干支のコラム:「龍」の保護を考える
2012/01/03
Year of the Dragon / 2012年 辰の年を迎えて
現在、地球上に生息しているとされる野生生物の種数は、1,000万種を超えるといわれている。
そのうち、人が存在を確認しているのはわずかに170万種ほど。他の大半は、まだ名前も持たない、もしくは未知ながら「存在するであろう」とされる生物たちだ。
この未知の範囲に含まれる種かどうかは判じかねるが、この地球上には「龍」といわれる生きものがいることが知られている。
世界各地にその記録や伝承が残されており、形状もさまざまであることから、少なくとも数種いたことは確からしい。
たとえばヨーロッパでは、財宝の番などをしながら、主に深い森や、山奥の洞窟などに生息していた。中には人里に下りてきて人との軋轢問題を起こし、英雄たちに討ち取られた龍もいたようだ。
しかし、産業革命以降の大規模な森林開発の結果、ヨーロッパでは原生の森がほとんど消滅し、これによって龍も絶滅してしまったとみられる。
一方、雲を呼び、雨を降らせる力を持つアジアの龍は、まだ大陸の大河や湖、海や雲の中に生き残っている可能性がある。
しかし、アジアでも近年の自然破壊や汚染によって、これらの生息環境の悪化は間違いなく進んでいること、さらには地球温暖化の影響も懸念されることから、楽観は許されない。
辰年の2012年、あえてこの龍の保護活動に心を向けてみたい。
龍を保護するためには、まず深い森や海、河などの自然を、広く保全しなくてはならない。
そして、こうした多様な景観を、単なる娯楽や金儲の対象、またさまざまな資源の母体と見なすのではなく、人類がまだ十分に知りえない、何か神秘的なものが生きる場所として、尊重する気持を持つことが必要だ。
なぜなら、龍はそんな人の気持の中から、生まれてきたのだから。
私たちが未来に引き継ぐべき、目を向けるべき自然界の住人は、意外なところにもいたりする。
龍は間違いなく、そんな動物の一つである。
(会報『WWF』2012年新年号 より)