認証機関、APP社の持続可能性を否定
2012/04/09
生物多様性の宝庫とも称されるインドネシア、スマトラ島の熱帯林。そこに巨大な製紙工場を構え、大規模な自然林の伐採、植林地化などによって原料調達を行なっている大手製紙メーカー、APP社。同社の操業は、現地NGOをはじめ、WWFなど世界で活動を展開する環境団体、そしてFSC(森林管理協議会)などの国際組織などによって、長期にわたり問題視されてきました。そして今回、WWFの調査によって、APP社が取得する森林認証や環境基準のいずれもが、APP社の操業の環境面での持続可能性を保証するものではないことが明らかになりました。
スマトラ島の熱帯林、25年間で約50%が消失
かつて豊かな熱帯林の覆われていたスマトラ島は、その熱帯林の約半分が過去25年間で失われています。これには、大規模なプランテーション(農園)の開拓、違法な土地利用などいくつかの理由がありますが、その一つに製紙原料の調達があります。
APP(アジア・パルプ・アンド・ペーパー)社は1984年にスマトラ島で操業開始以来、これまでに約200万ヘクタール、四国と同じぐらいの広さの自然の熱帯林を伐採してきました。
WWFインドネシアも参加し、スマトラ島リアウ州を中心に森林伐採を監視するNGOの連合体、アイズ・オン・ザ・フォレストによれば、APP社は、2010年単年で見ても、約4万2000ヘクタールの自然林をスマトラで伐採しています。これは、山手線内の面積の約6.5個分にも相当する面積です。
しかも、問題とされているのは、大規模な自然林の伐採ばかりではありません。紙の原料となる植林地をつくるために、地中に多くの炭素を含む「泥炭地」と呼ばれる湿地に水路を作って水を抜くことにより、大量の温室効果ガスを空気中に放出しているほか、伝統的に森林を所有、使用してきた地域住民との社会的な紛争も引き起こしています。
そしてこうした現場の深刻な問題を改善することなく、むしろそういった問題から目をそらせるかのような、環境・社会貢献活動を強調するグリーンウォッシュ広告などを、APP社は世界各地で盛んに行なってきました。
グリーンウォッシュ広告の裏側
こうしたAPP社による環境広告に対し、アイズ・オン・ザ・フォレストは2011年末に、APP社の「環境広告」の背後にある実情を明かす報告書、「APP社、グリーンウォッシュの裏側」を発表しました。
この直後、APP社は、自社の取得する欧州エコラベル(EU エコラベル)、インドネシアの森林管理基準であるPHPLとLEI(インドネシアエコラベル協会)森林認証、さらに、世界的に認知される森林認証制度PEFCのCoC認証などが、APP社が環境に配慮した持続可能な原材料調達を行なっている証拠であると主張しました。
これに対し、WWFは調査を実施。APP社が証拠として挙げた、これらの認証制度、審査機関に対して、同社のどの製品、または操業におけるどの部分が、認証の対象となっているかについて、詳細の提示を求めました。
そして調査の結果、いずれの認証制度や審査機関も、APP社の抱える根本的な問題を肯定し、同社の全体的な操業の持続可能性を保証してはいないことが判明しました。
否定された「持続可能性」
こうした認証の検査と審査登録を世界的に行なう認証機関、SGSは、「APP社が取得する認証や基準のいずれもが、同社の原料調達が持続可能な方法で行われていると主張する権利を与えるものではない」と述べています。
また、PEFC森林認証制度のCoC認証(Chain of Custody: 森林管理ではなく加工・流通部分が対象)に関しても、これは、APP社の全操業を対象に持続可能性を保証するものではないこと、CoC認証はあくまで流通・加工を対象としたものであり、伐採の現場において森林の利用の持続可能性を証明するものではないこと、またインドネシア国内にはPEFC認証林は存在しないことから、APP社の使用するPEFC認証原料は、国外から輸入されたものであると回答しました。
インドネシア独自の森林認証制度、LEI(インドネシアエコラベル協会)も、「APP社の全操業データを持っているわけではない」と述べました。
これらの調査結果によって、APP社の取得する認証が同社の操業全体の持続可能性を証明するという認証機関はひとつもないことが確認されました。WWFは、APP社は約束や宣伝などではなく、事実に基づいた現場での行動改善こそが世界的批判を解消するということに気が付くべきと考えます。
これまで、多くのグローバル企業がAPP社との取引停止を発表してきました。この動きの背景には、世界的な生物多様性や環境への配慮、自然資源を持続可能な形で利用しようとする「責任ある調達」に対する意識の高まりがあります。
WWFは、APP社の問題をあらためて指摘するとともに、事実に基づいた改善が見られない現在、紙を使用するすべての企業に対し、紙製品の購入や選択には、慎重を期すよう求めると共に、確かな情報に基づいた「責任ある調達方針」の策定と実行が必要であることを主張します。