自然エネルギーの普及に向けて、温対法改正でゾーニングの位置付けを!
2021/02/24
温対法改正の議論がスタート!改善すべき点とは?
2020年10月の菅首相による脱炭素社会宣言を受けて、気候変動対策への気運が高まるなか、2021年1月に環境省の中央環境審議会で、温対法の見直し議論がはじまりました。
温対法は、1998年に制定された国の気候変動対策の在り方を定めた法律です。2019年から始まった本法律の見直し検討の流れを受けて、2021年の通常国会で改正案を提出するため、現在最後の議論が行われています。
WWFでは、以前より温対法の改正に向けて提言を行ってきました。そもそも温対法は、京都議定書時代のものであり、パリ協定の採択、適応法の制定、長期戦略の策定など、近年の情勢を踏まえると、法律の限界や多くの課題があります。
本来は、明確に国としての脱炭素化への姿勢を示すため、 緩和と適応の「気候変動対策」全体をカバーする “基本法”が策定されるべきです。
今回は温対法の改正で対応するならば、少なくともパリ協定の概念、2050年の実質排出ゼロ目標や2030年目標、5年ごとのNDC(国別削減目標)の引き上げを明記するべきです。さらにエネルギー政策も含めた気候変動対策の推進を盛り込む必要があります。
また脱炭素社会への実効性の高い対策として“カーボンプライシングの実施”を、法の下に位置づけることも重要なポイントです。
そしてもう1つ。実効性を高める対策として “ゾーニングの実施”を明確に規定することが重要です。
自然エネルギー普及に必要なゾーニングとは
ゾーニングとは、自然エネルギーの開発ポテンシャル(可能性)がある自治体において、住民をはじめとした地域関係者による検討により、“自然エネルギーが導入できる場所を明確にする取組み”です。
自治体が、事前にゾーニングを行い、開発できる場所と保全すべき場所を予め明確にしておくことで、事業者はトラブルを避けることができ、住民は地域にとって重要な環境を維持することができます。適切に実施しておけば、環境影響評価(アセスメント)に要する期間を短縮できる可能性もあります。
2019年~2020年にかけての温対法改正の検討会でも、専門家や有識者、そして自治体からも実施を要望する声が上がっています。
今般、自然エネルギーの普及にともない、自然環境への影響を懸念する地域住民による反対や紛争につながる事例が増加しています。こうした事態を避けるためにも、ゾーニングは必要ですが、残念ながら、現在はごく少数の自治体で任意で行われるのみで、実施義務はありません。
温対法でゾーニングの位置づけを
(1)ゾーニングの実施を明記すること
現行の温対法では、地方自治体が“地方公共団体実行計画(以下、実行計画)”を定めるように規定しています。この実行計画は2種類あり、1つは全ての自治体に策定が義務付けられている実行計画(事務事業編)。そしてもう1つは、都道府県と中核都市以上の自治体に、事務事業編に加えて策定が義務付けられている実行計画(区域施策編)があります。
前者の実行計画(事務事業編)が、自治体施設だけの排出削減対策を対象とする一方、後者の実行計画(区域施策編)は、個人・民間を含めた自治体の行政区域全体の対策を定めています。
実行計画(事務事業編・区域施策編)では、削減目標などを設けるように定められていますが、この実行計画(区域施策編)の中で、ゾーニングの実施を義務付けるべきです。
(2)実行計画の対象範囲を変更すること
それと同時に、実行計画の対象範囲を見直すことも重要です。現在、実行計画(区域施策編)の対象は、都道府県と人口20万人以上の中核都市などに限定されており、地域の小規模な自治体は義務対象となっていません。
しかし、自然エネルギーのポテンシャルが高く、開発が集中する自治体の多くは都市部ではなく、地域の自然豊かで小規模な自治体です。そのため、こうした自治体でゾーニングが策定されるよう、規定の変更が必要です。
なおゾーニングでは、地域住民が土地の色分けに納得することが重要です。その後の開発への反対に繋がらないようにするためです。しかし、都道府県のような大きな規模でゾーニングを実施する場合、住民の意見や価値判断を丁寧に吸い上げて評価に反映することが難しく、ゾーニングを行っても実際の開発段階で地域住民からの反対が生じる可能性があります。だからこそ小規模な自治体でのゾーニング実施が必要です。
(3)自然エネルギーの導入目標を義務化すること
また、ゾーニングの結果、開発できる場所が確保できるように、実行計画では、自然エネルギーの導入目標設定を義務付ける必要があります。
ゾーニングはいわば土地の色分けであり、開発適地を決める過程においては、社会・自然環境への影響を懸念して、関係者間の合意形成で議論が難航することがあります。
達成すべき導入目標がない場合には、議論の激化で地域関係者間の溝が深まらぬよう、“開発できる場所はない”との結果に陥る可能性があり、自然エネルギーの導入が進まなくなる恐れがあります。
そうなれば、自然エネルギーを普及する自治体とそうでない自治体に偏りができてしまい、地域間での開発量の不均衡が生じかねません。偏りが極端になれば、自然エネルギーを普及しようとしている自治体でさえ、そうでない自治体がいることを理由に、新たな開発への反対につながりかねません。
1月にスタートした法改正の検討は、これから数回の検討を経て、2021年中ごろまで行われる通常国会に提出される予定です。
WWFでは、ゾーニングの明記に加え、カーボンプライシング導入など各種課題についても、温対法の改正で盛り込まれるように、引き続き政府に訴えかけていきます。