モンゴルでのサイガの保護活動に成果
2012/12/15
中央アジアのステップや半砂漠に生息するサイガ。過去の乱獲により絶滅が心配されています。2012年11月下旬、このサイガの保護に取り組むWWFモンゴルの担当者が来日し、WWFジャパンの事務所で、モンゴルのサイガの現状と、成果の芽生え始めた保全活動について情報を共有しました。その報告内容を紹介します。
絶滅が心配されるサイガの保護活動
大きな鼻が特徴のサイガは、中央アジアのステップ(草原地帯)、半砂漠などの環境に群をつくって生息するウシ科アンテロープの一種です。カザフスタンなどの旧ソ連地域と、モンゴルに、2つの亜種が生息しており、かつては中央アジアで最も多くみられる草食獣の一種でした。
しかし、薬の原料とされる角を狙った狩猟によって数が激減。生息域も、1950年から2012年までに、8割が失われました。現在は、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで、最も絶滅の恐れが高い「CR(近絶滅種)」に指定されています。
このサイガについてモンゴルで保護活動を行なっている、WWFモンゴルの担当者ブヤナー・チムデドルジが2012年11月下旬、来日しました。
中央アジアの野生動物調査を通じて親交のあった、麻布大学の高槻成紀教授(野生動物学研究室)の招きで来日し、サイガのおかれた現状と保護活動について意見交換をはかるためです。
チムデドルジはこの折、WWFジャパンの事務所も来訪。生態学的にはまだまだ謎の多いモンゴルのサイガと、進展しつつある現地の活動の情報を、日本のスタッフと共有しました。
サイガの個体数の変化
モンゴルのサイガは主に、西部のアルタイ・サヤン地域に生息しています。まだ生息状況について不明な点が多い中、1998年から生息域の把握と個体数調査が行なわれてきました。
ほとんど道の無い平原や山岳地帯で、調査は主に四輪駆動車を駆使して行なわれています。
また、自動車では確認できない地域については小型飛行機を使用。サイガの生息域を一定間隔で幾度も横断し、合計で2,330キロにおよぶ空からの調査も実施してきました。
1998年に2,994頭だったモンゴル国内のサイガは、2010年には8,016頭、2011年には10,390頭と、増えていることが分かりました(頭数はいずれも調査に基づく推定値)。
この背景には、WWFモンゴルをはじめさまざまな関係機関、地域の人々による、保護活動の努力がありました。
しかし、このサイガの増加も決して安定したものではありません。
2000年には一度5,280頭まで増加しましたが、2001年から2002年にかけて冬季に厳しい寒波が訪れた結果、積雪による移動困難や、食糧の不足などによって80%のサイガが死亡。2003年の個体数調査では、750頭まで減ったのです。
WWFによるサイガ保護プロジェクトの成果と課題
WWFモンゴルが、サイガの保護プロジェクトを本格的に開始したのは、2007年のことでした。目標は、現在の生息地を維持すること、その環境を改善するとともに、今ではサイガが姿を消してしまった地域にまで、そのエリアを広げてゆくことです。
プロジェクト開始時のモンゴルのサイガの個体数は、2,860頭。WWFモンゴルでは、まずサイガが減った要因を分析しました。
厳冬などの自然の要因を除いた時、特に減少の要因として大きいと考えられたのは2つ。
一つは、伝統薬の原料となる、角を目当てにした密猟です。実際に薬効があるかどうかは科学的に証明されていませんが、密猟による脅威は今も続いています。
もう一つは、増え続けてきた家畜の放牧です。これは、サイガの食べる植物の生育を妨げたり、採食場所を奪ってしまう問題を引き起こしています。
そこで、サイガの保護プロジェクトには3つの柱が設けられました。
- 密猟対策を行ない、法律が適正に執行されるようにする。密猟のパトロールにあたるレンジャーやスタッフをトレーニングする。
- サイガの生息する地域の人たちへの普及活動により、プロジェクトへの協力をとりつける。子どもたちへはマンガなどを用いた教育活動も行なう。
- 家畜と野生生物の共存を可能とする牧草管理の仕組みを導入する。地域住民の理解と協力を得て、家畜の食べる牧草地とサイガの生息地のすみ分けを行なう。
さらに、サイガの保護区も2つ設けられ、サイガの生息地の28%をカバーするまでになりました。
こうした保護プロジェクトの実施により、近年は密猟が急減。サイガの個体数にも確実な増加傾向が見られるようになりました。
家畜の牧草地の管理をより広域に拡大することや、密猟と角の取引の実態を明らかにするなど、まだ課題は残されていますが、地域の人々の理解と支援にも支えられ、プロジェクトは確実に進展しつつあります。
日本からの支援も貢献
このモンゴルでのサイガの保護活動には、日本からの支援も役立てられています。
2010年、WWFジャパンは、モンゴルでのユキヒョウの密猟対策用車両を購入するため、日本で約700万円のご寄付を募りました。
サイガの生息するモンゴル西部は、ユキヒョウの生息域にも近く、活動エリアが重なっているため、この時に調達された車両が、サイガの保護パトロールや調査でも活躍しているのです。
このことが、WWFモンゴルのブヤナー・チムデドルジから、日本への感謝とともに伝えられました。
1992年に設立されたWWFモンゴルは、草原や森林、山岳、砂漠などの多様な自然環境に恵まれたその国内で、これまで保護区の設置と拡大、さらに、サイガをはじめ、ユキヒョウやアルガリなどの野生生物の保護に力を注いできました。
「人が保護の意志を固め、実行に移すとき、サイガの個体数と生息地は回復していくはずだ」そう話してくれた、ブヤナー・チムデドルジ。
中央アジアの自然を守る取り組みは、これからもたゆむことなく、続けられてゆきます。