COP10の課題:ABSの議論に決着を


名古屋で開催されている生物多様性条約締約国会議(CBD・COP10)の最大の焦点のひとつは、「名古屋議定書」と呼ばれるABSに関する議定書が成立するかどうかです。ABS(遺伝資源へのアクセスと利益の公正な配分)は、その名のとおり、利益配分をめぐるルール作りなので、先進国も途上国も一歩もゆずらない状態。現地での会議は難航しています。

終わらない非公式会合

COP10が始まった2010年10月18日、会議場ではABSに関するICG(Informal Consultative Group)と呼ばれる非公式会合が開始され、その後、連日続けられてきました。

この会合では、議論の中で特に対立が激しく、折り合いのつかない論点に関しては、さらに小さな会合(コンタクト・グループ)を設けて個別に協議する、という交渉形式が取られており、COP10の第一週目が終わった時点では、まだいくつかの課題についての交渉が、同時並行で継続されている状態です。

ABSに関するICGの取りまとめ役である、ティモシー・ホッジスとフェルナンド・カサスの2人の共同議長は、夜遅くまで各国の意見を粘り強く拾いながら、合意のための妥協点を探っています。
しかし、ここまでのところ、どの国も自分たちの主張を曲げようとはせず、意見を述べ合う展開がずっと続きました。

議論の開始は2010年3月から

このICGにおいて、目下議論されているのは、2010年3月にコロンビアのカリで開かれた、ABSの第9回作業部会で示された「名古屋議定書」案です。

この時は案が示されただけで、議定書案の細かい内容についての議論は、なされませんでした。

続く、7月のカナダはモントリールでの作業部会再会合から、「名古屋議定書」案の条文を、ひとつずつ検討する交渉が始まりました。しかし、この時も議論はまとまらず、さらなる会合が開催されることになりました。9月に再びカナダで開かれたモントリオール会議、そして、10月のCOP10直前に名古屋で開かれた会議がそうです。

10月22日に開かれた、ICGの全体会合で共同議長が報告したところによると、20近くの条文については、おおよそ検討が済んだとのことです。
ただ、それは主に議定書が成立した後の、運営手続きに関する部分であり、議定書の中でも、焦点となっている条文ではありませんでした。

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ABSを議論するICG会合

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ティモシー・ホッジス共同議長

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コンタクト・グループと呼ばれる小会合

議論の焦点

焦点となっている条文とは、第3条の「範囲」、第4条の「利益配分」、第12条の「法令遵守(コンプライアンス)」、第13条の「モニタリング」などです。
とりわけ、第12条の「コンプライアンス」は、議定書の法的性格を決める、もっとも中心的な条文です。

10月22日の全体会合で、共同議長はこうした条文の議論が済んでいないことを報告。
同時に、議論の締め切り(デッドライン)として設定していた第一週目の終わりであるこの日までに、検討を終えられなかったことから、ICG会議の延長を求めました。
ラテンアメリカ・カリブ海諸国のグループやEU(ヨーロッパ連合)もこれに賛意を示し、本来はCOPでの会議が休みになるはずの土日も、協議を続けることになりました。

続く交渉のゆくえ

10月24日現在も、交渉は「すべてに合意しなければ、何も合意とは見なさない」という原則(principle)に則り、交渉は続けられています。
小会合によっては、参加できる各国代表の人数に制限を設け、集中討議をしているものもあります。会合は深夜におよび、ときには明け方まで議論をしていることもあり、白熱した議論になっています。

少なくとも、「コンプライアンス」は、名古屋議定書に法的な拘束力を持たせるかどうか、そのあり方を決めるので、これが決まらなければ議定書の採択には至らないと考えられています。
なぜなら、そもそもCBD・COP6で採択された「ボン・ガイドライン」に、法的拘束力がなったため、今回の議定書の採択が必要だ、という結論になったからです。

また、ABSの議定書は、WIPO(世界知的所有権機構)、WTO-TRIPS(世界貿易機関/知的財産権の貿易関連の側面に関する協定)、FAO-ITPGR(食料農業植物遺伝資源国際条約)といった、他の国際条約や国際機関との調整をしなくてはならない内容を含んでいるため、決着にはまだ時間がかかりそうです。

名古屋議定書は採択されるか

また、議論は各国の思惑を反映して、思わぬ駆け引きにも利用されています。
中には、「ABS「名古屋議定書」が採択されなければ、2020年までの新戦略計画(2020年目標。今回のCOP10のもう一つの大きなテーマ)にも合意しない」と頑なな態度をとる国もあり、こうしたことが多方面で議論を長引かせています。

何らかの形で決着させる必要があるとの認識は、交渉のなりゆきを見ている人たちのあいだにありますが、いずれにせよこの適切な利益配分のルールが決まれば、遺伝資源の利用国も提供国も、それぞれ得るものは大きいはずです。

また、ABSが「利益配分」に関心が集まりがちですが、遺伝資源へのアクセスが改善され、新薬の開発などが進むことは、広い視野で見れば、人類にとって有益なことと言えるでしょう。

今の交渉ペースでは、会期末の29日まで、ICGの会合が続けられる可能性があります。
その末に、COP10の本会議で採択可能な「名古屋議定書」案がまとまりきるのかどうか。

WWFではこのABSをめぐる議論の行方を見守りつつ、これから先、2020年までの10年間に、世界の生物多様性保全の柱となる「新戦略計画」の採択に影響することがないように、ABSの議論にも進展が見られることを求めています。

関連情報:生物多様性条約 ABS問題について

 

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