沖縄関連問題 情報まとめ(2004年~2010年)
2010/12/31
- ジュゴンの海、辺野古・大浦湾の生物多様性保全を要請(2009年12月8日)
- 守ろう!ジュゴンの海 普天間飛行場の移設見直しを求める共同声明(2009年12月4日)
- 普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書(2009年5月13日)
- 泡瀬干潟で埋立て工事が中断(2009年4月22日)
- 『辺野古・大浦湾アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由』(2009年4月22日)
- 泡瀬干潟とやんばるの森、開発のための予算が見直しに!(2009年3月23日)
- 東京セミナー開催報告:ジュゴンとともに生きる国々から学ぶ(2009年3月4日)
- 泡瀬干潟でサンゴが生き埋めに!(2009年1月19日)
- 要請:泡瀬干潟の保全について(2008年12月4日)
- IUCNの「ジュゴン保護勧告」が採択される(2008年10月14日)
- 大浦湾のアオサンゴ群集の調査結果を公表(2008年7月28日)
- 環境省と沖縄県に要望書を提出 南西諸島の干潟とサンゴ礁における化学物質汚染リスクの実態解明を(2008年4月24日)
- 米軍基地の建設は違法 ジュゴン裁判勝利!(2008年1月24日)
- 在沖縄米軍の北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設計画に関し、意見書を提出(2006年3月22日)
- 「普天間飛行場代替施設建設事業に係わる環境影響評価方法書」に対する意見書(2004年6月16日)
ジュゴンの海、辺野古・大浦湾の生物多様性保全を要請(2009年12月8日)
WWFジャパンは2009年12月8日、鳩山政権に対し、名護市東海岸の辺野古・大浦湾沿岸の生物多様性保全の要請書を提出しました。絶滅のおそれのある海の哺乳類ジュゴンが生息するこの海域に、米軍普天間飛行場の代替施設を建設するかどうかについて、現在、鳩山政権では検討が続けられています。WWFジャパンは、希少種を含めた、生物多様性を保全するために、建設計画を中止するよう要請を行ないました。
ジュゴンに代表される野生生物の生息地
2009年12月4日に発表した共同声明に続き、WWFジャパンでは鳩山政権に対し、辺野古・大浦湾沿岸への、米軍普天間飛行場の代替施設の建設中止を要請しました。この地域に代替施設が建設されれば、沿岸の海が埋め立てられ、絶滅危機種のジュゴンや、アオサンゴの群落など、貴重な生態系が悪影響を被ることは避けられません。
WWFジャパンは、以下の4点を鳩山政権に要請しました。
- 辺野古・大浦湾海域に、生物多様性保全のための海洋保護区を設置し、やんばるの森とあわせて、世界自然遺産への登録を推進すること。
- 辺野古新基地(普天間代替施設)については、生物多様性保全の観点から、計画を中止すること。
- IUCN(国際自然保護連合)のアンマン(2000年)、バンコク(2004年)での勧告、バルセロナ(2008年)でのジュゴン保護の決議を遵守すること。
- 辺野古・大浦湾海域で生息が確認された36種の新種、および国内初記録の25種の十脚甲殻類(エビ・カニ類)の希少性等について調査を行うこと。
鳩山政権がこの地域への代替施設建設計画を見直し、日本に残されている貴重な生態系が破壊されない方針をとることを、WWFジャパンは期待しています。
記者発表資料 2009年12月8日
鳩山政権へ、辺野古・大浦湾の生物多様性保全を要請
【東京発】12月8日、WWFジャパンは、長年活動を続けてきた、名護市東海岸の辺野古・大浦湾沿岸の生物多様性を保全する要請を、鳩山首相ならびに、岡田外務大臣、小沢環境大臣、北澤防衛大臣あてに行った。書簡は別紙の通り。
WWF ジャパンでは、1983年より「南西諸島自然保護プログラム」を開始。同地域および海域での自然環境と野生生物の調査研究、生物多様性の保全、普及教育な どの活動を継続してきた。この海域は、下記の例などからも、南西諸島の中でも、特に貴重な生物が生息する生物の多様性に富んだ地域である。
- 同海域は絶滅危惧ⅠA類(環境省)のジュゴンの生息域。IUCN(国際自然保護連合)は、日本・アメリカ両政府に対し、過去3回にわたり沖縄のジュゴン保護に関する勧告、決議を行っている。
- 2008 年7月には、WWFジャパンが他の環境保護団体とともに行った調査結果により、巨大なアオサンゴ群集の存在が判明したことを発表。サンゴ礁や海草藻場、沿 岸には砂浜、岩礁、干潟やマングローブ林が広がるなど様々な環境が、ジュゴンをはじめ多くの野生生物の生息地となっている。
- 2009年6月に行われた同海域での十脚甲殻類(エビ・カニ類)調査では、少なくとも36種の新種(未記載種)と25種の日本初記録種の生息が確認されていることが確認され、11月末に開催された「日本サンゴ礁学会」で発表している。
2010年は国連の国際生物多様性年。10月には名古屋で第10回生物多様性条約締約国会議が開催され、日本は、議長国として2010年から2年間、地球の環境保護、生物多様性保全を確実に進める役割と責任を負うことになる。
これらのことから、WWFジャパンは、辺野古・大浦湾海域の豊かな生物多様性の保全について、下記の点を鳩山政権に対し要請する。
- 辺野古・大浦湾海域に、生物多様性保全のための海洋保護区を設置し、やんばるの森とあわせて、世界自然遺産への登録を推進すること。
- 辺野古新基地(普天間代替施設)については、生物多様性保全の観点から、計画を中止すること。
- IUCN(国際自然保護連合)のアンマン(2000年)、バンコク(2004年)での勧告、バルセロナ(2008年)でのジュゴン保護の決議を遵守すること。
- 辺野古・大浦湾海域で生息が確認された36種の新種、および国内初記録の25種の十脚甲殻類(エビ・カニ類)の希少性等について調査を行うこと。
以上
辺野古・大浦湾の生物多様性保全についての要請(2009年12月8日)
内閣総理大臣 鳩山由紀夫 様
外務大臣 岡田克也 様
環境大臣 小沢鋭仁 様
防衛大臣 北澤俊美 様
(財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 会長 德川恒孝
拝啓
時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
本会の活動につきましては、日頃より、ご理解、ご支援をいただき厚く感謝申し上げます。
さて、WWFジャパンは、1983年に「南西諸島自然保護プログラム」を開始してから、同地域および海域での自然環境と野生生物の調査研究、生物多様性の保全、普及教育などの活動を継続しています。
今年6月に、沖縄県名護市の辺野古・大浦湾海域で行われた十脚甲殻類(エビ・カニ類)調査では、11月末に名護市内で開催された「日本サンゴ礁学会」で発表されたように、少なくとも36種の新種(未記載種)と25種の日本初記録種の生息が確認されています。
また、同海域は絶滅危惧ⅠA類(環境省)のジュゴンの生息域であり、沖縄のジュゴンは孤立し、分布域が狭く、個体数もきわめて少ないことから、 IUCN(国際自然保護連合)は、日本・アメリカ両政府に対し、3回にわたる沖縄のジュゴン保護に関する勧告、決議を行っています。
辺野古・大浦湾には、巨大なアオサンゴ群集を含むサンゴ礁や海草藻場、沿岸には砂浜、岩礁、干潟やマングローブ林が広がるなど様々な環境があり、ジュゴンをはじめ多くの野生生物が生息し、まさに生物多様性の宝庫となっています。
2010年は国連の国際生物多様性年であり、10月には名古屋で第10回生物多様性条約締約国会議が開催され、日本は、議長国として2010年から2年間、地球の環境保護、生物多様性保全を確実に進める役割と責任を負うことになります。
以上のことから、辺野古・大浦湾海域の豊かな生物多様性の保全について、下記のことを要請いたします。
記
- 辺野古・大浦湾海域に、生物多様性保全のための海洋保護区を設置し、やんばるの森とあわせて、世界自然遺産への登録を推進すること。
- 辺野古新基地(普天間代替施設)については、生物多様性保全の観点から、計画を中止すること。
- IUCN(国際自然保護連合)のアンマン(2000年)、バンコク(2004年)での勧告、バルセロナ(2008年)での決議を遵守すること。
- 辺野古・大浦湾海域で生息が確認された36種の新種、および国内初記録の25種の十脚甲殻類(エビ・カニ類)の希少性等について調査を行うこと。
なにとぞ、ご高配の程、よろしくお願いいたします。
守ろう!ジュゴンの海 普天間飛行場の移設見直しを求める共同声明(2009年12月4日)
WWFジャパンなどの環境NGOが、希少種ジュゴンの保護をと共に保全を続けてきた、沖縄県名護市の辺野古・大浦湾沿岸。米軍普天間飛行場の代替施設を、この地域に建設する問題が今、鳩山政権で重要課題として検討されています。WWFを含む複数の環境NGOおよび市民団体は、2009年12月4日、鳩山政権に対し「辺野古・大浦湾地域への新基地建設(普天間代替施設)の白紙撤回を求めるNGO共同声明を発表しました。
大規模な環境破壊事業の見直しを!
絶滅の危機にある海の哺乳類ジュゴンが生息する、沖縄県の辺野古(へのこ)・大浦湾周辺は、日本で最も生物の多様性が豊かな海域の一つです。
2007年にはアオサンゴの大群集が確認されたほか、最近も36種にのぼる、エビ・カニ類の新種が発見されるなど、豊かな自然生態系が残っていることが明らかになっています。
この地域では現在、普天間米軍基地の代替施設を建設し、沿岸域を埋め立てる計画が持ち上がっていますが、これが実施されるようなことになれば、貴重な生態系の大規模な破壊は避けられません。
普天間基地の移設が、鳩山政権の重要課題として検討されている中、グリーンピースをはじめ、日本自然保護協会、WWFジャパンなどの環境NGOは、「辺野古・大浦湾地域への新基地建設(普天間代替施設)の白紙撤回を求める」共同声明を発表しました。
辺野古・大浦湾地域を埋め立てる事業計画においては「基地建設による(自然への)影響は総じて少ない」とする環境影響評価が示されていますが、これらはいずれも、事業の実施を前提として行なわれた評価であること、また、環境調査が海の生物を脅かす形で行なわれている点など、問題が指摘されています。
2010年は国際生物多様性年。日本は議長国として、名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議を主催します。
環境NGO側は鳩山政権に対し、温暖化防止の取り組みと同時に、生物多様性条約への取り組みでも積極的な姿勢を示し、かけがえのない沖縄の自然を守りつつ、環境立国をめざす日本が、世界に向けてリーダーシップを発揮するよう、強く期待しています。
共同声明 2009年12月4日
鳩山首相に辺野古・大浦湾地域への新基地建設(普天間代替施設)の白紙撤回を求めるNGO共同声明
私たちNGOはこれまで、辺野古・大浦湾地域が普天間飛行場の代替施 設を建設するために埋め立てられることに大きな懸念を抱き、事業実施を前提とした環境影響評価の進行や、海の生物を脅かす環境調査手法の問題性などを指摘 しつつ、埋め立て事業の白紙撤回を強く要請してきました。同時に、県外や国外への移設方針を示した鳩山政権に注目していました。
辺野古・大 浦湾地域は、日本にわずか十数頭ほどしか生息していない絶滅危惧種ジュゴンの限られた生息地であり、またアオサンゴの大群集に象徴されるように、豊かな自 然生態系が残る海域です。最近では、エビ・カニ類の新種が36種も発見されています。埋め立て事業を実施すれば、このきわめて貴重な生態系の大規模な破壊 は避けられません。
辺野古・大浦湾地域を埋め立てるこの事業計画に対し、「基地建設による影響は総じて少ない」とする環境影響評価が示すも のは、何が何でも基地建設を推進しようという日本政府の姿勢に他なりません。また、この事業の実施が民意を反映していないことは、各新聞社の世論調査や選 挙結果からも明らかです。
国際生物多様性年である2010年、日本は議長国として生物多様性条約第10回締約国会議(CBD・COP10/MOP5)を主催します。辺野古・大浦湾地域の埋め立て事業は、環境保全の取り組みを重視する国際社会から大いに疑問視されるものです。
鳩山政権に、気候変動枠組み条約への取り組み同様、生物多様性条約への取り組みにおいても強いイニチアチブを示し、かけがえのない豊かな沖縄の自然を守ることをはじめのステップとし、環境立国をめざす日本のリーダーシップを発揮することを強く期待します。
以上の認識にもとづき、鳩山首相に辺野古・大浦湾地域への普天間飛行場移設事業の白紙撤回を要請します。
共同声明参加団体
国 際環境NGOグリーンピース・ジャパン、WWFジャパン、日本自然保護協会、国際環境NGOFoEJapan、NPO法人ネットワーク『地球村』、イル カ&クジラ・アクション・ネットワーク、北限のジュゴンを見守る会、ジュゴン保護キャンペーンセンター、グリーン・アクション、沖縄・生物多様性市民ネッ トワーク、琉球諸島を世界自然遺産にする連絡会、ヘリ基地いらない二見以北十区の会、特定非営利活動法人熱帯森林保護団体、[自然の権利]セミナー、未来 につながる生命(いのち)を育てる会、雁を保護する会、FOCSJapan、(社)OfficeEcologist、NPO法人ラムサール・ネットワーク 日本、ホールアース自然学校、IFAW(国際動物福祉基金)ジャパン、「自然の権利」基金、劣化ウラン研究会(東京)、平和の井戸端会議、平和省プロジェ クト大阪、自衛隊を国際災害救助隊にかえようプロジェクト、大阪ピース・ミュージック・フェスティバル制作委員会、不戦へのネットワーク、アマナクニ/名 前のない新聞、許すな!憲法改悪・市民連絡会、グローバルピースキャンペーン、住まいと環境を考える会、有機建築研究所、佐潟環境ネットワーク、日本キリ スト教団大阪教区沖縄交流・連帯委員会、行動:多様ないのちを還す、ホリスティック心理教育研究所、たんぽぽ舎、都労連交流会、現代思想社、いろりばた会 議、核開発に反対する会、劣化ウラン兵益禁止市民ネットワーク、リブ・イン・ピース☆9+25、パンダクラブ徳島、基地はいらない!女たちの全国ネット、 ふぇみん婦人民主クラブ、東アジア環境情報発伝所、玄米と旬の野菜MOMONGA(順不同、計49団体)
普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書に対する意見書(2009年5月13日)
2009年5月13日 意見書
【提出者】
(財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)
事務局長 樋口隆昌
〒150-0014 東京都港区芝3-1-14
環境影響評価法第18条の規定に基づき、環境の保全の見地から、次の通り意見を提出します。
この準備書は、普天間飛行場代替施設(辺野古新基地)が自然環境や野生生物に及ぼす影響を「大部分の項目で影響はない、あっても軽微である、回避・低減措置がとられているなど保全措置が適切である、したがって、事業実施区域周辺におよぼす影響は総じて少ないものと判断される」と結論づけています。
しかし、先に結論ありきの準備書で、調査結果を羅列しただけで、考察をほとんどせずに、表面的にのみ影響を予測し、影響がないか軽微と結論づけ、重大な影響については、実際は回避・低減ができない可能性が高いにもかかわらず「事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られている」としている点で、非科学的であり不適正と言わざるを得ません。
また、方法書作成前に、環境へ悪影響を及ぼすような事前調査を行い、後に、方法書追加修正版や準備書で新たな事業内容を追加するなど、手続きの進め方に違法性があります。
このような合理的でない環境アセスメント手続きでは、不適切な影響予測によって絶滅危惧ⅠA類のジュゴンを絶滅させる可能性が高いだけでなく、科学的で適正なプロセスを怠り、アセス制度の形骸化をさらに進めるものとなるでしょう。基地建設計画を根本的に見直す、あるいは、再度、方法書に立ち返り、環境アセスメント手続きを適正にやり直すべきです。
1.環境アセスメント手続きについて
普天間飛行場代替施設の環境アセスメントは、その手続きの進め方自体にアセス法の趣旨と条文を無視する違法性があります。方法書(2007年8月)を縦覧し住民意見を求めた後で、方法書追加修正資料(2008年2月)、修正版(同年3月)を出し、ヘリコプターや固定翼機の機種、弾薬装弾場、洗機場、誘導灯などを新たに追加し、さらに、演習時や緊急時には集落の上空を飛行すること、また、埋立材として莫大な量の海砂が採取されることなどを明らかにしています。
また、今回の準備書では、新たに4か所のヘリパッド、汚水処理浄化施設が加わり、さらに、ゴルフ場造成が加わる可能性もあるなど、方法書で示されなかった事業内容がなし崩し的に追加されています。これらの重大な変更については住民が意見を述べる機会はありませんでした。
