メコン川でカワゴンドウの個体数増加を初めて確認
2018/05/09
2018年4月、WWFカンボジアは、メコン川に生息する絶滅危惧種のイルカ、カワゴンドウの個体数が過去2年間で80頭から92頭に増加したことを発表しました。これはカンボジア政府との共同調査によって明らかになったもので、1997年から続けられてきた公式調査以降、減少し続けてきたカワゴンドウの増加を示した初の調査結果となりました。
メコン川、生物多様性の宝庫
チベット高原から、中国、ミャンマー・ラオス国境、カンボジア、そして南シナ海へと流れる大河、メコン川。
全長4000km以上にもなるメコン川流域には、先住民族を含む多様な国・地域の人々が暮らし、この川に由来する自然資源は、そこに生きる人々の暮らしや生計を支えています。
同時に、世界で最も生物多様性の高い地域の一つでもあるメコン川流域の自然の生態系は、陸域には、インドシナトラやアジアゾウ、サオラ。淡水域には2mを超える大型魚メコンオオナマズや、水生哺乳類の一種カワゴンドウ(イラワジイルカ)など、多数の固有種を含めた数多くの絶滅危惧種が生息しています。
さらに、これまで大規模な調査が行なわれてこなかった地域では、現在も多くの新種が発見され、まだまだ未発見の種が同地域に生息している可能性が高いと考えられています。
メコン川淡水生態系の象徴、カワゴンドウ
この淡水系を代表する野生動物の一種であるカワゴンドウは、ラオス南部のカンボジアとの国境付近に位置するメコン川最大の滝、コーンパペンからカンボジア東部の村、クラチエまでの約190kmにおよぶ水域で生息が確認されています。
カワゴンドウは、東南アジアに広く分布し、河川だけでなく、河口域や浅い海でも見られる小型のイルカ類で、体長は2.75m、体重は150kgほど。6頭ほどの群でくらしています。
しかし、メコン川にすむ亜種個体群は、淡水の川の中だけ、海とは完全に切り離された水域に、孤立した形で分布。
このため、周辺環境の開発などの影響を受けやすく、早くから絶滅の危機が指摘されてきました。
公式な生息調査が初めて行なわれた1997年に推定されたその個体数は、わずかに約200頭。
その後も、魚の通り道に帯状の網を仕掛けて魚を絡めてとる「刺し網」に誤ってかかり命を落とす「混獲」や、電気や爆薬を使用する破壊的な漁業、ダム建設などの開発によって生息地の減少が続き、2015年の調査では、80頭にまで減少していました。
このためWWFは、現地政府や観光産業、そして地域コミュニティと協力。違法な刺し網の撤去のためのパトロールを強化するなどの活動を行なってきました。
今回の個体数増加は、こうした活動が実を結んだものとWWFはみています。
WWFカンボジアのカントリー・ダイレクター、セン・テクは、「長年の保全活動によって、メコン川を象徴するカワゴンドウを絶滅から救えると信じられるようになった。これは地域の関係者との協力の賜物です」とコメントしています。
メコン川流域の自然を未来にのこしてゆくために
メコン川がその流域を広げるインドシナ半島では今、ダムや道路といったインフラ開発や自然の森の農地転換などによって、川や森の貴重な生態系が急激に失われつつあります。
このためメコン川周辺国のWWFでは、この地域の生物多様性を保全するため、野生生物の生息調査や森林のモニタリング、政策への提言など、さまざまな保全活動を実施。
WWFジャパンも2017年からこの地域の保全活動を支援しています。
特に、近年急激にこの地域で拡大している天然ゴムの生産を目的とした農園開発は、そのゴムを輸入・消費している日本にも、大きくかかわりのある問題です。
東南アジア諸国の急激な経済発展により、今ものこる貴重な自然ができる限り失われることの無いように、WWFは国境を越えた立場から、これからもその保全を目指してゆきます。