沖縄・久米島サンゴ大群集のサンゴの種名が明らかに


2010年春の調査で確認された、沖縄県久米島の南東岸(ナンハナリ沖)に広がるサンゴの大群落が、ほぼ全て、ヤセミドリイシという種のみの群集であることが、「久米島応援プロジェクト」と日本造礁サンゴ分類研究会の調査によりわかりました。

調査で大群集のサンゴを特定

この調査は、WWFジャパンが代表をつとめる「久米島応援プロジェクト」と日本造礁サンゴ分類研究会が、2010年8月25日~29日にかけて行ない、10月1日にその結果を発表したものです。

ヤセミドリイシ(Acropora horrida)は、枝状ミドリイシ属のサンゴの一種で、深い海底に群集を作ることが知られています。
これまで、日本国内では、慶良間諸島や宮古島周辺、八重山諸島などの水深20m以上の海底に、枝状ミドリイシの群集が分布していることが知られていましたが、これほどの規模の群集は、今のところ他には知られていません。

今回の調査の結果からも、水深の深い久米島のナンハナリ沖は、ヤセミドリイシの生存に適した環境となっている可能性が高いと考えられます。

「久米島応援プロジェクト」では、今後さらにサンゴの分布範囲や、周辺のサンゴ群集との関係などを明らかにし、久米島周辺で見られるサンゴ礁生態系の保全につなげてゆきたいと考えています。

関連情報

久米島応援プロジェクトについて

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記者発表資料 2010年10月1日:沖縄・久米島サンゴ大群集はヤセミドリイシ

「久米島応援プロジェクト・日本造礁サンゴ分類研究会」調査速報

【東京発】久米島の南東岸(ナンハナリ沖)に広がる枝状ミドリイシ属の大群落が、ヤセミドリイシ(Acropora horrida)のほぼ単一種が広大な群集を形成していることが、久米島応援プロジェクト(代表 WWFジャパン)と日本造礁サンゴ分類研究会(代表 野村恵一)の調査で明らかとなった。

ヤセミドリイシは、枝状のミドリイシ属でも深場に大群集を作ることが知られており、慶良間諸島や宮古島周辺、八重山諸島等の海域でも水深20m以深に同様の枝状ミドリイシ群集が分布している情報はあるが、これほどの規模のものは知られていない。20m以浅のサンゴ種組成をみると、ヤセミドリイシおよびその近縁種は優占的でなかったため、幼生の供給源としてのヤセミドリイシ大群落の役割は小さいと考えられ、むしろ、深場の環境がヤセミドリイシに好適な条件で安定している可能性が高い。

今回見られた広大な規模の群集は、久米島周辺の豊かなサンゴ礁生態系の一端を示す大変興味深いものである。今後は、分布範囲を把握するとともに、その維持機構や周辺の群集との関係等を究明することが、久米島周辺で形成されているサンゴ礁生態系の保全に大きく貢献すると期待される。

久米島ナンハナリサンゴ群集調査 結果速報

目的:

久米島ナンハナリ沖において発見された水深30m付近のミドリイシ類の大群集は、その規模の大きさから周辺のサンゴ群集の幼生供給源としての重要性も高いと思われるが、水深の浅い海域とは異なった環境のもとに特異的な種が生息する可能性が考えられる。そこで、大水深に分布しているミドリイシ群集の主要な構成種のサンプリングを行ない、骨格形態、生息時形態及び遺伝子解析によりそれらの種を同定し、群集構造を推察する。

方法:

水深20m以深で枝状ミドリイシ類が優占する大群集を対象とし、群集内の主要なミドリイシ群体を採集し、骨格標本を作成した。採集時には水中で生息している様子をデジタルカメラで撮影し(生態写真)、生息時の群体形状と骨格形態を用いて種同定を行った。また、採集したサンプルの一部を用いて遺伝子解析を行ない、近縁種の遺伝子配列と比較することで同定の資料とした。なお、分布範囲の推定のため、複数地点で同様の規模の枝状ミドリイシ類優占群集を探索し、それらの群集の主要構成種のサンプリングを行ない、上記の手順で種の同定を試みた。加えて、周辺のサンゴ群集との関係性を明らかにするため、20m以浅においてもミドリイシ属サンゴの種組成を調査した。

期間:

2010年8月25日(水)~29日(日)

調査主体:

久米島応援プロジェクト(代表 WWFジャパン)日本造礁サンゴ分類研究会(代表 野村恵一)

調査者:

*久米島応援プロジェクト/日本造礁サンゴ分類研究会
1)木村匡(財団法人自然環境研究センター・上席研究員)【調査責任者】

*日本造礁サンゴ分類研究会
2)下池和幸【形態分類】 

*日本造礁サンゴ分類研究会
3)鈴木豪(独立行政法人水産総合研究センター西海区水産研究所石垣支所・研究
員)【遺伝子解析】

*久米島応援プロジェクト
4)藤田喜久(NPO法人海の自然史研究所)
5)上野大輔(NPO法人海の自然史研究所)

*撮影協力
6)横井謙典(水中写真家)【水中ビデオ及び写真撮影】

調査協力:

【調査船タンク手配】 井出裕一(久米島ダイビング安全対策協力会 会長)
【調査船操船】仲与志勇(久米島漁業協同組合)
【調査協力】 坂口梓、伊関亜里砂(リゾートホテル久米アイランド)、塩入淳生(ダイビングサービスカラーコード)

結果概要:

今回調査した久米島の南東岸(ナンハナリ沖)に広がる枝状ミドリイシ属の大群落は、わずかにキクハナガサミドリイシ(Acropora latistella)を含む、ヤセミドリイシ(Acropora horrida)のほぼ単一種が広大な群集を形成していることがわかった。また、これまでの調査で確認された大群集の生息場所よりさらに東側でも同様の群集が確認され、分布範囲はさらに広域であると考えられる。ヤセミドリイシは、枝状のミドリイシ属でも深場に大群集を作ることが知られており、慶良間諸島や宮古島周辺、八重山諸島等の海域でも水深20m以深に同様の枝状ミドリイシ群集が分布している情報はあるが、これほどの規模のものは知られていない。20m以浅のサンゴ種組成をみると、ヤセミドリイシおよびその近縁種は優占的でなかったため、幼生の供給源としてのヤセミドリイシ大群落の役割は小さいと考えられ、むしろ、深場の環境がヤセミドリイシに好適な条件で安定している可能性が高い。調査を行った地点では、8月初旬に通過した台風のために折れた枝が群集の上に散乱している様子も見られたが、すでに重なった下の群体と融合しており、回復が始まっていると思われた。今回見られた広大な規模の群集は、久米島周辺の豊かなサンゴ礁生態系の一端を示す大変興味深いものである。今後は、分布範囲を把握するとともに、その維持機構や周辺の群集との関係等を究明することが、久米島周辺で形成されているサンゴ礁生態系の保全に大きく貢献すると期待される。

 

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