このような追加項目は、軽微な変更とは認められず、一つ一つの追加項目およびその集積が、大きな環境影響を生じる可能性が大きいと考えられます。したがって、環境影響評価法第28条および沖縄県環境影響評価条例第25条に基づき、方法書手続きに戻ってやり直すべきです。
2. 事前調査等の環境攪乱について
2004-2005年の現地技術調査(ボーリング等)、2007年の事前調査(水中ビデオ、パッシブ・ソナー、サンゴ着床板の設置)は、方法書が出される前に行われたうえに、自然環境と野生生物に大きな攪乱を与え、その影響が回復しないうちに2008年に環境アセスメントの現地調査が行われています。そのため、特に、ジュゴンの生息状況にはその悪影響が現れ、辺野古沖での生息、地先の海草藻場での採食が不可能となり、観察記録が得られなかったものと考えられます。
方法書の前に強行された事前調査は、方法書手続きを通して検討された手法で行われてはいないため、アセスメント自体が、非科学的で不適正なものとなっています。
少なくともジュゴンに与えた負荷が回復し、通常の行動が見られるようになるまで、ジュゴンに影響を及ぼすような調査や軍事演習は数年間中止し、安定状態を取りもどしてから、再調査を行うべきです。
3. 大気質
大気質は環境基準を満たすとされていますが、環境基準は、最低限満たすべき基準であり、基準を満たしたからといって良い大気質が維持されるわけではありません。今回の調査では、調査地点が少なすぎ、全集落で測定するべきでしょう。
また、地球温暖化対策として、工事中、供用後の軍事演習で排出される二酸化炭素についても、その排出量を見積もり、影響を予測するべきです。なお、排ガス対策型機械、アイドリングストップ、防塵シート、散水、法定速度の遵守、タイヤ洗浄などは、通常の配慮であり、取り立てて環境保全措置と言うほどのことではありません。
4. 騒音
予測の前提として、ヘリコプター(AH-1,UH-1,CH-46,CH-53)と固定翼機(C-35,C-12)の離着陸やタッチ&ゴーが1日あたり合計266回実施され、さらに、ホバリングやエンジン・テスト等も行われるとされています。準備書では、騒音は、V字型滑走路で周辺地域上空を回避するので、相当程度低減される、工事中の騒音も環境基準を満たすとされています。
しかし、一方では「訓練時や非常時には集落上空を飛ぶ可能性がある」と書かれていることから、予測の前提自体がそもそも不確実なものです。米軍の軍用機は、想定された飛行コース、飛行回数どおりに飛ばないことは明らかであり、現在の普天間飛行場のように、集落上空を低空で何回も飛行訓練することなど、最悪のケースを想定して影響を予測するべきです。また、実際に米軍が使用するヘリコプター、固定翼機を使用してデモ・フライトを実施し、住民に騒音とその影響を体感してもらい、意見書を書いてもらうべきです。なお、タッチ&ゴーでは、V字型の着陸用滑走路と離陸用滑走路を使い分けるなど、あり得ないことです。
軍事訓練の航空機騒音や工事中の海中騒音は、ジュゴンへ悪影響を与える可能性が高いと思われますが、その対策は、ジュゴン出現時に、水中音を発する工事の休止、航行船舶の回避など言葉だけで実際上の運用がどうなるのか不明であり、回避、低減が図られているとは言えないでしょう。そもそもジュゴンは、工事船が航行するような海域には近づかないと考えられます。
低騒音型機械、車両行調整、米軍車両の適正走行なども、保全措置というより行われて当然の工事手法です。
5. 振動
法令に基づく適正な工事、車両運行調整、低震動型機械、アイドリングストップ、米軍車両への適正走行依頼などによって、振動は、回避、低減が図られるとされています。しかし、これらは工事をする上での当然の配慮であり、取り立てて環境保全措置と言うほどのものではありません。基準が満たされたとしても、それは最低限であり、より良い環境状態を目指すものではありません。
6. 低周波音
米軍機は、V字型滑走路で周辺地域の集落上空を回避するので、低周波音は相当程度低減されるとありますが、騒音の項目で述べたように、米軍機の演習では、前提どおり集落上空を飛ばないとは考えられません。したがって、低周波については、その影響の危険性が指摘され、個人差もあるらしいことから、詳細に分析し、影響を予測するべきです。
7. 水の汚れ
コンクリート工事からのアルカリ排水の処理、基地内排水の浄化槽での処理、法令による濃度での海への排水によって、影響を回避、低減できるとしています。しかし、沖縄の米軍基地内での化学物質による汚染は、たびたび報道されており、軍事空港としての供用後の汚染については、何も触れられていません。また、工事中の排水や供用後の排水による汚染の蓄積についても触れられていません。塩分を落とすために、軍用機の機体を洗浄する洗剤あるいは薬品についても浄化方法、排出方法を詳しく述べるべきです。
8. 土砂による水の濁り
汚濁防止膜、裸地の転圧、洗浄石材の投入、台風時は工事を中止することによって、影響を回避、低減するとしています。しかし、これらも工事上の当然の措置です。沖縄の地域特性として、台風だけでなく局地的な集中豪雨も頻発することから、そのようなケースも想定して対策を検討する必要があります。豪雨時に、土堤や沈砂地、汚濁防止膜などが役に立たない例は数多く見られます。
さらに、すでに赤土の蓄積があるところ(バックグラウンド)は考慮されていませんが、これも大きな問題です。辺野古ダム周辺の丘陵から、海域埋立用の土砂を200万立方メートル、キャンプ・シュワブの平地から200万立方メートル、合計400万立方メートルも採取する計画なので、豪雨時における工事中の赤土流出、また工事後の法面、側溝等からの大量の流水の影響についても十分検討するべきです。
9. 地下水の水質
地下水位と水質に影響はないので何も対策をしないとされています。しかし、サンゴ礁のイノー(礁池)には、通常、地下水がわき出す場所があり、埋立によって、地下水脈が分断されたり、水量が変化したり、基地による化学物質汚染の可能性もあり、サンゴ礁海域や海草藻場への影響が予想されます。準備書では、この点に何も触れていないので、再検討が必要です。また、辺野古ダム周辺の森林が土砂の採取によって失われることから、集水域の環境が大きく変化し、これが地下水へも影響を及ぼすと考えられるので、その影響についてきちんと調査するべきです。
10. 水象
潮流の変化は基地周辺だけで、大浦湾等では大局的には変化しないとされています。しかし、そのような結論を出す根拠となったシミュレーションに関しては、実施要件、境界条件など、基本的な条件が示されておらず、観測値と実測値についてもよく一致しているというだけで、シミュレーションの精度など肝心の点に触れていません。そのため、このシミュレーションは、大きな変化はないという結論に合わせるために操作を加えたのではないか、という疑問を生じさせます。
したがって、シミュレーションについては第3者機関の検証を受け、潮流の変化と地形の変化、その結果に伴うサンゴ礁や海域生物への影響などの予測も、再度行うべきです。また、埋立地の堤防ができることにより、台風時や高潮時の高波などによって、陸上部に越波や塩害の被害が起きる可能性についても検討するべきです。
11. 地形・地質
重要な地形・地質の一部が失われるが、区域外にもあるので問題はないとしています。しかし、他地域にあるから問題ないというのでは環境アセスメントにはなっていません。辺野古のサンゴ礁地形、岩礁、大浦湾の南西側の急深斜面の喪失は一連の自然海岸の地形を大きく損なうものであり、地形・地質への影響は大きいというべきです。方法書への県知事意見では、重要な海岸地形・地質に関して詳細な調査を求めていますが、それは実現されていません。
12. 塩害
内陸への塩害は生じないとしていますが、埋立地の堤防ができた場合、波当たりが強くなり、海水の飛沫の飛び方も大きくなり、特に、台風や暴風雨時は、塩害が生じる可能性が増大することを否定できないと思われます。
13. 電波障害
航空機による電波障害の事例があり、発生したらアンテナ、ケーブルなどで対策を取るとしていますが、米軍機の演習は飛行ルートを変化させることから、特定の場所ではなく、周辺全域に電波障害の事例が増加する可能性を否定できないと思われます。
14. 海域生物
実行可能な保全措置で回避、低減が図られている、大浦湾奥部の作業ヤードを取りやめた、海上ヤードは工事後に撤去する、事後調査で影響が認められれば対策をとる、とされています。
しかし、サンゴ礁や藻場、浅瀬や深場などの海域生物について、影響が及ぶ範囲を、埋立によって失われる部分だけに限定していることに大きな問題があります。埋立の影響はすぐには現れなくても、次第に近傍から遠方へと波及していく可能性が高いと考えられます。事後調査の結果、後で悪影響が明らかになったとしても十分な対策はとれず、形式的対策になりがちです。
海域生物については、「重要種」のみを選んで影響を予測していますが、海草藻類、ベントス、魚類など記録種数の多い分類群については、それぞれの種の多様性について、他の海域と比較して検討するべきです。また、辺野古・大浦湾の海域生物の多様性の観点からも分析を行い、その評価と影響予測を行うべきです。
ウミガメ類については、キャンプ・シュワブの辺野古側の海岸(埋立予定域)を産卵の可能性の低い場所と判定していますが、辺野古側での唯一の産卵・ふ化が確認されている場所であることから、この判定は訂正するべきです。
海底ヤードについては、工事後に撤去するとしても、その建設工事、使用状況、撤去と海底への影響は大きいと考えられることから、現在の影響予測は不十分と思われます。
15. サンゴ類
大浦湾西岸作業ヤードの取りやめと中央部作業ヤードの移動、汚濁防止膜や防止枠の使用により濁りを低減する、埋め立て区域内のサンゴを移植するとしていますが、台風や集中豪雨時の濁りの発生については触れていません。台風や集中豪雨は、可能性として十分考えられることであり、影響を予測し、保全措置も検討するべきです。
サンゴ類は、埋立予定域のサンゴ類が消滅するだけでなく、近傍のサンゴ類も巨大な埋立地の存在による海流の変化等の影響を受ける可能性があります。水象の項目では、潮流の変化は埋立地近傍に限られるとしてありますが、このシミュレーション自体の信頼性が疑われます。辺野古崎から長島にかけての狭隘部が埋立により、さらに狭められることから、海水の流動が変化する可能性は、むしろ大きいのではないかと考えられます。もしそうならば、大浦湾のアオサンゴやハマサンゴなどの巨大な群集も海流の変化による影響を受ける可能性が高いと考えられます。
なお、サンゴ類の被度に関する調査では、調査結果としてスケッチだけが示されていますが、写真もそえて客観性を示すべきでしょう。
16. 海草藻類
辺野古地先の海草藻場は、面積が488.7ヘクタールとされており、沖縄島に現存する最大の海草藻場です。絶滅のおそれが極めて強い沖縄のジュゴンにとって、最も重要な採食場所と考えられます。しかし、辺野古および大浦湾で、埋立により71.8ヘクタールの海草藻場が失われるとされています。嘉陽・安部の藻場の面積が46.5ヘクタールであることから、その1.5倍の藻場が消滅することになります。また、埋立により直接消滅する場所だけでなく、埋立地の周辺も藻場としては次第に衰退する可能性が高いと思われます。
保全措置として、専門家の助言により、海草の生育基盤の環境改善と生息範囲拡大を図ると書かれているが、あいまいで具体的内容がありません。保全措置は実現可能なことを明確に示すべきです。海草の移植は、泡瀬干潟の例で見られるように、成功していません。
なお、辺野古地先の藻場のある海域は、現地技術調査(2004-2005年)や事前調査(2007年)、現地調査(2008年)、米軍演習によって著しく攪乱され、ジュゴンが利用できない状況になっている可能性が大きいと思われます。保全措置としては、現存の藻場海域を攪乱しないことが第一です。海草藻場の保全とジュゴンの保護は一体的なものとして検討する必要があります。
17. ジュゴン
ジュゴンはIUCN、環境省と沖縄県のレッドデータブックで、それぞれ絶滅危惧(VU)、絶滅危惧ⅠA類(CR)、であり、国指定天然記念物です。分布域の狭さ、個体数の少なさ、個体群の孤立、生息地での軍事基地計画などから、日本国内では最も絶滅のおそれの高い哺乳類と言うことができます。この点を十分に認識した上で、軍事基地建設の影響予測や保護に関する評価を行うべきです。しかし、準備書では、絶滅の可能性や保護対策に関する考察が、きわめて不十分であり、おざなりです。
嘉陽沖のジュゴンにとって、採食場所を含む生息範囲への影響は(埋立と軍事基地の工事、その存在、供用=軍事演習のどの段階も)、ほとんどないとする結論は、明らかに誤りです。影響がないという結論が先にあり、それに向けて強引に誘導したものに過ぎません。
準備書では、嘉陽地先の海草藻場の面積は44.2ヘクタールで、辺野古地先は488.7ヘクタールとされています。また、単位面積あたりの海草の乾燥重量も辺野古のほうが相当大きいという結果が示されています。したがって、採食場所としてみれば、辺野古地先は嘉陽地先より好適な条件を備えていると言えます。そのため、ジュゴンが辺野古地先の海草藻場で採食していない、沖でも観察されていないとするならば、その理由を考察しなければなりませんが、この点について準備書には何も書かれていません。
辺野古地先の海草藻場を利用せず、沖に生息しなくなってしまったのならば、以前からの軍事演習に加えて、2004、2005年の現地技術調査(4か所の単管足場、夜間の操船、スパット台船など)、また、2007年の環境現況調査(ビデオ、ソナー、サンゴ着床板の設置など)の影響があると考えるのが自然であり、きちんと考察するべきです。嘉陽沖で観察されるジュゴンおよび古宇利島から遊泳してきた個体は、辺野古沖および海草藻場のある地先のイノー(礁池)を利用できないことによって、大きな悪影響を被っている可能性が高いと考えられます。
ジュゴンが辺野古地先とその沖合を利用しないと結論づけるのなら、事業者は、事前調査と軍事演習の影響を消してから、すなわち、軍事訓練を2年ないし3年ぐらい中止して、その間およびその後にもジュゴンは辺野古地先と沖を利用しないことを証明しなければなりません。ジュゴンは辺野古付近の海域を利用していないから、埋立と軍事基地の建設、軍事演習の影響はないという結論は、あきらかに間違っています。
古宇利島東側の2頭へも、基地建設の影響はないとしているが、これも間違っています。準備書によると、古宇利島から辺戸岬、嘉陽、大浦湾への移動があると考えられており、古宇利島の個体らしいものが大浦湾中央部で遊泳する観察例があることから(沖縄島北部の狭い海域で交流があるのは、むしろ当然と言って良い)、行動圏のなかに軍事基地が建設され、演習が行われることによって、既に受けている影響に加えて、さらに大きな悪影響を被ると予測するのが合理的です。
準備書では、飛行場の供用=軍事演習における騒音は、ジュゴンへの影響レベルを上回る可能性があるが、飛行コースの直下に限られるとしています。飛行ルートの北東端は、まさに嘉陽沖のジュゴンの記録範囲に重なり、軍用機の騒音の影響はジュゴンの生息に大きな影響を与える可能性が高いと考えられます。準備書によれば、辺野古沖ではジュゴンが記録されなくなっており、近い将来、嘉陽沖も、埋立工事による海中騒音の伝播や軍用機の騒音によって生息場所として不適になる可能性があるとしたら、ジュゴンの生息域はさらに縮小し、重要な海草藻場が利用できなくなることから、生存はさらに危機的な状況になると予測されます。
一方、大浦湾での刺網による混獲の可能性を指摘していますが、その対策は示されていません。数十億円をかける環境アセスに比べれば、ジュゴン保護のための刺網漁への補償は微々たるものであり、保全措置として準備書で取り上げるべきです。
なお、航空機による飛行ルートは概念図ではなく、実際の調査時に飛んだ飛行ルートをGPSの記録にもとづいて示すべきでしょう。実際にどのように飛行したのか、準備書には示されていません。
18. 陸域動物(鳥類について)
鳥類調査は、ライン・定点調査とも広い範囲で薄く、道路と海岸沿で行われています。しかし、何の目的でこのような方法を採用したのか意味不明です。調査結果は、得られたデータを一括して表にしだけですが、地域別、環境別にまとめなければ、影響予測や保全措置の検討は困難です。データを羅列し、考察をほとんど加えずに、影響は無いか軽微と結論づけているに過ぎません。
ラインセンサス法を用いたのなら、記録個体数に関するデータを示すべきです。数量データがないので、定量的な解析、影響予測、評価がなされていません。個体数が多いのか少ないのかは、影響を予測、保全措置を評価する上で不可欠です。
