2011年国連気候変動バンコク会議
2011/04/01
2011年4月3日から8日まで、タイのバンコクで地球温暖化に関する国連会議の特別作業部会 会合が開かれました。これは、6月に予定されているドイツ・ボンでの会合とあわせて、「カンクン合意」の中身の進展をより具体的に進めて、2011年末の南 アフリカ・ダーバンでのCOP17での合意を目指す一つの重要なステップとなる会議です。
カンクン合意のゆくえを問う
2011年初めての気候変動に関する国連会議の特別作業部会会合(第16回京都議定書特別作業部会及び第14回長期的協力行動に関する特別作業部会)が、4月3日から8日まで、タイのバンコクで開催されました。
2010 年末のメキシコ・カンクンでのCOP16/CMP6で決定された「カンクン合意」では、京都議定書の第2約束期間の合意は先送りされましたが、アメリカを含めた先進国の削減目標と、途上国の削減行動を、国連文書に落とし込むことや、先進国から途上国への削減行動及び適応への資金援助、森林減少防止などの中身に関する議論について、具体化の方向が見えてきています。
中でも重要なのは、冒頭2日間半にわたって開催されたワークショップです。
具体的な議論の場ではありませんが、各国がそれぞれ自主的に申請している削減目標や削減行動について、どれだけを国内削減で行ない、森林吸収源はどれくらい使う予定か、またオフセットは使用するのか、などの重要な目標の内実について、話し合う機会となるものです。
こうした作業を通じて、全体としてまだまだ世界の気温上昇を平均で2度未満に抑えるための目標に足りない点を、いかに積み上げていけるか。世界がそれを探ることになります。
関連記事
- Expectations for the UNFCCC Bangkok Conference(PDF形式:英文)
- MEDIA ADVISORY:Bangkok Climate Talks Must Build On Progress Made in Cancun, Says WWF(PDF形式:英文)
会場より経過報告
(2011年4月7日)
2011年4月3日からタイのバンコクで開かれている国連の温暖化防止会議は、成功裡に終わった2010年末のカンクン会議(COP16)以降、初の公式な国連会議です。初日から3日目の午前中まで、3つのトピックをテーマとしたワークショップが順次開催され、3日目から公式な交渉が開始されています。しかし、交渉は議題設定やどのように議論を進めるか、というポイントで既に紛糾しており、先行きが不透明な状況が続いています。
ワークショップ報告
今回の会議は、いつもとはやや違い、初日から3日目午前中まで、ワークショップが開催されています。ワークショップは、3つのトピックについて順次開催されました。3つのトピックというのは、以下のものです。
- 先進国各国が発表している目標の前提条件について
- 途上国が発表している削減行動の前提条件や必要な支援について
- 技術メカニズムについて(カンクン合意の中で作ることが決定)
これらのワークショップで行なわれたプレゼンテーションは、英語のみになりますが、下記の国連気候変動条約事務局のウェブサイトから見ることができます。
前2つのトピックのワークショップは、色々な国々が独自に検討してきた削減対策の、概要を知る上では有益なものでした。特に、さまざまな途上国で、多彩な削減行動のあり方を共有する機会となりました。
また、技術メカニズムのワークショップも、未だ曖昧な中身に対して、具体的な提案が色々とあったと聞いています。技術の開発を促進し、そしてどのように普及をはかっていくのか、そのためにはどのような組織が必要なのか、といった点について、まだ各国の意見の違いはたくさんあるものの、具体的な議論を国同士がお互いに聞ける機会となったことは良い兆候でした。
