「トラウサギ?」幻のウサギがすむスマトラの森
2010/12/27
2010年のトラ年の1年が終わろうとしています。いよいよ始まる新年は、ウサギ年の1年。でも、ちょっと待ってください! 世界には、このトラとウサギの間に存在する、世にも珍しい動物がいることを、ご存知でしょうか?実はトラのように黄色地に黒い模様の入った、「縞模様のウサギ」というのが、野生の世界には本当にいるのです。
確認例はごく少数「幻のウサギ」
そのウサギの名は「スマトラウサギ」。これは本当の名前です。
名のとおり、生息しているのは、インドネシアのスマトラ島。
しかも、ただのウサギではありません。
そもそも、テレビなどにはよく、「幻の動物」などと名打たれた生き物たちが登場しますが、そんな動物たちも、所詮は(などと言っては失礼ですが)動画でカメラに捉えられた存在。
そこへ来ると、このスマトラウサギは、まだ一度も動画になったことのない、正真正銘の珍獣なのです。
また、世界の博物館にある、この動物の標本は、わずかに12体。それも、1880年から1916年までの間に捕まったものだけ。
写真での撮影が成功した例も、過去に数えるほどしか例がなく、しかも、そのほとんどは、野生生物の調査のため、森の中に設置されたカメラ・トラップ(赤外線センサーで動物の動きに反応して自動撮影する装置)によるものです。
ブキ・バリサン・セラタンで撮影された写真
その中で、人が実際にその存在を見て写真を撮影した、きわめて貴重な機会がありました。
場所は、スマトラ南東部の山岳地帯にある、ブキ・バリサン・セラタン国立公園。2008年9月のことです。
ここは、スマトラ島西部を南北に走る山脈の南端に位置し、山地の熱帯林が今も残されている地域で、アジアゾウやトラ、スマトラサイといった、絶滅が懸念される野生動物の、貴重な生息地でもあります。
しかし、違法な農園の開発により森が減少。国立公園という保護区であっても、パトロールや管理がなかなか十分に出来ず、生物多様性の劣化が久しく心配されてきました。
スマトラウサギもまた、この問題に脅かされている可能性があります。
もともと報告が少ないスマトラウサギの確認例は、多くがコーヒーなどを栽培する畑などの近くから寄せられましたが、これはそもそも、スマトラウサギの森が、農地として切り開かれたことによるもの。
このままでは、他の野生動物たちと同様、森と共に、人知れず姿を消すことになるかもしれません。
ウサギの森を守り、再生するために
ブキ・バリサン・セラタン国立公園は、WWFが現在、森の保全活動に力を入れているフィールドの一つです。
その取り組みは、国立公園のパトロールの強化や、人材の育成、自然環境の調査、さらに、周辺に住む人たちが、国立公園の外で環境に配慮した農業を合法に営めるようにするための支援など、多岐にわたります。
また、こうした現地での活動を、WWFジャパンも支援し、この冬には森林再生のための植林を行なうための特別寄付を募っています。
スマトラウサギについては、まだ十分な情報がありませんが、ブキ・バリサン・セラタンが、この動物にとって、大切な生息場所である可能性は高いと考えられます。
今ある森を守りつつ、新たに再生する取り組みは、まだ人の目にほとんど触れていない、この珍しいウサギと、そのすみかを守る取り組みでもあるのです。
今、WWFではブキ・バリサン・セラタンで、同じく絶滅の危機に瀕しているスマトラサイとあわせたスマトラウサギの生息調査の実施を検討しています。
いつか、このブキ・バリサン・セラタンで、スマトラウサギの、確かな姿を捉えた動画や写真が撮られるかもしれない! そんな期待を抱きつつ、ウサギ年の2011年、スマトラでのWWFの取り組みに、ぜひ注目してください。
WWF "Save Sumatra"
こちらのfacebookファンページでも、スマトラの活動に関する情報を発信しています。
【スマトラウサギについて】 学名:Nesolagus netscheri / レッドリストの評価:VU(危急種) | |
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世界でスマトラ島だけに生息する固有種。現時点で分かっている生息場所は島内に7カ所ある。 |