留鳥および夏鳥については、繁殖の有無が影響予測と評価の上で重要ですが、準備書では、繁殖に関する調査や繁殖確認の方法がまったく示されていません。それにもかかわらず「改変区域では・・・調査地域では営巣繁殖は確認されておらず」という記述が並んでいます。調査のラインや定点に偏りはないのか、繁殖を確認するためにふさわしい方法を用いたのか、明記するべきです。そうでなければ、繁殖にかかわる観察ができないような手法で調査を行ったという疑いが残ります。少なくとも、環境庁(1978)の繁殖地図調査の手法を用いるべきです。
改変区域内で記録されたカラスバト、リュウキュウコノハズク、リュウキュウオオコノハズク、リュウキュウアオバズク、リュウキュウサンショウクイ、リュウキュウサンコウチョウ、リュウキュウコゲラ、アマミヤマガラなどについては、繁殖しているのか、していないのか、再調査するべきでしょう。フクロウ類は、繁殖期に、営巣可能な環境で、頻度高く鳴き声が聞こえれば、繁殖の可能性が高いと見るべきです。
工事中の騒音が鳥類に与える影響について、飛び立ちなど一時的な反応はあるが、生息地の放棄などの重大な影響はないとしています。しかし、その根拠は示されていません。土地改変区域では、鳥、コウモリ、トンボなどは周辺へ飛んでいくので影響がないと言うに到っては、アセスを放棄したのも同然です。辺野古ダム周辺は土取り場として、キャンプ・シャワブ海岸部は埋立と滑走路の建設で、大きく環境が改変されることによって、鳥類の繁殖、生息はほとんど不可能になります。
なお、予測結果(6-17-407ページ)では、ネズミ類に関して「新たにゴルフ場、芝地環境が創出され、生息環境が増加する可能性がある」、イノシシ、コウモリ、鳥類について「イジュ-タブノキ群落等が、ゴルフ場、芝地などによって減少する」と書かれていますが、そもそも「ゴルフ場」造成は施設計画に入っていないはずです。
19. 陸域植物
土地改変区域で個体が失われることによって、周辺区域の個体群の存続に影響が生じると考えられる種については、類似環境へ移植する、生息環境の保全に努める、事後調査を行い、専門家の助言を受けるとしています。しかし、類似環境とは何なのか、移植における活着とその後の成長、繁殖はどうなのかなど、技術的な検討は何もされておらず、形式的な保全措置を述べているに過ぎません。事後調査と「専門家」の助言に、結果を先送りしてしまうのは無責任と言えます。
また、土取り場の植物が刈り取られた後、緑化工法や植林が行われても、地形変化や風の吹き込みなどで、周辺植生への影響は大きいと考えられます。安易な移植は、移植先を攪乱することになるし、移植は、単に個体が生きのびればよいと言うことではなく、生態系の中で自然に世代交代していけるような手法を考えるべきでしょう。
20. 海域生態系
海域生態系の項目の中では、海草藻類、サンゴ類、底生動物類、魚類、爬虫類のリストを並べ、生態系を海浜、干潟、藻場、サンゴ礁、内湾に類型し、それぞれの生態系(意味は環境)と優占的(代表的)な種を結びつけたに過ぎません。
海域生態系への影響としては、他の項目と同様に、埋立によって失われる部分は、生息空間の消失として影響があり、機能が失われるが、保全措置として、消失藻場を最小化し、サンゴを移植することにより、可能な範囲で回避、低減が図られるとしています。しかし、辺野古地先で消失する藻場の重要性、特に、ジュゴンの採食場所としての意味を考察していません。
21. 陸域生態系(アジサシ類)
準備書では、陸域生態系と言いながら、中心となる記述は、アジサシ類など、上位性、典型性、特殊性という視点で選んだいくつかの種に関する調査結果を並べただけです。
アジサシ類については、その生息数(記録数)について、文献により5種947羽の記録があるとしながら(シュワブH18環境現況調査)、2007年、2008年の調査結果では生息数のデータを示していません。なぜ、データを示さないのか、生息数の調査をしていないのかどうか、明記するべきです。
辺野古・大浦湾で繁殖するアジサシ類は、フィリピン、インドネシア等で越冬して再び渡ってくる群であり、生活史の上で繁殖地が最も重要です。繁殖については、準備書でも触れているように、人の立ち入りによって妨害されることも少なくありません。また、台風によって卵やヒナが全滅することもあります。沖縄島全体でも、アジサシ類の繁殖数は大きく変化することが知られています。したがって、わずか2年の調査で、繁殖数が少ないから重要度は高くない、また、集団繁殖地ではないと結論づけるのは誤りです。
準備書では、埋立による生息場所の消滅、工事による騒音、軍用機による影響はいずれも小さく、回避、低減措置によってアジサシ類の個体群は維持されるとしています。しかし、長島、平島等は残されるとしても、近接した場所での埋立工事や空港の存在、軍用機の演習は、生息条件の悪化を積み重ねていくことになり、近い将来、この海域の個体群の繁殖は不可能になり、生息数も激減する可能性を否定できません。他にも生息地があるとか、採食できる海面があるから影響は少ないなどというのは影響評価ではありません。
陸域生態系におけるアジサシ類の位置づけをやり直すべきです。他地域、過去の記録との比較が重要です。辺野古、大浦湾では、過去2年間の繁殖はほとんどありませんでしたが、生息数は100羽から180羽が記録されています。
22. 生態系の構造と機能
生態系の構造として書かれている内容は、一般的な食物連鎖の記述とほとんどかわりません。生態系の機能についても、いくつかの生物類の生息場所を羅列しただけに過ぎず、生物多様性に到っては、分類群ごとの確認種数と重要種数を表にしただけで、物質循環は一般的記載のみです。これでは、生態系の構造と機能について調査したとは言えず、地域特性をもとにした考察もなく、影響を予測し、保全措置を評価できるものでもありません。
影響予測のフローチャートのみ肥大化していますが、生態系への影響は予測されておらず、生態系の代表として選定した数種について、直接改変区域内で、移動性の少ない種は影響があるが、鳥類のように移動できるものへは影響がないと、実際の予測の仕方はお粗末と言わざるを得ません。生態系への影響予測に関しては、内容が不十分であることから、やり直すべきです。
23. 生態系の関連
陸域生態系と海域生態系の関連性を明らかにし、保全の行動計画を立案することは、島嶼生態系において、たいへん重要な視点です。しかし、準備書では、わずか3分の2ページのみの記述で、生物の分布情報を並べ、環境の類型区分をしただけに過ぎません。海と陸との相互の影響を魚類と魚食性鳥類のみに限定しているのも不十分です。
多野岳等の脊梁山地東側の亜熱帯林、そこを水源とする河川、河口の干潟、マングローブ林、砂浜、岩礁、島、サンゴ礁、沿岸域まで、一連の水系としてみた場合の生物多様性、生態系の多様性の重要性について分析されていません。
24. 景観
辺野古・大浦湾における広大な埋立地の出現や辺野古ダムの水源林となっている森林の伐採と埋立用土砂の採取は、地域の景観を大きく変貌させます。また、供用段階に到り、軍用機による演習が開始されれば、騒音だけでなく、墜落の危険性など、景観全体が恐怖心を呼び起こすものとなるでしょう。陸から見た海、海から見た陸地、景観の大きな変貌と軍事演習は、地域住民にとって許容できるものではありません。
25. 人と自然の触れ合い活動の場
影響は工事中の一時的なものではなく、埋立地と軍事基地の存在、供用後の軍事演習は、人々の海岸の散歩、貝やタコの採集、釣りなど、これまで親しんできた自然の中での活動を不可能にしたり、あるいは景観の変貌、軍事演習によって、気分を阻害する可能性が高いと思われます。また、グラスボート、ダイビングなどの観光への悪影響も当然出てくると思われます。
26. 歴史的・文化的環境
辺野古沖や大浦湾のサンゴ礁には、古くから地名がつけられ、陸上と同じように親しまれてきました。このような民俗文化、歴史性も埋立等によって失われてしまいます。これらは、回避、低減されるものではありません。歴史・文化環境の代替性はありません。
27. 廃棄物等
事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られているとしていますが、供用後の使用者は米軍であり、どのような廃棄物が出されるのかは不明です。危険な廃棄物についても想定し、影響を予測するべきです。特に、化学物質等は、長期間残留し悪影響をおよぼします。
28. 環境保全措置
事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られ、環境保全措置は適切であるとされています。しかし、実際には、回避、低減にならないと思われるものが少なくありません。当然の工事手法(台風や休日には工事を休むなど)についてまで保全措置であると強弁するべきではありません。
29. 事後調査
予測の不確実性が大きいもの、効果の知見の不確実性の大きい環境保全措置について、事後調査をおこない、また、環境監視も行うとされています。しかし、特に、不確実性の大きいものについては、影響予測が難しいとして事後調査に先送りするべきではありません。いくつかのあり得るケースを想定してきちんと影響予測をするべきです。事後調査やモニタリング調査で悪影響を察知しても、その時には手遅れになっている可能性が高いのです。特に、ジュゴンの生息数が準備書に書かれているように、わずか3頭であるとすれば、日本では最も絶滅のおそれの高い哺乳類であり、その将来を事後調査にゆだねるという無責任な手法をとるべきではありません。
30. 総合評価
大部分の項目で影響はない、あっても軽微である、実行可能な範囲で回避、低減措置がとられている、環境保全措置が適切である、として「事業実施区域周辺におよぼす影響は総じて少ないものと判断される」と結論づけています。しかし、これは、先に結論ありきで、調査結果を、ほとんど考察しないまま、表面的にのみ影響を予測しているに過ぎません。重大な影響については、実際は回避、低減ができない可能性が高いにもかかわらず、「事業者の実行可能な範囲で回避、低減が図られている」と評価している点も作為的です。特に、供用後の軍事空港では、事業者(使用者)は米軍であり、日本の法律が及ばないことから、事業者の実行可能な範囲の回避、低減などは無意味です。
31. 埋立土砂
160ヘクタールの埋立には、2,100万立方メートルの土砂が必要で、そのうち400万立方メートルをキャンプ・シュワブ内の山林と平地から採取するとしています。しかし、残りの1,700万立方メートルについては、どこから調達するのか記述がありません。沖縄県内の海岸、海底から採取するのであれば、その量は沖縄県の海砂採取量(2006年度)の12年分以上になるとされています。県内から分散して採取すると仮定しても、総量は膨大であるため、沿岸海洋環境への影響は必至であり、土砂の採取に関しては環境アセスメントの対象とするべきです。
県外からの購入にしても、膨大な量であることから、採取地の環境を損ねる可能性は大きいと思われます。海外からの購入であれば、外来生物の侵入防止は困難であり、有害な生物の影響に関するアセスが必要でしょう。埋立土砂については、その入手に係わる計画をきちんと示す必要があります。
32. 不慮の事故
準備書には、米軍機の墜落、燃料庫、弾薬庫の爆発、化学物質の漏洩など、不慮の事故に関する記述がまったくありません。これらは、地域住民の安全、安心に直結する事柄であり、環境アセスの項目として含めるべきです。
33. 災害時の対応
上記と関連し、不慮の事故や台風、地震などの災害についても、どのような想定がなされ、どのような対策を取るのか、まったく示されていません。環境アセスの実施要項に書かれていなくても、住民にとっては重大な関心事であり、事業者は答えるべきです。
34. 米軍と治安
海兵隊員や米軍車両の増加は、地域の治安の悪化、交通事故等の増加に結びつく可能性があり、社会的不安が増加する可能性があります。この点も、住民にとっては重大な関心事であり、事業者は答えるべきです。
35. 水問題
将来の基地内の人口を約6,400人として、給排水計画が立てられています。しかし、給水量を1日当たり4,200立方メートル、排水量を1日当たり2,600立方メートルにした根拠は示されていません。
住民にとって水問題は深刻であり、辺野古ダム周辺が土取り場となることから、いつまで同ダムが辺野古地区の水源として存続できるのか、いつから県企業局の供給が始まるのか、水道料金などの条件はどうなるのか、準備書できちんと説明するべきです。
泡瀬干潟で埋立て工事が中断(2009年4月22日)
貴重な自然が残る沖縄県の泡瀬干潟で、進められていた埋立て工事が、一部中断していることが分かりました。事業者側は、土地利用や公共事業のあり方に向けられた疑問の声に対する配慮、としています。この中断が今後、計画そのものの見直しにつながることが期待されます。
工事が一時中断に!
4月16日、沖縄島屈指の干潟、泡瀬干潟で進められていた、埋立てのための土砂の投入工事が、一時中断していることが、明らかになりました。
事業を推進している内閣府沖縄総合事務局では、干潟に生息する希少種トカゲハゼの産卵に配慮するため、当初より7月までは中断する予定があったとしつつも、その後の再開については未定としています。
さらに同事務局では、公共事業に対する厳しい説明責任の追及と、「埋立事業に経済的合理性がない」という那覇地裁の判決にも配慮するとしたコメントを出しており、事業の推進に慎重な姿勢を見せています。
2009年1月には、2008年11月に下されたこの那覇地裁の判決を無視する形で、一度は工事を強行したものの、司法判断および環境への配慮を支持するその後の世論の強まりが、その姿勢を一転させる要因になったものと思われます。
全面的な事業の見直しを!
この埋立て工事「中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業」が、2009年度に計上し認められた予算は、実に38億円。 野党が多数を占める、沖縄県議会の予算特別委員会では、泡瀬干潟の埋立てと、やんばる(沖縄島北部の亜熱帯林)の林道予算が否決されましたが、後の本会議で逆転可決されました。
しかし、このように予算化され、始められた事業の工程が、途中で未定となるのは、異例のことです。
泡瀬干潟ではこれまで、地元の市民団体や、WWFなどの環境団体による、干潟の保全と事業の見直しを求める活動が続けられてきました。
事業者側は、埋立て予定地を囲む堤防の補強工事は継続して実施するとしており、干潟の環境悪化は現在も続いています。しかしWWFでは当面、このまま埋立て工事の中断が継続され、計画そのものが見直されるべきであると考えています。また、すでに始まった工事により失われた、自然の再生が行なわれることを期待しています。
『辺野古・大浦湾アオサンゴの海 生物多様性が豊かな理由』(2009年4月22日)
近年、大規模なアオサンゴ群集が発見された、沖縄県名護市の大浦湾。WWFジャパンを含む大浦湾の環境保全を求める自然保護団体や研究者は、共同で実施した調査の成果を基に、大浦湾の豊かさを訴えるリーフレットを発行しました。
大浦湾のアオサンゴ群集を守ろう!
2007年9月に、ジュゴンの生息地として知られる沖縄県名護市の大浦湾で発見された、大規模なアオサンゴ群集について、WWFジャパンなどの自然保護団体や研究者は、2008年1月から5月にかけて、合同調査を実施しました。
この合同調査のメンバーは、WWFジャパン、日本自然保護協会、じゅごんの里、国士舘大学、オキナワリーフチェック研究会、ダイビングチームすなっくスナフキンの各団体です。
調査に携わった関係団体では、2008年7月に発表したその成果をもとに、リーフレット『辺野古・大浦湾アオサンゴの海生物多様性が豊かな理由(わけ)-合同調査でわかったこと』を発行。大浦湾のサンゴ礁の重要性を訴えました。
リーフレットでは、写真・3Dマップを使用し、辺野古・大浦湾の独特の環境による生物多様性の豊かさを解説しています。
推し進められる基地建設
大浦湾の一部を埋め立て、辺野古新基地を建設するため、防衛省沖縄防衛局は現在、アセスメント準備書である「米軍普天間飛行場代替施設建設に係る環境影響評価準備書」を5月1日までの予定で公開しています。
これは、この準備書は、2007年に、沖縄防衛局が沖縄県に提出した方法書をもとに、その後の調査・予測・評価・環境保全対策の検討を実施した結果を示したもので、同局のほか、沖縄県庁、名護市役所、宜野座村役場、同局名護連絡所(名護市辺野古)で縦覧が可能ですが、5400ページに及ぶ膨大なものです。
そしてその内容には、以前に提示された方法書には、記載されていなかったヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)など新たな施設が、配置計画の中で、複数追加されていることが明らかになりました。また、沖縄県が求めていた、ジュゴンや海藻草類などの複数年調査や、実機調査も実施されていないことも分かりました。
一般市民にとっては非常に分かりづらい現在の縦覧の方法をたてに、計画を変え、基地建設を推し進めようという姿勢が、表れているといえます。
アセス準備書の住民意見を書くときの参考に!
