シンポジウム「地球温暖化の目撃者 ~世界に広がる温暖化の影響、生の証言~」報告


2011年11月8日に東京、10日に大阪で、WWF主催・毎日新聞共催のシンポジウム「地球温暖化の目撃者 ~世界に広がる温暖化の影響、生の証言~」を開催しました。強大化した台風、永久凍土の融解、氷河湖の決壊による土石流…。地球温暖化はすでに世界各地で異常気象や海面上昇などによる影響を及ぼし始めています。シンポジウムでは、モンゴル、ケニア、ネパールから3人の「目撃者」を日本に招いて生の証言をお話しいただきました。

途上国で拡大する影響と被害

地球温暖化の影響は、長年にわたり、その原因となる二酸化炭素を排出してきた先進国よりも、排出してこなかった途上国に強くあらわれています。影響はすでに、農業をはじめとするさまざまな産業や、日常的な人の暮らしにも及び始めています。

途上国では、その対応についても困難がつきまとっています。
地球温暖化の被害を軽減できる社会的なインフラなどの整備が、急ぎ必要とされるにもかかわらず、必要な費用や技術が無いため、対策が遅れ、被害が拡大しています。
国際社会による継続的な支援が必要ですが、先進国の人々の多くにとっては、まだ遠い世界の話のように感じられています。

WWFが2004年にスタートした「地球温暖化の目撃者」プロジェクトは、地球温暖化による被害で既に苦しんでいる人々に、その状況を「目撃者」として世界に情報発信してもらうことを目的とした取り組みです。
温暖化の深刻な被害を、人の「顔」を通じて訴え、温暖化防止のための意識を高めることを目的に展開されてきました。

20111230a.gif
20111222mokugeki8.jpg

シンポジウム「地球温暖化の目撃者」

WWFジャパンでは2011年11月、今までに「地球温暖化の目撃者」として温暖化の影響を証言してきた140人の目撃者から選んだ26人の証言を集めた、その総括となる書籍を刊行。さらに、モンゴル、ケニア、ネパールから3人の「目撃者」を日本に招き、東京と大阪の2カ所で、その生の証言を聞くシンポジウムを毎日新聞社と共同で開催しました。

ネパールからの証言

まず、ネパールから来日された、農家とゲストハウスを経営しているチュンダ・シェルパさんが、ヒマラヤの変化についてお話しくださいました。シェルパさんは、ユキヒョウ保護協会の会長でもあり、長年地域の自然保護にも関心と努力を傾けてこられた方です。

シェルパさんは、体感するネパールでの気候が変わってきたこと、そしてその変化が、氷河を溶かし、各地に湖を作り、決壊の危機を増大させているといいます。過去には実際に、湖が決壊して、集落を水害が襲ったこともありました。

20111222mokugeki3.jpg

ネパール チュンダ・シェルパさん

モンゴルからの証言

3人目の目撃者は、モンゴルで遊牧民としての暮らしを続けるスヒー・プレヴさんです。

季節にあわせて移動しながら生活する遊牧民の方々にとって、異常気象による環境の変化は、収入源である家畜の放牧や生活パターンそのものに大きな影響を及ぼします。

昔と今とで変わってしまった草原の景観と、そこで生きてきた人々の暮らしに兆している変化を、プレヴさんは語ってくださいました。

これからも草原での暮らしと伝統を大切にしたい、というプレヴさんは最後に訴えました。

20111222mokugeki4.jpg

モンゴル スヒー・プレヴさん

ケニアからの証言

3人目の目撃者は、ケニアのジョセフ・コネスさん。

長年、農業を営む中で実感してきた、天候の変化による農作物への影響や、地域で徐々に増え始めたマラリアについて証言してくださいました。

雨の降り方、乾期の訪れ、これまで当たり前だったことが、そうではなくなる現状。そして、気候に大きく左右される農業が、どれほど大きな打撃を受けているか。また、かつては無かったマラリアという病気が、どれほど人々の暮らしを脅かしているか、そのお話は、日々の暮らしに及ぶ深刻な脅威を物語るものでした。
さらに、東アフリカの豊かな自然も、その影響を受けているといいます。

ケニアはかつて、農産物を輸出する農業国でしたが、今では気候変動による農業の不振に見舞われ、食物を輸入しているそうです。
「(温暖化に関心のない人たちは)私たちに、物乞いをしなさい、というのでしょうか?」
コネスさんの最後の問いは、先進国をはじめ、温暖化を促進させている、全ての人々に対して、発せられた問いといえます。

20111222mokugeki5.jpg

ケニア ジョセフ・コネスさん

20111222mokugeki1.jpg

この後、シンポジウム後半は、東京と大阪のそれぞれで、パネリストによるプレゼンテーションと、パネルディスカッションが行なわれました。

地球全体にすでに及び始めている、温暖化という問題と、その脅威を前に、日本は今何を考え、どのような取り組みをすべきなのか。実際にその被害を受けている人々の生の証言を聞くシンポジウムは、参加者の一人ひとりが、考える機会となりました。

 → くわしい講演録はこちら

シンポジウム詳細

シンポジウム「地球温暖化の目撃者」~世界に広がる温暖化の影響、生の証言~

東京都・星陵会館東京都・星陵会館

日時 2011年11月8日(火) 13:30~17:30
参加者数 263名
内容

 メッセージ
「温暖化が動かす21世紀の世界」末吉竹二郎氏
(国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問、WWFジャパン評議員)

世界の目撃者
ネパール「変わりゆくヒマラヤの自然環境と氷河」チュンダ・シェルパ氏
モンゴル「干ばつ等異常気象の及ぼす伝統文化の消失」スヒー・プレヴ氏
ケニア 「予測不能な天候とマラリアの出現」ジョセフ・コネス氏

映像報告:「地球温暖化が及ぼす様々な日本への影響」小西雅子(WWFジャパン)

パネル討論:「今こそ低炭素型の社会を目指して」
末吉竹二郎氏(国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問)
藤野純一氏(国立環境研究所社会環境システム研究センター 主任研究員)
マティアス・ストールハマー氏(イケアグループ・エンジニアリングマネージャー)
小西雅子(WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ プロジェクトリーダー)
コーディネーター 枝廣淳子氏(環境ジャーナリスト)

大阪市・オーバルホール

日時 2011年11月11日(木) 13:30~17:30
参加者数 245名
内容

 メッセージ
「日本と世界に広がる温暖化の現実」德川恒孝(WWFジャパン会長)

世界の目撃者/映像報告:東京会場に同じ

パネル討論:「今こそ低炭素型の社会を目指して」
枝廣淳子氏(環境ジャーナリスト)
槌屋治紀氏(株式会社システム技術研究所所長)
マティアス・ストールハマー氏(イケアグループ・エンジニアリングマネージャー)
小西雅子(WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ プロジェクトリーダー)
コーディネーター 田中泰義氏(毎日新聞科学環境部副部長)

 

この記事をシェアする

人と自然が調和して
生きられる未来を目指して

WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。

PAGE TOP