被災地の海でのシュノーケル観察会
2012/09/26
東日本大震災で津波の大きな被害を受けた、宮城県南三陸町の志津川湾で、2012年9月17日、震災後初のシュノーケル観察会が開催されました。震災からの復興と、子どもたちに地元の海と漁業をもっと知ってもらうための取り組みが一つになったこの観察会には、地元の中学生や漁業者ら11名が参加。それぞれの思いを抱きながら、震災後の海の様子を観察しました。
大震災を越えて実現した観察会
今回の観察会が実現した背景には、震災以前から行なわれていた、戸倉中学校と漁協との取り組み、そして戸倉の方々の復興に向けた熱い想いがありました。
「子どもたちに戸倉の海と漁業をもっと知ってもらいたい」
東日本大震災に見舞われるより以前、南三陸町立戸倉中学校の谷山教頭(当時)は、生徒たちが戸倉の自然や漁業に触れることのないまま卒業してしまうことを憂い、地元の漁業者に海の体験授業への協力を働きかけました。
当初、漁業者は「果たして子どもたちは喜ぶのか?」と思ったそうです。
しかし、漁業のこと、海のことを、子どもたちに伝えていくべきだ、という想いで一致。協力することを決めました。震災の1年前のことです。
そして、本格的に海の体験授業に取り組もう、と思った矢先、震災が起きました。
体験授業どころではない、復興の行く末も見えない状況。
それでも、地元の多くの関係者、ボランティアの方々は諦めることなく、復興に向けた必死の努力を続けてこられました。
「震災から目をそらさず、子どもたちに復興に向けた動きをきちんと見つめ、これからの戸倉を考えてもらうことが必要なのではないか」。
そう考えた谷山教頭から、WWFジャパンにご相談をいただいたのは、2011年末のことでした。
震災復興を通じて「海との共生」を考える
地域の人々が、地元の自然やその恵みを理解し、環境を壊すことなく利用して、共存を進めてゆく。
そんな活動に取り組んできたWWFは、これまでに国内でも沖縄の石垣島や、九州の有明海など、いくつかのフィールドでその実践をめざしてきました。
谷山教頭から打診を受けたWWFジャパンは、そこで2012年2月、戸倉中学校の2学年にスタッフを派遣し出前授業を実施。19名の生徒たちに対して、志津川湾の環境のこと、地域の特色を活かした海の保全のあり方を伝え、そして自分たちが海のために何が出来るかを考えてもらいました。
「子どもたちに戸倉の海と漁業をもっと知ってもらう」、そして、「これからの復興の中で、自分たちと海との共生をめざす」その第一歩が踏み出されたのです。
この頃、地元の志津川の海では、カキなどの養殖をはじめとした水産業が、順次再開され始めました。
戸倉の漁協では、震災以前から課題であった、密集した形でのカキ養殖のやり方を改善。養殖施設を3分の1以下に減らし、その分、地元の海の環境に合った、高品質のカキ養殖への取組を始めました。
2012年9月17日に志津川湾で実現した、震災後初のシュノーケル観察会は、そうした海の姿を子どもたちがその目で見る一つの機会になりました。
志津川湾の特徴である、多種多様な海藻類が至る所に生い茂り、自然が確かに力を取り戻し始めた海。この海と共に、自分たちはこれからどう生きていくのか。全員が、それぞれの思いを抱きながら、震災後の海の様子を観察しました。
そして、観察会終了後、子どもたちからは「ウミウシとかヒトデとか、魚の群れとか見ることができた。自然の綺麗さと漁業のふたつがうまくバランスをとりあっていければいいなと感じた」などの声も聞かれました。
復興の課題とこれからの未来に向けて
現在のところ、戸倉の漁業関係者たちが予測した通り、志津川湾では養殖カキが震災以前は見られなかった速さで成長し、養殖数を減らしても採算がとれる見込みが出ています。
しかし、戸倉だけでもカキ養殖を行なう漁業者は45名以上。
今までそれぞれの経験と技術を駆使してきた漁業者が一致団結し、「海との共生」という同じ目標を掲げて、復興を継続的に実施していくのは、容易ではありません。経済的な利益が確保される、というだけでなく、問題意識も共有する必要があります。
そのためには漁業者だけではなく、地域社会全体が、漁業・養殖業の実態と課題を理解し、また問題解決のための漁業者の取り組みを応援する仕組みが重要となります。
そこでWWFジャパンは、海洋環境への負荷の低減、生物多様性の向上についての検証を行なうと同時に、養殖版「海のエコラベル」であるASC認証取得に向けて、課題整理や関係者との協議を進めていく予定です。
そして、それと同時に今回の観察会のような、漁業者とともに環境を学ぶ取り組みに対しても、「暮らしと自然の復興プロジェクト」を通じ、継続的に支援活動を行います。
今回の観察会では、WWFの要望を受けた株式会社タバタより、シュノーケルに使うマスクやフィンなどの無償貸出の協力をいただきました。
実施にあたっては、ダイブサービス・ハイブリッジ、三陸ボランティアダイバーズ、ボランティア団体TSUNAGARIや志津川ネイチャーセンター 元職員の方々に、安全監視、指導スタッフとして参加いただき、無事に終了することが出来ました。さまざまな支援、協力の輪も、広がっています。
2012年10月には、今回の観察会に参加者された子どもたち、漁業関係者の全員が、沖縄県の石垣島を訪問し、現地のWWFサンゴ礁保護研究センター「しらほサンゴ村」が推進する、白保での「持続可能な地域作り」について学ぶ予定です。
南三陸町における「地域の特色を生かした海の保全」とは何か。そのヒントを一連の経験から感じ取ってもらいたいと考えています。
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