準備書では、事業が自然環境に及ぼす影響の項目の中で、サンゴ礁やジュゴンの採食場である藻場といった、基地計画地周辺の環境には、及ぶ影響が総じて少ない、としており、現行の陸側建設案が望ましいと結論づけています。
しかし、十分な調査も行なわれず、市民団体や研究者による調査の結果も省みないまま、建設計画が推し進められれば、この海域の自然は、取り返しのつかない被害を受けることになりかねません。
このアセスメント準備書の内容に対しては、住民が意見を自由に述べる機会が設けられていますが、膨大なしかも専門的な内容について、一般市民が意見を述べるのは、きわめて難しいことです。
そこで、今回作成されたリーフレットは、情報の収集や事実確認が難しい中で、住民が意見を言うときの参考にしてもらうことも、大きな目的の一つにしています。
WWFジャパンなどの自然保護関係者も、貴重なサンゴ礁やそこに棲むジュゴンなどの希少生物を含めた、大浦湾の生態系を保全するため、意見を述べることにしています。そして、この沿岸域を海洋保護区に制定し、次世代に残すこと訴え続けています。
▼ リーフレット【PDF形式:3.2MB】
泡瀬干潟とやんばるの森、開発のための予算が見直しに!(2009年3月23日)
2009年3月23日、沖縄県議会の予算特別委員会で、泡瀬干潟の埋立事業と、沖縄島北部の「やんばる」の亜熱帯林に県営林道を開設するための予算を見直す、修正案が可決されました。WWFジャパンでは、この修正案の採択を高く評価し、声明を発表しました。
予算特別委員会の英断
2009年3月23日、沖縄県議会の予算特別委員会において、泡瀬干潟の埋立事業と、県営林道の開設にかかわる予算を削除する、修正案が可決されました。
これは、沖縄屈指の規模と豊かさを誇る泡瀬干潟と、沖縄島北部に広がる亜熱帯林「やんばる(山原)」の林道開発に、実質的な抑止をもたらす、画期的な事例です。
生物多様性に富んだ、沖縄県最大の干潟「泡瀬干潟」と、多くの固有種・固有亜種が生息する、野生生物の宝庫ともいうべき「やんばるの森」については、多くの環境保護団体や市民が、開発計画の中止と、自然環境の保全を求める声を上げてきました。
そして、泡瀬干潟については、2008年11月、那覇地裁が、埋立に経済的合理性がないという理由で、沖縄県と沖縄市に公金支出を差し止める判決を出しており、「やんばる」の林道についても、現在、裁判が行なわれています。
WWFジャパンは今回、沖縄県議会の予算特別委員会が下した英断を高く評価し、3月25日の本会議においても、この修正案が採択され、泡瀬干潟と「やんばる」の環境保全が実現されることを期待しています。
声明および記者発表資料 2009年3月23日
泡瀬干潟埋立予算の修正案採択、WWFは高く評価
2009年3月23日の沖縄県議会での予算特別委員会において、泡瀬干潟の埋立事業および県営林道開設に関わる予算修正案が可決されました。WWFジャパンでは、下記のとおり、修正案が採択されたことを高く評価し、声明を発表いたしました。
また、続く25日の本会議においても、この修正案が採択され、生物多様性の観点からも、重要な干潟である泡瀬干潟とやんばるの森の開発計画が見直され、保全されることを強く期待します。
WWFジャパン声明
沖縄県議会の予算特別委員会が泡瀬干潟埋立および県営林道開設予算の修正案を採択したことを高く評価し続く本会議でも採択されることを強く期待します
3月23日の沖縄県議会予算特別委員会において、泡瀬干潟の埋立事業および県営林道開設に係わる予算を削除する修正案が可決されたことは、たいへん画期的なことです。
泡瀬干潟は、生物多様性に富む沖縄県最大の干潟であり、やんばるの森は、多くの固有種、固有亜種を含む野生生物の宝庫です。多くの環境保護団体や市民から、計画の中止と自然環境と野生生物の保全を求める声が上がっています。
昨年11月には、那覇地裁が、埋立に経済的合理性がないという理由で、沖縄県と沖縄市に公金支出を差し止める判決が出されています。やんばるの林道についても、現在、裁判が続いています。
WWFジャパンは、今回の予算特別委員会の英断を高く評価するとともに、25日の本会議においても修正案が採択され、泡瀬干潟の埋立およびやんばるの林道開設が見直され、自然環境が保全されることを強く期待しています。
東京セミナー開催報告:ジュゴンとともに生きる国々から学ぶ(2009年3月4日)
その数50頭以下とみられている、沖縄のジュゴン。しかし、絶滅寸前の危機にもかかわらず、日本の法律では現在のところ、ジュゴンは十分に保護されていません。2009年2月、ジュゴン保護キャンペーンセンターと、WWFジャパンは、各国のジュゴン保護の取り組みを紹介するシンポジウムを開催しました。
進まない日本のジュゴン保護
2008年10月、その保護を求めるWWFをはじめとした日本の環境NGOの働きかけにより、IUCN(国際自然保護連合)の総会「第4回世界自然保護会議」で、「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」勧告が決議されました。
これは、国連が定めた2010年の「国際生物多様性年」には特に、ジュゴンが生息する国が保護に取り組むよう求めるものです。もちろん、日本政府に対しても、保護策をとることを求めており、IUCNからの勧告は、これで3度目になります。
しかし、日本政府はジュゴン保護に対し、いまだ積極的な姿勢をみせていません。
環境省のレッドリスト(絶滅のおそれのある種のリスト)には、一番緊急性の高い「CR:絶滅危惧1A類」に、ジュゴンは掲載されていますが、その生息地である沖縄沿岸では現在、普天間米軍基地の移設が進められようとしています。国として、その環境を保全する前向きな取り組みは、行なわれていません。
「ボン条約」への参加を求める
日米両政府に対し、ジュゴンと、ジュゴンが生息する沖縄に残された貴重な海の自然を保全するよう求めてきたWWFと市民団体「ジュゴン保護キャンペーンセンター」は2月、東京、大阪、沖縄の3カ所で、セミナー「ジュゴンと共に生きる国々から学ぶ」を開催。
日本政府がまだ批准していない「ボン条約」の覚え書きに署名することで、日本のジュゴン保護を一歩前進させることを目指しました。
この「ボン条約」は、正式名称を「移動性野生動物種の保全に関する条約(CMS:Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals)といい、ジュゴンのように、いくつかの国の領土や領海を移動しながら生息する、移動性の動物を保護するための国際条約です。
日本のように、海外から多くの野生生物が渡ってくる国にとっては、野生生物とその生息環境を保全する上で、非常に有効な国際法の一つです。
2008年11月時点で、条約加盟国は110カ国。非加盟ながら覚書を締結することで間接的にこの条約にかかわっている国はさらに22カ国を数えます。しかし、日本は捕鯨問題に関わる、クジラの扱いについて、条約加盟諸国と立場を異にしているため、現在のところ加盟しておらず、覚書の締結にも至っていません。
セミナー「ジュゴンと共に生きる国々から学ぶ」
セミナーでは、タイのプーケット海洋生物学センターで、ジュゴンの保護研究に取り組む、カンジャナ・アデュルヤヌコソルさんをお招きし、このボン条約の取り組みを含めた、海外のジュゴン保護の現状について語っていただきました。
2月19日に開催した東京でのセミナーでは、まずWWFジャパンのスタッフ花輪伸一が、2008年10月の第3回世界自然保護会議で展開したジュゴン保護活動の内容と、この会議で決議された、2010年国際生物多様性年決議について報告。さらに、日本自然保護協会の吉田正人さんが、ジュゴンは「生物種の保護」と「生息地保全」の両方の観点から、保護対策をすすめられていかなければならないことを解説しました。
そして、タイのプーケット海洋生物学センターからお招きした、ジュゴン保護研究にたずさわるカンジャナさんより、タイにおけるジュゴン保護活動や、ボン条約を含む国際的な保護の協力の現状について報告が行なわれました。
カンジャナさんの講演
オーストラリアとタイの尽力
ジュゴン保護の先進国であるオーストラリアでは、ジュゴンだけの保護ではなく、サンゴ礁を含めて保護することにより、良い効果がでているといいます。その大きな柱になっておりのは、海洋保護区の整備と運用です。オーストラリアでは、ジュゴンの生息地も保護区に指定され、人の侵入が禁止されているコア部分と、観光利用などが認められているバッファー部分に分けられており、それぞれの役割を果たしています。
また、捕獲数を制限しながらも、先住民に伝統漁法としてのジュゴンの捕獲を認め、それらの個体は、研究目的にも利用されて、ジュゴンの生態や生息環境の調査に役立てられているそうです。
タイでもジュゴンの調査研究が進んでいるといいます。そして、タイとオーストラリア政府は、情報交換などを通じた協力のもと、ジュゴン保護の動きを他国に広げる努力をしてきました。
その一つの結果が、2国が中心となって準備してきた、「ジュゴン保護覚え書き」の作成です。
「ジュゴン保護覚え書き」の誕生
「ジュゴン保護覚え書き」は、インド洋、東南アジア地域に生息するジュゴンの保護管理を推進するための計画案で、その生息国にあたる国々に参加を呼びかけるものです。
カンジャナさんは、その原案作成者の一人であり、2006年3月に東京と沖縄で開催された「アジア太平洋ジュゴン保護シンポジウム」に参加した際にも、この「覚え書き」について発表を行ないました。
この覚え書きには7つの目的があります。
1.ジュゴンへの直接的または間接的影響による死亡を減らす
2.ジュゴンの生息地を保護する
3.モニタリング調査を通してジュゴンを理解する
4.ジュゴンの保全に対する意識を向上させる
5.地域、国、国際レベルでの保全意識を高めていく
6.ジュゴンとその生息地を保護するための法的措置を改善していく
7.「覚え書き」の履行の推進
動き始めた12カ国
カンジャナさんたちの呼びかけに応え、アラブ首長国連盟、エリトリア、ケニア、タンザニア、コモロ諸島、マダガスカル、インド、ミャンマー、フィリピン、インドネシア、オーストラリア、フランスの12カ国が、この「覚え書き」に署名。
中心的な役割を果たしたタイは、国内の政治不安を理由に、今のところ参加していませんが、現在までに、3回の関係者会合が開催され、参加国による生息環境の海草藻場調査が行なわれているといいます。
また、これらのジュゴンの生息状況の調査には、「覚え書き」にまだ署名していない、周辺の国々も、多数参加、協力していることも報告されました。
もっとも、この「覚え書き」には、「ジュゴンを保護しなくてはならない」という、法的な拘束力や、罰則があるわけではありません。その取り組みの内容は、あくまでも参加を表明した国の、自主性に委ねられます。
従って、セミナー会場では、参加者から「なぜ、政府やNGOにジュゴンの覚え書きに参加することを求めているのか」という、取り組みの実効性についての質問が、カンジャナさんに対して寄せられました。
これに対し、カンジャナさんは、次のように答えました。
「覚え書きに参加するということは、ジュゴンの保護に前向きな姿勢をとることを宣言していることになります。この覚え書きに参加することで、海草藻場の資源をうまく利用していくことができ、ジュゴンという生物を将来の世代に引き継ごうとする国が増えることにつながります。また、参加することで、たとえば技術面の情報交換や富裕国からの資金提供など、他の国々と協力することもできるのです」。
また、カンジャナさんは、「ジュゴン生息国の人々は、ジュゴンの生息地を守ることに責任があります。生息地の保全のための最善のメカニズムが、「覚え書き」に署名することだ、と確信しています。」とジュゴンの保護に向けた強い姿勢と熱意を強調されました。
セミナーでは最後に、ジュゴン保護キャンペーンセンター代表の海勢頭豊さんが再度、国内の問題について触れ、「日本政府がリーダーシップをとって、関係者が一致団結していかなければなりません」と述べ、セミナーは終了しました。
失われゆく豊かな海を象徴するジュゴン。その保護に対する姿勢は、それぞれの国が見せる、海洋環境の保全に向けた取り組みに表れます。WWFは政府に対し、積極的な沖縄の海の保全を訴え続けてゆきます。
泡瀬干潟でサンゴが生き埋めに!(2009年1月19日)
沖縄屈指の規模と豊かさを誇る泡瀬干潟。その沖合いのサンゴ礁で、浚渫土砂の廃棄による埋め立てが開始されました。泡瀬干潟では、これまでの調査により、国際的にも貴重な自然が残っていることが明らかになっており、地元でも抗議活動が続けられています。
沖縄屈指の干潟が危機に!
沖縄島の沖縄市東海岸に位置する泡瀬干潟は、沖縄県内でも最大規模の面積を誇る干潟で、砂、泥、サンゴ礫、海草藻場、サンゴ礁といった、多様な環境に恵まれた海です。
ここは、シギ・チドリ類など、干潟を訪れる渡り鳥をはじめ、貝類やゴカイ類などの底生動物の国内有数の生息場所。世界の湿地を保全する条約である「ラムサール条約」にも、国際的な保護湿地として登録することができるほど、豊かな自然が残されています。
しかし、泡瀬干潟では現在、リゾート開発を目的とした公共事業「中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業」が進められており、干潟やサンゴ礁が埋め立てられようとしています。
10年にわたり、埋め立ての中止を強く求め、訴え続けてきた、地元の市民団体「泡瀬干潟を守る連絡会」では、事業者である沖縄市、沖縄県、内閣府に対し、泡瀬干潟の環境の重要性、工事の問題点などを指摘。WWFや日本自然保護協会、日本野鳥の会も長年、この取り組みを支援し、独自にも調査や意見の申し入れを行なってきました。
これらの活動の結果、2007年12月には、沖縄市長が一部の土地利用計画の見直しと、計画そのものの見直しが必要である、とする方針を表明。さらに2008年11月19日には、那覇地方裁判所が、沖縄県知事と沖縄市長に対し、「埋立事業に経済的合理性がない」として、公金の支出差し止めを命じる判決を下したのです。
強行されたサンゴの生き埋め
ところが2009年1月14日、埋立事業者である内閣府沖縄総合事務局は、付近の沿岸部、新港地区FTZ(うるま市)で浚渫した土砂を、泡瀬干潟に捨てる工事を開始すると宣言。「泡瀬干潟を守る連絡会」による懸命の抗議にもかかわらず、翌日、泡瀬干潟の沖合いに広がるサンゴ礁で、土砂の投棄が強行されました。
これは、那覇地裁が埋め立て計画に「経済的合理性がない」として、沖縄県と市に命じた「公金差し止め」判決に対し、仲井真弘多沖縄県知事と東門美津子沖縄市長が控訴したことを受け、行なわれたものです。
しかし、裁判はまだ終わっていません。それにもかかわらず沖縄総合事務局は、多くの生物が息づくサンゴ礁の埋め立てを強行し、いずれは国際的に重要な湿地として保全されるべき海をつぶす判断と行為を、選ぼうとしています。
泡瀬の海を未来の世代に!
WWFジャパンは、九州南部から台湾にかけて連なる南西諸島の生物多様性の保全を、重要な活動の一つとして位置づけ、現在取り組んでいますが、その実現のためには、泡瀬干潟のような現存する貴重な干潟やサンゴ礁環境の保全が欠かせません。
今回の事業の続行に対しても、あらためて抗議の意を示すと共に、「泡瀬干潟を守る連絡会」をはじめとする地域の活動を支援し、現在進行中の区域の埋め立てを一旦中止し、生物多様性保全の観点で埋立事業を見直すこと、そして、まだ着手されていない区域の計画は廃止することを求めています。
「泡瀬干潟を守る連絡会」を応援しよう!
泡瀬干潟の保全をもとめて、長年活動してきた「泡瀬干潟を守る連絡会」では、これまで科学者の協力を得た海の調査をはじめ、環境教育、出版活動、マスコミへの情報発信から、抗議の座り込みや裁判に至る、さまざまな取り組みを実施してきました。
現在、同会では、事業者側の各担当者に対する直接の呼びかけや、ネット上での署名活動を展開しています。一度埋めてしまったサンゴの海を、取り戻すことは出来ません。ぜひ、活動を支援してください!
