WWFの生物多様性条約第10回締約国会議(CBD COP10)における主要要求事項
2010/10/01
ポジションペーパー 2010年10月1日
名古屋で2010年10月18日~29日に開催される、生物多様性条約第10回締約国会議(CBD COP10)において、WWFが各国政府に対して求める、主要な要求事項です。
CBD加盟国は国際生物多様性年である2010年を十分に活かさなくてはならない
2010年は生物多様性条約(CBD)がその3つの目的を達成すべく、活動を強化する10年に1度の機会である。
2010年は生物多様性の損失が止まった年にはならないが、生物多様性と、そこから人々の福利や社会、経済に本当にもたらされている恩恵に関し、政府が本気で目を向ける年にならなくてはならない。自然の生息地や生物種は、世界経済を下支えするものであり、森林、漁業、湿地に頼って生活している無数の人々を支えるものである。
COP10はCBDにとって極めて重要な締約国会議になるだろう。もし、ABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分)に関する議定書や2020年までの意欲的な戦略計画、確固たる資金動員戦略が採択されれば、生物多様性の損失にこれから先10年間取り組むための国際条約として、CBDはより強固なものとなろう。
WWFは締約国に対して、COP10で以下のような結果を出すことを求める。
- 2020年までに生物多様性の損失を食い止めることを目的とした、次の10年のための意欲的な戦略目標と個別目標が設定された新戦略計画を採択する。これにより、生物多様性の損失に対する主要な脅威を減らし、持続可能な利用慣行を増やし、利益配分の実効性を高め、生物多様性と生態系サービスを主要部門に統合し、こうしたことを実行するための十分な実施能力を形成する。
- 遺伝資源の利用から生じる利益を公正かつ衡平に配分し、先住民と地域共同体の権利を認めるABS議定書を採択する。
- 生物多様性への資金を増やすために野心的な資金動員戦略を策定する。即ち、革新的な資金メカニズムを開発し、政府からの資金拠出について明確な目標設定及びメカニズムを定め、生物多様性に有害な補助金を廃止する。
- 保護区や沿岸海洋の生物多様性に関するテーマ別作業計画を強化すること。
- 生物多様性と気候変動に関する共同作業計画を策定する。これにより、CBDとUNFCCC(気候変動枠組み条約)、UNCCD(砂漠化対処条約)の連携を改善し、共通の利益をさぐる。またガバナンスの原則を構築することで、UNFCCCの下での気候変動に対する緩和策と適応策が、生物多様性に負の影響を与えないようにする。
WWF's Main Asks at COP 10:WWFのCOP10での主要要求事項
1.COP10は2011年から2020年にわたる期間のために、SMARTな目標を持つ新戦略計画を採択する
- ※SMART:Specific明確で、Measurable測定可能で、Ambitious意欲的で、Realistic現実的で、Time-bound時間配分が正確である
WWFは締約国が、確固たる数値指標とマイルストーンで裏打ちされた、野心的な2020年目標が掲げられている戦略を採択することを要望する。
WWFは締約国に対して、以下に示す使命及び目標が、戦略計画に含まれることを確実にするよう求める。
使命:
2020 年までに生物多様性の損失が止まり、生態系サービスと生物多様性が回復している。そして、それらがもたらす便益が開発のあらゆる側面に十分に統合されている。人類のエコロジカル・フットプリントが、2000年レベルを下回っている。
2020年までの目標:
■自然資本勘定がすべての政府で用いられている(目標2に対応)
自然資本勘定は、生物多様性を国家予算策定において主流化するのに欠かせないステップである。これにより、生物多様性を内部経済化するためのベースラインが引かれ、政策決定者に情報の提供がなされ、適切な指標を設定するための基礎ができる(TEEBの政策決定者向けレポートの第2章を参照)。
■森林減少正味ゼロが達成されている(目標5に対応)
COP9では、67カ国の大臣をはじめとする閣僚級が、2020年までに森林減少正味ゼロ(ZEDD)を達成するというWWFの提言に賛同し、署名した。しかし、森林の消失と劣化は驚くべき速さ—毎年1,300万ヘクタール(毎分サッカー場36面分)--で続いている。森林の消失と劣化、とりわけ熱帯域におけるそれは、悲惨な結果を、世界の気候、生物多様性および人類にもたらすおそれがある。
■自然の生息地の損失と劣化に歯止めがかかっている(目標5に対応)
生息地の喪失は、生物多様性の損失を引き起こすもっとも重大な要因である。野放しの人口増加や経済的圧力、社会的圧力は、持続的ではない土地利用変化につながるため、自然の生息地の転換や劣化は食い止められなければならない。特に、一次林やその他の生物多様性の高い生息地の損失を食い止める必要がある。
■水の過剰取水と淡水生態系の分断化に歯止めがかかっている(目標5に対応)
淡水生態系は極めて重要であるが、ほとんど保護されておらず、分断化が起こりやすい。生息地の減少や損失の速度は、過去10年のあいだに4倍になり、淡水の生物多様性の損失や減少の要因はさらに増大している。内陸水系における生物多様性の損失は、ほかの生態系とくらべてもっとも速い。
