ダム開発がメコン川の巨大魚を脅かす
2010/08/05
東南アジアの大河メコンに生息する、体長3メートル、重さ300キロ以上にもなる巨大な淡水魚たち。今、メコンでは急激な開発により、これらの巨大魚たちが姿を消そうとしています。2010年7月、WWFはこのメコン川の巨大魚の現状についてまとめたレポートを発表。その危機を訴えました。
『River of Giants』~巨大魚の川
全長5メートル、幅2.4メートル、体重600キロになる、巨大なエイ。3メートル、300キロのナマズとコイ… これらはいずれも、海に生息する魚ではありません。淡水、すなわち、川にすむ魚です。
地球上で最も大きな10種の淡水魚のうち、4種が生息しているのが、東南アジア、インドシナ半島を流れる熱帯の大河メコン川です。
2010年7月、WWFはこのメコン川ですすむ開発が、巨大魚を追い詰めている現状をまとめたレポート『River of Giants: Giant Fish of the Mekong(巨人たちの川:メコンの巨大魚)』を発表しました。
この中でWWFは、流域各地で計画・建設されている多数のダム開発が、これらの巨大魚たちを絶滅の縁に追いやろうとしている現状を報告。文字通り、魚たちをさえぎる、大きな「壁」になっていると指摘しました。
「渡り」をする魚
ダムが魚たちにどのような影響を及ぼすかは、メコン川でよく知られている巨大魚のメコンオオナマズ(Pangasianodon gigas)の習性をみると分かります。
メコンオオナマズは、カンボジアにあるトンレ・サップ湖から、産卵のためにタイとラオスの国境地帯まで、川を数百キロにわたって遡上することが知られています。
「渡り鳥」ならぬ「渡り魚」とも言うべきこの大旅行をするオオナマズにとって、ダムなどの無い、自然な川の流れは欠くべからざるもの。
しかし、この渡りのルート上では今、いくつものダム計画が持ち上がっています。
たとえば、ラオス北部のサヤボウリー県(Sayabouly Province)で計画されている、水力発電用のダム計画。
このダムは、メコン川下流域では初めてとなる、本流に設置される大規模なダムで、目下計画が、メコン川流域の開発にかかわる周辺国による委員会の評価を待つ、大事な時期に差し掛かっています。
もし、現在の計画がそのまま実行されれば、自然な流れは失われ、魚たちがダムによって遡上できなくなることは明らかです。
開発の影響を明らかに
今回、WWFが発表した報告書では、魚類への影響のみならず、大規模なダムが下流域の農業や漁業にも害を及ぼす可能性があることを示しています。
さらに、ダムが建設されると、上流からもたらされ、堆積する土砂の量が減少するため、下流や河口部で地形が変化したり、海面上昇に弱くなったりする地域が出てくる恐れがあります。
問題を解決するためには、まず、数あるダム計画を開発優先で拙速に行なうことを避け、環境への影響をきちんと調査した上で、実施の是非を決める必要があります。
そして同時に、水資源の持続可能な利用を実現する、長期的な視野を踏まえた地域の開発に取り組んでゆかねばなりません。
この課題について現在活動を行なっているWWFメコン・プログラムのコーディネーター、ダン・トゥイ・トランは、次のように言います。
「メコン川の下流には、今はまだ自由な水の流れが残されています。それは、私たちに多様な生物を保全する上で、貴重な機会を提供してくれています。しかし、(開発の)時計の針は、今も確実に進んでいるのです」。
地球上でどの川よりも巨大な魚たちが多く息づく大河、メコン川。 今、その川の生命のシンボルともいうべき巨大魚たちが、川の未来について厳しい警告を発しようとしています。
報告書