「泡瀬干潟を守る連絡会」ホームページ
現地報告や埋め立てられる泡瀬干潟の様子など、さまざまな情報掲載されています。
要請:泡瀬干潟の保全について(2008年12月4日)
意見書 2008年12月4日
内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、防災) 佐藤勉 様
(財)世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)会長 徳川恒孝
拝啓、時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
本会の活動につきましては、日頃よりご理解をいただき厚くお礼申し上げます。
さて、本会は、南西諸島の生物多様性保全を重要な活動のひとつとして位置づけ、沖縄の島々の自然保護に取り組んでいます。沖縄市東海岸の泡瀬干潟は、県内では最大規模の面積で、砂、泥、サンゴ礫、海草藻場、サンゴ礁からなる多様な環境を有しています。また、シギ・チドリ類などの鳥類や干潟に生息する貝類、ゴカイ類などの底生動物の多様性は国内有数であり、たいへん貴重な干潟となっています。ラムサール条約湿地としての基準も満たしており、将来は国際的に重要な湿地として登録されるべきところです。
現在、「中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業」が進行し、第1区域の堤防が造成されています。同事業については、2007年12月沖縄市長が「第�T区域は土地利用計画を見直す、第2区域は推進が困難で計画の見直しが必要」という方針を表明しました。また、先々週の11月19日には、那覇地方裁判所が、沖縄県知事と沖縄市長に対して、埋立事業に経済的合理性がないとして公金支出差し止めを命じる判決を言い渡しています。
上記にもとづいて、本会は以下のことを要請いたします。
- 現在進行中の第1区域の埋立工事は一旦中止し、生物多様性保全の観点で埋立事業を見直すこと。
- 第2区域の埋立計画は廃止すること。
以上、ご高配の程よろしくお願いいたします。
IUCNの「ジュゴン保護勧告」が採択される(2008年10月14日)
IUCN(国際自然保護連合)の第4回世界自然保護会議が、2008年10月5日から14日にかけてスペイン・バルセロナで開催されました。各国政府代表やNGO関係者、研究者など8000人以上が参加しました。 この会議には、WWFジャパンを含む日本の環境NGO(ジュゴン保護キャンペーンセンター、日本自然保護協会、エルザ自然保護の会、日本雁を保護する会、日本湿地ネットワーク)より、「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」勧告案が提出されました。
日本からの参加とジュゴン保護を求める動き
この会議には、WWFジャパンを含む日本の環境NGO(ジュゴン保護キャンペーンセンター、日本自然保護協会、エルザ自然保護の会、日本雁を保護する会、日本湿地ネットワーク)より、「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」勧告案が提出されました。結果は、賛成多数で採択。正式なIUCN勧告となりました。
勧告案の内容は次の通りです。
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UNEP(国連環境計画)およびボン条約(「移動性の野生動物種の保護に関する条約」;2005年現在95カ国が加盟、日本は未加盟)に対して、国連の2010年国際生物多様性年には特にジュゴン保護を推進すること
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日本をはじめとするジュゴンの生息国に対して、ジュゴンへの有害な影響を最小化し、ジュゴン保護のためのボン条約覚え書(*)へ参加すること
(*)ボン条約覚え書=日本は未加盟ではあるが、条約での「合意事項の覚え書」に参加することは可能である。
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日本政府に、ジュゴン生息地でのUSMC(米国海兵隊)基地建設に関する環境アセスメントにおいては、科学者、NGOと相談して、環境保全と野生生物保護を考慮し、すべてのオプション(基地を造らないというゼロ・オプション)を含めて実施すること
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日本政府に、沖縄ジュゴン生息地でのUSMC基地建設による有害な影響を回避または緩和するための行動計画を作成し公表すること
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アメリカ政府に、環境アセスメントを完遂し保全の行動計画を策定するために、日本政府と協働すること
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IUCN事務総長および種の保全委員会に対して、アンマン(2000年)、バンコク(2004年)の勧告にもとづいて、国連の2010年国際生物多様性年の中でのジュゴン保護の促進をすること
この勧告案に関する採決は、10月14日の午前の本会議で電子投票によって行なわれました。議長による勧告案が議会に提案され、日本政府、提案団体がそれぞれコメントを行ない、最後に採択が行なわれました。投票総数は、政府が104、NGOが252、合計356票でした。投票の結果は、賛成が258票、反対9票、棄権89票で賛成多数となりました。
採択に際して、日本政府と提案団体との間で協議が行なわれました。残念ながら、ジュゴンの生息が確認されている沖縄県名護市の普天間代替基地建設に関わる環境アセスメントの実施について、双方での意見の相違があるなどといった点で、合意形成が不調に終わりました。そのため日本政府は投票を棄権しています。
これからの日本のジュゴン保護
今回、勧告が採択されたことで、UNEPやボン条約に対して、国連の2010年国際生物多様性年には、特にジュゴン保護を推進するよう求めることができるようになります。
ジュゴン生息国に対しては、ジュゴンへの与える有害な影響を最小限にくいとめ、ジュゴンの保護のためにボン条約への覚え書参加を求めることができます。日本政府に対しては、基地建設に関する環境アセスメント実施にあたり、環境保全と野生生物保護を考慮し、科学者やNGOとも相談しながら基地を造らないという選択肢も含めて検討することが求められ、ジュゴンへの影響を回避または緩和するための行な動計画の作成と公表が求められることになります。また、アメリカ政府に対しては、環境アセスメント実施や保全のための行な動計画策定のために日本政府と協働することが求められることになります。
今回の勧告は、2000年のアンマン会議、2004年のバンコク会議に続き、3回目となります。通常、過去と同内容の勧告案は受理されないことになっていますが、沖縄のジュゴンに対しては連続して受理されており、その重要性が認識されているあらわれといえます。特に2010年の国際生物多様性年と関連づけたことや、日本がまだ加盟していないボン条約への加盟促進への動議が評価され、今回の勧告案採択にいたったとも考えられます。
2010年の生物多様性条約会議は名古屋市で開催されることが決まっています。2010年は生物多様性を考えるにあたって節目の年となるでしょう。絶滅危惧種である沖縄のジュゴンの生息域に、基地建設を行なうという日本政府の選択肢が、現代における世界の自然保護の潮流から大きく外れていることが今回の会議でも明らかになったといえます。
Media Advisory 2008年10月14日
IUCN勧告「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」が採択される
スペインのバルセロナで開催された第4回 IUCN世界自然保護会議において、日本の環境NGO(注1)が提案した「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」勧告案 (CGR4. MOT027)が、賛成多数で採択された。今後、この勧告案は第4回IUCN世界自然保護会議で採択されたIUCN勧告となる。
注1:ジュゴン保護キャンペーンセンター(14)、日本自然保護協会(4)、WWFジャパン(1)、エルザ自然保護の会、日本雁を保護する会、日本湿地ネットワーク(カッコ内はIUCN会議への参加者数)
第4回IUCN世界自然保護会議報告(2008年10月5~14日 スペイン/バルセロナ)
勧告の採択
この勧告案に関する採決は、10月14日午前の本会議において電子投票によって行われた。議長による勧告案が議会に提案され、日本政府、提案団体がそれぞれコメントを行い、最後に採択が行われた。投票総数は、政府が104、NGOが252、合計356であった。
投票の結果
投票の結果は以下のとおりである。
賛成 | 反対 | 棄権 | |
---|---|---|---|
政府 | 56 | 6 | 42 |
NGO | 202 | 3 | 47 |
勧告の内容
採択された勧告は、下に掲載したとおりである。なお、勧告の原文は英語であり、以下は日本の環境NGOによる仮訳である。
提案団体提出の原案と比較すると、コンタクト・グループ・ミーティングやプログラム・ヒヤリングを通して幾つかの修正/訂正が行われた。しかし勧告は原案の内容を維持し、勧告対象をより明確にするものとなっている。
事実関係を述べる前文においては、原案の「撤回した」(withdrew)が「再考慮した」(reconsidered)(前文6)へと変更され、 National Historical Preservation ActがNational Historic Preservation Act(前文8)へと修正された。
具体的な勧告を記述する主文では,まず日米両政府をひとまとめにして扱っていた原案に対して、勧告では日本政 府、米国政府に対して個別に勧告を行っている(主文3、4、5)。日本政府に対しては、「学者、研究者、NGOとの協議を通し」(in consultation with academics, researchers and NGOs)、「全ての選択肢を含んだ」(including all options)を環境アセスを要求している。「全ての選択肢」(all options)の表現が「ゼロ・オプション」を含む事を、採択前に行われた提案団体のコメントで確認した(主文3)。
米国政府に対しては、日本政府の行う環境アセスへの参加、ならびに行動計画の準備に参加することを要求している(主文5)。
最後に原案はIUCN事務総長とIUCNの種の保存委員会(SSC)に対し、国連環境計画(UNEP)と「移動性野生動物種の保全に関する条約」 (CMS)の国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進の支援を求めていた。しかし採択された勧告では、IUCN事務総長と種の保存委員会(SSC)に 対して直接、国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進を求める内容となった(主文5)。これはIUCNのプログラム委員会(Program Committee)からの提案に基づいての変更である。
本会議における勧告に対する関係者のコメント
本会議における勧告の採決に際し、提案団体と日本政府の各代表は以下のような主旨のコメントをした。これは提案団体の録音にもとづいて発言主旨を要約したものであるが、日本政府の発言に関しては、本人の確認を得ていない。この文書の記載者の責任により以下に記載する。
(1) 外務省(日本政府機関)
日本政府はコンタクト・グループを通して、提案団体との勧告案の文言調整に努力し、意義ある協議が行われた。これまでの事実認識の相違に対し、共通理解に至る部分もあった。
しかしわれわれは、勧告文言の修正/提案において、最終的に合意に至れなかった。提案団体の原案ならびに修正/訂正提案には、事実を反映しない表現があり、不必要な勧告を含んでいる。勧告案は、日本政府に対し普天間代替基地建設に関わる環境アセスメントを求めているが、日本政府はすでに環境アセスに着手している。環境政府は、日本の法律や規則に基づいて、学者、研究者、NGOの意見を環境アセスに反映させることを要求されている。
また環境アセスメントの結果、ジュゴンに対して悪影響があると判断された場合、影響の回避、緩和の施策を要求されている。
また日本政府は、ジュゴンとその棲息地の重要性を認識しており、すでに地域住民の意見を取り入れるなどジュゴン保全のための施策を行っている。
提案団体の事実認識の相違ならびに不必要な勧告を含むこの勧告案を日本政府は支持できない。
(2) 提案団体(吉川秀樹 ジュゴン保護キャンペーンセンター)
われわれの勧告案は、生物多様性を推進する国際的動きと、ジュゴンの保全に向けて行われてきたこれまでの取り組みを反映している。
幾つかの修正/訂正案については合意に達したことを歓迎するが、最終的には勧告文言の合意には至らなかった。日本政府が主文第2項目に対して提案した修正 /訂正案は、ジュゴン保全への「覚え書き」への日本政府の参加を除くものであり、また主文第2項全体を削除するものであった。日本政府が 主文第3項に対して提案した修正/訂正案は、日本政府がジュゴンの棲息地における米軍基地建設に対して行う環境アセスメントから「ゼロオプション」を排除 するものであった。その提案は、環境アセスメントの結果がどうであれ、日本政府が基地建設を行うことを可能にするものである。
以上のような日本政府の修正/訂正案には、われわれは同意できない。
最後にこの勧告案主文第3項における「全ての選択肢」は、「ゼロオプション」を含むものであることを明確にしておく。
採択された勧告の意義
1. 10月14日午前のIUCN(国際自然保護連合)本会議で、勧告「国連の2010年国際生物多様性年におけるジュゴン保護の促進」が賛成多数で採択され た。投票結果は、政府では賛成56、反対6、棄権42、NGOでは賛成202、反対3、棄権47であった。日本政府は、提案者のNGOとの合意形成が不調 に終わったため棄権することを本会議で表明した。
2. 今回のバルセロナ(2008)でのIUCN勧告では、以下の点が特に注目すべきポイントである。
UNEP(国連環境計画)およびCMS(ボン条約)に対して、国連の2010年国際生物多様性年には,特にジュゴン保護を推進するように求めている。
日本をはじめとするジュゴンの生息国に対して、ジュゴンへの有害な影響を最小化し、ジュゴン保護のためのCMS覚え書への参加を求めている。
日 本政府に、ジュゴン生息地でのUSMC(米国海兵隊)基地建設に関する EIA(環境アセスメント)においては、科学者、NGOと相談して、環境保全と野生生物保護を考慮し、すべてのオプション(基地を造らないというゼロ・オ プションを含む)を含めて実施することを求めている。
日本政府に、沖縄ジュゴン生息地でのUSMC基地建設による有害な影響を回避または緩和するための行動計画を作成し公表することを求めている。
アメリカ政府に、EIAと保全の行動計画の策定を完遂するために、日本政府と協働するように求めている。
- 勧告では,IUCN事務局長および種の保存委員会に対して、アンマン(2000)、バンコク(2004)の勧告にもとづいて、国連の2010年国際生物多様性年の中でのジュゴン保護の促進を求めている。
3. バルセロナ勧告(2008)は、アンマン(2000)、バンコク(2004)に続き3回目である。通常、過去と同じ内容の勧告は受理されないことになって いるが、沖縄のジュゴンに関しては連続して受理され、賛成多数で採択された。その理由として、今回はCMS覚え書きや国連の2010年国際生物多様性年と の関連づけが評価され期待されたためと考えられる。したがって,沖縄のジュゴン問題とその解決がより国際な関心を呼び、大きなテーマになってきたと言うこ とができる。2010年には、名古屋でCBD(生物多様性条約)のCOP10(第10回締約国会議)が開催されることから、日本にとって国連の2010年 国際生物多様性年は重要な節目となる。さらに、その中で、特にジュゴン保護の重要性を広めることが、沖縄のジュゴンとその生息地の保護の実現および USMC基地建設の中止へと直接的に結びつくという大きな意義がある。
4. また,今回の勧告では,UNEPおよびCMSに対してだけではなく、IUCN事務局長およびIUCN・SSC(種の保存委員会)に対して、アンマン (2000)、バンコク(2004)の勧告にもとづいて、同じく国連の2010年国際生物多様性年におけるジュゴン保護の促進を求めている。これは、 IUCN自身に対しての要請であり、勧告と言うより決議の意味を含んでいると思われる。沖縄のジュゴンに関する過去の2回の勧告にもとづいて、IUCNが 自ら、沖縄を含めてジュゴン保護の促進に取り組む姿勢を示した意義はたいへん大きいといえる。
5. 沖縄のジュゴン生息域でのUSMC基地建設に関しては、日本政府に対して、科学的で適正な国際水準のEIAが求められていると言ってよい。これは前回、 前々回の勧告から引き継がれており、今回はさらに、日本政府に対して、科学者やNGOと相談して、環境保護および野生生物保護のために、ゼロ・オプション はもちろんのことすべてのオプションを含めてEIAを実行することが求められた。政府は、現在行っているアセス法の精神に背く不当なEIA手続きを反省 し、科学的かつ適正なEIAに切り替えることを求められているのである。
6. また、日本政府には、沖縄ジュゴン生息地でのUSMC基地建設による有害な影響を回避または緩和するための行動計画を作成し公表することが求められてい る。行動計画作成とその公表を求めた意義は大きい。ジュゴンは、鳥獣法により保護すべき動物とされているが、生息地での具体的な保護計画は立てられていな いことから、保護の実効性は何もないのが現状である。政府は、早急に保護計画の作成と保護区の設置にむけて動き始めるべきである。
