COP10でトラ保護に関するサイドイベントを開催
2010/10/27
名古屋での生物多様性条約締約国会議(CBD・COP10)で、その成立が目標とされている「新戦略計画」には、「絶滅危惧種の絶滅を防ぐ」という項目があります。生物多様性の基礎となっている、動物や植物などのさまざまな種(しゅ)の保全の重要性をうたったものです。WWFではCOP10の本会議場内で、このテーマに拠るトラの保護活動についてのサイドイベントを開催しました。
生物多様性を象徴する野生生物
さまざまな環境に生息する野生生物は、それぞれの地域で見られる生物多様性を象徴するものであり、同時に保全活動のシンボルでもあります。
極東ロシアを含めた13カ国に生息する、アジアの森林の生態系の頂点に立つトラも、代表的な象徴種の一種。
その数はわずかに3,200頭から3,500頭程度と見られ、きわめて深刻な絶滅の危機にあります。
WWFでは、このトラの保護をテーマにしたCOP10のサイドイベントを、2010年10月26日に行ない、世界各国から集まった、トラの保護に関心を寄せる関係者に、野生のトラが置かれている現状を報告しました。
トラは9つの亜種に分類されますが、そのうち3亜種はすでに絶滅し、残された6亜種についても、危機的な状況が続いています。
これ以上のトラの減少を防ぐためには、密猟を防止するとともに、トラの骨(薬の原料になる)などに対する国際的な需要を抑え、トラ製品の取引をなくしていくことが重要です。
トラを守ることで温暖化を防ぐ!
今回のサイドイベントで行なわれたトラの専門家による発表では、トラと生物多様性の危機について、新しい切り口でのお話も聞くことができました。
それは、トラの生息地である豊かな森林が、重要な「炭素の貯留地でもある」という指摘です。
その指摘に伴い、トラが生息する地域の森は、他の地域と比べて、炭素を蓄える能力が3.5倍もあるというデータが示されました。つまり、トラを保護するために生息地の森を守ることは、地球温暖化対策にもなる、ということです。
今回のCOP10では、地球温暖化の防止と森林の保全を、同時に推進するための会議「REDDプラスパートナーシップ」という会議が開かれていますが、このトラの話も、地域の自然や人の暮らしが、気候変動という地球規模の問題につながっている話に通じるものといえます。
豊かな森の象徴であるトラの保護を成功させることは、貴重な自然が守られることでもある。このサイドイベントでは、そうしたトラ保護の実現が、未来への確かな希望につながる、ということが強調されました。
「トラ倍増計画」と日本への期待
このイベントの開催に際して、WWFトラ保護プログラム(WWF Tiger Initiative)のリーダー、マイク・バルツァーは、トラの保護に関する日本への期待として、「日本にはトラはいないが、トラに親しみを感じる文化があります。日本の皆さんはWWFとともに、政府を後押しし、世界の保護活動をサポートすることができる。ぜひ、トラ保護活動のよきプロモーターになってほしい」と、WWFジャパンのスタッフに語りました。
WWFは今、国際的なトラの保護に取り組んでいるグローバル・タイガー・イニシアティブ(Global Tiger Initiative)とともに、野生のトラを、次のトラ年である「2022年までに倍増させる」計画を進めています。
COP10でも、2011年以降の世界の生物多様性保全のための「新戦略計画」の中で、2020年までの目標が議論されていますが、その中の「目標12(Target12)」には「絶滅危惧種の絶滅を防ぐ」という記述があります。
トラを絶滅の危機から救うことは、WWFの「トラ倍増計画」が目指す2022年という目標そのものであり、この「新戦略計画」の目標を達成することにもつながります。
WWFでは、生物多様性の保全という、より広い視点を踏まえながら、2022年にむけた今後のトラ保護活動を展開してゆきます。