DNA鑑定を開始!四国ツキノワグマの親子関係に迫ります!
2015/07/13
国内で最も絶滅が心配されている四国のツキノワグマ。その生息数は少なければ十数頭、多くても数十頭と推定されています。生息頭数の減少によって、近親交配や遺伝的劣化などが懸念されています。この度、2007年から2014年に捕獲した10頭分の血液サンプルを対象に、遺伝子解析を実施。個体間の交配関係や系図を明らかにし、近親交配の程度などを推定しようとする試みが始まりました。
四国のツキノワグマ「地域個体群」について
推定生息数が少なければ十数頭、多くても数十頭とされる四国のツキノワグマ。
高知県と徳島県にまたがる剣山系、標高1,000メートル以上に残存する自然林に生息しています。
特定の地域に隔絶され、一定の時間を同一空間内で生活している生物集団を「地域個体群」と呼びますが、四国のツキノワグマは「絶滅のおそれのある地域個体群」として、環境省のレッドリストに掲載されています。
科学的な研究によると、エサ資源などの環境の変動と個体数のシミュレーションから、ツキノワグマの個体群が絶滅を免れ、健全に存続するためには、100頭以上が必要だろうと見積もられています。
2012年、環境省によって九州のツキノワグマ地域個体群が絶滅したとされるなか、四国の地域個体群は、国内で最も絶滅が心配されています。
確認できたツキノワグマの数
2002年より四国のツキノワグマの生態調査を開始した認定NPO法人四国自然史科学研究センター。2005年からはWWFジャパンの支援により、調査を拡充してきました。
ツキノワグマを捕獲し、血液などのサンプルを採取、そして電波発信機装着して再び山に放し、追跡調査を行なうことによって、その生態を明らかにしてきました。
2005年からの捕獲作業によって確実に確認できたクマは11頭。そして、自動撮影カメラなどによって個体が識別できているクマは4頭。現在まで、合計で15頭のクマが確認されました(なお、確認できた内、現在何頭が生存しているか、まではわかりません)。
これまでの調査により、分布の中心地域が把握され、毎年継続してツキノワグマの確認をすることができています。しかし、同一個体の確認が多いこと、中心地域以外での確認がされないことなどから、安定的に個体群が維持されているというには程遠い状況です。
四国のツキノワグマ地域個体群はかなり限られた頭数しか生息していないのではないか?今の状態で個体群が維持できるのか?絶滅へのカウントダウンが始まっているのではないか?と関係者の間では不安が募っています。
今まで確認された生息地の周辺地域において、四国森林管理局などと協力して、積極的に分布調査を行なっていますが、新しいクマの発見にまでは至っていません。
四国独自の遺伝的タイプ
2005年からの捕獲作業によって、次第に血液サンプルを蓄積することができました。
そこで2008年、九州大学に協力を求め、採取したツキノワグマ4頭の血液サンプルを対象に、遺伝子解析を行なうことにしました。
それまで、四国のツキノワグマ地域個体群は、固有の遺伝的形質を持つ可能性が考えられていましたが、その研究は十分に行なわれておらず、はっきりしたことが判明していなかったのです。
遺伝子解析の結果、本州では見られない四国独自の遺伝子タイプを確認することができました。四国のツキノワグマは、日本の中で遺伝的に独立性の高い希少な個体群であることが明らかになったのです。
その一方、生息頭数の減少によって、近親交配や遺伝的劣化なども考えられるため、さらなる遺伝子解析を早急に進め、四国のツキノワグマの遺伝的多様性、さらにどの程度危機的な状況であるかを調べることが課題となりました。
遺伝子解析による親子鑑定の開始
2015年現在、四国自然史科学研究センターでは2007年から2014年に捕獲した10頭分の血液サンプルを保存しています。
このサンプルをより詳しい遺伝子解析にかけることによって、四国のツキノワグマの個体間の交配関係や系図を明らかにし、近親交配の程度などが推定しようとする試みが始まりました。
一般的に近親交配は、繁殖の適応度(どれだけ多くの子孫を次世代に残せるかの尺度)を低下させ、絶滅のリスクを高めると考えられています。
例えば、近親交配によって、遺伝的な多様性が減少すると、ウイルスなどによる病気の流行や大きな環境の変化によって、個体群が安定して維持されない可能性があります。
また、近親交配の結果、有害な遺伝子が蓄積して、繁殖力が低下するリスクもあります。
したがって、近親交配の状況を数値として把握することができれば、四国のツキノワグマ個体群の絶滅のリスクを評価する際に、重要な情報となることが期待されるのです。
今後の保護活動に向けて
遺伝子解析の結果は、早ければ8月頃に判明する予定です。
その結果を、他地域のツキノワグマの遺伝的多様性のデータと比較して、もし四国の個体群で著しく近親交配が進んでいるようなら、これ以上の遺伝的多様性の減少をくいとめるための新たな方策を考える必要があります。
逆に、近親交配が進んでいないようなら、現在の調査で確認できていないクマがいるとい うことになります。
現在進めている分布調査をさらに強化し、四国のツキノワグマの生息地をより正確に把握し、重要な生息地を選定し、積極的に保全していく必要があります。
このように、遺伝子解析による親子鑑定の結果は、これからの四国のツキノワグマについての調査の方向性、そして保護活動の方向性を示してくれる可能性を秘めています。