7. USMC基地建設には、アメリカ政府が関与していることが、いわゆるジュゴン訴訟においてサンフランシスコ地裁で認められている。したがって米軍基地の建 設と運用という日本側が知り得ない情報を多数含んでいる施設建設では、EIAにおいて、アメリカ政府が日本政府と協働することは不可欠である。勧告はこの 点を再再度求めている。
8. アンマン(2000)、バンコク(2004)、バルセロナ(2008)と続く3回のIUCN世界自然保護会議において、ジュゴン保護の勧告が連続して賛成 多数で採択された意義は大きい。この3回、8年の間に、ジュゴンの保護は、沖縄という地域の問題から国連の2010年国際生物多様性年における保護活動へ と広く発展してきたのである。絶滅危惧種である沖縄のジュゴンの生息域に、米軍基地を建設し軍事活動を行うというオプションが、世界の自然保護の潮流から 大きく外れていることは明らかである。
(文責:吉川秀樹・花輪伸一)
IUCN勧告「2010年国連国際生物多様性年におけるジュゴン保護の推進」(仮訳) 2008年10月14日
ジュゴン保護キャンペーンセンターによる仮訳
2002年の国連環境計画/早期警告評価部(UNEP/DEWA)の報告書『ジュゴンの現状と国別・地域別の行動計画』(Dugong Status Report and Action Plans for Countries and Territories)において、ジュゴンがほとんどの棲息域において危機的状態にあると警告されたことを想起し、
2002年の「移動性野生動物種の保全に関する条約」(CMS)(2002年 ボン)の勧告7.5において、ジュゴンの棲息域全体にわたる保護と管理のため、ジュゴンの棲息域を持つすべての国に、理解の覚え書きと行動計画の作成と締結が求められたことをさらに想起し、
第3回IUCN世界自然保護会議(バンコク、2004年)のノーレッジ・マーケット・セッション「アジア・太平洋ジュゴンネットワーク」において、アジ ア・太平洋におけるジュゴンの危機的状態と、ジュゴン保護のためのネットワークの強化の必要性が確認されたことを認識し、
2006年に NGOが東京・名護で開催した「アジア太平洋ジュゴン保護ネットワーク・シンポジウム」において、ジュゴン保護のための国際的枠組みの設定の性急なる必要 性について言及されたこと、2005年に「移動性野生動物種の保全に関する条約」(CMS)のもと、オーストラリア政府とタイ政府がインド洋と東南アジア 地域でのジュゴン保全のための第1回会議を実施したこと、ならびに2007年には「移動性野生動物種の保全に関する条約」(CMS)のもと、「ジュゴン生 息域すべてにおけるジュゴンの保護と管理のための理解の覚え書き」(Memorandum of Understanding on the Conservation and Management of Dugongs (Dugong dugon) and their Habitats throughout their Range)が採択され、ジュゴンの生息域の国々が署名したことをさらに認識し、
第2回IUCN世 界自然保護会議(2000年 アンマン)で採択された勧告2.72と第3回IUCN世界自然保護会議(2004年 バンコク)で採択された勧告3.114 が、日本政府に対してジュゴン保護区の設定と、沖縄本島北部のジュゴン棲息地への米国海兵隊施設の建設計画に関わる環境アセスメントにゼロオプションを含 むことを求めたこと、ならびに米国政府に対して日本政府の行う環境アセスメントに協力するよう求めたことを想起し、
2005年日米両政府が、沖縄本島北部のジュゴン棲息域に米国海兵隊施設を建設する「沖合い案」を再考慮したことを歓迎し、
前案と同じ海域においてジュゴン棲息地の沿岸域を埋め立てる「沿岸案」の環境アセスメントに日本政府が着手したことに留意し
沖縄ジュゴンの棲息地への米国海兵隊施設の建設計画において、米国政府は国家歴史保護法に違反したと米国連邦地裁が判断を下したこと、ならびに基地建設による沖縄ジュゴンへの影響の考慮を含む国家歴史保存法の遵守を米国連邦地裁が米国政府に命令したことを考慮し、
IUCN世界自然保護会議は、スペインのバルセルナで行われる第4回会議(2008年10月5日~15日)において、
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国連環境計画(UNEP)ならびに「移動性野生動物種の保全に関する条約」(CMS)に対して、2010年国連国際生物多様性年にジュゴン保護を特に推進することを強く要求し、
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ジュ ゴンの棲息するすべての国に対して、ジュゴンへの有害な影響を最小化する努力と、「移動性野生動物種の保全に関する条約」(CMS)による2007年 「ジュゴン生息域すべてにおけるジュゴンの保護と管理のための覚へ書き」(the CMS Memorandum of Understanding on the Conservation and Management of Dugongs and their Habitats throughout their Range)への参加を推奨し、
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日本政府に対して、環境保全と野生動物保護を考慮し、学者、研究者、NGOとの協議を踏まえて、沖縄ジュゴンの棲息地への米国海兵隊施設の建設に関わる環境アセスメントを、全ての選択肢を含めて実施する努力を求め、
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日本政府に対して、米国海兵隊施設の建設に起因する沖縄ジュゴンへの有害な影響を回避あるいは緩和する計画案を作成し公表することを要求し、
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米国政府に対し、(日本政府の)環境アセスメントならびに行動計画の準備を共同で完遂することを要求する(主文5)。
さらにIUCN世界自然保護会議は、スペインのバルセルナで行われる第4回会議(2008年10月5日~15日)において、2009年~2012年の実施計画において、以下のガイダンスを提供する。
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IUCN事務総長と種の保存委員会(SSC)に対して、2000年にアンマンで採択された勧告2.72ならびに2004年にバンコクで採択された勧告3.114に合致させ、2010年国連国際生物多様性年にジュゴン保護の推進を求める。
大浦湾のアオサンゴ群集の調査結果を公表(2008年7月28日)
2007年9月に、沖縄県名護市の大浦湾で発見された、アオサンゴの大群集。WWFは2008年、研究者や他の自然保護団体と共に、この大群集の調査を行ない、7月18日にその結果を発表しました。WWFは現在、大浦湾の環境保全と、そこにすむ希少種ジュゴンの保護、そして計画されている米軍基地の移設計画の取り止めを強く訴えています。
大浦湾で見つかった、世界屈指のアオサンゴ群集
WWFジャパンがその保全に取り組んでいる沖縄県石垣島・白保のアオサンゴ群集は、世界でも最大級の規模を誇るサンゴ群集として知られています。
このアオサンゴの大群集が、2007年7月9日にもう一カ所、国内で確認されました。場所は、沖縄本島・名護市東部の辺野古・大浦湾。日本で唯一、希少な海生哺乳類のジュゴンの生息が確認されており、目下、米軍基地の移設計画が進められようとしている海域です。
この海域の環境保全を求める、WWFジャパンや日本自然保護協会、国士舘大学地理学教室、沖縄リーフチェック研究会、じゅごんの里などの団体・組織では、これまでの白保サンゴ礁の研究実績や、辺野古・大浦湾での調査・保護活動を踏まえ、合同でこのアオサンゴの群集の調査を実施。2008年7月18日に、環境省記者クラブでその調査結果を発表しました。
発表の場となった記者会見では、各団体の代表が、発見されたアオサンゴ群集の写真や映像、調査を元に制作された周辺域の海底地形図の3Dマップをまじえ、発見の経緯や意義などについて解説しました。
明らかになったその形状
今回の調査は、2008年1月、3月、5月にそれぞれ実施されました。
この一連の調査によって、大浦湾のアオサンゴ群集は、湾の汀間漁港の南東およそ2キロのところにある、通称「チリビシ」と呼ばれる場所に位置していること、また、高さ12m、幅30m、長さ60mにわたって広がっていることがわかりました。
これは、世界でも最大級といわれる、石垣島の白保のアオサンゴ群集とは全く異なる形状です。
これほどのアオサンゴ群集が、これまで発見されなかった理由は、分布域が人目につきにくいところにあったためではないかと推測されます。
実際、「チリビシ」という地名も、沖縄の言葉で、切れていることを意味する「チリ」と、干潮時に顔を出すサンゴ礁のリーフの一部「干瀬(ヒシ)」を合わせたもの。陸から続く他の干瀬とは異なり、歩いてわたることのできない、「切り離された干瀬」に存在していたことが、アオサンゴ群集が長く知られずにあった理由だと思われます。
そして、このアオサンゴ群落は、以前から青いサンゴが海辺に打ち上げられることを知っていた地元の住民の方々によって、「チリビシのアオサンゴ群集」と名づけられました。
今回の調査は、2008年1月、3月、5月にそれぞれ実施されました。
この一連の調査によって、大浦湾のアオサンゴ群集は、湾の汀間漁港の南東およそ2キロのところにある、通称「チリビシ」と呼ばれる場所に位置していること、また、高さ12m、幅30m、長さ60mにわたって広がっていることがわかりました。
これは、世界でも最大級といわれる、石垣島の白保のアオサンゴ群集とは全く異なる形状です。
これほどのアオサンゴ群集が、これまで発見されなかった理由は、分布域が人目につきにくいところにあったためではないかと推測されます。
実際、「チリビシ」という地名も、沖縄の言葉で、切れていることを意味する「チリ」と、干潮時に顔を出すサンゴ礁のリーフの一部「干瀬(ヒシ)」を合わせたもの。陸から続く他の干瀬とは異なり、歩いてわたることのできない、「切り離された干瀬」に存在していたことが、アオサンゴ群集が長く知られずにあった理由だと思われます。
そして、このアオサンゴ群落は、以前から青いサンゴが海辺に打ち上げられることを知っていた地元の住民の方々によって、「チリビシのアオサンゴ群集」と名づけられました。
大浦湾アオサンゴ群集の重要性
今回の一連の合同調査は、白保とは異なる環境で育つアオサンゴ群集の、知られざる形態や特徴を明らかにしただけでなく、大浦湾の自然環境と生物多様性の豊かさを示すものとなりました
大浦湾には大浦川や汀間川が流れ込み、サンゴ礁の他にも、マングローブや深い海底、沖縄島では最大規模の藻場など、多様な環境が広がっています。漁港以外の場所には自然の海岸が残り、人の手もほとんど加わっていません。
サンゴ類はもちろんのこと、沖縄に生息する6種のクマノミ類を全て見ることができ、豊かな藻場で海草を食べる、海の哺乳類ジュゴンも比較的によく観察されています。日本国内のジュゴンは、推定で50頭以下が生き残るのみと考えられており、その最も重要な生息場所が、この大浦湾なのです。
また、アオサンゴという種自体が絶滅する危険性も高まっています。
2008年7月10日、アメリカのフロリダで開催された国際サンゴ礁学会の場で、IUCN(国際自然保護連合)とコンサベーションインターナショナル(CI)が合同で発表した「世界海洋生物種アセスメント」の結果によると、現在、絶滅の危機にさらされている、世界の造礁サンゴは、241種。全体の3分の1におよびます。
アオサンゴもその1種に数えられており、IUCNのレッドリスト(絶滅の恐れのある種のリスト)にも今後、危急種(VU:絶滅危惧2類)として掲載されることが、確実視されています。
世界的に開発や白化現象などによって、多くのサンゴが減少しつつある中、希少かつ特徴的なアオサンゴが大規模に分布する大浦湾の環境を守ることは、日本の生物多様性を保全してゆく上でも重要な意味を持つ取り組みといえます。
大浦湾の自然を脅かす基地問題
現在、大浦湾では、辺野古崎にある米軍のキャンプシュワブ沿岸を埋め立て、新たに滑走路を建設する「普天間飛行場代替施設計画」が進められていますが、この計画が実施されれば、今回発見されたアオサンゴ群集をはじめ、辺野古・大浦湾海域の豊かな自然環境が、重大な悪影響を受けることが懸念されます。
WWFは今回、共同で調査に取り組んだ研究者、各自然保護団体と共に、政府・および沖縄県に対して、米軍基地建設計画の中止と、住民と漁業者が海を利用しながらその景観を保全できる「海域保護区」の設定、そのための「保全管理計画」の策定を提言してゆくことにしています。
報告レポート(速報版)のダウンロードはこちら 【PDF形式:1.3MB】
2008年7月18日
日本自然保護協会・WWF ジャパン・国士舘大学地理学研究室・沖縄リーフチェック研究会・じゅごんの里 発行
アオサンゴについて
八放サンゴ亜鋼アオサンゴ科アオサンゴ属
学名:Heliopora coerulea
分布:インド洋、太平洋
1属1種の造礁サンゴで、サンゴ礁がある海域の礁池や礁縁付近に広く分布する。群体の形は変化に富み、樹枝状、板状、円柱状などさまざま。単一で、また複数の群体が合わさって、巨大な群体を形成することもある。
アオサンゴにはオスとメスがあり、繁殖に際しては、プラヌラと呼ばれる生まれたばかりのサンゴの赤ちゃんが、メスのアオサンゴにしばらく付着したまま育つ。
沖縄県石垣島の白保海域にあるアオサンゴの群体は、世界でも最大級の群体として知られている。
白保のアオサンゴとの違い
横に広がる白保のアオサンゴ群集
石垣島・白保のアオサンゴ群集は、南北300m、東西150mにわたって分布し、面積はおよそ2万6,000平方メートル。外洋と隔てられた、穏やかな水深1~2mの浅い礁池(イノー)周辺の平坦な地形に分布しています。形態は、細い板状になり、上に向かって形作られていますが、白保ではその高さは大きくても水深と同じ2mほどです。
縦に広がる大浦湾のアオサンゴ群集
一方、大浦湾のサンゴ群集は、外洋の影響を比較的受けやすい、浜から続く浅い海域から、水深約15mの深さにまで落ち込む傾斜のある場所に、水深2mから14mにわたって、サンゴ礁の斜面の一部を覆うようにして分布しています。上に向かって垂直に伸びる棒状の形が特徴で、水平面へ投影した場合の広さは約1,000平方mになります。
つまり、白保のアオサンゴ群集は平らな穏やかな部分に横に広がる板状の形状で、大浦湾のアオサンゴ群集は深く落ち込む傾斜面に指を差すようにまっすぐに伸びあがって棒状に成長していく特長をもっています。
同じアオサンゴでありながら、生息する環境により、その特徴に大きな差異が生じることが、今回の調査でも明らかになりました。
環境省と沖縄県に要望書を提出 南西諸島の干潟とサンゴ礁における化学物質汚染リスクの実態解明を(2008年4月24日)
記者発表資料 2008年4月24日
「南西諸島における野生生物の有害化学物質調査」より
WWFジャパンは、このたび、2005年から2007年にかけて実施した「南西諸島における野生生物の有害化学物質調査」の報告書をまとめました。この調査の結果、南西諸島のサンゴ礁環境や干潟の魚食性鳥類に有害化学物質の影響が及ぶおそれのあることが明らかとなりました。
南西諸島の生態系保全上、行政の果たすべき役割は大きく、関係機関に科学的知見をまとめた本報告書を提供するとともに、明らかとなった課題への対応を求める下記要望書を提出しました。
要望項目
仲井眞弘多・沖縄県知事 宛て (4月11日提出)
「サンゴ礁における化学物質汚染リスクの実態解明に関する要望書」
-
サンゴ礁海域に残留する難分解性の除草剤や船底塗料のモニタリング
-
その造礁サンゴ類へのリスク評価の実施
中島慶二・環境省那覇自然環境事務所長 宛て (4月25日提出)
「サンゴ礁における化学物質汚染リスクの実態解明に関する要望書」
-
サンゴ礁海域に残留する難分解性の除草剤や船底塗料の造礁サンゴ類へのリスク評価の実施
鴨下一郎・環境大臣 宛て (4月25日提出)
「南西諸島の干潟における化学物質汚染リスクの実態解明に関する要望書」
-
南西諸島の重要湿地でのPOPs(残留性有機汚染物質)の環境中残留調査
-
同地域での主要な魚食性鳥類の体内蓄積の現況調査とリスク評価の実施
本調査は、化学物質による汚染の懸念がありながら、本格的な調査や情報が少なかった南西諸島において、その実態を把握し、関係機関に科学的知見を提供することを目的とし、愛媛大学沿岸環境科学研究センターを始めとする複数の研究機関、地元NGO等の協力を得て、以下の取り組みを実施しました。
-
死亡漂着したイルカ・クジラ類、ウミガメ類の有害化学物質による汚染の実態調査
-
干潟・河川の魚介類の有害化学物質による汚染の実態調査
-
サンゴに対する有害化学物質曝露の影響実験
調査の結果、(1)(2)の汚染の実態調査では、ラムサール条約登録湿地であるアンパル干潟と漫湖干潟の魚介類から多種多様な残留性有機汚染物質(POPs)と重金属類が検出されました。生態系へのリスクを評価したところ、DDE(DDTの代謝物質)と水銀の濃度が、指標種である魚食性鳥類(ミサゴとアメリカヤマセミ)の無影響濃度(NEHC)を超えていることが分かり、干潟の生態系、特に魚食性の鳥類に有害化学物質の影響が及ぶおそれのあることが課題として浮かび上がりました。
