APP社、さらにグリーンウォッシュへ
2012/07/19
長年にわたり、貴重な自然林の破壊が問題視され続ける製紙メーカー、APP社。ビジネスにおける環境や社会への配慮に関心が高まるなかで、むしろ流れに逆行するかのような原料調達における数々の問題点に世界的に批判が高まっています。それにも関わらず2012年5月、同社はまたしても、これまで指摘されている問題点の改善を伴わない「新たな方針」によって環境への配慮を強調。さらに問題から社会の視線をそらすことに力を注いでいることが明らかになりました。
裏切られた期待
貴重な自然林の大規模な伐採、地域住民との土地の利用権をめぐる紛争など、操業現場で起きている問題が長年、世界中の環境団体をはじめとするさまざまな組織から批判を受けてきた製紙メーカー、APP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社。
改善へ向けての具体的な行動へ期待が高まるなか、5月15日、新たな自然林の保護に関する方針を発表しました。
その主な内容は以下です。
- インドネシアでAPPが所有する森林コンセッションに関して
a. 2012年6月1日から、APPはHCVF評価が行われている期間中、自然林の伐採を停止します。
b. HCV Resource Network の最善慣行に従ってHCVF評価を実施するために、
我々は信頼の高い専門家チームを起用しました。
c. 我々は、HCVF評価の結果に基づき、特定されたすべての保護価値の高い地域を保護します。
- インドネシアにおけるAPPの独立系パルプ材供給会社に関して
a. 当社のHCVFに対する確固たるコミットメントがなされたことを考慮し、
独立系供給会社が2014年12月31日までに、我々のHCVF評価に対する要求に応じることを
期待します。
b. APPは国際的なNGOパートナーと共に、独立系供給会社に対し、
HCVF評価を採用するように協働して行きます。
c. HCVF評価が実施されない場合、我々は供給契約を再検討します。
(APP社プレスリリースより)
この発表は、APP社によって積極的に広報され、関係する多くのメディア、そして企業の注目を集めています。
しかし、WWFは同社による今回の発表は、森林の保護どころか更なる「グリーンウォッシュ(環境に明らかな悪影響を及ぼしている企業が、他のCSR(社会貢献活動)などをアピールすることで、その行為を隠そうとすること)」であると考えます。
WWFインドネシアのナジール・フォアドは、「APP社は、その森林現場での操業に関する激しい批判が、ますます増加し、かつ広まっていくという事態にありながら、それでも意味のある変化を遂げるのではなく、またしてもグリーンウォッシュへの注力を選択した。WWFの分析では、今回の限定的な自然林伐採の一時停止による影響はごく僅かだ。なぜならAPP社は、リアウ州において同社および提携会社が伐採許可を得た土地のうちの713,383ヘクタール、つまりほぼ全ての自然林を既に伐採してしまっているからである」と述べています。
繰り返される「宣言」
これまでに何度も、工場に受け入れる原料の100%を、再生可能な植林木にすると公表しては、延期を繰り返してきたAPP社。一度目は、2004年まで、二度目は2007年まで、三度目は2009年まで。2011年には、「ビジョン2020」を発表し、2015年までにこの目標を達成するとすでに発表しています。過去の約束は、3度とも破られたうえに、同社は今も貴重な自然林の破壊によって調達される原料に依存しています。
このことからも、今回の自然林のほとんど残っていない直接管理地のみにおいて、一時的に自然林の伐採を停止し、外部のサプライヤーに関しては、2014年末までに「保護価値の高い森林(HCVF)」のアセスメントを受け入れない場合に、購入の再検討を行うという発表は、過去の公約のレベルにさえも達しません。
APP社は、伐採許可地が同社の直接の管理地かどうかに関わらず、自然林に由来する原材料の受け入れを一切停止すべきです。
WWFは、スマトラ島の現地NGOの連合体、アイズ・オン・ザ・フォレストに協力し、衛星画像なども用いた森林のモニタリング、分析を行い、今回の具体的情報に欠けるAPP社の発表の意図と影響の分析を継続してゆきます。
同時に、APP社の操業における根本的な問題点が、これまで再三にわたって破られてきたコミットメントや声明、ロードマップの発表などではなく、本当の改善が現場で確認されない限り、全てのビジネス、製品の購入は停止されるべきと考えます。
記者発表資料