ボルネオ島カリマンタンで再発見!スマトラサイのさらなる保護に向けて


東南アジアを代表する熱帯の島、ボルネオ島。そのインドネシア領(カリマンタン)南東部で、2013年3月、この地域ではすでに絶滅したとされていた"幻のサイ"スマトラサイの生存が確認されました。これを受け、WWFは日本で緊急支援を募り、保護プロジェクトを開始。密猟のパトロール活動や、現地での調査を行なってきました。その結果、これまでのところ密猟はゼロに抑えられており、さらに2014年9月には、近隣で新たなサイの個体も発見されました。保護に向けたさらなる取り組みが今、進められようとしています。

20年ぶりに見つかったスマトラサイ

世界に生息する5種のサイは、その角を狙った激しい密猟と、生息地の深刻な自然破壊により、いずれも絶滅が心配されています。

その1種、東南アジアのスマトラ島およびボルネオ島の熱帯林に生きるスマトラサイは、推定個体数がわずか220~275頭を残すのみ。

すでに、多くの地域で姿を消してしまったほか、現在の生息地も、わずかな場所に限られ、また分断されており、その将来が危ぶまれています。

生息地を脅かす主な原因は、木材や紙の生産を目的とした破壊的な森林伐採。そしてパーム油を生産するための農地(プランテーション)の開発などで、その規模と脅威は、年々拡大しつつあります。

そうした厳しい状況の中、2013年3月、ボルネオ島のインドネシア領東カリマンタンにおいて、1990年代にこの地域ではすでに絶滅したとされていたスマトラサイの姿が、WWFなどの調査によって、20年ぶりに確認されました。

この地域では姿を消したとされていた「幻のサイ」を20年ぶりに捉えた貴重な映像。© Local people in East Kalimantan

近年では、密猟された犀角の最終消費地はベトナム。ブラックマーケットで売られていたサイの角。

密猟から守るために!届けられた日本からの支援

このスマトラサイ再発見の報告を受け、WWFインドネシアは緊急プロジェクトを開始。

密猟を防ぐパトロール活動と、スマトラサイの生息地や生態を把握するための調査を開始しました。

対象となったのは、東京都の面積の半分近い広大な熱帯の森。

現地のスタッフたちはその中を、サイの足跡や食痕といった生存の痕跡や、密猟者の姿を追って、ときには1か月近くも継続して歩き回りました。

そのたゆまぬ努力によって、現在に至るまで、密猟はゼロに抑えられています。

さらに、スマトラサイの食性や生態に関する情報も、蓄積されてきました。

こうした調査データは、サイの置かれている現状と環境を正しく知り、今後の保護活動を展開してゆく上での、最も重要な基礎となります。

そして、この緊急プロジェクトは、日本からの支援により、実現したものでもありました。

WWFジャパンの呼びかけに日本のサポーターの方々が応え、お寄せくださった寄付金が、現地の取り組みを支え、密猟をゼロに抑える成果を導いたのです。

奥深い熱帯林での調査やパトロールの様子

日本のサポーターからのメッセージを、WWFインドネシアのスタッフに届けました

保護区ではない場所での保護活動

この保護活動においては、他にもさまざまな課題がありました。

まず、今回発見されたサイが生息する地域は、国立公園などの自然保護区ではなく、法的に生息地の保全が約束されていない場所。

そのため、調査によって、生息地や行動範囲を明らかにすることは、優先的に保護すべきエリアを特定し、今後の保護計画を考えていく上で、重要な意味を持っています。

また、サイの生息する地域の周辺では、そこで暮らす住民が主食の米などを栽培し、建材として利用するために木材を伐採するなど、さまざまな形で土地が利用されています。

そこで、WWFインドネシアは定期的にこうした現地コミュニティを訪れ、人々の暮らしとスマトラサイの保全が両立するよう、対話を続けてきました。

最近では、木材の伐採の追加の収入源として、魚の養殖池の建設も進められています。

加えて、この地域は遠隔地にあり、教育や医療が満足に行き届いていないことから、地方政府に対し、現地住民の要望を届けるなど、社会的なサービスの充実に向けた働きかけも行なってきました。

その結果、現在は小学校や簡易の医療施設が建てられ、教師や医師を迎える準備が整い始めています。

森を守り、スマトラサイを守るために、こうした地域社会のかかわりにも目を向け、そこでの暮らしや利益を尊重しつつ、保全活動の前進に向けた対話と信頼関係の構築が進められているのです。

魚の養殖池の建設予定地。

小学校も建設が進められている。

新たに見つかった"幻のサイ"