また、(3)の稚サンゴを有害化学物質に曝露させ影響を調べる実験では、沖縄県で日常的に使用されているジウロン(DCMU)が、サンゴの成長阻害や白化の要因となることがわかりました。ジウロンは、有害性の高い有機スズ化合物に代わる船底塗料として利用され、また、サトウキビ畑やパイン畑で除草剤として散布されています。沖縄県での除草剤としてのジウロンの使用量は全国的にも多く、船底塗料としても沖縄県内で広く流通しています。環境中で分解しにくいという特性があることから、サンゴ礁環境中での残留が懸念されます。
近年、南西諸島においては、生態系保全を目的とした様々な取り組みが展開されています。
有害化学物質も脅威の一つであることを再認識し、環境省、沖縄県を始めとする環境保全に関わる部局の連携によって対応が進むことを期待します。
添付資料
WWFジャパン・プロジェクト報告書 (全文)
南西諸島における野生生物の化学物質調査('05~'07) (PDF形式)
南西諸島の干潟における化学物質汚染リスクの実態解明に関する要望書
(財)世界自然保護基金ジャパン 事務局長 樋口隆昌
拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。日頃からの自然保護行政への積極的な推進について感謝申し上げます。
我が国において、南西諸島の生物多様性の重要性につきましては論をまたないところではありますが、化学物質が当該地域の生態系に及ぼす影響については、科学的知見が少ないこともあり、これまで十分な対策は講じられておりません。
WWFジャパンでは、2005年から3年間にわたり、南西諸島における野生生物の有害化学物質調査を複数の大学研究機関に委託し、実施してまいりました。この度、報告書をまとめるにあたり、調査を通じて明らかとなった課題について、十全な対応をお願い致したく、下記のことを要望いたします。鋭意ご検討の程お願い申し上げます。
敬具
2008年4月11日提出 沖縄県知事 仲井眞弘多 様 宛て
記
サンゴ礁環境中における難分解性の除草剤、船底防汚剤の環境残留のモニタリングならびに造礁サンゴ類に対するリスク評価の実施
理由書
有機スズ化合物の代替船底塗料として利用され、また、サトウキビ畑やパイン畑で除草剤として散布されているDCMU(ジウロン)は、サンゴの成長を遅らせ、白化の要因となることが明らかとなりました。沖縄県における除草剤としての使用量は全国的にも多く、また化審法既存化学物質安全性点検試験において難分解性とされていることから、サンゴ礁環境中での残留が懸念されます。船底塗料としてもDCMUは沖縄県内で広く流通していますが、統計資料はなく、残留への寄与は不明です。2007年度に石垣島東海岸で、琉球大学の大森らが実施した予備的な調査では、影響濃度の1/10程度の濃度のDCMUが検出されています(未発表)。
以上の知見から、難分解性の除草剤、船底防汚剤の環境残留のモニタリングならびに造礁サンゴ類に対するリスク評価は、実施すべき科学的根拠もあり、サンゴ礁環境の保全における化学物質関連の取り組みとして、重要なテーマであると言えます。
2007年9月に作成された「石西礁湖自然再生全体構想」第1章3節において、農薬、船底塗料によるサンゴへの影響について記述されています。今後進められていく実施計画の立案において、当該テーマは沖縄県が主体的に取り組むことが強く期待されるので、ここに実施を要望する次第です。
2008年4月25日提出 環境大臣 鴨下一郎 様 宛て
記
1.南西諸島における重要湿地の残留性有機汚染物質(POPs)類、重金属類の環境残留調査
2.当該地域に渡来する主要な魚食性鳥類の体内蓄積の現況調査とリスク評価
理由書
ラムラール条約登録湿地であるアンパル干潟、漫湖干潟に生息するボラ、ティラピア、ガザミ等から多種多様なPOPs類、重金属類が検出されました。魚介類を捕食する鳥類に対するリスク評価の指標種としてミサゴとアメリカヤマセミを用いた試算の結果、DDEとHgがこれら鳥類の無影響濃度(No effect hazard concentration: NEHC)を超えていたことが明らかとなりました。一方、日本沿岸魚類と比較して高濃度の蓄積が確認されたクロルデンやPBDE(臭素系難難剤)については適当なリスク評価の指標がなく、その影響は評価できませんでした。
両湿地には、指標種アメリカヤマセミと同じ科で、より小型の種であるアカショウビン(準絶滅危惧種)が繁殖地として利用しています。
以上のような物質の高濃度蓄積の背景として、シロアリ駆除、マラリア対策、軍事施設での活動等の南西諸島の地域特性が考えられます。生物多様性のホットスポットである南西諸島の重要湿地の保全上、干潟における化学物質(特にPOPs類、重金属類)の環境残留、生物蓄積状況を、モニタリングし、リスクを評価することが重要かつ早急な課題であると言えます。
2007年11月に閣議決定された「第三次生物多様性国家戦略」第2部1章9節において、"化学物質による汚染状況などについての現状把握を行う"ことが掲げられておりますが、第2部2章1節3.2に記述している"水質、底質、生物等における化学物質残留性の調査、リスク評価"だけでは本提案には十分な対応できません。つきましては、要望事項への取り組みにおいて、関係する部局間の連携による対応が強く期待されるので、ここに要望書を提出させていただく次第です。
2008年4月25日提出 環境省那覇自然環境事務所長 中島慶二 様 様 宛て
記
サンゴ礁環境中における難分解性の除草剤、船底防汚剤の造礁サンゴ類に対するリスク評価の実施
理由書
有機スズ化合物の代替船底塗料として利用され、また、サトウキビ畑やパイン畑で除草剤として散布されているDCMU(ジウロン)は、サンゴの成長を遅らせ、白化の要因となることが明らかとなりました。沖縄県における除草剤としての使用量は全国的にも多く、また化審法既存化学物質安全性点検試験において難分解性とされていることから、サンゴ礁環境中での残留が懸念されます。船底塗料としてもDCMUは沖縄県内で広く流通していますが、統計資料はなく、残留への寄与は不明です。2007年度に石垣島東海岸で、琉球大学の大森らが実施した予備的な調査では、影響濃度の1/10程度の濃度のDCMUが検出されています(未発表)。
以上の知見から、難分解性の除草剤、船底防汚剤の環境残留のモニタリングならびに造礁サンゴ類に対するリスク評価は、実施すべき科学的根拠もあり、サンゴ礁環境の保全における化学物質関連の取り組みとして、重要なテーマであると言えます。
2007年9月に作成された「石西礁湖自然再生全体構想」第1章3節において、農薬、船底塗料によるサンゴへの影響について記述されています。今後進められていく実施計画の立案において、当該テーマは貴所が主体的に取り組むことが強く期待されるので、沖縄県の関連部局等と連携した形での実施を、ここに要望する次第です。
米軍基地の建設は違法 ジュゴン裁判勝利!(2008年1月24日)
2008年1月24日、アメリカのカリフォルニア州連邦地裁は、普天間米軍基地の移設計画が、アメリカ文化財保護法(NHPA)違反していることを認めた判決を出しました。この訴訟は、日米の複数の自然保護団体が、ジュゴンとその生息地の保全を求め、アメリカ国防総省に対し起こしていたものです。
ジュゴンも原告に
WWFが10年以上にわたり保全に取り組んできた、沖縄県名護市沖の辺野古(へのこ)・大浦湾は、日本に残されたほぼ最後の、そして最も重要なジュゴンの生息地です。
しかし現在、普天間米軍飛行場をこの海に移し、代替施設を建設する計画が進められており、ジュゴンの生息に深刻な脅威を及ぼそうとしています。
そこで、ジュゴン保護基金や日本環境法律家連盟、米国の生物多様性センターなど、日米の複数の自然保護団体は、2003年9月、基地建設計画が貴重な自然と希少な野生生物を犠牲にしていること、そして、アメリカ文化財保護法(NHPA)に違反しているとして、アメリカ国防総省を告訴。原告に野生動物であるジュゴンそのものを含め、裁判を起こしました。
アメリカ国防総省は再度、影響を調査せよ
これに対し、被告であるアメリカ政府は、この法律は建造物などを対象としており、ジュゴンなどの生物は対象にはならない、また、日本側が環境アセスメントを行なっていると主張し、審理の却下の申し立てていましたが、2007年9月に一連の審査は終了、判決が待たれていました。
そして1月24日、アメリカ合衆国のカリフォルニア州連邦地方裁判所は、この計画がアメリカ文化財保護法(NHPA)違反していることを認めた判決を出し、アメリカ国防総省に、90日以内に、基地建設が与えるジュゴンへの影響を調査し、環境影響評価(アセスメント)の結果をまとめた文書を提出するよう求めました。
WWFジャパンは、今回の判決について、ジュゴン裁判の原告や弁護団、裁判官らに対して心からの敬意を表すとともに、今後日本政府に対しても、適正な環境アセスメントの実施と、建設の中止を視野に入れた計画の再検討を改めて求めてゆきます。
声明 2008年1月24日
ジュゴン裁判勝訴に関するWWFジャパンのコメント
サンフランシスコの連邦裁判所で「ジュゴン勝訴!」の判決が下された。マリリ ン・H・パテル判事は、国防省がかかわる辺野古・大浦湾での米軍施設(普天間飛行場代替施設)建設計画が、「アメリカ合州国の国家歴史保存法(NHPA) (補足1)に違反する」として、沖縄のジュゴンに対するどんな危害も回避するか、あるいは代償措置をとることを、命じたのである。
この判決では、普天間飛行場代替施設の建設にアメリカ政府が強く関与し、日本の天然記念物であり、沖縄の文化的、伝承的な生物である、国際的な希少種ジュゴンに悪影響をおよぼすことを認め、しかるべき措置を命じた点で画期的な判決であり、高く評価できる。
こ の裁判をとおして、代替施設計画における軍用機の飛行経路や装弾場の設置、船舶用埠頭など、環境アセスメント方法書で日本政府・防衛省が隠蔽してきた事実 が明らかになり、方法書を撤回すべきという環境団体や沖縄県民の世論が高まり、沖縄県環境アセスメント審査会や県知事意見が、やり直しを求める厳しいもの になったのである(補足2)。
日米両政府はこの判決を重く受け止め、両政府がかかわり、基地建設中止という選択肢を含めた科学的かつ適正な 環境アセスメントを実施し、絶滅の危機にある沖縄のジュゴンとその生息域(サンゴ礁および海草藻場)への影響予測・評価を合理的に行ない、軍事基地の工 事、存在、供用における悪影響を避けるため、建設計画を中止する方向へと進むべきである。
また、国際自然保護連合(IUCN)の勧告(2000年アンマン,2004年バンコク)を想起し、絶滅の危機にある沖縄のジュゴンとその生息地(およびノグチゲラ、ヤンバルクイナとその生息地)保護のための行動計画を策定し、実行するべきである。
WWFジャパンは、ジュゴン裁判の原告、弁護団、裁判官、それに支援者の方々に心から敬意を表する。
(補足1)
アメリカ文化財保護法(NHPA)は、正式名を「国家歴史保存法」または「国家歴史的遺産保存法」という。アメリカ政府の連邦行為に対し、「同等の意義を持つ他の国の法律で保護された文化財も保護対象とすることが含まれている。
(補足2)
この基地建設計画に際して実施された環境アセスメントについては、1月21日に、仲井沖縄県知事が知事意見書を日本の防衛省に提出しており、建設計画の具体性と調査方法の不十分さを指摘、改善を求めていた。
在沖縄米軍の北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設計画に関し、意見書を提出(2006年3月22日)
沖縄県北部の「やんばる」の森にある米軍の北部訓練場の半分が、日本に返還されることになりました。ところが、返還予定区域内にあるヘリコプター着陸帯が、残りの部分に移設する計画が現在進められています。これが実現されれば、残された貴重な自然に、大きな悪影響が及ぶおそれがあります。WWFジャパンは2006年3月、この計画について、代替案の検討や計画撤回を含めた見直しを求める意見書を提出しました。
「やんばる」の森に危機が
1996年の日米特別行動委員会(SACO)合意によって、沖縄県にある米軍の北部訓練場の半分が日本に返還されることになりました。それに伴い、返還予定区域内にあるヘリコプター着陸帯を、残りの部分(未返還部)に移設する計画が進んでいます。
この北部訓練場がある場所には、沖縄島北部の「やんばる」と呼ばれる典型的な自然林(亜熱帯林)が良好な状態で残されており、地球上でこの地域にしか生息しないノグチゲラ、ヤンバルクイナなどの固有種を含む、希少な野生生物が生息しています。沖縄の民有林・県有林は、日本復帰後に多くの地域で開発され、「やんばる」でも自然林が失われてきたことから、約7,500haの面積を有する北部訓練場の自然林は、まさにこれらの野生生物の避難場所としての役割を担ってきました。ここに、ヘリコプターの着陸帯が移設されれば、残された貴重な自然に、大きな悪影響が及びかねません。
那覇防衛施設局は2006年2月10日、ヘリコプター着陸帯の移設にかかわる生態系などへの影響を予測・評価した「環境影響評価図書案」を公表しましたが、この内容は、あくまでもヘリパッド建設を前提としており、自然保護の観点からすると大いに疑問が残るものでした。
また、この地域については、IUCN(国際自然保護連合)の第3回自然保護会議で「日本のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」に関する勧告が出されていますが、日本政府は何ら対応しようとしていません。
WWFジャパンは3月、少なくとも建設に関する基本計画策定の前に、ヘリコプター着陸帯建設場所について複数の代替案と、着陸帯を造らないというゼロ・オプションを加えて調査、予測、評価すべきであると考え、意見書を提出しました。
「北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設事業(仮称)に係わる環境影響評価図書案」に関する意見書 2006年3月20日
那覇防衛施設局の「北部訓練場ヘリコプター着陸帯移設事業(仮称)に係わる環境影響評価図書案」に関して意見書を提出します。
1.評価方法について
この環境影響評価図書案(以下、評価図書)では、ヘリコプター着陸帯の移設を前提にしている。そのため、文献や現地調査により自然度が評価され、その評価が 相対的に低いとされたところに、着陸帯建設候補地を選定し、その地点の環境調査を行い、影響を予測し評価するという組み立てになっている。その結果は、い ずれの地点においても影響はないか、あっても軽微である、または各種の配慮や措置で低減されるというものであった。
しかし、山原(やんばる)の森のように地球規模でみて重要な地域で行われる環境影響評価は、IUCN(国際自然保護連合)の二度にわたる勧告(アンマン2000年、バンコク 2004年)にあるように、着陸帯を移設しないというゼロ・オプションを含む複数の代替案について行われるべきである。この評価図書は、事業者が沖縄県の 条例に準じて自主的に行ったものであるにしても、従来どおりの手法であり、環境への影響を合理的かつ的確に予測し評価するものにはなっていない。
2.自然度の総合評価
自然度の総合評価においては、ヤンバル典型種(26種)、林齢(成熟度)、水系と植生高、地形(起伏)を指標としている。しかし、典型種(希少種)の種数の 少なさ、林齢の少なさ、樹林と川の少なさ、起伏の少なさをもって、自然度が低いとする評価には、何の意味があるのだろうか。それぞれの指標に大小、高低が あるのは当然であり、斜面は自然度が高く、平地は自然度が低いなどと評価することは無意味である。
自然度の総合評価と言うならば、希少種の みならず普通種も含め生物多様性の視点から評価すべきである。生物の多様性には場所によって濃淡があるのが当然であり、そのこと自体が生物多様性の価値な のである。また、地形、水系、森林についても、ばらばらに評価するのではなく、生物の生息場所として、それぞれの種の生活史、テリトリー、行動圏、その季 節変化、経年変化などと結びつけて評価すべきである。この評価図書では、任意の評価を足し合わせただけであり、総合評価にはなっていない。
3.着陸帯の位置
当初7か所の計画であった着陸帯の数は、1か所減って6か所になった。土木工事に関しては、その分影響が低減されると言えないこともない。しかし、これが残 り6か所の着陸帯の建設と軍事演習による環境影響を低減するわけではなく、むしろ1か所あたりでのタッチ・アンド・ゴゥなどの演習回数の増加として現れる 可能性が高い。評価図書では、1か所減を低減と評価しているが、これは供用時には根拠が不明である。アクセス道路の使用頻度についても同様である。また、 幅員が3.6mから3.0mになったとしても、周辺地形、植生への影響が、どれほど低減されるのかは不明である。
新たな計画では、国頭山地 の脊梁部に近い着陸帯は中止され、海岸段丘上の尾根部に配置されている。評価図書では、斜面部や沢部の自然度を高く評価し、平坦部を低くしている。工事に よる地形改変の少ない場所として傾斜15度未満の緩傾斜地が検討され、その結果、尾根上の部分が選定されている。これは地形への影響が少ないということで はなく、むしろ着陸帯の立地として尾根上が適地であり、工事もしやすいということであろう。しかし、尾根・斜面・沢は、地形として、水系として連続してい るのであり、切り離して評価すべきではない。森林の保全においては、土壌および養分の流失を防止するため、尾根上の樹林を伐採しないのが鉄則である。評価 図書では、着陸帯に適しない斜面、沢を良好な自然環境として重視し、着陸帯適地の尾根を意図的に軽んじる傾向がある。
4.着陸帯の規模
当初の計画では、着陸帯の直径は75mであった。新たな計画では、45mが着陸帯、その外側15m(両側で30m)が無障害物帯として伐採されることにな る。しかし、これも環境影響の低減とは言えないであろう。切り土・盛土によって直接的に地形が改変される範囲は、直径45mの着陸帯だけでなく、その周囲 の法面に広がるのである。直径75mまで伐採されるのであれば、規模は当初の計画と変わるものではなく(当初計画の直径75mの内部構造は示されていな い)、同程度の規模と見るのが妥当であろう。そのため環境影響の低減になるとは考えられない。2か所の着陸帯が隣接する場所ではなおさらである。