ただし、こうしたワークショップが再度明らかにしたのは、現在、各国が発表している削減目標や削減行動は、気候変動の脅威を抑制するためには明らかに不十分だということです。この差=ギャップは、2020年時点での大きさが、CO2換算で、数十億トンに及ぶことから、しばしば「ギガトンギャップ」と呼ばれます。
そのため、WWFなど環境NGOでは、このワークショップの実施を通じて再確認されたギガトンギャップの議論を、どうやって実際の交渉につなげていくことができるかを、1つの大きな課題ととらえています。
議題設定での紛糾
ところが、3日目の午後から始まった交渉は、議題(アジェンダ)設定から紛糾しています。
アメリカなどの先進国は、カンクンでの合意を「実施」していくことに重きを置くべきと考え、議題設定もそれに沿ったものにすべきとの主張をしています。日本やEUも基本的には同じようなスタンスですが、カンクン合意に沿っただけの議題が全てをカバーしていないことについては、一部認めています。
他方、途上国のグループであるG77+中国は、カンクン合意が積み残した議題も議論したいという要望があるため、(2007年に現在までの議論の枠組みを作った)バリ行動計画に、より沿った形での議題設定にすることを主張しています。G77+中国は130以上の国からなるグループなので、内部でも、具体的にどの議題を優先したいのかについては温度差があるようです。
一方では、カンクンで合意されたことはしっかり実施していかなければ、前に進むことができないのは事実であり、カンクン合意の中には、温暖化影響に対する適応対策を国際的に進めるための枠組みや技術支援に関する仕組みなど、進めることがむしろ途上国を利するものもあります。その意味では、先進国の主張は必ずしも「間違った」ものではありません。
他方でカンクン合意が、必要なことを全てカバーしていないのもまた事実で、例えば、資金的な支援について定めたセクションでは、具体的にそのお金がどこから来るのか(資金源をどうするのか)の議論がすっぽり抜けていたり、国際航空や船舶に対する対策も抜けているので、そうした議論をきちんとできる議題設定をしていくことは、極めて重要です。したがって、途上国の主張も的を得ています。
実際、交渉参加国の間では、両方やらなければならないことは広く認識されており、どこかで折り合いをつけなければならないという雰囲気はあります。
気候変動に取り組むNGOのネットワーク組織であるCAN(WWFもメンバーです)は、両方の要素を取り入れた議題案を各国交渉官に配って、なんとか議論を前に進めることを促しています。
しかし、議論が思うように進まない状況に陥っている1つの大きな要因は、先進国と途上国の間での、埋めることができていない不信感にあります。交渉の中でも、売り言葉に買い言葉とでも言うべき議論の応酬が見られることもあり、厳しい状況が続いています。
京都議定書の第2約束期間
上記の議題設定の紛糾は、主に条約AWGという、2つの作業部会のうちの片方で起きていますが、もう片方の作業部会・議定書AWGでも、難しい議論が続いています。
途上国、特にツバルは、先進国に京都議定書の第2約束期間について政治的な決断をするように強く求め、決着がつくまでは、それ以外のことは議論すべきではないと強く主張しました。
先進国の側は、比較的第2約束期間の議論に柔軟なEUも含めて、条約AWGでの議論の進展や、第2約束期間内の京都議定書に関するルール、特に森林吸収源や柔軟性メカニズムの扱いを同時に議論しなければ、前に進めることはできないとして、ここでも膠着状態が続いています。
前回、この問題について強く拒絶をした日本は、今回もポジションを変えていませんが、今回は特段に踏み込んで発言をすることもなく、逆に各国も、被災国としての立場もあるので、表立っての追求はあまり強くはしていません。
この問題については、今回の会議で大きな打開策が見出されるとは考えにくいですが、年末のダーバン会議に向けて、政治的な判断が求められる局面が出てくることは間違いなさそうです。
ダーバン会議へ向けてのスタートをきれるか?
