリピン軍の砲艦に拿捕されたとき、船を捨てて逃げようとした13人の密漁者は全員捕えられ、刑務所に入れられる事になりました。しかし、貨物室で発見された101頭のタイマイは、いずれもすでに死んでいました。
タイマイは、世界各地の熱帯に広がるサンゴ礁に分布し、クラゲやカイメンなどの小型動物を食べるウミガメ類の一種です。
しかし、その甲羅が「鼈甲(べっこう)」(高価な装飾品の原料の一つ)として利用されるため、たえず密漁の脅威にさらされてきました。
野生動植物の国際取引を規制する「ワシントン条約」でも、タイマイの国家間の商業取引は禁止していますが、密漁や密輸はいまだに跡を絶ちません。
また、食用となるウミガメの卵も、産卵場所の砂浜から、さかんに密漁されており、このことが、絶滅の危険性に拍車をかけています。
周辺国から押し寄せる密漁者
フィリピンでは、国の法律で、ウミガメやその甲羅、卵などの捕獲や販売を禁止しています。
しかし、アオウミガメやタイマイなど、数種のウミガメ類が生息するフィリピンの沿岸域は、久しく各国から密漁者が押し寄せる、問題の海域となっていました。
2007年9月にはスールー海で中国の漁船から、やはり絶滅の危機にあるアオウミガメ126頭と、1万個の卵が見つかりました。
2008年4月には、パラワン島南部のバラバクで、7月にはエルニドで、ベトナムからの密漁者それぞれ23名と4名が逮捕、さらに、2009年4月には、同じくエルニドの近海で中国の高速漁船が捕まり、13頭のアオウミガメの死体と共に、かろうじて生き残った1頭が保護されました(このカメはすぐに調査用のタグを付けられ、海に放されました)。
過去10年の間に逮捕された、外国からの密漁者たちは、パラワン島の周辺だけで、およそ1,000人にのぼります。
逮捕に至らず、容疑者が逃走するケースもあるため、こうした高い密漁の圧力にさらされ続けてきたウミガメ類の危機は、年々高まっていると懸念されてきました。
勇気ある判決
エルニドでの101頭のタイマイ密漁事件から、2年が経った2010年6月22日。
フィリピンのパラワン島にあるプエルトプリンセサ地方裁判所の支部は、13人のベトナム人密漁者たちに、6カ月から18カ月の禁固刑と罰金刑を言い渡しました。
もっとも、密漁者たちは2008年9月2日から18カ月以上、刑務所に入っていたため、実際に残った刑は罰金のみということになります。
それでも、この判決には、これからのウミガメ保護を進めてゆく上で、大きな意味がありました。
なぜなら、フィリピンではこれまで、周辺国への外交上の配慮から、外国人密漁者に対し、このような判決が下されることは希だったからです。
WWFフィリピンのパラワン・プロジェクトのマネージャーで、フィリピン沿岸警備隊の隊長の一人でもあるRJ・カルザダは次のように言います。
「この判決は、将来に向けた良い先例とすべきものです。また、年々減少しているフィリピンの海洋資源を略奪する密漁者たちへの強い警告にもなるでしょう」。
実際、この判決は、フィリピン国内においても、影響力を発揮することが期待されます。密漁者は、全て海外から来ているわけではないからです。
「中国人でも、ベトナム人でも、またフィリピン人でも、環境を損なっている犯人たちには、誰にも皆、責任があります。未来の世代に引き継ぐべき遺産を破壊している、という責任が」(WWFフィリピンのロリー・タン事務局長のコメント)。
WWFフィリピンでは、今回の判例について、地方裁判所およびエルニドとパラワンの地方議会を高く評価する声明を送りました。
新たな一歩を踏み出した、フィリピンの人たちの、海を守る取り組み。
今後の展開が注目されます。
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WWFインターナショナルのサイト(英語) 10 August 2010
ベトナムのウミガメ取引に関するトラフィック・ネットワークの報告書(2009年9月)