そうした中、2014年9月、同じ東カリマンタン州の別の地域において、新たに野生のスマトラサイの個体が確認されました。

これは、かねてから地元の住民から目撃情報が寄せられていた地域での調査により明らかになったものです。

設置された調査用の自動撮影カメラには、レンズにお尻を向けて泥あびをするサイが鮮明に捉えられています。

この発見はスマトラサイの保護活動において、何物にも代えがたい喜びであった反面、その状況は、非常に厳しいものといわざるをえませんでした。

まず、発見された個体が棲む森は、面積の点でも非常に限定的で、さらにその周辺には、アブラヤシのプランテーションが迫り、石炭採掘のためさらに森が切り拓かれています。

航空写真で見ると、その危機はより明らかであることが分かります。

また、発見以降に行なわれてきた調査では、サイの痕跡が確認された場所が、周囲の森が伐り拓かれるにつれ、奥地へと移動していることも確認されました。

新たに発見されたスマトラサイの個体。泥浴びをするのは、体についた虫をとるため、あるいは体温調節のためと考えられている

空から見た森の様子。自然林が切り拓かれた場所、アブラヤシのプランテーションに姿を変えた場所、企業のキャンプ地や森へのアクセス確保のために敷かれた道路などが見て取れる。

生き残っていると考えられるサイの個体数も、わずかに数頭ほどと見られており、さらに、地域住民の話では、現在残っている森の中にも、すでに石炭採掘の企業による利用権が認められることが決まっている土地もあるなど、事態は予断を許しません。

さらなる保護に向けて

WWFインドネシアは、新たにスマトラサイが発見された現地に、ベースキャンプを設置。

数人のスタッフが入れ替わりで常駐し、昼夜、密猟の監視にあたるとともに、地域住民や企業に対し、スマトラサイの保護に向けた対話を続けています。

しかし、現在の限られた生息域の森で、数もわずかなスマトラサイが、将来にわたって生存し続けてゆくことができるのか。その懸念は、今も大きなままです。

そこで、WWFインドネシアは今後、この地域のスマトラサイを、現在の生息域から、より適切な場所に移送するインドネシア政府の方針を支援する予定です。

もともと、その場所に息づいてきた野生動物を、人為的に他の場所に移すことは、自然をありのままに保護する活動として、望ましいものではありません。

しかし、絶滅寸前にまで追い込まれているスマトラサイのような動物を、一つの種(しゅ)として存続させなくてはならない時には、これもまた採るべき手段として、検討する必要があります。

どういった森がスマトラサイにとっての生息適地なのかの検討も、今後進められていく。

とはいえ実際、移送後のケアはどのように行なっていくのか等々、検討課題は多く残されています。

今後、関係者が一致団結して検討を重ね、最善の方法を探っていくことが、スマトラサイの未来を決めるために、強く求められています。

日本にできる! ボルネオの森の保全

このスマトラサイの未来を守るためには、日本の消費者にも、できることがあります。

サイの生存を脅かす原因には、密猟のほかに、生息地である森林の破壊が挙げられます。

新しく見つかったサイが棲む森が実際にそうであるように、ボルネオ島では現在、急速かつ大規模に自然林が伐採されています。

その中には違法伐採や破壊的な伐採も少なくありません。

多くの場合、切り拓かれた森の跡地には、紙の原料になるアカシアや、植物油を採るためのアブラヤシの苗が植えられています。

日本が輸入するコピー用紙の70%はインドネシアからの輸入品。

また、スーパーに並ぶ商品の約半分には、アブラヤシを原料とするパーム油(植物油という表示になっているものも多くあります)が、使われているといわれています。

その中には、インドネシアの熱帯林を破壊して生産されたものが含まれている可能性も、否定できません。

そこでWWFでは、環境や地域社会に配慮した紙や木材、パーム油の生産を支援しています。

FSCやRSPOといったエコラベルが、持続可能な形で生産された商品であることを示すマーク。

製紙用の植林地として使用するために自然の森が大規模に伐採された跡地

FSC認証林の例。自然林と植林地がモザイク状になっている。

FSCマーク(左)とRSPOマーク(右)

こうした商品を選択的に購入することは、日本の人たちが間接的に貢献できる、世界の自然環境を保全する取り組みの一つです。

WWFでは、今後もボルネオ島でスマトラサイの保護に取り組むとともに、インドネシアの森を守るために、企業や消費者に対して、持続可能な森林の利用を促していきます。

引き続き、ぜひ皆さまの活動へのご支援を、よろしくお願いいたします。

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