現時点では交渉の行方は不透明です。最終日になる明日の段階で、年末のダーバン会議へ向けた好スタートがきれるかどうか、予想されたこととはいえ、早くも難局を迎えています。
WWFも含めた環境NGOも、各国の交渉代表との非公式な会合を手分けして持つことを通じて、打開策がないのかを探りつつ、地球環境や人々にとって前に進む方向での決着を求める努力を続けています。
会議参加報告
(2011年4月11日)
ボン、そしてダーバンへ
2011年初めての気候変動に関する国連会議の特別作業部会会合(第16回京都議定書特別作業部会及び第14回長期的協力行動に関する特別作業部会)が、4月3日から8日まで、タイのバンコクで開催されました。
2010年末のメキシコ・カンクンでのCOP16/CMP6で決定された「カンクン合意」では、京都議定書の第2約束期間の合意は先送りされましたが、アメリカを含めた先進国の削減目標と、途上国の削減行動を、国連文書に落とし込むことや、先進国から途上国への削減行動及び適応への資金援助、森林減少防止などの中身に関する議論について、具体化の方向が見えてきました。
今回のバンコク会合では、6月に予定されている、ドイツはボンでの会合とあわせて、中身の進展をより具体的に進めて、2011年末の南アフリカ・ダーバンでのCOP17での合意を目指していくことでした。
進展の無い作業部会
ところが、京都議定書の第2約束期間の目標を議論する作業部会(京都議定書AWG)と、気候変動枠組み条約の下ですべての国の参加する新しい枠組みを議論する作業部会(条約AWG)の二つともにおいて、中身の話はほとんど進展しませんでした。
京都議定書AWGでは、「第2約束期間についての話(もっとも合意が困難な論点)を進めなければ、吸収源やオフセットのルールなどのテクニカルな話を進めても意味がない」と途上国側が強く主張して、議論を進めず、それぞれの国が言いっぱなしのままで、6月のボン会議へと持ち越されました。
また条約AWGでは、カンクン合意に基づいたアジェンダ(話し合うべき論点)を、議長が当初提案しましたが、途上国側が大反対。2007年のバリ会議で合意されたバリ行動計画までさかのぼって、バリ行動計画に基づいたアジェンダ設定をするべきだと強く主張し、バンコク会議1週間は、結局今後何を話し合うべきかというアジェンダを設定することだけで終わってしまいました。
錯綜する各国の意図
なぜバリ行動計画に戻りたいかということには、諸説ありますが、一つの大きな動機は、京都議定書と新枠組みの二つの枠組み方式を前提としているバリ行動計画のほうが、基本的にブレッジ&レビュー(自主的に目標設定し、レビューしていくこと)方式を前提としているカンクン合意よりも好ましいという理由。ただし、カンクン合意はバリ行動計画を基にしているので、本来は同じ路線であるはずです。
また、カンクン合意は参加国がぎりぎり合意できるものを抜き出した形なので、抜け落ちている論点も多々あります。その抜け落ちた論点を復活させたいとする途上国に対し、交渉を前進させた論点を作業計画がついた形で進めていけるカンクン合意から、交渉が後退し、再び混迷してしまうと懸念する先進国側が難色を示したというものです。
途上国と言っても130カ国以上の経済発展度も違う国の集まりであり、統一した途上国の意見というわけでもなく、そこに京都議定書締約国、法的拘束力のある枠組みを批准できないアメリカなど、さまざまな立場の思惑が複雑にぶつかってアジェンダ設定でこれだけもめたようです。
歩み寄りの結果
しかしこのままバンコクでアジェンダも設定できないならば、2011年の交渉は非常に困難を極めるので、せめてそれだけは途上国、先進国双方が歩み寄る形で、最終アジェンダが決定されました。
最終アジェンダは、ほぼバリ行動計画の形に戻り、そこに頭にカンクン合意を実施していく旨が取り込まれ、また最後に法的拘束力のある結果を求めていく旨が入っています。
カンクン合意では抜け落ちたセクター別アプローチ(国際航空・運輸セクターからの排出を議論できる論点)、産油国が主張していた対応措置などが再登場しています。
1週間かかっての成果がこのアジェンダ設定と思うと、焦燥感も漂いますが、これは通らなければならなかった道かもしれません。
京都議定書の第2約束期間が成立するか、また次の枠組みが法的拘束力のあるものになりえるのか、アジェンダで争うといことは、これらの必然的な問題をめぐって争っていることでもあるからです。ずっと先送りしてきた問題がいよいよ噴出している、という見方もあるでしょう。
しかし、カンクン合意で合意された内容は、あとは粛々と実施していくだけ、というわけではありません。その懸念が大きい途上国ですが、カンクン合意は決してこれが「天井」ではなく、ここから積み上げていく「床」になるものです。
少しずつ気の遠くなるような努力で積み上げてきた歩みから戻るのではなく、その上に積み上げていく努力を、先進国、途上国ともに進めていくことを強く願っています。