■生物多様性にとって有害な補助金が撤廃されている(目標3に対応)
生物多様性にとって有害な補助金は、生物多様性の損失のもっとも重大な要因のひとつである。TEEBの政策決定者向けレポートで明らかになったことを考慮に入れると、漁業、農業、エネルギー分野での補助金を改革することがもっとも緊急を要する。
■人類のエコロジカル・フットプリントが2000年レベルを下回ること(目標4に対応)
先進国による自然資源の過剰な消費が、生物多様性損失の大きな根本原因となっている。生物多様性にかかる圧力を減らすためには、特にエネルギーと食料の供給に焦点をあてて、エコロジカル・フットプリントを顕著に減らすことが重要である。エコロジカル・フットプリントの削減に関する進捗状況がCBDによって継続的に報告されるべきである。
■魚の乱獲がなくなり、破壊的な漁業慣行が廃止されている(目標6に対応)
世界的な海洋における魚の乱獲が、海の生物多様性と生態系にかかる主要な圧力のひとつとなっている。商業漁船による乱獲-ここには漁獲対象でない生物の無差別な捕獲も含まれる-をやめることをWWFは求める。
■陸域、沿岸域、公海の少なくとも20%が代表的な保護区によってカバーされている(目標11に対応)
各生態域の10%を保護区にするというのが現行のCBD目標であるが、全陸域の55%でしか目標が達成されていない。陸域の約13%、沿岸の5%が保護されているだけで、公海についてはほとんど保護区となっていない(約1%)。各国政府は、陸域および海洋における現行の10%目標を達成する努力を加速させる必要がある。しかし、生態系サービスを確保し、生物多様性を守り、気候変動への抵抗力を高め、適応を確実にするためには、各国政府は2020年には20%にするという目標を掲げなくてはならない。
国家管轄権外地域での保護区設定に関して、このことはもっと強調される必要がある。というのも、2012年までに達成するということを、各国政府は保護区の作業計画のもとに合意したからである。
■CBDの目的が関連するすべての多国間協定に組み込まれる
2020年時点における戦略目標の達成成果を最大化すべく、生物多様性を関連するすべての多国間協定に組み込む。CBDの目的を他の協定に繋げることは、とりわけ貧困の削減、気候変動、貿易関連への取組に、実効的な貢献を挙げることができる。
■生物多様性に関する部門横断型統合が達成されている
CBDはエコシステム・アプローチ-これまで下されてきた多くの個別決定と同様に、「実施のための主要な枠組み」である-を通じて、生物多様性を政府内の他部門に組み込むことを促しはしたが、 部門横断型の組み込みには成功してこなかった。生物多様性を他部門により統合するには、政府部門間の効果的なコーディネーションが図られるよう、国家元首に率いられた「省庁横断閣僚委員会」といった適切な努力が必要である。
2.COP10はABSの議定書を採択すること
WWFはCOP10で、遺伝資源へのアクセスとその利用から生ずる利益の公正で衡平な配分に関する、法的拘束力のある議定書を採択することを求める。COP9の決議により、COP10までにABSのレジーム (国際的制度)に関する検討作業を終了することになっている。
議定書は、生物多様性の豊かな国々の利益を認め、遺伝資源に対する先住民と地域共同体の権利、および関連する伝統的知識を守るものだが、大幅に遅延している。議定書は、遺伝資源の提供国と利用国の両方の利益にかなうものであり、生物多様性の保全と持続可能な利用のための追加的な資金を提供することになる。
3.COP10は野心的な資金動員戦略を採択すべきである
WWFは、戦略計画の実施を効果的に支えるべく、締約国が資金動員のための確固たる戦略を採択することを求める。戦略は、締約国から、国際的にも国内的にも、追加的な資金を動員するための確約を取り付け、伝統的な資金(政府及び国際開発援助からの資金)を増額し、新規の革新的資金メカニズムを開発するものでなければならない。新規の革新的資金メカニズムの役割は、伝統的な資金源を補強するもので、それに取って代わるものではない。
4.COP10はテーマ別作業計画を強化して採択すべきである
WWFは締約国に対し、次の10年間、保護区作業計画(PoWPA)の実施努力を強化するよう求める。強化された保護区作業計画(PoWPA)は、カギとなる生態系サービスを守り、気候変動緩和や気候変動への生態系に基づく適応・抵抗力を支えるという点で、保護区が経済および人々の生活に対し中心的役割を果たしていることを明らかにすることになろう。
国家管轄権外を含めた沿岸海洋について、代表的保護区ネットワークのための場所選定作業を、2012年までに完了させなければならない。
5.COP10は生物多様性と気候変動に関する共同作業計画を採択すべきである
WWFは締約国に対し、CBD、UNFCCC、UNCCDによる共同作業計画を策定することを求める。これにより、条約間の連携を促進し、共通の利益を模索し、ガバナンスの原則を構築し、REDDプラスや生態系に基づく気候変動適応策との関連で、セーフガード条項を設けて生物多様性が守られることを担保する。