ロシアの森に吉報!チョウセンゴヨウが取引規制の対象に


※2023年6月26日をもって、WWFロシア(Vsemirnyi Fond Prirody)はWWFネットワークから離脱しました。

2010年7月29日、ロシア政府は、極東地域の森林に生育する重要な樹種チョウセンゴヨウ(ベニマツ)を、「ワシントン条約」の附属書3に掲載することを発表しました。ワシントン条約は、希少な野生動植物を守るため、国家間の取引を規制する国際条約です。今回、チョウセンゴヨウが条約の附属書に掲載されたことにより、ロシアから周辺国に向けた、木材としての輸出が制限されることから、現地の違法な伐採にも歯止めがかかることが期待されています。

ロシアの森を代表する木に危機が

シベリアの大地に続く広大な森。この極東ロシアの森林は、ヒグマやツキノワグマ、トラ、ヒョウ、シカやイノシシなど、数多くの野生動物が生息する、世界でも屈指の豊かさを誇る森です。

とりわけ、ここに生息するトラとヒョウの亜種、シベリアトラ(アムールトラ)とアムールヒョウは、その自然の豊かさを物語る動物です。トラとヒョウの存在は、これら大型の肉食獣が食物としているシカなどの草食獣が、森に数多く生息している確かな証。また、この一帯に、たくさんの草食動物が十分に生きられるだけの、多様な植生が広がっていることを示すものでもあります。

チョウセンゴヨウ(ベニマツ)は、そんな極東ロシアの森林の生態系を代表する、最も重要な樹木の一種です。
マツの一種であるチョウセンゴヨウは毎年、たくさんの大きな松ぼっくりをつけ、その中の「松の実」として知られる実を、森にもたらします。
この栄養価の高い実は、地元の人たちの収入源になっているばかりでなく、さまざまな野生動物にとっての貴重な食物となり、森の生態系を支える基盤にもなっています。 

しかし、チョウセンゴヨウは木材としての商品価値が高いため、これまで極東各地の森で大量に伐採されてきました。
さらに近年は、極東の各地で森林全体の減少や、劣化、分断も進み、草食動物は生きる場や食物を失い、それを捕食して生きるアムールヒョウやシベリアトラなどの肉食動物も、未来が危ぶまれています。

木材取引を規制し、樹木の伐採を抑える!

さまざまな危機にさらされている極東の森を守るため、ロシア政府は2010年7月29日、チョウセンゴヨウを「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約:CITES)」の、附属書3に掲載することを決定しました。

ロシアではこれまでにも、自国内でチョウセンゴヨウの伐採を規制する法律を施行するなど、保護の取り組みを行なってきましたが、「病気にかかった木を除去する」といった理由や、「林道整備」という名義のもとでの伐採が横行。保護区などでの明らかに違法な盗伐も、跡を絶ちませんでした。
その背景にあったのが、中国など近隣諸国からの、高い木材の需要です。

しかし今回、チョウセンゴヨウが条約の附属書3に掲載されたことで、今後ロシアからチョウセンゴヨウの丸太、製材品、薄板を輸出するためには、ロシア政府が発行する許可書を、取得することが必要になりました。この手続きの厳正化は、違法な木材の取引を規制し、需要を抑えることで、現場での違法伐採を減らす、非常に大きな力になります。

このことは、チョウセンゴヨウを保護することになるだけでなく、極東ロシアの森の豊かさを回復し、その生物多様性を保全してゆくことにもつながります。もちろん、さまざまな野生生物や、森の恵みに頼って生活している現地の人々にとっても、すばらしいニュースといえるでしょう。

2010年の寅年「Year of the Tiger」に

トラフィックとWWFロシアは、今回のロシア政府による、チョウセンゴヨウの木材商取引規制策を高く評価しました。

しかし、もちろんチョウセンゴヨウのワシントン条約の附属書への掲載は、ロシアの森で起きている問題を解決するための一歩にすぎません。
破壊的な森林伐採の対象となっているのは、チョウセンゴヨウだけではありませんし、密猟や自然に配慮しない開発も横行しています。森にはトラやヒョウ以外にも、絶滅が懸念される野生生物が、数多く生息しています。

また、今回の附属書掲載についても、取引規制の対象となっているのは、チョウセンゴヨウの丸太、製材品、薄板のみであり、これ以外の加工品の取引には規制が及んでいません。
中国に一度輸出され、そこで加工された製品を日本などの国々が輸入している場合などについては、中国と日本の取引になるため、それを規制する手段が今のところは無いのが現状です。

それでも、周辺国での木材取引や、製品の生産、消費が、ロシアの森の自然にかかわっていることに、間違いはありません。

木材取引という観点から、現地の森林保全を推し進めて行くためには、まず、木材の売買に携わる企業が、ロシア産チョウセンゴヨウのような、「商業目的の伐採が禁止されている樹種」について、十分な注意を払うことが必要です。
このような樹種の売買が可能となるケースは、厳しいルールをクリアした場合のみ許される、例外的な取引となるからです。
さらに、加工された製品を扱う企業や消費者も、それが森林の生態系や、地域の伝統的な森林の利用に害を及ぼして生産されていないかどうか、責任を持って確認してゆくことが重要です。 

「シベリアトラの未来は、チョウセンゴヨウが保全できるかどうかと、深く関係しています」
トラの取引問題に取り組んでいる、トラフィックとWWFの合同プログラムのマネージャー、ポーリーヌ・ヴァーヘイジは言います。
WWFがトラの保護活動に力を入れている2010年の寅年に、ロシアで始まった、森の保全に向けた新たな取り組みのゆくえが注目されます。

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チョウセンゴヨウ(Pinus koraiensis)

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極東地域に生息するトラの亜種、シベリアトラ(アムールトラ)。トラの亜種の中では最大の大きさになる。生息地である森林の伐採や、それに伴う食物となる草食獣の減少、骨などを狙った密猟に脅かされている。生息数は400頭前後と考えられている。

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極東ロシアの森。

違法に伐採されたチョウセンゴヨウ。

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トラの生息地でもある森の保全が急務です。

 

関連情報

▼WWFインターナショナルのサイト(英文)

ロシアのトラ生息地、重要な樹種保護の恩恵で保全促進に希望
Russia tiger habitat gets a boost with protection of key tree species (→仮訳はこちら

▼トラフィックイーストアジアジャパンのサイト

ワシントン条約と附属書について

 

 

 

 

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