自然の力を利用した、防災・減災とグリーン復興に関するワークショップ
2012/07/18
2012年7月、宮城県仙台市において「生態系を基盤とした減災とグリーン復興に関するワークショップ」が、開催されました。2004年のインドネシア・スマトラ島沖地震と大津波をきっかけに、生態系や自然環境のもつ減災・防災機能をあらためて見直すため開発されたツールキットについて学びながら、今後の震災復興の在り方について、多様なステークホルダーが一同に集まり、議論しました。
今後の震災復興はどうあるべきか
2012年7月5~8日に、仙台市で開かれたこのワークショップは、2004年のスマトラ地震の教訓を基に制作されたツールキットの概要を学びつつ、参加者からの報告をもとに、今後の震災復興はどうあるべきかを議論する場となりました。
これは、国際自然保護連合(IUCN)、国連大学、国連環境計画、PEDRRなどにより開催され、関連省庁(国土交通、環境、林野)、NGO(OISCA、NPO田んぼ、日本自然保護協会、WWFジャパン)、そして大学(東北、岩手、横浜国立、筑波)、自治体(仙台、南三陸)等が参加。
WWFジャパンも宮城と福島で展開している、「暮らしと自然の復興プロジェクト」のアプローチと進捗、そして取り組みから見えてきた課題を発表しました。WWFの関与により、漁業者の意識の変化はあったのか、よりよい変化を導くには何が必要なのか、といった点について議論を交わしました。
また、このワークショップで使用したツールキットは、2004年のスマトラ沖地震の際、マングローブをはじめとする沿岸域の自然環境が、地域によってその被害を軽減する現象が確認された教訓をもとに、WWFアメリカとアメリカ赤十字が作成したものです。
約35万人におよぶ死傷者を出したスマトラ沖で発生した大地震は、東南アジア諸国沿岸に、甚大な津波の被害をもたらしました。
ツールキットは、森や沿岸の自然といった生態系が、防災や減災の上で果たしてくれる役割を正しく理解し、今後起こるであろう災害に対し、適切な対策を整備していく際のガイドラインに相当するものです。これは、日本で今後取り組むべき防災の取り組みの上でも、あらためて見直すべき、重要な視点の一つです。
沿岸の自然と産業の再生に向けた課題
ワークショップでは、さまざまな観点から生態系を活用した防災のあり方について議論を交わされ、特に海岸林の再生については多くの意見が出ました。
海岸林が果たす津波被害の軽減効果については、今のところ十分な科学的実証がなされているわけではありませんが、高潮、防風、塩害といった被害の軽減を含む、「日常の」生態系サービスの多面的機能を、より理解した上で、どのような海岸林を再生していくのかを、地域ごとに考えていく必要があるようです。
また、ワークショップ3日目は、OISCAが宮城県名取市で進める、海岸林の再生事業の現場を視察。その後、同県南三陸町を訪問して、志津川自然の家にて宮城県漁協戸倉出張所カキ部会長である後藤氏および南三陸町水産振興課長の太齊氏から震災復興に向けた取り組みと課題についてご紹介いただいき、さらに同町入谷地区にある「ふゆみずたんぼ」を視察しました。
後藤氏は、震災後、以前から懸案事項であったカキの「過密養殖」を改善するため、養殖いかだの数を大幅に削減したこと、その結果、生育がよく高品質のカキが生産できるようになり、経営が十分成り立つ可能性が見えてきたことをお話しくださいました。
また、養殖の密度を下げれば、被災してもいかだの破損による経済的損失を抑えられることや、生産サイクルを短く変えることで、台風などの季節的な自然災害に対しても対処しやすくなることなど、一連の取り組みが、災害に対する防備にもつながっていることを紹介。
また太齊氏は、さまざまな研究機関や団体の支援により行なわれている志津川湾の環境調査から、震災の影響が明らかになりつつあることに触れ、本ワークショップのキーメッセージでもある「災害が起こる前に備えておく」ためには、環境調査や教育の拠点があることが重要であることなども紹介されたました。
さまざまな人々の協力のもとで
すでに被災地の現場では、多くのNGO、研究者、そして省庁が、おのおのの分野で被災地の復興に携わっています。
南三陸町の場合だけを見ても、環境に関連した活動を行なっている研究機関やNGOは8~10団体にのぼります。しかし今のところ、これらの団体、機関が一同に関して意見交換をする機会はありません。
また、行政機関の事業計画も、各自治体の復興計画との連携や相乗効果を高める点については、十分な内容となっていないようでです。
こうした背景には、今回の復興に必要とされる支援が、非常に多くの分野に及んでおり、それぞれが深刻な課題を抱えているため、各団体・機関がそれぞれ特定の分野に支援内容が集中せざるを得ない事情もあるでしょう。
しかし、今後より活動を深めていくために、さまざまな団体、機関、行政が、地域と情報を共有し、どのような相乗効果が期待できるのか、検討していく必要があります。
被災地が復旧ではなく、持続可能な社会へと転換し、本当の意味で復興するためには、まだ多くの時間と支援が必要です。WWFジャパンも「復興支援プロジェクト」に着手して約1年がたちますが、漁協出張所、町役場、中学校、コミュニティの一部と協力体制ができつつあります。引き続き、現地のニーズと環境の回復に貢献できるよう、取り組みを続けてゆきます。
関連情報
今回のワークショップに使われたツールキットはこちらのサイト(英語)で公開されています。