一方、評価図書では、伐採後に、林縁にマント群落、ソデ群落を人為的に形成し、これが林内の乾燥等を防ぐ効果があるとしている。しかし、人工的に切り開いた 直径75mの着陸帯の周囲約240mに、マント、ソデ群落が人為的に形成され、持続されるのかどうか、疑問である。大国林道の例でも分かるように、集中豪 雨や台風による法面の崩落は頻度高く発生している。また、林道に接する森林は乾燥化が進み、イタジイの枯木が目立っている。着陸帯、アクセス道路ともに、 このような悲惨な状態に陥る可能性はないのか、評価図書では触れていない。また、集中豪雨や台風による赤土流出についても触れていない。赤土流出は、工事 期間中の一時的なものとは考えられず、その後も気象条件、軍事演習の方法によっては裸地化が起こり、流出する可能性が高いと予測するべきである。
一方、ヘリコプター着陸帯だけではなく、他の施設開発や軍事演習、例えばダムや砂防堰堤、海兵隊の地上演習などとの関連も含めて総合的な視点からの環境影響評価が必要である。
5.ヘリコプター演習による影響
評価図書では、着陸帯移設と表記されているが、この建設計画は移設ではなく、規模の大きい着陸帯の新たな建設とみるべきである。その視点で、環境への影響を 予測、評価する必要がある。しかし、ヘリコプターによる軍事演習に関しては、既存の小規模なヘリコプター着陸帯とその周辺での調査によって、動植物への影 響は軽微であると結論づけている。しかし、これはたいへん無責任な影響予測と言わざるを得ない。米軍の使用する機種や演習計画は示されていないとしても、 垂直離着陸機オスプリの導入があり得ることなどから、既存の小規模着陸帯での演習とは比較にならないほど大きな爆音や演習規模が予想されるのであり、その ために直径75mもの大規模な着陸帯が必要とされているのであるから、軍事演習による生物への影響、特にノグチゲラ、ヤンバルクイナ等についてはより合 理的な影響予測と評価をしなければならない。この点に評価図書は触れていないことは、強く批判されるべきである。なお、既存の小規模な着陸帯の周辺に生息 しているからといって、彼らが好適な条件の下に生息しているわけでは、決してないのである。
評価図書は、計画されている巨大な着陸帯の新設工事とその後の大規模演習が、自然環境および生育・生息する動植物に与える影響を、的確に予測、評価していないと言える。
6.北部訓練場における生物多様性の意義
在沖縄米国海兵隊の北部訓練場には、沖縄島北部の典型的な自然林が良好な状態で残され、地球上でこの地域にしか生息しないノグチゲラ、ヤンバルクイナなど固 有種、固有亜種を多く含む野生生物の重要な生息地となっている。1972年の復帰後、民有林・県有林では、多くの地域で伐採やダム、農用地等の開発で自然 林が失われてきたことから、約7,500haの面積を有する北部訓練場の自然林が、まさに避難場所(レフュージ)としての役割を担ってきたのである。これ は、地球上で沖縄島の山原(やんばる)にしかない固有の生物多様性を保全する上で、大きな意義を持っている。ヤンバルの森は、世界自然遺産に登録される資 格を持つ自然環境、固有の動植物の生息地であり、その価値についても、評価を行うべきである。今回の評価図書は、これらの点を理解していない、あるいは無視している。
7.IUCN(国際自然保護連合)の勧告
IUCNの第3回自然保護会議 (2004.11 タイ・バンコク)では、以下のような「日本のジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保全」に関する勧告が出されている。政府および事 業者は、この勧告を尊重し実行すべきであるが、今回の評価図書では触れられていない。各国政府が加盟し、国際条約にも等しいとされるIUCN勧告を無視す ることは、国際社会では恥である。
IUCN世界自然保護会議は、その第3回会議(2004年11月17-25日、バンコク、タイ)において、
1. 日本政府に対し、以下のことを要請する;
a)ジュゴン生息海域における軍民共用空港建設計画に関する環境アセスメントでは、ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討すること、また、ボーリング調査、弾性波探査などの事前調査も環境アセスメントの対象にすること。
b)ノグチゲラ、ヤンバルクイナ生息域における米軍ヘリパッド建設計画に関しては、これを環境アセスメントの対象として、ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討すること。
c)早急に、ジュゴン、ノグチゲラ、ヤンバルクイナの保護区を設置して、保全に関する行動計画を作成すること。
2. アメリカ合衆国政府に対し,以下のことを要請する;
a)沖縄の希少な野生生物生息地におけるアメリカ合衆国軍の基地建設について、米軍の環境管理に関する基準にもとづいて、日本政府と環境保全、野生生物保護の観点から協議すること。
b)要請があれば、日本政府が実施する軍事基地に関する環境アセスメントに協力すること。
8.国際水準の環境影響評価
今回の「環境影響評価図書案」は、環境アセスメントに関する法令外であるが、事業者の自主判断により実施され、公表されているとのことである。そうであるな らば、なおさら上記のIUCN勧告にある環境アセスメントの性格を備えたものとして実行されるべきである。国際水準の環境アセスメントとして認められるに は、少なくとも、建設に関する基本計画策定の前に、着陸帯建設場所についての複数の代替案と着陸帯を造らないというゼロ・オプションを加えて調査、予測、 評価すべきである。
さらには、地球上でこの地域にしか生息していない固有種が少なくないことから、米軍基地としての利用だけではなく、将来の世界自然遺産地域の指定も視野に入れた戦略的環境アセスメントの性格もふくめるべきである。事業者により自主的に行われるものであれば、なおさら、従 来のものを踏襲するのではなく、環境影響評価方法・制度をさらに発展させるのに貢献すべきである。
しかしながら、そのような評価図書にはならず、事業を追認するための手続きとしてのみ行われ、合理的かつ的確な影響予測、評価が行われていないのは、きわめて遺憾である。
「普天間飛行場代替施設建設事業に係わる環境影響評価方法書」に対する意見書
意見書 2004年6月16日
那覇防衛施設局長 岡崎 匠 様
財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 事務局長 日野迪夫
〒105-0014東京都港区芝3-1-14 6F
TEL.03-3769-1711 FAX.03-3769-1717
環境影響評価法にもとづき「普天間飛行場代替施設建設事業にかかわる環境影響評価方法書」について、本会の意見書を提出します。
意見の要約
標記の方法書は、対象事業の内容に関する記述が極めて不十分であること、調査・予測・評価の手法が論理的に関連していないことなど、方法書の核心部分が欠落している。また、IUCN(国際自然保護連合)の勧告を無視していること、縦覧の仕方が排他的であることなど、大きな問題を含んでいる。その結果、「環境影響評価法」の精神をないがしろにし、環境アセスメントの形骸化を進めるものとなっている。この方法書による手法では、代替施設建設による環境への影響を正しく予測、評価できないだけでなく、このような方法書がまかり通れば、他の環境アセスメントの質も低下していくことが心配される。事業者は、この方法書を科学的、合理的な観点で全面的に書き改め、説明会を開催し、広く公開して多くの意見を求めるべきである。
意見と理由
- 事業内容の記述が不十分
対象事業の目的・内容に関する記述が極めて不十分である。これでは事業内容を的確に理解して批判することができないし、どんな事業が行われるのかあいまいなままでは、環境調査、影響予測、評価に関しても、的確な手法を採用して実行することが困難である。事業内容が正確に記述されていなければ、方法書として成り立たないし、内容が決まっていないのであれば、方法書どころか環境アセスメント手続きに乗せるべきではない。
- 普天間飛行場代替施設建設の目的は「同飛行場の移設・返還」および「北部地域の振興」とされている。代替施設の候補地については、検討過程や選定方法が書かれていない。しかし、移設候補地の選定は、ゼロ・オプション(移設しない)を含む複数の代替案について環境アセスメントを実施するべきであり、方法書でその手法を明確にすべきである。目的の一つである北部振興については具体的記述がない。
- 名護市辺野古への移設については、名護市民投票での反対多数、地域住民や環境団体による反対運動、IUCN(国際自然保護連合)の勧告(アンマン、2000年10月)など、多くの異論があるにもかかわらず、これらを表記していない。海上ヘリ基地から軍民供用空港への拡大、15年使用期限問題など、方法書には事実経過をきちんと記入するべきである。
- 代替施設は、対象事業の種類としては「飛行場及びその施設の設置」および「公有水面の埋め立て」とされている。しかし、飛行場でありながら軍用、民航用ともに使用機種は不明確である。軍用機に関しては、演習等の飛行経路、頻度、範囲などには触れていない。また、燃料、弾薬、化学薬品などの貯蔵・供給、給水・排水など、ほとんどの施設について記載されていない。民航機についても同様で、管制塔、整備工場、ターミナルビルなどの記述がない。環境アセスメントを行う上で、もっとも基本的な情報が欠落している。また、民航機の需要予測は明らかに過大評価である。
- 埋立地の護岸構造設計のために行われる「現地技術調査」のボーリング調査(63本)や弾性波探査は、サンゴ礁生態系やジュゴンの生息状況に大きな影響を及ぼすことから、環境アセスメントの対象に含める必要があり、方法書にそのことを記載するべきである。大規模なボーリング調査等により、環境や野生生物に影響を与えておいてから、環境調査や影響予測をしても意味がなく、環境アセスメントの体をなさないのは明らかである。
- 大浦湾に埋め立てによる31haの作業ヤード、捨て石による3haの海上ヤードを造成する計画が伝えられている。方法書ではその可能性を述べ検討課題としているだけだが、きちんとした影響予測を行うためには、明確な計画を示すべきである。
- 埋め立て土砂として1,770万m3を購入するとしているが、その土取り場、運搬手段、経路を明記しなければならない。土砂の採取、運搬も環境アセスメントに含め、方法書でとりあげるべきである。
調査・予測・評価の方法が不明瞭
方法書で具体的に記述されるべき環境アセスメントの「調査項目の選定」、「調査の目的と方法」、「環境への影響予測」、「保全に関する評価」のそれぞれを関連づける基本的、論理的な考え方が不明瞭または欠落している。調査項目の選定はマニュアル通りの形式的なものであり、対象地域・海域の普遍性、特殊性を絞り込んだものではない。また、調査の目的と方法、環境への影響予測では、予測の目標が示されていないため、調査結果をもとに、どんな方法、どんな論理で影響を予測し、保全に対する評価を行うのか不明である。この方法書は、核心部分が欠落している。
- 方法書の核心部分であるはずの「予測の基本的な手法」をみると、どの項目も同じような短い文章が並んでいる。そこにはマニュアル通りに「事業計画の内容及び現地調査結果で得られた注目種の分布状況や生態、生息環境等を整理し、類似の事例や既知の知見等を参考に、注目種の生息状況等に及ぼす影響を定性的に予測」と書いてあるに過ぎない。何を予測するのかわからない書き方になっている。環境も生物も、場所や種ごとに、影響に関する予測と評価のポイントは異なるはずである。具体的に何を予測するのか、調査項目ごとに予測の目標を明確にしなければ、方法書としての意味はない。
- 辺野古海域の環境の特性は、外洋に面したサンゴ礁生態系であり、リーフやラグーンが発達した浅海域である。ラグーンには、沖縄島では最大面積の藻場が広がっている。また、大浦湾には大規模なサンゴの群落が発見されている。沖縄県は、辺野古海域を「自然環境の厳正な保護を図る区域(ランク�T)」に指定している。このような自然環境保全上重要な海域に、大規模な埋め立てによる飛行場建設を計画したことについて、方法書では、その正当性、合理性、妥当性を証明する手法を述べなければならない。
- サンゴ礁生態系については、地形、地質、活断層、潮流、波浪、気象、生物相など総合的な調査にもとづいて、生態系を構成する要素、その間の関係性、全体像について、できるだけ定量的に解明すべきである。その結果にもとづいて、大規模事業によってサンゴ礁生態系が受ける影響を予測する必要がある。また、潮流の変化や生物の生息域の分断により、影響を受ける範囲は辺野古周辺の狭い海域にとどまらないことが予想される。しかし、方法書では、上位性、典型性、特殊性などから注目される構成種の調査のみであり、サンゴ礁生態系への影響予測という観点から調査が設計されているわけではない。
- これは、陸上生態系についても同様である。上位性としてツミ、ミサゴ、典型性としてアジサシ類を選んでいるが、それらの行動圏を示すだけでは、生態系調査ではない。まして、従来のように、行動圏と埋め立て範囲が重ならないので生態系への影響はないなどという予測は成り立たない。軍用機の訓練飛行による騒音の強さとその影響について、調査と予測の手法を示すべきである。従来のように、鳥類は騒音に慣れるなどという無責任な予測をするべきではない。
- 沖縄島のジュゴンは、分布域が狭く、孤立し、個体数が少ないことにより、絶滅寸前の状態にある。辺野古海域は、沖縄島におけるジュゴンの分布中心と見ることができる。このようなジュゴンに対して、大規模な埋め立てによる軍民供用空港の建設とそこでの軍事演習、民航機運行がどのような影響を及ぼすのか、ジュゴンの保全対策をどうするのかが、サンゴ礁生態系への影響予測、評価とともに、この方法書の重要なテーマにならなければならない。ジュゴンに関しては各種の調査が計画されているが、絶滅寸前の種に対する保全生物学的視点での調査を組み立てるべきである。方法書に示されているわずか1年間の調査は、むしろジュゴンをディスターブするものではないか。さらに、実際のジュゴン調査の前に、大規模なボーリング調査や弾性波探査を行ってしまえば、方法書に書かれているジュゴン調査と影響予測、評価は無意味になる可能性が高い。
- 辺野古海域には沖縄島最大の海草藻場があり、ジュゴンの採食場所となっている。また、稚魚や甲殻類など多くの小動物の生息場所であり、海中への酸素供給にも貢献していると考えられる。海草藻場は、工事中の埋め立てによって面積が大きく減少し、周辺部にも赤土流出、汚水流出の可能性がある。また、大規模な埋立地の出現、辺野古漁港からの掘削航路の付け替えなどにより、潮流、潮汐、流速、底質、水質が変化し、海草の生育状況に影響を与える可能性が高い。しかし、方法書では、その予測目標、予測手法については示されていない。
- 辺野古周辺海域および陸域には、いろいろな鳥類が生息、繁殖していると予想される。現状では、鳥類の状況は、キャンプ・シュワブ内の実弾射撃演習の影響を受けたものとなっている可能性が高い。海上空港ができれば、さらに軍用機の演習飛行、民航機の就航によって、陸海双方から恐怖感を与える強い騒音を受けることになる。これは地域住民にとってはさらに深刻な問題である。鳥類に対しては、陸域、海域(島)における繁殖状況、生息状況にどのような影響を及ぼすのかを予測しなければならない。
- 景観および人と自然のふれあいは、昔から地域で生活を続けてきた人々によってかたちづくられたものである。辺野古では陸域に名称があるように、サンゴ礁のクチや岩にも名称がある。これらは文化遺産であり、このような遺産を消滅あるいは大規模に改変することによる地域社会、住民への影響を予測する手法を方法書に書き込むべきである。また、地域社会、住民への影響は、歴史的な視点と将来の展望を含めて評価する必要がある。
方法書の縦覧方法が排他的である
444ページの膨大な方法書は、沖縄本島内の8か所で縦覧されたに過ぎない。しかも、そこでは手写しのみであり、コピーは許されていない。コピーを取るには情報公開請求をしなければならないという。ホームページでの公開やCD-ROMによる配布もないのである。また、説明会の開催があってしかるべきであるが、それもなかった。これでは、住民への情報公開と意見の聴取を拒絶しているのと同じである。このような事業者の態度は、強く批判されるべきである。環境アセスメントは事業者と住民のコミュニケーション・ツールであると言われることの意味を深く考えるべきである。
IUCN(国際自然保護連合)勧告に従うべきである
2000年10月にヨルダンのアンマンで開催されたIUCN(国際自然保護連合)の第2回世界自然保護会議では、日本政府に対し「ジュゴンの生息場所やその周辺における軍事施設の建設に関する自発的な環境アセスメントを、できるかぎり早急に完遂すること」、「自発的な環境アセスメントの結果を考慮しながら、それにもとづいてジュゴン個体群の存続を確実にするために役立つ適切な対策を講じること」が勧告されている。事業者は、この勧告に従い、国際的なレベルの環境アセスメント、すなわち、科学的、合理的方法で、ゼロ・オプションを含む複数の代替案を検討し、住民参加を得て環境アセスメント手続きを進めるべきである。
結論
この方法書は、対象事業の内容に関する記述が極めて不十分であること、調査・予測・評価の手法が論理的に関連していないこと、IUCN(国際自然保護連合)の勧告を無視していること、縦覧の仕方が排他的であることなど、方法書の必要かつ十分な条件を満たしていない。事業者は、この方法書を科学的、合理的な観点で全面的に書き改めるべきである。