バンコク会議のNGO報告会を開催
(2011年4月21日)
2011年4月3日から8日までタイのバンコクで開かれた、気候変動枠組条約の特別作業部会(バンコク会議)の報告会を東京で開催しました。これは実際に会議に参加したWWFを含む日本のNGOスタッフによる報告会です。バンコク会議は、これからの世界の温暖化防止のゆくえを左右する、年末のCOP17に向けた重要なステップ。会場には、産業界、報道機関、大学・研究機関などの約60人が集まりました。
求められる「カンクン合意」の進展
バンコク会議は、6月に予定されているドイツ・ボンでの会合とあわせて、「カンクン合意」の中身の進展をより具体的に進めて、2011年末の南アフリカ・ダーバンでの第17回締約国会議(COP17)での合意を目指す一つの重要なステップとなる会議です。
今回の会議では冒頭、先進国と途上国の削減目標・削減行動についてのワークショップが開催され、各国が自主的にカンクン合意に提出した目標の詳細が明らかになりました。また同時に、各国の削減目標や削減行動は、気候変動の脅威を抑制するためには不十分であることを、大きな課題として再認識することになりました。
その後、京都議定書と気候変動枠組み条約の特別作業部会(AWG)の会合が開かれましたが、結果としてほとんど進展無く終わりました。
一方で、長年先送りされてきた問題点である「京都議定書の第2約束期間について」の途上国の焦燥感が鮮明に反映された会議となりました。
福島第一原発の事故への関心
報告会の質疑応答では、福島第一原発の事故が国際交渉にどんな影響を与えるかについても、複数の方からご質問がありました。
もちろん、事故のこと自体が国際交渉の場で話し合われる訳ではありません。
しかし、「カンクン合意」の中で各国が自主的に掲げている削減目標に、今回の原発事故が何らかの影響を与える可能性はあります。
現時点ではわかりませんが、国内政策で、CO2の排出削減策を、原発に大きく頼っているような国においては、設定する削減目標の数値に見直し論が出るかも知れないからです。
その時に、温室効果ガスを大量に排出する火力発電に頼って目標を下げるのか。ほとんど排出しない再生可能エネルギーの拡大と低炭素社会を目指すのか。
温暖化という地球規模の危機を回避する上で、どちらの選択肢を取るベきなのか、その答えは明らかです。
問われる日本の姿勢
WWFジャパン気候変動担当の山岸尚之は最後に、こう発言しました。
「東日本大震災後のこの状況下では、「長期的な地球温暖化問題の議論は後で」という雰囲気が国内にあるのは仕方ないかも知れません。
しかし、経済的に貧しい国が真っ先に被害を受ける地球温暖化という問題に、「自分たちが大変だから」といって背を向けるのが、日本が目指す復興なのでしょうか。
日本のリーダーたちには、「それは違う」と答えて欲しい。震災後、貧しい国も含めて多くの国が、日本に支援の手を差し伸べてくれました。その気持ちに、日本はどう応えるか。
ダーバンに向けて、その姿勢が試されると思います」。
日本が掲げる「2020年に25%削減」という目標を下げることなく、どうやったら、原発に頼らずに、再生可能エネルギーと省エネによる低炭素社会を実現できるのか。
今こそ、政府、産業界、市民が、真剣に考え、行動しなければなりません。
報告会の配布資料および動画はこちら
▼当日の配布資料はこちらスクールダーバンのページへ
イベント:国連気候変動バンコク会議報告会 概要
日時 | 2011年4月19日(火)12:00~14:00 |
---|---|
内容 | 1.先進国の削減目標・途上国の削減行動に関するワークショプの成果 WWFジャパン 山岸尚之 2.京都議定書と気候変動枠組み条約の特別作業部会の報告 WWFジャパン 小西雅子 3.ダーバン会議(COP17)に向けた課題 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)早川光俊 4.質疑応答 |
場所 | LMJ東京研修センター 4階大会議室(東京都文京区本郷1-11-14 小倉ビル4階) 地図 http://www.lmj-japan.co.jp/kaigishitu/map.htm |
参加費 | 一般1000円 共催団体の会員500円 |
主催 | WWFジャパン、FoE Japan、気候ネットワーク、地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)、環境エネルギー政策研究所(ISEP)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表部(RAN)、グリーンピース・ジャパン、オックスファム・ジャパン |
関連情報
WWFインターナショナルのサイト(英語) Wrangling in Bangkok Delays Progress in UN Climate Talks, Says WWF