メコンの森に迫る開発の波
インドシナ半島を流れる大河、メコン川の流域に広がる森。 そこでは、トラ、ヒョウ、ドール、アジアゾウ、テナガザル、バンテン、センザンコウなど、絶滅のおそれがとても高い動物たちが命をつないでいます。
この貴重なメコンの森が今、人口増加と経済発展に伴う開発の波に、飲み込まれようとしています。特に大きな要因となっているのが、天然ゴムの生産地の拡大や道路の建設。このままでは、2030年までに、まとまった規模の森はほとんど失われてしまうとの予測すらあります。
「幻のトラ」に残された最後の砦
特に危機的な状態にあるのがインドシナトラです。
カンボジア、ベトナム、ラオスでは、ほぼ壊滅状態に。 ミャンマーは、政情不安が続いてきたため、実態は不明。
なんとか200頭ほどが生き残っているタイにも、 開発の波が迫っています。
そこで2018年、WWFジャパンは、WWFタイと協力して、 ミャンマーとの国境地帯にあるケーン・クラチャン国立公園で、 トラの調査活動に着手しました。
ここは比較的、まとまった森が残っている場所。 隣接するミャンマーにも、トラが生存している可能性があります。
インドシナトラを絶滅させないためには、 この森を、確実に未来へと残していかねばなりません。
密猟の罠が、ヒョウを追い詰める
メコンの森の生きものたちにとって、もうひとつの脅威となっているのが密猟です。トラやゾウなどに標的を定めた密猟だけでなく、とにかく大量の罠を違法に仕掛け、動物を無差別に獲る、というやり方も少なくありません。
こうした密猟が特に激しいのが、カンボジアのプノンプリック野生生物保護区とスレポック野生生物保護区です。カンボジアの中で、わずかにインドシナヒョウが生き残っている地域ですが、そのヒョウが、罠の犠牲になっています。
WWFカンボジアは、2016年~2017年の1年間に、行政と協力して5,515個もの罠を撤去。しかし、密猟のパトロールに使える機材も、人材も、圧倒的に不足しています。
メコンの森を守る人たち
~タイのケーン・クラチャン国立公園から~
WWFジャパン森林グループ 川江心一
タイのケーン・クラチャン国立公園では約10年前にはトラの生息が確認されていましたが、2014~2015年を最後にその姿が直接確認されていませんでした。そうした中、2017年に国立公園がたった2機の自動撮影カメラを購入し、設置したところ運よくトラが映り、まだこの地にトラが生き残っていることが確認することが出来ました。そこでWWFは国立公園からの要請を受け2018年6月より自動撮影カメラによるトラの生息調査を始めました。2019年1月に最初のカメラ回収を行ったところ、なんと1頭のトラの姿を捉えることが出来ました。今現在、次の場所へカメラを移設する作業を実施しています。今後数年をかけて国立公園全体でトラの調査を実施する計画です。トラの生息地を守るために引き続きのご支援よろしくお願いします。
WWFタイ フィールドオフィサー ポー
かつては10頭以上のトラがケーン・クラチャン国立公園にいたと思われていますが、現在は数頭の行動のみ確認されています。ケーン・クラチャン国立公園、クイブリ国立公園など複数にわたるエリア全域で、トラにとって安全な環境を作り続けることが、トラの生息数の回復には重要なことです。トラはこの広大な森の希望です。皆さんのサポートのおかげで、トラがいることが確認もできました。ここから生息数を増やせるよう活動を続けていきますので、引き続き応援をよろしくお願いします。
WWFタイ コンサベーションディレクター ゴードン
ケーン・クラチャンの国立公園では日本のサポーターの皆さまの支援のおかげで、自動撮影カメラによる調査が実施できています。私たちの活動をサポートしていただき本当に有難うございます。 ケーン・クラチャン国立公園、そして、クイブリ国立公園はトラ、ゾウ、ガウル、ヒョウなど様々な野生動物の生息数の回復にとって非常に重要な場所です。ここでの保全活動を続けていくことはタイやメコン地域だけでなく、世界的な視点で見ても重要なことなのです。
クイブリ国立公園 レンジャー タヌ
20年間国立公園のレンジャーとして、野生動物を守る活動に携わっています。森そして動物が大好きなのでこの仕事を選びました。今でも忘れられないのが、パトロールをしている中でマレーグマが突然目の前に現れたこと。しかも2度も!マレーグマも驚いたようで慌てて逃げていきました。この森を守るため、定年までの残り20年間もレンジャーとして活動をしていきたいです。
WWFグレーターメコン リーガン
WWFの活動を応援していただき有難うございます。タイとミャンマーの国境にまたがって広がる湿性熱帯林の山岳地帯、このエリアの風景は本当に特別なものです。その中でもケーン・クラチャン国立公園は野生の鳥にとっての楽園であり、訪れるたびに新たな感動を覚えます。ここに広がる景色を守らなければいけないという使命感が私の原動力です。
人と自然が調和して
生きられる未来を目指して
WWFは100カ国以上で活動している
環境保全団体です。